謎の手紙
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■ショートシナリオ
担当:八尾利之
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月22日〜08月27日
リプレイ公開日:2005年08月30日
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●オープニング
その手紙が冒険者ギルドに持ち込まれたのは、昼を少しすぎた頃であった。
「こんなものを拾ったんですが‥‥」
そういって受付員に手紙を差し出したのは、ドレスタットの漁師だった。
漁師の話によると、釣りをしていたときに見つけたものらしい。ツボがプカプカと浮いているのを見て、なんだろうと拾い上げてみると、厳重に栓をされた中に手紙が入っていたというのだ。
「拝見させていただきます」
受付員が広げてみると、手のひらほどの小さな羊皮紙に、走り書きのような文字が書かれていた。しかし、文字があまりに汚すぎるのと、ところどころインクがにじんでしまっていて、なんと書かれているのかさっぱりわからない。
「読めます?」
「うーん‥‥」
受付員は手近なギルドメンバーを掴まえて見せてみたが、どうやらわかる人はいないようだった。
「でも、ずいぶん慌てて書いたみたいだねぇ」
「それが引っかかりますね」
ツボに手紙を入れて流すというのは、遭難した者が、わずかな望みにかけて行う場合が多い。もしそういった内容であれば、助けに行かなければならない。漁師もそのことが頭をよぎったために持ってきたのだった。
「ここなら、なんとか解読してくれるかと思っていたんですが‥‥」
「わかりました。それではこちらで引き取って、解読しましょう」
「ああ、ありがとうございます。なにか助けが必要なら、手伝いますんで」
頭をペコペコと下げながら漁師が立ち去ったあと、受付員はため息をついた。
「とにかく、解読できる人を応募しないとね」
依頼
以下の文章を解読できる者を募集する。
また解読の結果、非常事態が予想できる場合、それも解決すること。
『渡しの名はある居間閉じこめられているた助をもとめる橋世はドレス立つとの北勢にある入りエフね箱われ食べも野茂少なく知覚に何かがいる容態の血の危険を感じるて神を呼んだ者はすぐ煮た助に来てくれた飲むすぐに着てくれ』
●リプレイ本文
『私の名はアル。今閉じ込められている。助けを求める。場所はドレスタットの北西にある入り江。
船は壊れ食べ物も少なく近くに何かがいるようだ。命の危険を感じる。
手紙を読んだ者はすぐに助けに来てくれ。頼むすぐに来てくれ』
北海の海は黒い。
叩きつけるような風と、不安定にざわめく波は、船に乗った一行を不安にさせるには十分だった。
「はやく助けに行かなくちゃいけないのに‥‥」
ジャンヌ・バルザック(eb3346)は焦りながら空を見上げた。上空をルイーゼ・コゥ(ea7929)が優雅に旋回している。
出発してから数日。手紙の解読は成功し、港も戻っていない船をつきとめた一行は、漁師に船を出してもらい、北西にある入り江を目指しているが、なにぶん距離がある。水域に土地感のあるルイーゼの誘導は間違ってはいない。そう思うがゆえに、船の動きがまどろっこしかった。
ルイーゼが手を振って指さしたのと、ローランド・ドゥルムシャイト(eb3175)が声をあげたのはほぼ同時だった。
「船だ! 船が見える!」
それは座礁して半ば海に沈んだ漁船だった。人影はない。
ルイーゼが降りてきた。
「船の向こうに洞窟がいてはるのや。もしかしたら、あの中にいるんとちゃう?」
「アル殿‥‥無事だといいが‥‥」
毛翡翠(eb3076)に、ヴィクター・ノルト(eb2433)も同意する。
「おそらくかなり飢えているはずです」
「大丈夫かな‥‥」
「うち、先に行って様子見てくるわ」
不安げな面持ちで飛びあがったルイーゼは一直線に洞窟へと向かい、すぐに暗闇の中へと消えた。
「すまぬが、あの中まで入ってもらえぬか?」
「へいっ!」
「もしかしたら中には敵が潜んでいるかもしれない。戦闘態勢を取っておいたほうがいい」
船が洞窟の中に入ると、そこは沼地のように停滞した水が溜まっている浅瀬で、泥臭さが洞内に充満していた。
「こっちや! はよう!」
奥の影から、ルイーゼの声がする。皆が駆け寄ってみると、そこには小太りの男が一人、倒れていた。
「大丈夫ですか!?」
ジャンヌが駆け寄って、脈をはかる。呼吸は‥‥まだある。意識を失っているだけだ。
「これを飲ませましょう」
ヴィクターがバックパックからワインを取り出すと、それをアルの口元につけてやる。最初ゆっくりとのど仏が動き、はっと目を開くと、ワインを両手で掴み、夢中になって飲み始めた。そしてすっかり瓶を空にしてしまうと、ようやく皆がいることに気がついたかのように、青白い顔を向けた。
「き、君たちは‥‥?」
「私たちは手紙を見て助けに来た者である。もう大丈夫、安心しなさい」
「食料もたくさん持ってきたから」
「す、すまない‥‥」
「さ、はよ運んでしまおう」
「そうですね」
毛、ジャンヌがアルを抱え、残りがサポートする形で、入り口に止まっている船へと引きずっていく。
「アルさん、一つ聞きたいんだけど、手紙にあった近くになにかいるというのは――」
「うわっ!」
ローランドがアルに聞き終わる前に、船で待機していた漁師が叫び声を上げた。
魚が水面から飛び出し、漁師に襲いかかっていたのだ。
その数は餌に群がる鯉のように無数にいて、次々に飛び跳ねては漁師めがけて飛びかかるのだ。
「あれはソードフィッシュや!」
「あれだ、私もあれにやられたのだ」
「一匹一匹はさほどの強さやないんやけど、あれだけ数がいると‥‥」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ!」
ジャンヌと毛はすでに駆けだしていた。
「漁師を助けねば!」
「仕方ない。ムーンアロー!」
ローランドが詠唱すると、それに続いてヴィクターもムーンアローのスクロールを開く。
「注意を引きつけます! 脱出を最優先に!」
「了解した!」
毛は跳躍して船に飛び乗ると、牙のはえた口を大きく開けて飛びかかってくるソードフィッシュの一匹をたたき落とす。すぐにジャンヌも駆けてきて、飛び乗り際に一匹を切り捨てる。
「さ! 今のうちに船を!」
「あ、ああ」
足のもつれるアルを強引に船へと引き入れると、ローランドとヴィクターも船に乗り込んだ。
「あんたら! 水から離れぇ!」
上空を飛ぶルイーゼが緑色の淡い光に包まれた――。
かと思った瞬間、突き出された手の平から稲妻がほどばしった。それはソードフィッシュを無視して、水面に直撃する。とたんに、ソードフィッシュの動きが鈍った。
「なるほど! 電撃で魚たちを麻痺させて‥‥」
「それほど効果はないねんけどな。とにかく今のうちやで!」
そう言っているうちにも、ソードフィッシュたちはしびれから脱しようとしている。
漁師は必死にこいで、船はゆっくりと洞窟から出て、入り江の外に向かっていく。その間もソードフィッシュたちはしつこく飛びかかってきたが、毛とジャンヌの連携プレイと、ローランドとヴィクターのムーンアローによって次々に迎撃されていき、ついに諦めたのか、入り江の外に出た頃にはすっかり引き上げていった。
「どうにか助かったみたいですね」
「漁師さん、大丈夫?」
漁師を気遣うジャンヌに、漁師は笑顔で無事なのをアピールした。
「しかし、あんな狂暴な魚がいるとは‥‥」
「次からは気をつけるのだぞ」
「ああ、そうするよ。本当に助けてくれてありがとう」
帰りの道程はなにもなく、あれほど不安をかき立てていた波の揺れも、今となっては眠気を誘うものとなっていたのであった。