失われた宝石〜人魚の涙を奪還せよ〜
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■ショートシナリオ
担当:八尾利之
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月08日〜08月13日
リプレイ公開日:2005年08月14日
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●オープニング
ドレスタッドから数日の道程を、数台の馬車がゴトゴトと進んでいた。
「今日はなんとすがすがしい気分でしょう」
馬車の中で、着飾った若い女性が、これほど楽しい日はないとでも言いたげに、顔いっぱいに笑顔を浮かべながら言った。
その女性の指には、青白く輝く大きな宝石が埋め込まれた指輪がはめられている。女性はその指輪を、うっとりとした表情で眺めた。
「そんなに浮かれなくても、相手は逃げませんよ」
女性の正面に座っている老婆が、しわがれた声で女性をたしなめた。女性とは対照的に、老婆の服装は質素で、動きやすそうな設えのお仕着せであった。
「わかってるわ、ばあや。でも、ああ、この日をどんなに待ちこがれてきたことか! わかる? ばあや? 抑えようと思っても、とても抑えられるものではないのよ」
「わかっておりますよ、お嬢様。私が心配しているのは、お嬢様がはしゃぎすぎるあまり、相手の心証が悪くなるのではないかということですよ」
「そんなことは、ちゃんと向こうはわかっているわ。今度一緒に早駆けに行こうって誘われてるのよ」
「あらまぁ」
老婆はあきれて開いた口がふさがらない。騎士ではない貴族の令嬢が早駆けだなんて。
「お嬢様も相当変わり者だと思っていましたが、相手もなるほど、かなりの変わり者のようですねぇ」
「だからお互い惹かれ合ったのよ。それに、ほら、見て」
女性は手を高く上げて、指輪を老婆の間近に持って行った。
「こんな綺麗な指輪‥‥。ねえ、ばあや。見たことある?」
「いいえ、ありませんとも」
人魚の涙――指輪はそう呼ばれていた。
マーメイドが流した涙のように、その宝石は青く澄み切っていて、美しかったのである。
「ねえ、ばあや。あなたもつけてみる?」
「めっそうもない! 私めなどにはとても似合いませんよ」
「いいから、ほら、つけてみなさいよ」
女性は指輪を外すと、老婆に古枝のような手を握りしめて、指輪をはめようとした。
と、そのとき、馬のいななく声が聞こえたかと思うと、突然馬車が横転した。
「賊だ! 賊が出たぞ!」
転がる車内でしこたま全身をぶつけながら、二人は従者の叫ぶ声を確かに聞いた。
あちこちから剣のぶつかり合う音が聞こえ始める。護衛の者たちが戦っているのだ。
「お嬢様! 大丈夫ですか!?」
「え、ええ‥‥。ばあや、どうしたらいいの?」
「私がついています。心配しないでくださいまし」
老婆は馬車についている日よけのためのカーテンをはぎとった。
「さ、これをかぶって‥‥隠れていれば大丈夫ですから」
老婆が女性にカーテンをかぶせた直後、馬車のドアが荒々しく開け放たれて、盗賊が数人中をのぞき込んできた。そして老婆の姿を見つけるや彼女をつかみ、そのまま馬車から引きずり出した。
「おい、金目のものは‥‥」
盗賊の目が、老婆の指にはめられた指輪に止まった。
「こりゃ、すげぇお宝だぜ」
「お願いです! これだけは!」
指輪を奪われまいと必死に抵抗する老婆の姿に、盗賊は舌打ちをして剣を引き抜いた。そのまま老婆の背中から一気に剣を突き刺す。老婆はうめきながら倒れ、動かなくなった。
「抵抗しなきゃいいものを」
盗賊は指輪を奪うと、
「ずらかるぞ!」
とかけ声をかけて引き上げていった。
物音がなくなってしばらくしてから、馬車から女性が顔を出した。倒れている老婆に駆け寄り、抱き起こすが、すでに息はなくなっていた。
「そんな‥‥そんな‥‥」
老婆だけではない。従者も護衛も皆殺しにされ、贈り物として持ってきていた金目のものは全て奪われていた。
女性は生き残った馬にまたがると、嗚咽を漏らしながらその場を離れたのだった。
数日後、ドレスタッドの冒険者ギルドに依頼が掲示された。
『ドレスタッドからブレーメンに向かう道中に潜伏する賊を討伐し、通称「人魚の涙」と呼ばれる指輪を奪還せよ。なお、賊は皆殺しにすることが望ましい』
●今回の参加者
eb2259 ヘクトル・フィルス(30歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)
eb2433 ヴィクター・ノルト(36歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
eb2504 磐 猛賢(28歳・♂・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)
eb3175 ローランド・ドゥルムシャイト(61歳・♂・バード・エルフ・フランク王国)
●リプレイ本文
雲がたれ込めていた。
月は隠され、森の中は闇に包まれている。風が木々を揺さぶり、虫の鳴き声と、それと子守歌に眠る動物の寝息だけが周囲に響いている。
その中を、ゴトゴトとかすかに音を立てながら進む一団があった。
「首尾はどうですか?」
ヴィクター・ノルト(eb2433)のささやくような声に、磐猛賢(eb2504)は無言でうなずく。
「あとは火をつけるだけだね」
ローランド・ドゥルムシャイト(eb3175)が暗闇の中、地図にチェックをつけながら言う。地図には、磐が作ったカカシを設置した場所が記されていた。
「多勢に無勢だ。撹乱に乗じて一気に攻め込む。数を悟られるなよ」
ヘクトル・フィルス(eb2259)の言葉に一同はうなずく。皆の決意は固い。極悪非道な盗賊たちの蛮行を許しておくわけにはいかなかった。
「火を」
火打ち石からたいまつに点火。オレンジの明かりが周囲を照らし出した。
「幸運を」
ヘクトルはそう言い残すと、ローランドとともに闇の中に消えていった。アジトの裏口から奇襲攻撃をかけるためだ。磐はたいまつを手にして、ヴィクターと行動に出る。
「ファイヤーコントロール」
ヴィクターが詠唱を始めると、ほのかな赤い光に包まれ、磐の持つたいまつが踊るようにゆらめいたかと思うと、カカシに向かって細く伸びて、カカシにくくりつけられたたいまつに次々と点火していく。
「よし、次のポイントだ」
こうしてポイントを回っていくに従って、アジトを取り囲むように火の輪ができあがっていくのだった。
「何事だ!」
アジトの中では、森の奥から見える火にはやくも騒ぎ始めていた。
「あそこからたいまつの火が! あっちからも!」
「人の影があちこちに‥‥! もしや囲まれたのでは!?」
ヘクトルとローランドは、アジトの壁に張りつくようにして待機しながらそれを聞いた。ヘクトルが笑みを浮かべる。
「どうやら、うまくいきそうだ」
「安心するのはまだはやい。勝負はこれからだよ」
「そうだな」
いくら相手が混乱しているとはいえ、こちらの数はわずか四人。
ヘクトルは愛用のクルスソードを静かに引き抜いた。ローランドもいつでも魔法が使えるように集中している。
「奴らが混乱から立ち直る前に、できるだけ数を減らす」
「よし、いこう」
二人はアジトの裏口に回ると、ドアを突き破って室内に躍り出た。
「なっ‥‥!」
近くにいた一人を、叫び声を上げる間もなく切り伏せる。その間にローランドはランプを叩き壊した。室内が暗くなる。暖炉の炎だけが淡く人影を浮かび上がらせているだけだ。
「ムーンアロー!」
一瞬ローランドが光り輝き、室内がぱっと明るくなったかと思うと、一筋の光が一人に向かってすべりこんでいった。
「そいつが人魚の涙を持っている!」
「任せろ!」
ヘクトルはさらに数人を切り伏せながらそいつに向かうが、混戦状態の中では思いように動くこともできない。
盗賊たちは二人の強襲でパニック状態となり、我先にとアジトから飛び出していった。
「今です!」
アジトの外に待機していたヴィクターが合図したのと同時に、磐がカカシを固定していた縄を断ち切った。バランスを失ったカカシは斜面を転がり落ちながら炎に包まれ、アジトにむかっていく。
磐はカカシと一緒に斜面を駆け下りる。
「なんだあれは!」
転がるカカシに気を取られている盗賊の一人に、磐は出し抜けに跳び蹴りを食らわした。吹き飛ばされる盗賊を無視して、すぐ近くの敵に低い体勢で滑り込み、足払いをかけて転倒させる。突如現れた台風のような存在に、逃げ出した盗賊たちはさらに浮き足立った。
「無益な殺生は好まぬが‥‥これも定めと思え!」
倒れた賊にかかと落としを決めつつ、視線はすでに次の相手を探している。
「くそっ。こいつ‥‥!」
ようやく戦闘状態に入る盗賊たちだったが、その数はすでにかなり少なくなっていた。
「数で押し込め!」
そう叫んだ盗賊に、どこからか飛んできた光球が命中する。磐の後方からヴィクターの声が響く。
「磐殿! 彼が頭です!」
「心得た」
しかし、頭を守ろうと盗賊たちは集結し、磐を取り囲もうと迫ってきていた。構えながら踏み込む隙をうかがう。
そのとき。
アジトの奥から、大男が飛び出してきた。ヘクトルであった。彼はソードを上段に構えると、
「ぬんっ!」
気合い一閃、ソードを振り下ろし、盗賊の一人をまっぷたつに両断した。
その後ろからローランドも現れ、ムーンアローを放つ。それは盗賊たちの間をすり抜けて、再び頭に命中した。
盗賊たちが斬りかかってくるのをヘクトルは巧みに剣で受けながら、じりじりと間合いと詰めていく。一方の磐も、敵の攻撃をかわして、できた隙にこぶしを叩き込む。
「数では勝っているぞ! 押し返せ!」
頭は怒声を張り上げながら、自身もヘクトルに斬りかかった。数人の盗賊から連続攻撃を受けて、さすがのヘクトルも受けきれず、鎧に次々と傷が作られていく。
「ファイヤーコントロール!」
苦戦するヘクトルの元に駆け寄ってきたヴィクターが魔法を唱えた。
すると、カカシを燃やしていた炎が蛇のようにくねり始めたかと思うと、盗賊たちに向かって襲いかかったのである。
そこへ、磐が持っていた油を投げつけたからたまらない。
盗賊たちの中で炎が吹き上がり、油のかかった盗賊たちに引火していく。
「まだだ! まだ勝負は‥‥!」
なおも頭は剣を振り回しながら、ヘクトルを圧倒していた。
「ヘクトル!」
ローランドがヘクトルを援護するためにムーンアローを飛ばす。それが頭の注意を一瞬だけそらせた。
「今だ!」
ヘクトルは頭の剣を弾くと、そのまま頭の首をはねとばしたのだった。
「仇をとってくれて、ありがとうございました」
ドレスタッドの酒場で、女性は深々と頭を下げた。その指には『人魚の涙』がはめられている。
「指輪が戻り、これで縁談も無事に済みそうです。ですが‥‥」
その表情は悲しく沈んでいる。死んでいった者たちのことを考えると、素直に喜べないといった様子だった。
「ばあやにも、晴れ姿を見せたかった‥‥」
瞳からは涙がこぼれ落ちる。
それはまるで人魚の涙のように、美しく、また悲しい色をしていたのであった。