残暑のパリ我慢大会―密室の死闘
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:4
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月25日〜08月30日
リプレイ公開日:2006年09月05日
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●オープニング
●それが残暑というもの
夏の盛りは過ぎたとはいえ、まだまだ照りつける日差しは遠慮知らず。
整備された石敷きの街並みの歩道は、陽光に熱され焼けており、更に街の暑さをいや増していた。
暑さの峠は越えた頃と思いたいけれど、暑いものは暑い。
暑さが残っているのが、残暑とはよく言ったもので‥‥眠れぬ夜を過ごす事は減ってはきたものの、それでもまだ昼間は暑い。
うだるような暑さに太陽を見上げる人々の口からは、ただただため息が零れるのだった。
●暑さにのまれるな、暑さを飲み込め(何)
日頃国内外を飛び回り、人より鍛えられた体をもっている存在――幾ら彼らとはいえ、暑さを超越しているものでもなく。
冒険者とて暑いものは暑いとへろりと転げていた。
「あ〜つ〜い〜よ〜‥‥」
へちゃりとテーブルに突っ伏して、うめいているのはシェラだった。
本当に暑いのだろう、蝶の羽根もへたりと歪み萎れているようにも見える。
「シェラさん‥‥そんな格好をされては愛らしさが半減してしまいますよ」
その様子を苦笑を浮かべ、青色の瞳を細めたしなめたのはレイ・ミュラー。
1人の冒険者として、あるいは女性として、シェラの態度はいかなシフールといえどもあんまりだったからだ。
素直に「ごめんなさい」と、慌てて姿勢を正すシェラにレイは小さく微笑んだ。
流石にそこまで人目をはばからず暑さにこぼす事は無かったが、レイも暑い事には変わらないのだろう。
「とある地域では我慢大会なるものがあるそうですよ。冬の装いをして、暑い場所で暑い料理を食べるのだとか」
「‥‥‥‥暑いのに、暑い事するの?」
げんなりした表情を隠そうともせず問い返したシェラにレイは頷く。
「そういう戦いらしいですね。暑いのに暑い事をすることで自分を鍛えようとしているのか、暑いのに暑い事をすることで感覚を狂わせようとしているのか、暑いのに暑い事をすることで自分の強さを証明しようとしているのか、それとも‥‥」
元々饒舌な性質のレイ。けれど、言ってる事がぐるぐるまわってる‥‥ようは、レイちゃんも暑いんだなぁとシェラは思った。
暑いというか、暑さでうだっちゃっているのではなかろうか。天然タラシ・レイ・ミュラー。
だが、同様のことを考えた冒険者は少なからずいたらしい。
そんなことを漏らしたレイ君の言葉をきっかけに、周辺の冒険者が頷きを返す。
「パリ風我慢大会をしようじゃないか!」
暑い場所は、借りた場所を締め切って、暖炉に火でも入れればいいか。料理の手配や、場所の確保はどうしよう?
そんな疑問は片端から解決していく。
「料理は任せてっ!!」
なんて勢いになって、あれよあれよという間に‥‥パリ風我慢大会の企画や準備が整っていく事となる。
そんな用意が整ったところで。。。
「レイちゃん、頑張って〜☆」
――お料理得意なお友達は、シェラが集めてくるの。
――だから、我慢大会を体を張って効果を試して欲しいな♪
と、シェラに背中を押され、言いだしっぺが参加しないで如何するという周囲の雰囲気にのまれるように、レイの出場も決まっていたのだった。
●リプレイ本文
●温まる旧交
「我慢大会、ねぇ。まあ、倒れない程度に頑張りましょうか」
大会に着られそうな暖かい服をバックパックから引っ張り出していたフィーナ・アクトラス(ea9909)に涼やかな声が掛けられた。発起人に祭り上げられた男、レイ・ミュラーである。
「フィーナさん、お久しぶりです。お会いできるのではないかと思ってました」
「それは食べ物が出るからかしら? それとも大食い競争じみてるからかしら?」
「はは‥‥ご想像にお任せします」
大方そんな理由だろうと微笑んだフィーナの言葉に苦笑を浮かべるレイ。久々の対面は昨日会ったばかりのように、馴染みの空気を醸し出していた。
そして馴染みらしい冒険者がもう2人。ウォルター・バイエルライン(ea9344)とフィソス・テギア(ea7431)である。
「お元気でしたか? 変わりない様で何よりです」
「ウォルター殿も息災のようで何よりだ」
初めて共に戦ったのは2年近く前の話。冒険者という職業柄、隣に立つもの、背を預けるものは常に同じ人物ではない。一度見た顔をその後もう二度と見ないことも日常茶飯事だ。だからこそ‥‥
「‥‥‥こういう催しも偶には良いですね、懐かしい顔ぶれを見ることができましたから」
「そうね。でも‥‥旧知の間柄だからって、手加減はしないわよ?」
「望む所だ」
「僕も、やるからには負けるつもりはありませんよ」
4人が4人とも闘志を煮えたぎらせていた。友人だからといって手加減するようでは、冒険者は務まらない。
●地獄の入り口
「これは、ちょっと‥‥予想以上なのだわ‥‥っ」
よいしょっと扉を開けたシフールのヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)は、扉の隙間から溢れた熱気を一身に浴び、頬を引きつらせた。閉め切られた部屋で焚かれた季節違いの暖炉。掛けられた鍋ではぐらぐらと湯が煮立ち、限界まで湿度を上げている。
けれど、これくらいで弱音を吐いていたらヴァンアーブルの壮大な野望は果たせない‥‥!!
「この程度の暑さごときで私を倒せると思うな」
涼しげな表情は崩さず、元々着ていた防寒服の上に、更に毛皮のマントを纏ったのは献身の聖氷の二つ名を持つフィソス。ヴァンアーブルはライバル心を込めてキッとフィソスを睨みつけた。
「ほら、さっさと退きなさい。いくらシフールがチビだからって通路に居たら邪魔なことに変わりはないのよ」
ヴァンアーブルを押しのけ、オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)が部屋に入り、イスの1つに腰掛けた。
「オイフェミアさん、普段どおりの服装なんてずるいのだわ」
「これから着るのよ。防寒服に毛皮のマント。それに毛布に包まれば充分でしょう? 中で着替えたらいけないなんてルールはなかったわよね」
しれっと言われてしまっては返す言葉がない。物言いたげに旋回するヴァンアーブルの背をぽんと叩いたのはまるごとうめさんをしっかりと着込んだゼファー・ハノーヴァー(ea0664)。
「大丈夫、彼女もしっかり戦うさ。正々堂々と戦わずに勝ったって、嬉しくもなんともないだろう?」
季節はずれのサンタクロースよろしく、サンタクロースローブにサンタクロースハットも重ね着をしている。携帯している山のような荷物はプレゼントだろうか──否。山のような、着ぐるみの数々!!
自分の座る場所を確認すると、ゼファーは準備に取り掛かる。まるごとうめさんの上に、まるごとヤギさん。その上にまるごとメリーさん。その上にまるごとハトさん。その上にベリーさん。その上にホエール、きたきつね、最後に悪魔ヤギ・レヲなるど。はちきれんばかりになって着られない分は身体の上から被っている。
言ってしまえばまるごと十二単。頭部はレヲなるどの頭に圧迫され、視界は普段の半分以下!!
「もこもこ〜着ぐるみに包まれてもこもこ〜。もこもこ〜暑いけどもこもこ〜」
──それがどんな影響を及ぼすかは、また別の話なのだが。っていうか人格変わってるし。
しかし、防寒服の上にどこでもはしら(石)を着込み、ブルー・スカーフで襟元をきっちりと埋めているウォルターもかなりボーナスポイントを稼いだが、この一点においてゼファーが他の参加者をぶっちぎったポイントを叩き出したことは疑いようもない。
●灼熱の怪談
ごうごうと焚かれる暖炉に、支援者が‥‥あるいは冷やかしが、薪をくべる。
カラン、という軽い音が響くたびに気分は重く沈んでいく。
──ここがチャンス!
そう見たオイフェミアが、動いた‥‥!!
「この毛布には曰くがあってね‥‥」
おどろおどろしい声を唸らせたオイフェミアに、皆の視線が集まった。人間用サイズの防寒服をわざわざ用意し、テントのように空間を作った中で過ごしていたヴァンアーブルも、興味を持ったのかひょっこりと顔を出した。
「以前にも今回のような我慢大会があってね、ある両親に死に別れた子供の兄弟が、賞金を稼ごうと挑戦したのよ」
「子供には辛い試練ね」
サイズの合わない魔法少女のローブに獣耳ヘアバンド、左右の手にはふわふわぐろーぶという何だか対象年齢を間違えてしまったような服装をしたフィーナが神妙な面持ちで頷いた──が、ギャグにしか見えない。
「ええ。兄弟は毛布にくるまりながら、『兄さん暑かろう』『弟よ暑かろう』とたがいに励ましあった──‥‥しかし子供の体力では灼熱地獄に耐えることができず、二人は毛布の中で息絶えた‥‥」
ぐつぐつ煮え立った湯で入れられたハーブティーのカップを両手で握る。
話を聞きながら、ウォルターは優雅にハーブティーを口にした。その余裕の姿はヴァンアーブルを打ちのめす。
──やっぱり体力勝負は不利なのだわ。セッター君に助けてもらわなくては勝てないかもしれないのだわ‥!
「それが、この毛布。今でもときどきこの毛布から兄弟の声が聞こえてくることがあるのよ」
「オイフェミア殿‥‥この勝負が終わったら教会で司祭様に見ていただくと良い。ゴーストでも憑いていたら厄介だからな」
‥‥などという話をすればライバルどもは怖がって早めに降参するかも。と考えたオイフェミアは甘かったようだ。デビルやアンデッドの類と戦った経験のあるほぼ全員が動じもしなかったのだから。唯一、多少怯えたのはヴァンアーブルだったが、気付けば防寒服テントの中に潜り込んでしまっていた。
「さあ、お前たち。亡くなった兄弟のぶんまでみんなで地獄に耐え抜こう!」
一向に冷める気配もないハーブティーを前に、半ば投げやりに、オイフェミアは言い放った。
●煉獄の出迎え
「しかし、着ぐるみのもこもこ感に加え料理まで堪能できるとは、レイ殿も良いイベントを考えたものだな」
運び込まれた熱いスープは香草をたっぷり使ったロシア風。香りを楽しみながら笑顔で言ったゼファーの顎から汗が滴り落ちた。
「もともと、ある地域で行われている行事ですけれどね」
そう返すレイの表情はいつもの笑顔──しかし、徐々に引きつってきている。襟元のブルー・スカーフをぐっしょりと濡らしながら、ウォルターは「そういえば‥‥」と口を開いた。
「ジャパンには『心頭滅却すれば火もまた涼し』なる言葉があるそうです。何でも心も頭も空っぽになる程まで集中すれば仮令火の中でも全く関係なく行動できるのだとか」
「ふぅん。それはニンジャの心得?」
「忍者に限らないそうですよ。東洋の神秘とはとはよく言ったものです」
「いくら集中したところで、暑いものは暑いと思うがな」
「まあ、我々もそれにあやかるとしましょう」
肩を竦めたウォルター、スープを一口口にしようと顔を近付けると、むわっと湯気が頬を撫でた。
「くっ、私とて聖氷と呼ばれた身、この程度の暑さで溶けたりはせぬ!」
「焔の迷宮で火の精霊と戦ったことに比べれば‥‥たいしたことないわね」
フィソス、オイフェミアから漏れた言葉は余裕を見せるためのものではなく、自分を奮い立たせるためのもののようだ。
「もぐもぐ‥‥むっ、こっ、これは! ‥‥‥熱すぎて味が分からん。というわけでお替り。それと追加で焼きたての鶏の香草焼きを頼む」
「私にもいただける?」
汗を拭いながらもぺろりと平らげるゼファーとフィーナ。その実、感覚が狂い始めたゼファーと熱さを感じる前に嚥下したいフィーナ、ずいぶんと違う。
そして焼きたての香ばしい香りを漂わせながら、注文の香草焼きが運び込まれる──人数分。
「おお、これもなかなか‥‥!」
舌鼓をうつゼファー。その余裕っぷりに動揺したのは二人の聖職者だ。
「これは汗ではない。魂の涙だ!!」
「そう、これはきっとタロン様の試練なのよ。試練試練試練‥‥」
そして、まず最初の脱落者が出た──ヴァンアーブルのセッター君だ。
『ヘッヘッヘッ‥‥キュウウン‥‥』
「セッター君!」
空ろな瞳で倒れたセッター君は急遽、室外に運び出された。幸い、沢山のアイスコフィンで冷やされた厨房担当者たちの控え室を救護に使わせてもらえたため、小さな一命は取り留められた。
我慢大会とはそれほどに過酷な競技なのだ‥‥!!
「ふむ‥‥脱水症状を起こさないよう、熱い飲み物を用意してくれないか?」
ゼファーの追い討ちに、レイの微笑が凍りついた。
●天国への階段
運ばれてきたのはより身体を温める、ホットワインだった。
「ふん、気が利いてるわね」
憎まれ口を叩きながら、オイフェミアが一気に煽る。
「ノルマン騎士の‥‥生き様を見よッ!」
気合一献!! ウォルターもワインを流し込む!!
「ウォルターさん‥‥暑苦しいわ」
投げられる手ごろなものがみつからず、ふわふわぐろーぶで八つ当たりパンチ! まふん、と柔らかい衝撃がウォルターを包み込む。その柔らかい感触が‥‥暑い。
口にしたのはただでさえ身体に染みやすいホットワイン、これだけの室温があればみるみる全身に染み渡る。
「『ふうふう暑いのう〜』『聖夜祭前にやってきてしまうとは我々も慌てんぼうですなあ』」
突如ゼファーが両手のサンタ人形で良く分からない即席人形劇を始め出した。
「ゼ、ゼファーさん?」
レイが声を掛けるが、耳に届いていないようだ。よろりよろりとサンタたちが精細を欠いた動きをしている。
「そいつは意識が朦朧としているのよ。もっとも、こんなに苦しいと死んだほうがまし、とも思えるわね‥‥」
オイフェミアはずっしりと重くなった毛布がずり落ちぬよう手で抑えながら呟いた。
「いや‥‥天国には七つの太陽が輝いているというし、地獄は硫黄が燃えているそうだから、どちらにせよもっと暑そうね。やはり死にたくない」
どこに伝わる伝承か、そんなことを漏らし‥‥理性の判断に従って、毛布を剥ぎ取った!!
「夏は涼しくありたい! それが人間ってものよ!!」
高らかに宣言し、オイフェミア、リタイア!!
彼女が飛び出した扉から一瞬冷気が吹き込み、それが部屋の暑さを一層強く感じさせた。
「まだだ、まだ終わらんよ!」
「だから、暑苦しいってば‥‥」
とうとう机に突っ伏し──フィーナ、リタイア!!
実は彼女がとても不利な戦いをしていたのだ──従者のように背後に立つストーンゴーレムが、際限なく熱を吸収し発散していたのだから。
「‥‥そういえば、ヴァンアーブルさんは‥‥」
ぐらぐらと揺れる頭で、朦朧としたまま防寒服を捲くる。
「まだ、おきてるのだわ! まだ‥‥頑張るの‥‥だわ」
テント状にして使用したことで、酒場に拡散するはずだった熱気を狭い空間に閉じ込めてしまった。作戦が裏目に出てしまい‥‥ヴァンアーブルの目は焦点を結ばない。
「すみません‥‥」
上半身をぐわんぐわんと回しながら、レイは救助を要請した──ヴァンアーブル、リタイア!!
──そのとき、悲劇が起きた。
「きゃあ!!」
ウェイトレスが暑さによろめき、運んできたシトロン・エト・ミールをゴーレムにぶちまけたのだ!!
──ジュンッ!!
もうもうと立つ湯気、湿度に比例し一気に上がる体感温度!!
「私は石柱、石柱は暑さなんて感じない‥‥‥」
ぶつぶつと、延々とそれだけを呟き続けるウォルター。その声は徐々に小さくなっていく。
「くっ、こ、ここまで、か」
ウォルターの声が消える前に、そう呟いて、ゼファーは意識を手放した。
まるごとの山に埋もれ、恍惚としたまま──ゼファー、リタイア!!
「感じない‥‥感じな‥‥い‥‥あ、つさなんて‥‥か‥‥」
ほぼ同時にぱたりと倒れ──ウォルター、リタイア!!
「‥‥無念‥‥」
朦朧とする意識の中、聖氷の瞳に真っ赤に燃える炎が映った。
「ぱ、パリは‥‥赤く燃えている‥‥!!」
がくりと倒れ付したフィソス。意識を失った彼女を抱き上げて、レイが部屋を飛び出した!
「治療、を‥‥」
運び出したというより、持ち上げて扉の外に倒れた‥‥というのが正しい。目覚めたフィソスの頭部には大きな瘤が出来ていたのだから。そしてレイには、その記憶がなかった。意識を失っても行動していたのだろう。
●冷たき果実
厨房担当の手配で待機していた医師の的確な治療、本当は厨房の差し入れ用にアイスコフィンの部屋で冷やされていた果物などもあり、幸いにも大事に至る者はいなかった。
「ふむ、負けはしたがよいダイエットになったな。いい汗をかいた」
頭部に残る瘤を撫でながら、フィソスは涼やかに笑った。
「あたしは水浴びをしたい。ああ、寒中水泳のような寒さの我慢なら得意だったのになぁ」
桶に汲んだ冷たい井戸水に足を浸しながら、オイフェミアは悔しそうに水面を蹴った。
飛沫の飛び掛ったセッター君が嬉しそうに尻尾を振る。
「レイ殿、この場合、優勝は誰ということになるのでしょうね」
「痛み分けでいいと思うのだわ★」
シフールだって互角に戦える──勝利ではないが、それは大きな勲章だ。
「そうだな、着ぐるみも料理も堪能できたしな」
名残惜しそうにレヲなるどを抱え、ゼファーも頷いた。
「それでは、賞金は山分けですね」
「ねえ‥‥参加費が戻ってきたわよ。おまえ、計算を間違えているのではなくて?」
手渡されたのは参加費だった1G‥‥材料費が減らされるはずだとオイフェミアは眉を寄せた。
「精神鍛錬の戦いと言ったらシュティール領の領主フィリーネ様がスポンサーになって下さったんです」
「ものは言いようですね」
ウォルターの揶揄するような褒め言葉にレイは優雅な微笑みを浮かべた。
戻された1Gを財布にきっちり仕舞い込み、フィーナはくすっと笑う。
「最後に楽しめてよかったわ。今度はロシアに行くから、また暫く会えなくなるかもしれないもの」
「我々は一期一会の冒険者ですからね」
「セーラ様とタロン様の導きがあれば、また共に戦うこともあろう。彼もどこかで戦っているのだろうしな」
フィソスの言葉に頷いて、フィーナは冷えた果実を口にした。
主の導きがあらんことを願いながら──‥‥