ドレスタッドの船頭たち

■ショートシナリオ


担当:八尾利之

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月07日〜07月10日

リプレイ公開日:2005年07月12日

●オープニング

「この、クソジジイが!」
 ドレスタッドを横断する川のほとりから怒声が響いた。
 そこには何艘か小舟が停泊していた。そのうちの一艘を、いかにもチンピラを気取った男たちが取り囲んでいた。
 小舟には、老人が一人うずくまっている。
「さっさと金を出しやがれ!」
 チンピラの一人が、老人の腹部に思い切り蹴りを入れた。老人は体をくの字に折り曲げて、苦しそうに咳き込む。
「やめろ! やめてくれ!」
 ほかの船頭たちが集まってきて口々に叫んだ。が、彼らも倒れている老人同様、年寄りばかりだった。
「なんだぁ? 文句があるってのか?」
「上納金なら、この前納めたばかりじゃ――」
「うるせェ!」
 言い終わる前に、チンピラが言い寄ってきた年寄りを殴りつけた。年寄りはそのまま地面に倒れて、痛みであえぐ。
「俺たちがよこせって言ってんだから、大人しくよこせばいいんだよ!」
「そ、そんな‥‥それでは生活が‥‥」
「お前らの生活なんて知ったことかよ! いいか、また来るから、そのときまでキッチリ揃えておけよ。さもないと‥‥」
 男は腰に下げた剣を引き抜くと、倒れた老人の首筋に切っ先を押し当てた。
「お前らの命の保証はねぇからな」
 怯える船頭たちをにらみつけると、チンピラたちは下品な笑い声をあげながら立ち去っていった。

 冒険者ギルドに老人たちが姿を現したのは、その日のうちだった。
「わしらは、対岸に人を運ぶ仕事をしているしがない船頭ですじゃ。日頃の稼ぎも少なく、体の弱くなった今となってはこのくらいしかできる仕事もありませんで‥‥。
 それが数ヶ月前から、わしが年寄りばかりだということに目をつけたチンピラたちが、わしらの安全を守るためと称して上納金を迫ってまいりましての」
 そのときの光景が思い浮かんだのか、老人は目を閉じると、悲しげにため息をひとつついた。
「もちろん、安全を守るなどというのは嘘八百なありさまでしてな。わしらが抵抗できないことをいいことに、要求は日ましに過酷になっていく一方で、もはやわしらの稼ぎではどうしようもないところまで来てしまったのじゃ。これ以上はとても耐えられん‥‥。どうか、わしらを助けてくれ」
 老人たちは少ない稼ぎの中から精一杯出した硬貨をカウンターに置いた。
「あやつらは、数日中にまた来ると言っておった。そのときになんとか。殺してくれとは言わん。あやつらが、もうこんなことを二度としないようにしてくれさえしてくれれば、それで十分じゃ」

●今回の参加者

 ea9568 ミスト・フロール(25歳・♂・バード・パラ・フランク王国)
 eb2244 クーリア・デルファ(34歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb2390 カラット・カーバンクル(26歳・♀・陰陽師・人間・ノルマン王国)
 eb2433 ヴィクター・ノルト(36歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb2504 磐 猛賢(28歳・♂・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb2509 フィーネイア・ダナール(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・インドゥーラ国)

●サポート参加者

カールス・フィッシャー(eb2419

●リプレイ本文

「‥‥というわけで、皆さん、協力をお願いします」
 クーリア・デルファ(eb2244)が、岸に集まる人々に頭を下げた。
 船頭たちが受けていた被害を知って、人々の中からは愕然とする者、憤る者など、さまざまな反応があった。しかし、皆に共通していたのは、
「よし、チンピラたちが二度と悪さができないよう協力しよう」
 という思いであった。
 船頭たちが廃業してしまったら、彼らも困るのである。ほかの皆にも知らせるため散っていった人々を見送ったあと、船頭たちのもとへと戻ってきたクーリアを、カラット・カーバンクル(eb2390)、磐猛賢(eb2504)、フィーネイア・ダナール(eb2509)の三人が出迎えた。
「どうでしたか?」
 不安そうに尋ねるカラットに、クーリアは笑って答える。
「皆理解してくれたよ。協力してくれるってさ」
「よかったぁ」
「となると、残るはチンピラどもの始末をどうつけるか‥‥か」
 磐があごをなでながらつぶやくと、フィーネイアが賛同するようにうなずいた。
「打ち合わせ通りにやれば、きっと大丈夫よ」
「そうだな」
 さて、その頃、ミスト・フロール(ea9568)とヴィクター・ノルト(eb2433)は、船着き場からほど近い物陰に潜んで待機していた。
「ミスト殿、そちらのほうはどうですか?」
 道を見張っているミストに、ヴィクターが声をかける。
「ううん、まだ‥‥みたい。いや、待って!」
 ミストが道の先に目をこらすと――いた。老人たちから聞いた通りの風貌の、いかにもチンピラといった者たちが五人。
「来たよ!」
 ただちにヴィクターが三人に合図を送る。三人はヴィクターの合図を見てうなずくと、それぞれの持ち場についた。それから数分もたたずに、チンピラたちが船着き場に姿を現した。
「おうおう、繁盛してるじゃねぇか」
 因縁をつけようとするチンピラたちの前に、カラットが立ちふさがった。
「やめてください!」
「あん? なんだ、おめぇは」
「孫です! おじいちゃんをこれ以上いじめないでください!」
「ガキに用はねぇ。どきな」
 押し通ろうとするチンピラの進路を、両手を広げたカラットが妨害する。チンピラの一人が舌打ちをして、いらついた様子で手を伸ばして、カラットの肩をつかんだ。
「いたっ」
「どけっつってんだよ!」
 強引にカラットをどかそうとするチンピラの腕を、盤がつかんだ。
「そのへんでやめたらどうだ」
「んだとぉ! この‥‥な!?」
 チンピラは盤の腕を振り払おうとしたが、ビクとも動かない。
「てめぇ!」
 ほかのチンピラが盤に殴りかかろうとしたそのとき、背後に回ったフィーネイアが、チンピラの首に手刀をたたき込んだ。
「ぐあっ」
 もんどり打って倒れ込むチンピラに、フィーネイアは冷ややかな視線を投げた。
「見苦しい真似はやめなさいよ」
「そうだよ。もうやめな」
 修理工を装っていたクーリアも立ち上がり、チンピラたちを取り囲む。いつしか彼らを見守るように人垣ができはじめていた。中には「そうだ、やめろ」と声をあげる人々もいる。先ほどクーリアが説得した人たちだった。
 チンピラたちは必死ににらみをきかせて人混みを追い払おうとしたが、効果はまったくなく、むしろ人は増えるいっぽうで、チンピラたちを非難する声もますます大きくなりはじめていた。
「てめぇら‥‥!」
 ついにチンピラは腰に差した剣に手を伸ばすと、
「痛い目を見なけりゃわからねぇようだな!」
 叫びながら剣を引き抜いた。
「今です!」
 離れてその様子を見ていたヴィクターが巻物を開くのと同時に、ミストも詠唱を開始する。すると、二人は淡い銀色の光に包まれた。その光がかざした手の平に集まっていき、みるみるうちに光の矢ができあがっていく。
「ムーンアロー!」
 撃ち出された矢は、光の軌跡を放ちながらおそろしいほどの速度でチンピラに向かっていくと、一発は剣を持った手に、もう一発は顔面に直撃した。
「なにぃ!?」
 威力の小さなムーンアローによる攻撃とはいえ、二発同時に食らえばダメージは大きい。痛みで剣を取り落としながら、しかしそれでもなお戦意は衰えていなかった。
「くそぉ! やっちまえ!」
 それを合図に、チンピラたちは一斉に剣を抜き払った。そのうちの一人が、怯える老人に剣をふりかぶった。
「だめー!」
 カラットががむしゃらに放ったキックをもろにうけて、チンピラは吹き飛んだ。その先にはクーリアがラージハンマーを手に待ちかまえている。
「ぐはぁっ!」
 クーリアに半殺し程度に痛めつけられ転がっていると、今度はフィーネイアがそれを水辺まで引きずっていき、そのまま水の中に投げ込んだ。
 一方、盤は二人のチンピラを相手に立ち回っていた。チンピラの攻撃をかがみ込んでかわし際に、前に踏み出て足払いをかける。思わず転倒したチンピラに素早く接近すると、腹部に強烈なパンチをお見舞いする。
 残った一人が盤の背後から斬りかかろうとしたとき、ヴィクターとミストが再び放ったムーンアローが男に襲いかかり、剣を落とされると、たちまち戦意を失った。
「まだやるか?」
 威圧的に迫る盤を見て、チンピラたちは剣を投げ捨て降伏したのだった。
 チンピラたちは、拘束され、座った状態で一列に並ばされた。
 水に投げ入れられたチンピラは、船頭たちが引き上げた。
「なぜこんな俺たちを助けるんだ‥‥?」
 信じられない様子で、チンピラの一人が言った。すると老人はチンピラたちの頭に優しく手を置くと、かすかに笑顔をつくった。
「困ったときは助け合うのが当然じゃろう?」
 さも当然のようなに言う老人の姿に、チンピラたちは言葉を失う。
「お前たちは、こんな老人から金を巻き上げようとしていたんだぞ」
 盤の言葉に、チンピラたちは力なくうなだれた。
「そうよ。ロクでもないことをしてないで、ここにおられる老人たちのように、一生懸命になにかをやってみなさいよ」
「もっとまっとうな仕事をしたらいいですよ。今のようなことをしていたら、たとえ殺されても文句は言えないんですから」
「でも、俺たちにできる仕事なんてひとつもないし‥‥」
「そんなことないよ」
 戻ってきたミストが口を開いた。
「‥‥自分の心の弱さに甘えちゃダメだよ。立ち向かわなきゃ。自分自身と」
「そう‥‥だな。あんたらの言う通りだ。俺たちがバカだった。これからはなにか仕事を探して、イチからやり直すことにするよ」
「それなら、わしらのところで仕事をしたらええ」
 チンピラたちは驚いて、老人の顔を見つめた。
「ほんとうか!?」
「ああ、いいとも。ちょうど跡継ぎがほしかったところだしの」
「すまねぇ! こんな俺たちを‥‥でも、いいのか? 俺たちがまた悪さをするかもしれねぇのに‥‥」
「もしそのときは‥‥」
 ヴィクターが詠唱すると、近くのかがり火の火が細く伸びて、チンピラたちを取り囲んだ。
「手加減はしない。黒こげにしてやるさ」
「わ、わかった‥‥もう悪さはしねぇよ。これからは真面目にやっていくさ」
「それがいい」
 こうして事件は解決した。
 この後このチンピラたちは、老人たちの厳しい指導にもよく耐え、いっぱしの船頭になる日も近い‥‥らしい。