丹後の盗賊、白虎団・其の五
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:4人
サポート参加人数:4人
冒険期間:11月26日〜12月01日
リプレイ公開日:2008年11月30日
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●オープニング
舞鶴――。
今日も今日とて丹後の盗賊たちは村を襲う算段を立てていた。丹後最大の武装勢力白虎団だ。
白虎団はそろそろ廃業を考えているらしい。なぜなら最近の白虎団は略奪は行ってもどこか及び腰であり、村人達が抵抗すると、何も取らずに逃げ出す事もあるという。何度も冒険者に邪魔されたこと、それにイザナミの猛威が目前に迫ってきたことで、盗賊たちも身の振り方を考える時期になったのか。既に何人も盗賊団を離れ、人数が減ったとも噂された。
だが、そんなある日のこと‥‥。
舞鶴の小村を白虎団の盗賊たちが襲った。逃げまどう村人達を捕まえると、盗賊たちは人々を一箇所に閉じ込めた。
盗賊たちの頭領を黒川金兵衛と言った。黒川は舞鶴藩主に人々を捕らえたことを告げると、身代金を要求してきた。応じなければ村人の命はないと言ってきた。
近頃の白虎団の弱腰を聞いていた藩主の相川宏尚はこれを一蹴した。そのうえで宏尚は家臣たちと盗賊団殲滅の軍議を行う。
盗賊団の反応は早かった。舞鶴城に村人の首が届けられる。
宏尚は黒川を痛罵した。
「おのれ凶賊! 無辜の民を手にかけるとは言語道断!」
「お頭が本気なのは分かっただろう。さっさと身代金を用意するんだな。俺だってこんな酷いやり方は好きじゃない」
黒川の部下はそう言って城を去る。
「白虎団、丹後を抜けると噂でしたが、行き掛けの駄賃にこのような凶事に出たのでしょうか」
家臣の一人が顔色を失った様子で言う。
「身の程知らずな‥‥藩を脅すとは、黒川という男、狂ったか」
「それだけ追い詰められておるのでしょう。匪賊と侮りすぎたかもしれませぬな‥‥」
家臣たちは揺れた。村をどうするか。
宏尚は話し合いを引き延ばそうとした。黒川に再度の対話を求め、女子供を逃がすよう頼んだのである。
「話すことなど無い‥‥金だ」
そしてまた村人の首が届けられた。
「已むを得ませぬな。殿、村は諦めるより他はございませぬ。凶賊の言いなりに金を出す事など、有り得ぬ事であれば。殿、ご決断下さい」
白虎団が立てこもる村に強行突入。人質にも多くの被害が予想されるが、凶賊白虎団を逃さず殲滅する事で供養とするしかないと。
「致し方あるまい‥‥いや、京都の冒険者ギルドに使者を出せ。出来る限り村人は救いたい、我らには出来ぬことも、彼らならばやり遂げてくれるかもしれぬ」
交渉は決裂した。
被害を最小限に食い止め、黒川ら盗賊を捕縛ないしは討ち取る。
冬の冷たい風が吹き始めた霜月。村人救出の戦いが始まる。
●リプレイ本文
リアナ・レジーネス(eb1421)がフォーノリッジのスクロールで見た未来は、いずれも村人達が盗賊たちに虐殺されている未来であった‥‥。
「作戦は失敗するのじゃろうか‥‥」
老シフールのガラフ・グゥー(ec4061)はうなった。
未来は変わる、とリアナは言う。とは言え魔法が導き出した未来も可能性の一つであり、冒険者達の心胆を寒からしめた。
それが出発前の予測であった。
ガラフは先行して村に到着し、舞鶴藩の侍達と合流する。
「冒険者か、待ちかねたぞ」
侍を統率する山中という男がガラフを出迎える。早速交渉を開始するガラフ。
「わしらが村人を少しでも救出するのでな、今しばらく時間をくれぬかのぅ」
山中は頷く。冒険者を呼んだのは他でもない、人質の救出のためである。民への被害はなるたけ抑えたい。
「盗賊らを殲滅するなら尚の事、村の周囲に展開し、わしらが騒ぎを起こすに併せて攻撃する方が都合が良かろう」
「まずはお主らに任せる。人質を救出できれば良し、失敗すればその時点で突入する」
「うむ‥‥」
ガラフは重々しく頷くと、村の中に飛んでいく。
ガラフは村の周囲で数度にわたってブレスセンサーを唱える。
その結果分かったことは、人の気配は村の中心に密集しているということだ。盗賊も村人達も一つ所にいるということである。
ガラフは上空からも状況を観察してみる。村の中心にある一軒の家屋、盗賊と思われる武装した連中が周りを警戒している。
一見しただけでは入り込む余地はなさそうに見えるが‥‥。
すぐに仲間達も到着してくる。ガラフは状況を説明する。
「盗賊たちはほとんど一箇所に集まっておる。村人達もそこに閉じ込められておるようじゃのう」
妙道院孔宣(ec5511)とソペリエ・メハイエ(ec5570)は顔を見合わせる。二人とも厳しい表情だ。突入するだけなら細かい作戦は必要ない。舞鶴藩もそれなりの戦力を揃えている。だが冒険者達は村人の救出を試みようというのだ。
「まずはこの目で見てみないことには分からないのだ」
玄間北斗(eb2905)の糸目がすっと開く。玄間も今回ばかりは本気モードに入ったようである。
黒川は恐れおののく村人を前に座っている。数人の盗賊が村人を監視していた。
「遅いですね舞鶴藩の回答」
盗賊の一人が言った。黒川は徳利をあおる、その瞳には淀んだ光がある。
「‥‥藩主も馬鹿ではあるまい、二度も失敗している以上討伐隊を差し向けてくるかも知れんな」
「俺達には人質がいますぜ、あの藩主にそれだけの度胸がありますかねえ」
「さてな‥‥次の返事で藩主の器量も分かると言うものだが‥‥」
と、その時である、村の古老がおずおずと黒川のもとへやってきた。
「何だ爺!」
賊は怒鳴りつける。黒川は徳利をあおった。
「あの‥‥そろそろ休憩に行かせてはもらえないでしょうか」
「何だもうそんな時間か、よし、交代で行け」
そうして村人達が数人立ち上がり、部屋を出て裏口に回っていく。
外に出たところで見張りの盗賊が村人の監視に回る。
「休憩だ。おい、万が一ってこともある。逃がすなよ」
「へい」
見張りの盗賊は村人達の方に向き直ると、刀で威圧する。
と、盗賊が突如ばたっと倒れた。
スタンアタック。玄間が盗賊の背後に回り込んでいた。
呆気に取られる村人達。
冒険者達は舞鶴藩の侍達がすでに村を包囲していることを告げる。
「避難して下さい。時間がありません」
玄間は盗賊を縛り上げると物影に放り込んでおく。
玄間の導きで一行は家屋の中に侵入する。ふとガラフの脳裏に未来予知の結果がよぎる。もしかしたら自分達は最悪の道を進んでいるのではないか‥‥。
そうこうする間に一行は村人が捕らわれている部屋に辿りついた。中の様子を伺う玄間。
人質との間には見張りもいる。これ以上進めばこちらも発見されるだろう。透明化の魔法でもない限りは達人級の忍びの技をもってしても近付くのは不可能だ。仮に透明化の魔法があっても、それでは村人にも見えない。
と、そこで徳利をあおっていた黒川が部下に言った。
「出て行った連中、帰りが遅いな。おい、様子を見てこい」
「へい、お頭」
盗賊が冒険者達の方へ向かってくる。
見つかる‥‥! 隠れる間もなかった。
「な、何だお前らは‥‥!?」
盗賊は驚いた様子である。
「お、お頭‥‥!」
盗賊の叫びは玄間のスタンアタックで封じられた。
だが騒ぎを聞きつけた他の賊がやってきて、侵入に気付かれる。
突入する冒険者達だったが、黒川筆頭に盗賊たちは村人を盾に取る。
「動くな。妙な真似をしてみろ、人質はただでは済まんぞ」
ソペリエはコアギュレイトを試みるも、魔法の詠唱に気付いた黒川が警告する。
「何者だ? 舞鶴の侍ではないな? さては‥‥噂に聞く冒険者か」
「黒川とやら、すでに村は包囲されておる。お前に逃げ道はない。唯一助かる望みは、これ以上の抵抗をやめ、おとなしく投降することじゃ」
「ふん、命令するのはこっちだ。武器を渡してもらおう」
「断る」
「何?」
「忍法、微塵隠れ!」
玄間の忍法が小さな爆発を引き起こした。
黒川の懐に飛び込んだ玄間。桃の木刀で打ちかかる。
「ぬっ!」
黒川はその一撃を跳ね返すと、部下達を呼び集める。
村人達はパニックに陥っている。隙を見て逃げ出す者もいた。
「人質を逃がすな!」
黒川の叫びより村人たちのパニックの方が大きかった。妙道院とソペリエは裏口に村人達を誘導するが、混乱がひどく全員を逃がすというわけにはいかない。
なだれ込んでくる盗賊たちが村人達を捕まえる。が、妙道院とソペリエが道を切り開き、大半を逃がす。
「野郎! 殺せ! 皆殺しだ!」
部下をたきつけて冒険者に差し向けると、黒川は反転して部屋から出て行った。
「あやつ‥‥逃げる気か! 逃さんぞ」
ガラフは飛んで黒川の後を追う。
室内は乱戦状態。盗賊たちが数で冒険者達を押し込んでくる。
「玄間さん! いったん後退しましょう!」
「でも、まだ村人が残っているのだ!」
「仕方ありません! これが精一杯です、あとは舞鶴藩と合流するしか!」
そうする間にも盗賊たちが襲い掛かってくる。
「仕方ないのだ‥‥でも、黒川だけは逃がさないのだ!」
玄間は微塵隠れで脱出する。
ガラフが突入合図のライトニングサンダーボルトを放っているので、続々と舞鶴藩の侍たちが突入してくる。
逃げる黒川を追うか、侍達を誘導するか‥‥ガラフは侍達の誘導に回った。仕方ない、少しでも多くの村人を救うためだ。
「黒川は?」
玄間の問いにガラフは大きく吐息する。
「逃がした‥‥悔しいのう。あ奴だけは何としても捕らえたかったが」
「そうか‥‥本当に残念なのだ。白虎団、追い詰められると本当に逃げ足の速い‥‥」
玄間の目がいつものような穏やかなものに戻った。
それから冒険者達は侍達と共に盗賊たちの殲滅に回った。
「鏡月!」
妙道院はカウンターアタック+スマッシュの合成技で盗賊たちをなぎ倒していく。
「トゥシェ!」
またソペリエはバーストアタックEX+スマッシュEXで盗賊を打ち倒していた。
妙道院とソペリエは黒川との戦いに取っておいたコンビ技「阿鼻叫喚陣」をここで使うことになる。
やがて、黒川が逃げ出したと知って、盗賊たちの士気は瞬く間に落ちた。
「黒川さんが逃げるなんて‥‥あの人は最後まで命を張って戦う人だと思っていたのに‥‥」
呆然とする盗賊たちに、侍達がお縄をかけていく。
終わってみれば圧勝だが、村人数名が巻き添えになっていた。被害は最小に食い止めたと言うべきか。
「黒川を逃がしたのは残念だが、大半の賊は捕まえた。お主らは良くやってくれたぞ」
山中は冒険者達の労をねぎらったが、黒川を逃がしたのは余り喜べる状況ではない。村人にも犠牲が出た。
「二度とこのような事件は起こって欲しくないものです‥‥」
妙道院は悲しみにくれる村人を慰める。
「せめてもの供養に簡単な葬儀を執り行いたいと思います‥‥みなさん、出席して下さいますか」
妙道院の問いに頷く村人達。
「こちらからお願いします‥‥お坊様が来て下さるとは‥‥有難い事です」
村人達はそう言って涙を拭った。玄間もガラフもはらはらと泣いた。
ソペリエは一人、白虎団の非道許すまじと神に誓うのだった。