丹後の死人使い、七人衆現る
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月07日〜11月12日
リプレイ公開日:2008年11月14日
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●オープニング
九月末、丹後の宮津城にて激戦が繰り広げられた。
死食鬼の大軍を操る朱曜と名乗る死人使いとの戦いだ。冒険者を始めとする宮津勢は宮津城から打って出てきた朱曜と相対し、これを撃破した。
宮津城は復興したが、朱曜が倒されてから程なくして、丹後各地で死人使いを名乗る者たちが現れて、しばしば人々の脅威となっていた。アンデッド王国丹後において、死人憑きなどが襲ってくるのは日常的なことでもあったが、死人使いを名乗る者たちは数段強力な亡者を操る。宮津城で見られた死食鬼がその代表である。
死人使い七人衆――魔物たちはそう名乗り、丹後の各地に姿を見せていた。
目撃情報と逃げ延びた人々から寄せられた情報は次の通り。黒曜と名乗る黒髪の大男、白曜と名乗る見た目は美しい少年、赤曜と名乗る赤毛の美女、蒼曜と名乗る銀髪の若い男、黄曜と名乗る老人、緑曜と名乗るジャイアント並みの大女、紫曜と名乗る見も麗しい少女。
いずれも小規模の死人たちを率いて散発的に村を襲っていた‥‥。
舞鶴藩の小村――。
亡者の群れが襲い掛かってきたと聞いて、人々は扉を閉ざした。丸太を通して扉をがっしり閉ざす。分厚い扉は厳重。村の周辺にも岩の壁を積んだり土嚢を積み上げて死人が通れないようにしてある。防備は万端‥‥のはずであった。
「大丈夫‥‥死人憑きに頑丈な壁は壊せない。放っておけばそのうちどこかへ行ってしまうさ‥‥」
村人達はこの数年死人の攻撃に耐えてきたのだ。今回も大丈夫、みんなそう思っていた。ところが――。
青年は見張り台から死人の様子を見ていた。死人憑きは十体くらいか。と、亡者の群れから一人の男が進み出てくる。
「何だ? 人間か?」
男は手をすっと上げると、何やら魔法の言葉を唱える。黒い閃光がほとばしり、扉を直撃する。
「な、何だ?」
村人達は扉に叩きつけられる魔法に恐怖した。死人憑きの爪ではびくともしなかった扉が、魔法の連発攻撃でついに砕け散る。
死人憑きと思われたのは死食鬼だ。俊敏な動きで村に突入してくる。村人達は悲鳴を上げる。
「待て!」
扉を破壊した男の一声で死食鬼の動きがぴたりと止まる。男は悠然と村に入ってくる。巨漢だ、筋骨たくましい偉丈夫である。僧兵のような姿をしている。
「俺は死人使い七人衆が一人、黒曜。村人達よ、降伏する時間をやろう。逃げる者はすぐさま立ち去れ。そうでない者は亡者の餌食となるまでだ。さて?」
死人使い七人衆、黒曜‥‥この男が噂の魔物? 村人達はパニックに陥った。
黒曜の手下であろう亡者達はぴくりともしない。襲ってくる気配はない。だが、魔物が人に逃げる時間を与えるなど、聞いたこともない。
いずれにしろ村人達に選択肢は無かった。荷造りする間もなく、村人達は一目散に逃げ出した。
村人達は何とか舞鶴城に辿りつき、藩主の保護を受けた。
「‥‥噂には聞いておる。死人使いを名乗る者が最近出没しておったとな。よく全員無事であったな」
藩主の相川宏尚は村人達の話を聞いていた。
「いや、藩主様、村はきっとあの魔物たちに奪われて、今頃死人どもが徘徊しているんじゃ‥‥魔物が何を考えているのか分かったもんじゃありませんぜ」
「そうじゃな‥‥相手は正体不明の死人使い、都から冒険者を呼ぶことにしよう」
宏尚はそう言うと、冒険者ギルドへの使いを走らせるのであった。
●リプレイ本文
「私と浄炎さん、メグレズさんは以前宮津で朱曜と名乗る死人使いと戦ったことがあります‥‥」
野営キャンプの炎が井伊文霞(ec1565)の表情を煌々と照らし出す。夜も急に冷え込む季節になってきた。文霞の口から白い吐息が漏れる。
「‥‥あれから更に死人使い七人衆が現れるとは、いえ、もはやこれくらいで驚いていては切りがないのでしょうが‥‥」
「黒曜か‥‥朱曜に匹敵する力を持っているのだろうか?」
明王院浄炎(eb2373)は陽小娘(eb2975)が入れてくれた味噌汁に口をつけると、思わず顔がほころんだ。
「うまい、本当にシャオヤンは料理の達人だな。未楡より上手いかも知れぬな‥‥」
「まあ未楡さんには負けるかもねー、さあみんなもおかわりあるからね」
「朱曜とやらの力はいかほどであったのだ」
老いてますます気骨なるかな、アトランティスから帰ってきた老英雄マグナ・アドミラル(ea4868)は味噌汁をおかわりしつつ尋ねる。
浄炎、文霞、メグレズ・ファウンテン(eb5451)は顔を見合わせる。口を開いたのはメグレズ。
「朱曜は恐るべき相手でした。宮津の町一つ、いえ正確には半分ですが――を完全に支配下に置いていました。無数の死人憑き、怪骨兵士、餓鬼、そして死食鬼の大軍‥‥」
宮津城での朱曜との戦いは大きなものであった。宮津の侍達と冒険者が総がかりで何とか朱曜を倒したのだ。
「そうか‥‥町一つを亡者の領域に‥‥死人使い七人衆とやらが朱曜と同じだけの力を持っているとすると、侮れんな」
「朱曜は大軍を擁していました。それに比べれば今回の不死者は大したものではありませんが‥‥黒曜は何か狙いがあるのでしょうか」
木下茜(eb5817)は一同を見渡す。答えられる者はいない。
「これは飛躍した考えですが‥‥」
そう言ったのは国乃木めい(ec0669)。
「あるいは黒曜はイザナミの眷属で、丹後の死人使いも噂の不死軍と関わりがあるのでは」
仲間が国乃木の言葉を通訳する。
「ふうむ‥‥その可能性は捨て切れんな」
マグナは腕組みしてうなった。
静かに話を聞いていたグレイ・ドレイク(eb0884)は味噌汁を飲み干すと小娘からおかわりを貰った。
「もっとも、眷属であろうとなかろうと、倒すことに変わりはない」
老英雄の言葉にみな真剣な表情を浮かべる。今回集まったメンバーの中には京都に迫るイザナミ軍と戦った者もいるし、イザナミ軍の脅威は京都にいれば嫌でも耳に入ってくる。今や不死軍は畿内の、いやジャパンの最大問題と言っても過言ではない。
「倒すべき相手が何であれ、不死者相手に遠慮は無用」
浄炎は白い息を吐き出すと立ち上がる。人間同士の戦のような気兼ねは無い。
「少し風に当たってくる‥‥見張りも兼ねてな」
「ではわしも見張りに当たろう」
マグナも味噌汁を飲み干すと、漆黒のローブを翻して立ち上がった。
実を言えば浄炎は内心穏やかではなかった。国乃木は十数年ぶりに再会した浄炎の義母であり、過去にいわくがあった。
「何やら表情が冴えないようだが、気がかりがあるのか」
マグナの言葉に浄炎は首を振った。
「いや何でもない」
「隠すな。お主とわしはこれから命を預ける仲間なのだ」
「‥‥」
浄炎は口元を歪める。
「何でもないんだ」
村に到着した冒険者達は遠めから様子を見る。
「死人憑きか‥‥」
マグナの視線の先には多数の死人憑き。村の周りを徘徊している。ざっと見積もって二、三十体。
「死人使いめ、亡者を呼び寄せたようだな」
「ふむ、黒曜は中でしょうか?」
「入ってみるしかあるまい」
マグナと木下は慎重な足取りで村に接近する。死人憑きに気づかれぬよう、マグナは隠身の勾玉を使って気配を絶つ。不思議な話だが、ズゥンビは生前同様の五感を持つ。故に、隠密剣士には侵入は容易い話だ。
村は荒れていた。壁や塀は壊され、家屋は見る影もない。しかも死人憑きや怪骨が歩きまわる。ただ死食鬼がどこにいるのかは分からなかった。
家屋を破壊したのは黒曜の仕業か‥‥死人憑きがやったにしては変だ。亡者達が狙うのは生きた動物、家を狙って壊したりはしない。
二人は手分けして当たったが、黒曜らしき姿は発見できなかった。待ち合わせ場所で合流する二人。
「どうであった」
マグナの言葉に首を振る木下。
「黒曜はどこに居るのでしょう?」
「‥‥既に、この地を発った可能性もあるが」
二人は仲間達のもとへ戻る。
「村の様子は?」
「無惨なものだ、破壊されておる。黒曜は発見出来なんだ‥‥」
村の周囲の死人憑きの群れ、まずはこれを排除する必要がある。
「では始めるとしよう」
集まったのは歴戦のつわもの達。死人憑きの集団など雑魚だ。彼らも犠牲者と思えば気持ちも曇るが、感情を押し殺すのもベテランの証拠。
「みんな強いからなー」
小娘は圧倒的な強さを誇る仲間達を得て心強い思いだった。
冒険者達は武器を手に、村を囲む亡者の群れに整然と歩いた。
死人憑きはようやく冒険者に気づく。生者への憎悪に亡者達は牙を剥きだし、咆哮が冷たい空気を震わせた。
「苦しそう‥‥」
「苦しんでいる。だから温もりを求めて、生者を襲う。せめて解放を」
まさに圧倒的な強さを発揮する冒険者達。統率もなく、ばらばらに襲い来る死人憑きは、触れる事も出来ずに切り伏せられていく。
恐るべきは真なるデュランダル。
メグレズの魔剣は死人憑きを破壊する。
マグナ、グレイ、浄炎、小娘、文霞――不死者殺しの剣を持ち、或いはオーラの力を宿した戦士達は確実に死人を掃討していく。
死人憑きは壊されても壊されても間断なく襲ってきた。冒険者の抜群の戦闘能力の前に砕ける波となって散った。
やがて、全ての死人憑きを葬った冒険者達は村に入った。浄炎は道返しの石を発動させる。村の中にも死人がいた。
マグナ、グレイ、文霞が前衛を務め、その後ろにメグレズが控え、メグレズの両翼を小娘と浄炎が固め、後方支援の国乃木と木下を守りつつ進む。
生者を見つけては死人憑きは真っ直ぐに殺到した。
だが、前衛の三人だけで十分に対処できる相手だ。三人ともアンデッドスレイヤーの武器を持っており、現れる死人憑きを続々となぎ倒していく。
メグレズと国乃木は時折デティクトアンデッドを使って背後を警戒する。
グレイは注意深く進んだが、黒曜らしき姿は発見できない。
本当に、もう村にはいないのだろうか?
両翼の浄炎と小娘は正直暇だったが、油断せず周囲を警戒した。
浄炎は、宮津の朱曜が率いていた死食鬼の群れを見ている。死人憑きだけ、とは思えない。
その間も死人憑きと怪骨が現れては襲いかかり、それを冒険者達は難なく撃破する。そして、最後の死人憑きを破壊した。
「‥‥終わりか?」
「どうだろう‥‥」
「結局死人使いは不在、か」
念の為に、もう一度廃墟を見廻る冒険者達。
崩れた屋敷を通り過ぎた時、瓦礫の下から黒い影が飛び出した。
「やはり、いたか‥‥死食鬼だな」
「情報より多いですね‥‥四、五‥‥八体ですか」
死食鬼は跳躍しつつ、四方から襲来する。国乃木と木下を守るように冒険者達は円陣を組んだ。
飛び掛ってきた一体に、木下は狙いを定めて矢を放つ。
死食鬼の動きは、死人憑きとは比べモノにならないほど速い。しかし熟練の冒険者達はズゥンビの時と同様に死食鬼の体を切り裂いていく。
「は、俺達の相手をするには数が足りないぜ」
グレイは死食鬼の鋭い爪を余裕で避けた。彼の言う通り、このパーティなら一対一で遅れを取る相手では無い。
「近付くなー!」
小娘は死食鬼の足を狙って月桂樹の木剣をなぎ払い、転倒させる。浄炎は盾で死食鬼の牙を受け止めるとナ・ギナータを叩き込む。国乃木はピュアリファイとコアギュレイトで援護する。
死食鬼の恐ろしさはどれほど傷ついても動きが変わらない事だが、それもこの実力差ではどうという事は無い。
マグナ、文霞、グレイ、メグレズは動き続ける死食鬼に黙々と連打を浴びせ、破壊していく。
「攻撃が効いていないようでしたが、再生している訳ではないのですね」
吐息する文霞。グレイは動かなくなった死食鬼の体を武器で突付いていた。
「痛みを感じぬのだ。心がではない。死食鬼の体が、痛みを持たぬ」
声がして、崩れかけた柱の後ろから一人の大男が姿を見せる。僧兵姿の巨漢は、冒険者達の姿を眩しそうに見据えた。
「見事だな、我が僕たちを一体残らず叩き潰すとは」
「こいつが黒曜か‥‥?」
冒険者達は武器を構える。
「死人使い黒曜か」
メグレズは問うた。
「そうだ」
黒曜の瞳がぎらりと光った。牙をむき出して笑う黒曜。
メグレズはレジストマジックを完成させると剣を構えて前に出る。
黒曜は素早く手を翻すとメグレズ目がけて魔法を放った。黒い閃光がメグレズを直撃するが跳ね返した。
「妙刃、水月!」
突撃するメグレズのスマッシュが黒曜を捕らえる。更に右からマグナが、左からグレイが切りかかり、文霞は黒曜の背後を塞いだ。
「ふん」
冒険者達になます斬りにされた黒曜は笑みを浮かべたまま。
木下の破魔矢が胸に突き刺さる。黒曜は印を結ぼうとしたが、手首から先を文霞が切り落とす。
「へ‥ら‥‥」
冒険者の猛攻に体を破壊された黒耀は動きを止め、ばたっと倒れ伏した。
「やったのか?」
「意外にあっけない‥‥」
グレイは黒曜の死体を調べてみたが、何も見出すことは出来なかった。
ともあれ、七人衆の一人黒曜はこうして倒されたのである。