海の底に開いた穴
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:やなぎきいち
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月29日〜02月05日
リプレイ公開日:2005年02月06日
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●オープニング
●場末の酒場で暴れる年増。
そこはドレスタットでは珍しくない、荒くれ者が好んで訪れる酒場の1つだった。
小麦色の肌の蓮っ葉な彼女は、そんな荒くれ者たちと対等に渡り合う──言ってしまえば、海賊上がりの女性だった。
「よぅ、ロージィ」
「あたしにも一杯おくれ」
小さな海賊団を率いていた彼女はロージィ・ローズと名乗っている。いかにも偽名だが、それはあまり褒められない過去を持つことを示していて、却って都合が良かった。
ジプシーらしい露出度の高い服は視線を集めた。店主が一睨みして黙らせたが、彼女はそんな些細なことはどうでも良かった。汗をかくジョッキを指先でリズミカルに弾く。
元相棒、現在は夫婦という関係の店主はカウンターに精悍すぎる肘を付き、ニヤリと笑いかける。
「ずいぶんご機嫌じゃねぇか」
「ああ、ちょっと面白いネタを拾ってね。ガセかどうかもわかんないんだけどさ──お宝って聞くと血が沸き立つのは性分かねぇ?」
彼女はくくく‥‥と喉で笑った。そしてちらっと投げられた悪戯な視線に店主の旦那はひらひらと手を振って見せた。
「悪ぃが、手伝えねえぜ」
長いこと相棒として支え合ってきた相手の手は知っている。スッパリと先手を打たれ、鼻白んで眉間にシワを刻み、不貞腐れたようにそっぽを向くロージィ。
──ドガッ!! (ミシッ)
響いた音は彼女がカウンターを蹴りつけた音だ。軋む音に苛立ちエールを煽った。
「ったく、情けないねぇ‥‥そんな男だとは思わなかったよ」
「ロージィ、お前も船を降りたら年増な踊り子だぜ。ほらほら、働いた」
「誰が年増だって!?」
空になったジョッキをひょいと取り上げた店主は、ロージィの容赦ない蹴りをその背中に喰らったのだった。
●そして、冒険者ギルドに舞い込む年増。
「ですから、内容をもう少し細かく──宝捜し、だけじゃ大雑把すぎます!」
「わかんないお嬢ちゃんだねぇ。詳しく言ったらライバルが出てくるだろ? ゴタゴタ言わずに頭数だけ集めりゃいいんだよ」
呆れて盛大に溜息をつくロージィ。溜息をつきたいのはギルド員も同じだ──などとは、微塵も思っていなかったりする。
「ですから‥‥先ほどから言ってますけど! 冒険者も、依頼の概要すら分からなかったら、警戒して受けてくれませんよ!」
平行線を辿るやり取りに、先に折れたのはロージィだった。降参、というように軽く両手を上げて見せる。
「わかったよ、強情っ張り。場所は絶対に!! 言わないけど、とある場所に洞窟があるらしいんだよ‥‥入口が海に沈んでるっていう話でねぇ」
「あるらしい、ということはその入口と洞窟の探索が仕事なんですね」
「そういうこと」
そして冒険者にとって肝心要の報酬を訊ねたギルド員に、ロージィは豪快に笑って、わからないねぇ、と答えた。
「ブッ潰れた海賊団がお宝を隠してたっていう洞窟だからね、まあ、見つかったお宝次第──相手の甲斐性次第ってとこだね」
必要最低限の情報だけを何とか引き出して、ギルド員は依頼書を掲示したのだった。
「で、ロージィさん、酒場の方は?」
「あっはっは!! 酒場は逃げやしないからね、お休みさっ」
●リプレイ本文
●出発の朝に
「初めまして。エルフの白の神聖騎士、ワルキュリア・ブルークリスタルと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
依頼人に似合わないほど丁寧に挨拶をし、ワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)は深々と頭を下げた。そんなワルキュリアとは対照的に、どこか豪快な印象が拭えない、ジャイアントのレンティス・シルハーノ(eb0370)は目を輝かせている。
「海に潜って財宝を探す。ロマンだな!」
「それにしても、あと3人‥‥遅いねえ?」
パラのファイター、ジム・ヒギンズ(ea9449)が欠伸をかみ殺しながらそうぼやいた。依頼人ロージィ・ローズは鼻息も荒く言い放つ。
「寝坊たぁ、海賊の風上にもおけないね!」
「ロージィさん、私たち海賊じゃないからねっ」
めっ、と指を突きつけて注意したのは桜城 鈴音(ea9901)だ。黒いポニーテールが揺れるのを見て、ウェイツ・マンシズ(ea7790)が嬉しそうに微笑むと、金色の尻尾がさらりと流れた。
「お揃いですね、鈴音さん」
「のん気でいいねぇ、あんたたち‥‥」
ロージィはがくりと肩を落とした。しかし、直ぐに立ち直る。
「よし、これ以上待ってもいられないね! ちょいと少ないが、行くとしようか!」
「いよいよ宝探しか‥‥面白そうだね!! 楽しくなってきたなぁ!」
眠そうだったジムが跳ね起きて、ロージィの手を引いた。
「あんた、海賊向きの性格だねぇ!」
あっはっは! と豪快に笑うロージィに冒険者たちは一抹の不安を覚えながら、ドレスタットの街を後にしたのだった。
●辿り着いた浜で
「よし、ここを根城にするかね」
小舟を操るロージィが案内したのは、ドレスタットから丸2日行った所にある、入り組んだ海岸線。その中にある、高い崖に囲まれた小さな入り江の一つだった。
登攀をかじった者でも、恐らく上り下りはできまい。余程の命知らずでなければ。つまり、船でしか辿り着くことのできない入り江ということだ。
「夜通し船を漕ぐなんて、おいら聞いて無かったよ」
面白そうだと気軽に漕ぎ手に志願したジムは、疲れた体を浜に投げ出した。この浜には申し訳程度の砂浜があるが、小舟から見る限り海中はでこぼこした岩場のようだった。
浜辺に荷物を下ろすと、ウェイツが海を見渡して溜息をついた。
「こんなに大量発生するものなんですね。それに、ジェリーフィッシュって‥‥ちょっと綺麗ですよね。なんだか感動です」
「でもあの中を泳がなきゃなんねえんじゃねーの? とりあえず、網が用意できたのは良かったな、ワルキュリア」
レンティスが笑う。海風に煽られた髪を撫でながら、ワルキュリアも微笑み返した。
「レンティスさんが巧く交渉してくださったからです。助かりました」
ジェリーフィッシュ対策として漁師用の魚網を希望した二人に、そんなものは自分で買っておいで、と素気無かった依頼人。お宝をチラつかせてその牙城を崩したのはレンティスだった。
「さぁて、休んでてもお宝は見つからないからねっ。きりきり探すよっ!」
依頼人の発声に準備運動を開始したのは、レンティスとジム、鈴音の3人だった。依頼人の視線に晒され、ワルキュリアがすまなさそうに頭を下げた。
「申し訳ありませんが、泳ぎには自信がありませんので‥‥探索作業には関れません」
「船や魚網を扱うのは、僕の役目かと思ったのですけれど」
普段は漁師として生計を立てているウェイツはきょとんと依頼人を見つめる。
二人の言い分に肩を回すロージィ。
「じゃ、あたしも久々に泳ぐとするかね」
こうして、紆余曲折を経たものの、海中の探索が開始された──
●泳ぐ冒険者の試練
小舟にはジムと鈴音は乗らず、まずは4人でアタックだ。
「ロージィさん、舟はどっちへ向かわせれば良いですか?」
「どこでもいいさ。しらみ潰しに探すしかないんだしね」
「そんなこと言って、ある程度は当たりが付いてるんじゃねーの?」
小舟を操るウェイツが依頼人へ問うが、依頼人はひょいと肩を竦めるばかり。レンティスが体を温めながら切り返すが、ロージィは首を振る。
「んじゃ、しゃーねぇな。いっちょ潜るとするか!」
命綱にとロープを腰に巻き、レンティスが海水へ足を付けた。
「冷てぇ!!」
「冬の海ですし、仕方ありません。せめて、暖を取れるようにしておきますので‥‥頑張ってきてくださいね、レンティスさん」
「あぁ、海からあがったら暖かいモンと酒頼むな! っと、やっぱりジェリーフィッシュは寄ってくるか」
隙を突いて海に潜ろうとしていたのだが、そう甘くは無いらしい。
「ワルキュリアさん、そっちを持ってください。で、こう投げます‥‥分かりますか?」
魚網を取り出し、投げるモーションをして見せながら投げ方の指導をするウェイツ。2回ばかり同じように投げる練習をして、ワルキュリアは頷いた。
「行きます。1、2‥‥」
「「3!!」」
投げられた魚網は大きく広がり、ジェリーフィッシュを絡め取る!!
「全部退治してる暇はないんだよな」
網から漏れたジェリーフィッシュへ、クルスソードを振るうレンティス。二回も振るえばあっさりと切り裂くことができる。それを見て、ウェイツとワルキュリアも自分の武器を握り締め、ジェリーフィッシュへの攻撃を開始する。
しばらく剣を振るうと小舟の周囲からジェリーフィッシュの陰が消えた。
「大丈夫だと思います、行ってください」
「おぅ、じゃあ行ってくるな!」
レンティスとロージィは凍えるような海水に身を浸すと、大きく息を吸い海中に姿を消した。
「‥‥ちょっと暇になりますねぇ」
可愛らしく小首を傾げたウェイツはおもむろに釣り道具を取り出した。針の付いていない糸に錘をつけ、海中に沈める。
「ウェイツさん、何を‥‥?」
「釣りですよ。こうしてゆったりと景色を眺めていると、世界がどれだけ美しいか‥‥胸に響いてくるんです」
どう見ても女性にしか見えないウェイツは、ワルキュリアに微笑みかけた。
「魚は‥‥釣れますか?」
「釣れませんねえ」
謎多き海上の釣姫──そんな言葉が、ワルキュリアの脳裏に浮かんだ。
●努力と根性の先に
探索も、早3日目。小舟に乗るのは、操船担当のウェイツにジェリーフィッシュ対策係のワルキュリア、探索担当のジムと鈴音だ。
「ぷはぁっ!! だめ、全然見つからないよ。このままじゃ、手ぶらで帰ることになるのかな」
命綱を辿って海面に顔を出したジムは真っ白に血の気の引いた肌と紫に染まった唇で小舟によじ登る。ワルキュリアが毛布をかけ、小刻みに震えるジムの体を毛布で擦り、献身的に暖めた。
「3日間探し続けて見つからなかったのでしたら、仕方がないと思います。遊んでいたわけではないのですから」
気休めにしかならないと分かっていながらも、ワルキュリアはそう告げずにはいられなかった。探索をしに海中に潜る彼らにどれだけ負担がかかっているか、その目で、肌で、感じて知っているのだから。
ふと、海面に泡が立った。
目を転じて見ると、水遁の術を使って海中の探索をしていた鈴音が顔を出した。
「あったわよっ、人が入れそうな穴!!」
顔面蒼白で、唇もジムと同じように紫だったが‥‥しかしその瞳は爛々と輝いている。
「一旦上がってください、鈴音さん。レンティスさんとロージィさんに報告しに一度戻りましょう。あなたも、一度暖を取らなくてはいけませんから‥‥」
ジムと共に鈴音を小舟に引き上げ、4人は一度浜へと戻った。
「あったのか!! さすが、海にはロマンが溢れてるな!!」
「でも、ゆっくり洞窟を探索している暇はなさそうだねぇ」
そう言いながら長い髪を束ねるロージィ。当然ながら潜る気満々である。
「一度アタックして、ダメなら引き上げよう。大丈夫、誰にも場所を伝えなければお宝は一人で逃げたりしやしないからね」
「やっとお宝とご対面だね!! おいら、なんかわくわくしてきたよ♪」
鈴音が一手間加え、料理らしくなった保存食を口にするジム。思わず陽気な鼻歌が漏れてくる。暖かい料理は、冷え切った身体を内から暖めてくれるようだった。ウェイツも暖かい保存食に手を伸ばし、一方で依頼人に問いかける。
「暇がないということは、終わったらそのまま出発ですか?」
「そうだねぇ。ま、一回こっきりってのも、緊迫感があって良いだろうさ」
料理をしていて暖まったらしい鈴音とレンティスは、ロージィの言葉を受けて荷物を纏め始めた。
──そうして、一度きりのサルベージが行われる。
●見つけたモノは
かき集めたロープを結びつけ長いロープにする。端を自分でしっかり握り、水遁の術を使って鈴音は海中に身を躍らせた。
「‥‥‥」
じりじりしながらしばらく待っていると、クイクイっとロープが引っ張られる。鈴音からの合図だ。
「──グッドラック」
ワルキュリアが一人一人へグッドラックをかける。そして、ジーザスの祝福を受けた者から順に、ロープを伝って鈴音の後を追っていった。ワルキュリアが海へ姿を消し、小舟がしっかり固定してあることを再度確認してウェイツが殿を務める。
大きく張り出した岩の下に潜り、数メートル潜り抜ける──息が苦しくなってきたところで、海面と仄かな明かりが見えた。洞窟だ。
「私は当たりだと思うんだけど、どう?」
「でかしたな、鈴音」
レンティスが鈴音の頭を撫でる。ジムは不満そうに頬を膨らませた。
「やっぱり、おいらが見つけたかったよ」
海中をずいぶん泳ぐだけあって、皆、手持ちの荷物は殆どない。鈴音が持ち込んだ灯りと盗賊用道具一式、ジムのダガーとレンティスのクルスソード‥‥その程度だ。
不安げな色を隠せないのはワルキュリアだ。どこか遠い目をしながら、仲間たちに忠告する。
「モンスターや罠がないとは限りませんから、皆さん気をつけてくださいね‥‥何故か嫌な予感があるのですよね」
「さて、どんなお宝が俺達を待ってるのか‥‥どうもロクな予感もしねーがそこはロマンだ。信じよう」
レンティスがジムと共に先頭を歩き、小さな洞窟の探索を開始した。
「子供だましの罠しかないわね。なんでかしら」
鈴音が首を傾げた。見落としているのでなければ、今まで見つけたものは罠とも呼べないようなお粗末な落とし穴などだった。鈴音の呟きを受けて、ウェイツも首を傾げる。
「海賊の洞窟ではなかったのでしょうか‥‥」
「そんなことないと思うよ。罠だらけのアジトを歩きたくなかっただけだったりするかもしれないし♪ ほら!!」
ジムが前方を指差した。満面の笑みで指差す先では、松明の灯りを受けて幾つかの木箱がその輪郭を浮かび上がらせている。
「気をつけてくださいね」
後方を歩いていたワルキュリアが、先頭の二人に声をかけた。慎重に、慎重に近付いていく‥‥が、拍子抜けすることに、何も起きない。あっさりと木箱まで辿り着いてしまった。
影音とジムが一つずつ木箱を調べ、罠のない事を確認する。
「こっちは金貨ね」
「これは、真珠だよ」
木箱は期待していたよりもかなり小さかったが、真珠のティアラ、水晶のペンダント、紫水晶のアミュレットからシードルまで、様々なものが仕舞われていた。
と、ジムが次の木箱に近付き──飛び退いた!! 木箱が砕け散る!!
「──モンスターっ!?」
ジムとレンティス、辛うじて武器と呼べるものを持ってきた二人が戦闘態勢を取った!!
「これは、何っ!?」
ジムが声を上げるが、あいにく、モンスターに対する知識を持ったメンバーはいないようで──一様に首を横に振った。ただ一人、ロージィが搾り出すようにモンスターの名前を零す。
「ウッドゴーレム‥‥」
ウッドゴーレムの第2撃を辛うじて避けたレンティスは、砕け散る木箱を見──それがどれほどのダメージを与える一撃なのかを推測する。
「分が悪いねぇ‥‥逃げるよ!!」
ウェイツとワルキュリア、ジム、そして鈴音は即時に撤退の判断を下していた。だが、ジムが前線を離脱しても、いや、したからこそ余計にだろうか、レンティスはウッドゴーレムと肉薄している!
「レンティス!!」
ジムが声を荒げる! 視線を投げかけ、ニヒルな笑みを浮かべようとするレンティス。
「可愛い女の子が逃げるまでの時間稼ぎくらい、させてもらうぜ‥‥ぐっ!!」
だが、言っている端からウッドゴーレムの一撃が肩口を捕らえる!!
「皆は先に逃げてよ!!」
「ジム‥‥分かったよ、でも無事に戻ってきてね!!」
「わかってるよ、鈴音! 負けっぱなしは性にあわないしね!! ロージィ、その箱貸して!!」
仲間を急かし、依頼人の抱える木箱を奪い取るジム! 仲間が駆け出した足音を確認すると、木箱に詰められていた薄紫に見える真珠を、盛大にウッドゴーレムの足元へばら撒いた!!
「それ!! レンティス、今のうちに逃げよう!!」
「悪い、助かったぜ!」
光源が遠のき薄暗くなりつつある洞窟を、二人の戦士は全力で駆け抜け、冷たい海水へ飛び込んだ!!
●得たものと、得たかったもの
「あんなのがいれば、そりゃ、罠も簡単になるよね」
ジムがワルキュリアとウェイツの手当てを受けるレンティスを横目に、そうボヤく。
「宝を目前に撤退、か。明日、荷物持ってもう一回行けばいいんじゃねーの?」
「レンティスさん、残念ですけれど時間切れですよ」
ワルキュリアが溜息と共に、そう吐いた。
「こんなものしか持って来れなかったねぇ。皆で分けて、報酬にでもしておいておくれ」
「良いの? ロージィの分、無くなったりしない?」
ロージィがいつの間にかちゃっかり持ち出していたアイテム──船乗りのお守りを二つ、水晶のペンダントが三つ、そして握れる程度の金貨を鈴音へ手渡した。
「また、改めて宝の回収に来るさ。その時は、またよろしく頼むよ!」
「うん、仕事中じゃなかったらね!」
ジムが頷いた。
「洞窟は見つけても、宝の回収はならず──ですか。でも、これは何物にも代えられないすばらしい体験でしたね。みなさん、共に喜んで下さい。ドレスタットに戻ったら、私の奢りで飲みましょう!」
「いいな! じゃあ、帰るか!!」
レンティスが勢い良くオールを漕ぎ出した。
ウェイツ・マンシズ──依頼人より太っ腹かもしれない。