丹後にて、村の異変起きる
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月17日〜11月22日
リプレイ公開日:2008年11月21日
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●オープニング
丹後、宮津藩郊外――。
西の峰山藩が黄泉人の攻撃を受けている。この宮津も一体どうなるか分からない‥‥。人々は押し寄せる不安に身を寄せ合っていた。
そんなある日、村を死人憑きの一団が襲った。
「大変じゃ! とうとう黄泉人が宮津まで来おったぞ!」
「藩主様に知らせるのじゃ! 黄泉人が現れた!」
「それはそうと‥‥俺達はどうするんだ?」
「決まっておる! 早く荷物をまとめて近くの砦に逃げ込むんじゃ!」
「そ、そうか、逃げるんだな‥‥」
「待て待て! 村の防備を固めてお侍様が来るのを待つんじゃ! 慌てるな、たかだか十匹の死人でないか。村の防備を固めればええ」
「そんなこと言って、手遅れになったらどうするんだ? もし大軍が押し寄せてきたら小さな村なんてひとたまりもないんだぜ」
「ここはひとまず逃げるんじゃ、藩主様にお知らせしてだなあ‥‥」
村は混乱に包まれた。言い争う人々、逃げ出す人々、右往左往してどうして良いか分からずに途方に暮れる者もいた。
そんな時、一人の女戦士が村に現れた。美貌の女戦士は状況を尋ねると、死人憑きの退治に向かったのである。
程なくして、死人憑きは女戦士によって撃退された。
「ご安心下さい、亡者達は撃退されたました。みなさん、安心して下さい」
「おお‥‥ありがたい、助かったわい」
「たった一人で、あの亡者どもを蹴散らすとは、何とも心強い」
すると、女戦士は提案を持ち出してきた。
「実は、しばらく所用で丹後に滞在することになりましたの。もし良ければ村の用心棒として働きますから、宿をお借りできないでしょうか?」
「そりゃあ‥‥まあ、死人を撃退できる方がいるに越したことはないがの」
村人達は協議の末、女戦士を雇うことにした。
村人達の返答を聞いて、女戦士の顔に笑みが浮かんだ。
「そうですか‥‥でも、宿を借りるだけでは私も赤字ですわ。皆さんから変わりに頂きたいものがありますの」
「頂きたい物? 何ですかな?」
「大したものではありません‥‥」
すると、女戦士はすっと手を差し出した。村人の体から何かが女戦士の掌に白い塊となって吸い取られた。
「うぐ‥‥何を」
「ふふ‥‥大したものではありません。皆さんから少しずつ頂きます。報酬は結構ですわ」
女の瞳が冷たく光った。村人達は女戦士の力に恐怖したが、とにかくも村は救われた‥‥。
それからしばらくして、宮津城に村人の一人がやってきた。村人はふらふらで、今にも倒れそうだった。
「お、お助け下さい‥‥」
「どうしたのだ」
侍の一人が村人から話を聞いた。謎の女戦士が現れた一件、女戦士の不思議な力、衰弱していく村人達。
侍には見当もつかない話であった。女の怪しげな術で村人達が衰弱してくという。一体何者であろうか‥‥。
最近は正体不明の死人使いが再び現れたという噂も聞く。あるいは魔術を操る魔物か。
「ふむ、その一件都の冒険者たちを派遣するゆえ、待っておれ。あるいは魔物であれば、冒険者達に退治するように申し付けておく」
「何を呑気な‥‥急いであの女を追い払って下さい。このままでは村は全滅ですぞ‥‥」
侍は暫し考えた。
「ふうむ分かった、ではとりあえず私が行くから案内せよ」
侍はそう答えると、同僚に冒険者ギルドにも依頼を出すように言ってから出発したのだった。
●リプレイ本文
宮津の村に到着した冒険者達――。
「村人の弱みに付け込み魂を奪うデビルめ、正義の名の元、決して許す訳には行かない。
民の嘆きを払う事こそ我が使命、いざ行かん」
パラディンのマグナス・ダイモス(ec0128)は敵の正体を悪魔と断定しており、怒りに燃えていた。
「トイフェルとは‥‥何なのですか?」
宮津藩の侍――赤山が尋ねる。マグナスはゲルマン語で話していた。「トイフェル」と強く発音したのだが何を言っているのか分からない。国乃木めい(ec0669)が通訳する。
「デビルのことです」
「デビル?」
ジャパンではデビルは珍しい存在なので赤山には今ひとつ話が通じない。
「デビルとは‥‥悪魔のことです。ジャパンでは珍しいようですがれっきとした魔物です。それも相当たちが悪い。この戦いが無事に終わったら詳しくお話しましょう」
「悪魔‥‥ですか」
赤山には実感が沸かない。まあ怪しげな術を使って人々を苦しめる存在ならば、悪鬼妖怪と何ら変わるところはない。
「過去に丹後周辺でデスハートンで生命力を奪われた村人達が次々と病に倒れた事があると伺いました。季節柄、体調を崩す方も少なくないでしょうし‥‥一刻も早く救済しないと‥‥」
国乃木の危惧に老シフールのウィザード、ガラフ・グゥー(ec4061)は首をかしげる。
「丹後でデビルが?」
「ええ‥‥孫が冒険者で、丹後と深いかかわりがありましてね。随分前のことですが、手紙の中で丹後のデビルについて触れていました‥‥」
かつて丹後は楽士と呼ばれるデビルの侵攻を受け、国は荒廃した。
「ほう‥‥丹後にそんな過去が。ではその楽士とやらの一件を話せば話が通じるのではないか」
「いえ‥‥民に無用の不安を呼ぶだけでしょう。ただ、ここ最近丹後で悪魔の影がちらついているのも気がかりですが‥‥」
ガラフは吐息する。
「まあ自ら呼び込んだものではないようじゃからのう、どうにか助けてやりたいものじゃ」
冒険者と赤山は村に入る。
村の中はしんとしていた。小さな村だが、人の気配がない。
「まさか‥‥もう手遅れか‥‥!」
ガラフは慌てて村の一軒に飛び込んだ。
若夫婦と子供が一人、ぐったりと横になっている。
「おい、おい、しっかりせい!」
返事がない。
「おい! おい!」
そこへ一同が駆けつける。
「ガラフ老、どうされましたか?」
「この者たち、返事をせんのじゃ」
「何ですって?」
国乃木が村人のもとに駆け寄る。その顔色が変わる。
「‥‥そんなことが‥‥亡くなっています」
ガラフは衝撃を受けた、赤山も。マグナスはどういうことかとガラフに問う。
ガラフの返事を聞いてマグナスも衝撃を受けたようである。拳を壁に叩きつける。
「何のということだ‥‥デビルめ!」
マグナスは怒りに震えた。ガラフははらはらと泣いている。
「女戦士を探しましょう。それに他に生きている者がいないか」
国乃木は決然と立ち上がる。その瞳はただ悲哀に満ちていた、今の国乃木には己の無力さを嘆くことしか出来なかった。
村人達は他にも数人亡くなっていたが、まだ多くが生き残っていた。
「たった一人でここまでの災難を引き起こすとは‥‥村人が知らせてこなければここは静かに全滅しているところではないか‥‥!」
赤山はまだ会っていない女戦士の力に恐怖した。
村人に聞くと女戦士はまだ村にいるという。
よろめく足で村の古老が案内してくれた。
「よくあの女は村の祠近くにいるのですが‥‥」
古老の足は村外れに向かう。古老の言葉の端々には怒りと嘆きの響きがあった。村を襲った災難に人々はなす術がなかったのだ。
「あそこに‥‥」
古老が指差した先、祠の前に一人の女が立っている。武装は西洋仕立て。
国乃木は物影から近付いてデティクトアンデッドを唱える。‥‥反応あり。
そしてガラフのミラーオブトルースに映ったのは屈強な体格の大男である。
「デビルか‥‥」
マグナスはオーラエリベイションを使ってから、オーラパワーとオーラエリベイションを赤山に付与する。そして自身にもオーラパワーとスライシングを付与する。
「よし‥‥行こう」
一同は慎重に悪魔へと近付いていく。
女戦士――悪魔はやってくる冒険者達に視線を向けた。
気付かれたと見て、マグナスは抜刀する。
「弱さに付け込み、人々の魂を奪うその所業、悪と見たり。正義を執行する!」
「正義だと? フフン、貴様はまさか‥‥都の冒険者どもか、遅すぎたくらいだがな」
女戦士――悪魔はにんまり笑うと、空に飛びあがった。
「おのれ!」
マグナスは飛び掛ったが、空を駆け上る女戦士の方が移動力は上。瞬く間に数m上空に浮かびあがった悪魔に、彼の剣は届かなかった。威力を強化したマグナスの一撃は、あるいは悪魔を一撃で葬り去ることも出来たかも知れない。悪魔もそう見た。
「逃がさん! 国乃木殿! ガラフ老!」
「コアギュレイト!」
「ライトニングサンダーボルト!」
稲妻は悪魔を貫通したが、悪魔はほぼ無傷。捕縛の魔法は抵抗されたか、悪魔はさらに上空に移動した。
「はっはっはっ、それだけか?」
国乃木は再度詠唱するが、コアギュレイトの範囲外に上がられて断念した。ガラフだけは追撃が可能だが、雷撃が殆ど効かなかったので遠巻きに様子を見守る。
村の上空で悪魔は停止し、腕組みして地上を見下ろす。
「ふーむ‥‥そんな手数で私を倒せると思ったとは驚きだが?」
「黙れ外道。村人から奪った魂を渡せ!」
マグナスの言葉は悪魔の耳に心地よい。
「外道か、もっとも悪魔は外道であろう。何と非難されても痛くもない。地獄の業火に焼かれる我らだ。戦士よ、遠慮は要らぬ。魂が欲しくば、取りに来い」
「おのれ‥‥」
冒険者達に為す術はない。
「はっはっはっはっはっ‥‥」
悪魔は笑声を残して飛び去ってしまった。
ガラフは追いかけようとしたが、マグナスとめいが止めた。一人で追跡するのは危険すぎる。
「何と言うことだ‥‥甘く見すぎたか‥‥」
マグナスは己の迂闊を反省した。悪魔に逃げる隙を与えた。悪魔は地面の下にも空の上にも逃げるもので、実際問題、インプ一匹でも確実に退治するのは容易では無い。ともあれ悪魔を追い払う事には成功した。奪われた魂は帰って来ないが。
「すまん‥‥すまん‥‥わしの力が足りぬばかりにな」
老ガラフは亡くなった村人達に何度も謝罪した。涙を拭いてから、ガラフは村人達と赤山に悪魔とデビノマニについて説明する。二度とこのような悲劇が起きないように、悪魔に付け入る隙を与えないように。
「‥‥悪魔らは甘言を持って人々を堕落させるんじゃ。いったん付け入る隙を与えると後は破滅じゃ」
国乃木もガラフ同様に説明を行った。
「ジャパンでは珍しいと伺いましたが‥‥欧州では多くの人々が悪魔の被害にあっております。人の不安や悲しみ、苦しみ‥‥それらに付け入り仮初の安寧や力で誑かし、人の尊厳や魂を奪う。それが悪魔と悪魔に魂を売った者達の手口です」
最近丹後で悪魔の暗躍が見られるため、それについても警告の文を赤山に託す。
「悪魔の力を借りて、真の安寧を得る事は出来ません。その事を決して忘れないで下さい‥‥」
「この赤山、悪魔の恐ろしさをしかと見届けました‥‥このことは丹後諸藩にも伝えるよう、主君に伝えます。だが、丹後は今壮絶な脅威に晒されております。どこまで悪魔の手から民を守れるか‥‥」
赤山はことの重大さに頭を抱えつつ、宮津への帰路に着こうとする。国乃木が赤山を呼び止める。
「この村人たちは魂を奪われ、体力も落ちています。藩主様には、村人達を宮津で保護されるよう望みます」
「‥‥そうですな‥‥手は尽くしてみましょう」
赤山は重々しく頷くのみだった。
冷たい風が吹き付ける。冬の足音も近い。しかして丹後の暗雲は濃くなるばかりである‥‥。