【道敷大神】不死軍の一隊、宮津に侵入す

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:12人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月20日〜11月25日

リプレイ公開日:2008年11月28日

●オープニング

 丹後、峰山――。
 峰山藩を襲ったイザナミの不死軍数千は峰山の大部分を削り取った。都から援軍に駆けつけた藤豊軍は不死軍と一戦交えたが、守りを固めて峰山南部に後退している。
 不死軍の総大将、黄泉の王を名乗る“丹後の導師”は改めて掃討戦を行っていた。事前に峰山藩主が民を逃がしていたが、逃げ遅れた人々、村を捨てる事を拒んだ者達が無慈悲に殺されていく。
 導師はしばしば瘴気を発し、山は森に壊滅的な打撃を与えていた。瘴気に当てられた草木は枯れ果て、土は腐った。山や森に住まう精霊たちは怒った。特に怒ったのは山や森を縄張りとする地精霊たちだ。彼らは村々の氏神として祀られる存在だが、人の目に触れることは滅多にない。
 木霊や大蛇、大太法師たちは導師に戦いを挑んだが、勝てる相手ではなかった。木霊たちは死人憑きの大軍に追い立てられ、がしゃ髑髏に踏み潰された。大蛇や大太法師は導師が身にまとう怨霊に取り囲まれ、逃れられたのは僅かだった。
「愚かな‥‥勝てぬと知ってわしの行軍を邪魔するか。向かってこぬば放っておいてやるものを」
 導師は逃げる精霊たちに追っ手を差し向ける。
 ローブを身にまとう導師配下の将軍の一人が、不死軍の一隊を率いて精霊たちを追撃した。

 宮津でお稲荷さんとして祀られている狐の神、白狐のもとに狐達がやってくる。白狐は先だって宮津で会談を行ったばかりである。
「大変です! 峰山の土地神が不死軍に追いかけられています!」
 峰山を脱出した大太法師と大蛇が数体、宮津に向かって逃げている。その後ろには不死人たちが迫っているという。
 白狐は反転して再び宮津城へ向かうと、藩主と謁見した。そこには偶然籠神社の天津神たちもいた。
「じきに知らせが来るでしょうが、不死軍の一隊が宮津に侵入しようとしています」
 白狐は状況を説明する。いきり立ったのは天鈿女命。
「ホアカリ、何としても亡者達を入れるわけにはいきません。戦いましょう」
「導師とやらか‥‥地の者共を蹂躙して宮津に向かってくるなら不愉快な話だな」
 大地の精霊と火の精霊は仲が良いとは言い難い。が、戦精霊である天火明命には侵略されるままは不快である。
「峰山藩の藤豊軍はなぜ戦わぬ。精霊は見殺しか‥‥」
 天御影命は少し元気がない。不死者の攻勢が余りにも凄まじいので気落ちしているのか。隣国丹波も黄泉の手に落ちたという。
 藩主の立花鉄州斎は民を守るに懸命で、今は後退を余儀なくされていた。峰山藩の藤豊軍と連携し、峰山南部を固めている。
 鉄州斎は冒険者ギルドにも応援を要請する。イザナミ軍との戦いにおいては何としても彼らの力が必要だった。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb5817 木下 茜(24歳・♀・忍者・河童・ジャパン)
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)
 eb9091 ボルカノ・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ec1565 井伊 文霞(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ケント・ローレル(eb3501)/ 烏 哭蓮(ec0312)/ フェリシア・ダイモス(ec4063

●リプレイ本文

 宮津城――。
 出立前に明王院未楡(eb2404)は白狐たちに呼びかける。
「先の会談で申し上げたとおり‥‥私達は共に歩む道を模索したいと考えております。此度の一件、氏神様方の救出‥‥そして導師の一軍との一戦から手を取り合っていけませんか?」
「未楡殿、古来人と物の怪は一つであった。そこまで期待して同盟を呼びかけたわけではありませんが、今のところイザナミという共通の敵を前に我らは手を結ぶことが出来そうです」
 白狐も随分回りくどい言い方をする。未楡は会釈して狐の神にお辞儀した。
 それから未楡は天津神たちの方を向く。
「天津神の皆様につきましても、どうか氏神様方の救出に‥‥そして、民人達の為にお力を貸しては頂けませんでしょうか?」
「ふむ‥‥」
 暫し考えたのは天火明命である。
「導師がこれ以上進んでくると言うなら我にも考えがあるがな‥‥」
 天火明命はそれだけ言って黙ってしまった。
「俺は戦おう、もはや座して見ている時は過ぎた」
「私も、民を見捨てるわけには参りません」
 天御影命と天鈿女命は参戦を約束した。
 こうして白狐ら妖狐たちと天津神が宮津勢に加わる。
 ただ、丹後の土侍たちのもとを訪問する時間はなかった。

 軍を率いる立花鉄州斎は地平の彼方を見つめている。
 宮津では先だって白狐たちとの同盟交渉が行われたばかりであり、そこへボルカノ・アドミラル(eb9091)が平織と宮津藩の同盟が破断したと知らせてきた。それを以って鉄州斎は藤豊家に援軍を求める決意をしている。ボルカノは先日の件を改めて謝罪したが、この危機に駆けつけた彼を責めるような者はいない。
 またボルカノは稲荷神との同盟により従来の寺社・仏教勢力と宮津藩の中が悪くなる事を懸念していた。沈黙する寺社勢力も、黄泉人との戦いに組み込むべきではと相談してみる。鉄州斎は頷いてみせる。
「ここに至っては対イザナミで協力出来る者は誰であろうと歓迎だな。丹後に縁のある者には呼びかけてみよう。判断はそれぞれの寺社に任せるが」
 木下茜(eb5817)は同盟の件を聞いた上で、峰山藩の藤豊軍に向かうことを鉄州斎に知らせる。救援を求めるつもりだ。
「こうなった以上私は秀吉公に臣従するつもりなのでな。峰山藩に赴くなら、私の意思を平野殿に伝えてくれ」
 峰山の藤豊軍を率いるのは平野長泰である。
「はい! 急ぎ峰山に向かいます、何としても平野様を説得致しましょう!」
 木下はセブンリーグブーツで駆けて行った。
「みなの者、心積もりは良いな。まだ我らは負けたわけではない。天の神も味方している。導師に一矢報いてやろう!」
 神頼みにもおーっ、と歓声が上がり、宮津勢は不死軍の迎撃に出撃する。

 ――峰山。
 木下は藤豊軍を訪ねている。京極家の客将で、宮津藩主の言葉を預かって来たと言うと、木下は平野長泰のもとへ通された。
 優しげな風貌の男と木下は相対する。長泰だ。
「宮津からの使者ということだが‥‥」
 状況を説明する木下。
「‥‥宮津藩が藤豊家の傘下に加われば、宮津方面からの進行が可能となり、宮津・峰山からの挟撃が可能となる上、京極家側からも数に加えれば、導師に対して包囲進行が可能となり、現状の手詰まりの状況の打開になりえます。今回宮津藩を助ける事は藤豊家による丹後の平定の利益となりましょう」
 全軍は無理でも少数の騎兵による襲撃は可能、宮津藩に大きな借りをつくれる点を強調する。
「宮津藩主殿が左様にお考えなら藤豊家家臣としてこれを救うのは当然こと。殿下もそうお考えになるであろう」
 長泰は現場の指揮官として最善と思える選択をした。木下の説得に応じ、騎兵の援軍を差し向けたのである。

 ルーラス・エルミナス(ea0282)はイリア・アドミナル(ea2564)をグリフォンに乗せて先行する。
「いつか春香姫に峰山の地を見せてあげたいものだが‥‥」
 ルーラスにしがみつくイリアは前方に真剣な眼差しを向けている。
 その傍らを白狐たちが飛んでいる。グリフォン並みのスピードで狐達も飛んでいる。
「間もなくです!」
 狐の一匹が叫んでから程なくして、地平の彼方に影が見えてきた。大太法師と大蛇たちだ。その背後には不死軍!
 イリアは印を結ぶ。
「霧よ!」
 イリアは不死軍の先鋒にミストフィールドをかけた。
 白狐たちは木霊を装って子供の姿に変身すると、大太法師たちのもとへ飛ぶ。
「こっち‥‥こっち‥‥だいだら法師‥‥こっちだよ」
 大太法師たちは白狐らに誘導されるように向きを変える。
 死人憑きの足並みが乱れるが、霧を抜けて怨霊や以津真天が現れる――。
 直後、イリアの超越アイスブリザードが炸裂! 一撃で怨霊と以津真天の群れが消し飛ぶ。
 氏神たちを救い出したルーラスらは一旦後退する。

 宮津勢と合流を果たした大太法師達は荒れていた。
「あいつら何もかも殺した! 何もかも!」
「あいつの周りで何もかも腐っていった! 森は死んじまった!」
 木霊に変身した白狐たちが氏神たちをなだめる。
「対処療法でどこまで力が戻るのか‥‥」
 多少落ち着いた氏神たちに白翼寺涼哉(ea9502)がリカバーをかけると、彼らは元気を取り戻したようだが、途方に暮れた様子でわめき出した。
「俺たちどこへ帰れば良い?」
 するとエル・カルデア(eb8542)は鉄州斎に進言した。
「氏神様無き領域は土地が腐り、草花は枯れ果て、砂の荒野へと変わり人の住めない不毛の地となってしまいます。何としても氏神様を元いた土地へお返ししませんと」
「詳しいな。本当にそんなことが?」
 エルはアトランティスで起こった現実を話した。異世界の出来事に鉄州斎も半信半疑ではあったが、少しは納得した様子で頷いた。
「いずれにしても、ここで相手の足を止めなくては」
 鉄州斎は全軍に合図する。Vの字の陣形を取って不死軍を迎え撃つ宮津勢。冒険者達もそれぞれ陣の中央や両翼に飛んでいった。

 不死軍が迫り来る。
 戦闘が始まると宮津勢は亡者の大軍を受け止めつつ後退する。
 まずは冒険者達による壮絶な魔法攻撃が始まる。
 ルーラスと共に左翼に入ったイリアが放つ超越アイスブリザード! 不死軍の側面に猛烈な吹雪が叩きつけられ、死人たちをなぎ払う。
 右翼からはエルの超越アグラベイション! 不死軍の動きを鈍らせると、レミエラ強化版超越グラビティーキャノンで亡者達を叩き伏せる! さらに超越ローリンググラビティーに舞い上がっては叩きつけられる亡者達。実際エルの超越魔法は二回に一回の成功度だが、大量に持ち込んだMP回復アイテムを全て使い切って魔法を連発した。
 中央では楠木麻(ea8087)が専門グラビティーキャノンを連射して亡者達をなぎ倒している。足りないMPはソルフの実で回復する。
「う〜ん不味い! もう、1個!!」
 その横で天津神が仁王立ち、迫り来る亡者たちに火の玉を浴びせている。
 強力な魔法攻撃に不死軍の列が崩れる。
「今だ! 突撃!」
 宮津勢の中央部分が突出してV陣形からA陣形に変化していく。先陣を切って井伊文霞(ec1565)、未楡、ボルカノが突進する。
 だが、陣形が完成する前に死食鬼とがしゃ髑髏の一団が宮津勢の鋭鋒に立ちはだかる。宮津勢の勢いが止まる。
「みな立ち止まるな! 突き破れ!」
 ボルカノは突撃する。未楡、文霞も続く。死食鬼と激突する宮津勢。がしゃ髑髏の鉄球が侍達をなぎ倒す。
「何の!」
 ボルカノは鉄球の一撃を盾で跳ね返して懐に飛び込む。未楡、文霞も飛び掛かってくる死食鬼をなぎ払って突撃する。

 木下が藤豊軍とともに不死軍の背後に現れたのはそんな時だった。
「倒すべき敵はまだ残っておるぞ! 突撃!」
 藤豊軍の騎兵隊が突入する。

 魔法でかなりの不死者を削っているので全体的には宮津勢有利だが、中央では死食鬼とがしゃ髑髏が踏ん張っている。
 長寿院文淳(eb0711)はイリアの護衛を務めながら死人憑きの群れを払っていた。戦況は藤豊軍の騎兵隊と挟撃に入っているが不死軍を完全に分断するには至らず、長寿院は宮津勢と共に正面から襲い来る死人を地道に潰している。
 南雲紫(eb2483)は奇襲攻撃で不死軍の混乱を狙っていたが、何分相手は不死者だ。奇襲攻撃に驚くことがない。それでも単騎で飛び込み不死者を次々と潰していく南雲。紫電光の呼び名は伊達ではない。

 ホーリーフィールドを張って負傷者の回復に当たる白翼寺は倒れていくがしゃ髑髏を遠目に見ていた。
「どうやら連中やったか‥‥」
 侍の背中を押して戦場に送り出し、白翼寺は勝利を確信しつつあった。

 上空で怨霊や以津真天の残りを潰していたルーラスは、不死軍から空に飛び出す影を目撃する。ローブをまとった人物だ。
「あの魔道士は‥‥導師の将軍か? 逃がさん!」
 ルーラスは一気に距離を詰めると白き戦撃で将軍にぶち当たった。
「ぐおっ!」
「逃がさんぞ導師の将軍!」
「なめおって!」
 将軍はルーラスの首を掴んだ。その瞬間ルーラスの体から力が抜ける。
「くっ、何!?」
 将軍の生気吸収、が、間一髪、木下が放った破魔矢が将軍の背中を撃った。将軍の手が離れる。ルーラスは墜落した。
 木下は二の矢を放とうとしたが、将軍の手から放たれた暴風で吹っ飛ばされた。
「逃がさないよ! 必殺ぱわー! さんだぁぁぁぶれぇぇぇく!!」
 楠木がヘブンリィライトニングを二連射。これにさすがの将軍も力尽きたか、墜落する。
「‥‥今に見ていよ、導師様は大軍を持って宮津を攻略される‥‥天津神もろとも滅びるが良い‥‥!」
 その首を南雲が刎ねた。
「導師とやら‥‥我と矛を交えるか‥‥何者だ? イザナミの眷属にそんな名前は無かったが‥‥」
 将軍の屍を見下ろしながら、天火明命は呟いた。

 そして残敵を一掃し、勝つには勝った、だが、将軍の正体は謎に包まれたまま。一筋の暗雲を残し、戦いは終結した‥‥。