丹後の戦い、大江山の鬼退治・其の五
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:13人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月28日〜12月03日
リプレイ公開日:2008年12月06日
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●オープニング
続々と丹後南部、大江山に兵士達が到着する。陰陽師や僧侶・僧兵らも多数見受けられ、足軽たちも完全装備、侍達もそれぞれ甲冑を身にまとっている。大規模な輜重隊も連れている。旗印は千成瓢箪、藤豊軍である。
兵士達は鋭い目つきで山の奥深くを見つめている。侍達も同様だ。
と、軍団を率いる若き武将が兜を脱いだ。屈強な勇ましい顔つきの青年だ。名を糟屋武則と言った。藤豊家の武将の一人である。
「ここが大江山か‥‥」
鞍上で呟く武則。秀吉から預かってきた兵力は千、足軽五百に侍五百。それから今後の丹後における戦いの支援のために送られてきた百人規模の魔法戦力。峰山藩への輜重部隊。
「では、我らは峰山へ」
輜重隊を率いる武将と、陰陽師ら魔法戦力のうちおよそ七十人が最前線の峰山藩へと向かう。
武則は早速京極家のもとを訪問した。京極高知は感銘を受けた様子で到着した藤豊軍を見つめている。
「関白秀吉公の命により、都より参上いたした糟屋武則でござる」
「京極高知です」
「秀吉公は先日の高知殿の回答に満足され、大江山の鬼退治に援軍の派遣を決定なされた」
武則はそう言って不敵な笑みを浮かべる。
「ご安心なさるがいい、秀吉公は京極家を見捨てはしませぬ。大江山の鬼を討伐し、丹後南部の安泰を図ることは黄泉人との戦いにとっても重要。小比叡山などと言われているようですが、何の、我が軍が来たからには鬼どもをひねり潰してくれましょうぞ、はっはっはっ」
「何とも心強い限りです。ですがここは古来より鬼の住まう土地、私が言うのもおかしなものですが、元々は鬼の縄張りで、攻め込めば壮絶な抵抗が予想されます。人喰鬼たちの数は尋常なものではありませんし、油断できる相手ではありません」
「うむ、もっともな話ですな。我々としてもこれほど大規模な鬼の討伐は経験したことがない。敵の総数もはっきりとはしませんし、おまけにこれから冬です。長丁場は覚悟しております」
だが、と武則は言う。
「出来るだけ早くこの地を平定し、対イザナミ戦線に戦力を投入できるようにしたいものです。長い目で見れば、最終的には丹後の黄泉人を食い止めなければ、この地の安泰もない」
ともあれ、いよいよ藤豊軍が参戦して本格的に始まった大江山の鬼退治。この大規模な討伐戦に冒険者達へ声が掛からぬはずもない。
丹後南部大江山、冬の到来を前に、激戦の幕は上がった。
●リプレイ本文
「‥‥周囲に鬼の気配はありませぬ」
陰陽師が糟屋武則に告げる。陰陽師たちはテレスコープで広域探査を行っていた。
テレスコープの視界の内側は京極家の侍達が先導しているが、そこにはファング・ダイモス(ea7482)と木下茜(eb5817)の姿があった。
「高広様、この戦を丹後解放の最初の戦と後世に残せるように死力を尽くします。どうかアタイに偵察を」
木下はそう言って先発隊に加わっていた。
「父上、茜のこれまでの献身と働き、もはや客将とは呼べませぬな」
「うむ‥‥木下の働きに我が家は幾度となく救われた。この戦いが終わったなら、正式に家臣として迎えてもよかろう」
京極高広の進言に京極家頭首の高知は頷いてみせる。
「まぁ見てて下され。鬼共の屍で山を埋めてご覧に入れる」
糟屋にそう言って挨拶したアラン・ハリファックス(ea4295)は秀吉に心酔する藤豊家の忠臣だ。進軍中も兵士達と寝食をともにし、親交を深めていた。世間話や雷真水(eb9215)のスリーサイズを予測して盛り上がっていた。
「あたしの上から下が何だって? 何なら見せてやろうか?」
当の真水は豊満な胸元を開くと兵士達を集めてショーを開いたものである。誰も止める者がいなかったし、総大将の糟屋まで見物に訪れたのでショーは大いに盛り上がったが‥‥。
「‥‥盛り上がっとるな、まあ鬼に食われんようにしろよ真水」
白翼寺涼哉(ea9502)の口許に邪悪な笑みが。言いつつ白翼寺は真水のことを心配している。今回の戦いはかなりの厳しさが予想されるから。
糟屋のもとを訪れると、白翼寺は一応警告しておく。
「恐れながら‥‥鉄の御所を訪れた事がございます。鬼の攻勢、侮ってはなりません。人質連れて撤退するも、治療する暇もございませんでした」
糟屋はその話を詳しく聞きたがったので、白翼寺は冒険の一部始終を聞かせる。
「酒呑格の鬼なれば、手練れの冒険者が束になっても太刀打ちできますまい」
「酒呑格の鬼か‥‥そのような怪物がおらぬことを祈るばかりだな」
そうこうする間に軍は山中を進み、京極家すら先に進んだことのない鬼の防壁に到達した。
陰陽師がエックスレイビジョンで透視すると鬼の影が散見されるが、はっきりとは確認できない。
そこでベアータ・レジーネス(eb1422)がリトルフライで浮かび上がると、上空からの視察を試みる。
「ベアータ殿、注意されよ、奥地は鬼の巣窟。高度を保って近付かぬよう」
雀尾嵐淡(ec0843)は以前梟に変身して大江山の奥地を探索したことがあった。
ベアータは雀尾の忠告を心に留めると飛び上がる。
「これは‥‥」
ベアータの視界に飛び込んできたのは、防壁の向こうにいる鬼の大群だ。大小無数の鬼たちが防壁の向こうで待機している。こちらが攻撃してくるのを待ち構えている様子である。
――グオオオォォォォ!
鬼達の咆哮が山中に轟き、防壁を越えて藤豊軍にも届く。兵士達の顔に一瞬恐怖の色が浮かぶ。
防壁を迂回する術はない。が、鬼達も各所に散っており、それぞれの守備は薄い。
「‥‥とは言え、こちらも正面から突入するしかないでしょう。ただ落石の準備もあるようですし、近付けば弓矢の的になるだけです」
ベアータの言葉に糟屋もうなった。弓はある程度しのげるだろう。だが落石で押し潰されては被害が甚大すぎる。どうするか‥‥。
「アタイが行きます」
言ったのは木下だった。透明化の指輪で忍び込み、落石の封印を解くので全軍退避して欲しいと。
いったんは誰もが木下に賭けた。忍びの技を持っているのは木下だけであったから。だが――。
「お待ち下さい」進み出たのはエル・カルデア(eb8542)だ。「私の魔法で前方の脅威は取り除くことが出来るでしょう」
エルはグラビティーキャノンの破壊力について説明する。岩をも粉々に打ち砕く広範囲の超越魔法をエルは持っている。自分の後ろから一気に突撃して欲しいとエルは言う。
「では‥‥」
と糟屋は木下案とエルの提案を取り入れて突入の案を練った。エルの超越魔法を先頭に突撃し、他の罠はこの機会に木下に潰してもらうと。
「突入後は鬼の大群が押し寄せると思われる。後方支援を‥‥」
「お任せ下さい。首が吹っ飛んだりしない限りは救護所にて回復致します」
「うむ、では僧侶達は白翼寺殿に任せる」
糟屋はエルに護衛をつけると、前進の号令を下した。
「では‥‥参りましょう。――グラビティーキャノン!」
エルの超越魔法が炸裂すると前方の防壁が吹っ飛ぶ。それどころかその背後に鬼が用意していた落石の岩も粉々に打ち砕いた。また隠れていた鬼もろともなぎ倒した。
グラビティーキャノンで前方を掃射して突き進むエル。障害物は瞬く間に打ち砕かれた。
突撃する藤豊軍と冒険者達に鬼が殺到してくる。
「氷の女王の吐息‥‥凍てつく包容よ全てを包みこめ‥‥! アイスブリザード!」
こちらもイリア・アドミナル(ea2564)の超越魔法が炸裂。恐るべき威力の猛吹雪が一撃で鬼の群れをなぎ払う。ばたばたと倒れていく小物、かろうじて残っているのは屈強な山鬼や熊鬼。その鬼たちも二発目の超越アイスブリザードで倒れ伏した。
‥‥超越魔法の炸裂で一瞬無人の荒野が開けたように静寂が訪れる。藤豊軍、冒険者たちは一気に鬼の防衛線を突破してなだれ込んだ。
「鬼の数‥‥百体余りが迫ってきます!」
ベアータは浮かびながらヴェントリラキュイで仲間達に告げる。
「藤豊軍の精鋭に告ぐ! 我が軍の武威を侮りし雑魚が来る。皆殺しにするぞ! ‥‥真水、背中を頼む。お前も‥‥死ぬなよ」
「ああ、任せときな」
アランと真水、ファングは五十人余りの藤豊兵とともに遊撃部隊としてやってくる鬼の側面に回りこむ。だが――。
「さらに百! 別方向から鬼の攻撃が来ます!」
「何おう」
糟屋はしかめっ面を浮かべると、兵を二分して迎撃態勢を取る。
‥‥戦いが激化し始めた頃、木下は鬼がいなくなった場所を回って落石の封印を解いて回っていた。疾走の術を使ってなるべく多くの落石を解除して回る。岩が防壁もろとも破壊して落ちていく。ここはまだ二合目か三合目だろう。今回の戦いで出来るだけ前進したいものだ。
ミラ・ダイモス(eb2064)と井伊文霞(ec1565)はそれぞれ藤豊軍の主力に加わって剣を振るっていた。
「我が剣は悪を滅ぼす斬魔刀、この一刀を恐れぬのならかかって来い」
圧倒的な戦闘能力を有するミラであったが、人喰鬼、馬頭鬼、牛頭鬼などのスマッシュには後退を余儀なくされる場面もあった。
文霞もオーガスレイヤーの魔剣を振るって人喰鬼など強敵を撃破していたが、集団戦ということもあり、思わぬ方向から矢が飛んできてかすり傷を受けることもあった。
ミラでさえ続けて戦えばダメージを受ける。藤豊軍の侍たちも人喰鬼ら大鬼には苦戦を強いられていた。
一人暴風のように暴れていたのはファングだ。
「我らの道を阻む者は相応の覚悟を持ってかかってきなさい」
超人的な戦闘能力で次々と人喰鬼らを葬り去っていく。
ダメージを受けつつも藤豊軍は数では勝る。冒険者達が大鬼を討ち取っていくことで戦いを有利に進めていく。
明王院未楡(eb2404)と頴娃文乃(eb6553)は戦場に出て救護活動を行っていた。未楡は本来なら前線で戦える能力を持っているが、今回は戦力が揃っているので後方支援に回ったのであろう。
倒れている兵士のもとへ駆け寄り、適時応急手当と回復を行う二人。
「文乃さん‥‥とりあえず止血を。搬送はその後で‥‥」
文乃は復帰可能なものにはリカバーをかけるが、それでも回復しない要救護者は二人で救護所まで搬送した。
救護所では雀尾がかなりのダメージを回復できるので、白翼寺の指示に従ってテスラの宝玉を使うことも一、二度あった。
が、ほとんどは僧侶達のリカバーで対応できる負傷であった。
木下はさらに上方に登っていた。山奥は一体どうなっているのか‥‥。
「あれは‥‥?」
柵で覆われた砦のようなものがあって、中には鬼達が徘徊していた。砦を一周していた木下は、近くにもまた別の砦を発見する。
点在する砦を確認して木下は山を下りる。
木下が帰るころには戦闘は終わっていた。
「大丈夫か真水」
「ああ‥‥何とかな。約束したろ、背中は守るって」
アランは苦笑すると槍を肩に担ぐ。
「これ以上進めるかな?」
藤豊軍は無理をせず、その日は野営を張った。
‥‥一夜明けて、文乃は背筋を伸ばして起き上がった。昨日の戦いは意外に鬼の抵抗も少なかった。人喰鬼ら大鬼は五十体ほど混じっていたが。疲れは思ったほどではない。
木下の報告を受けて、奥地にはさらに鬼の砦があることが判明した。
そこまで行かなくとも、大江山の制圧を進めたい糟屋は全軍に出立を命じる。
人喰鬼たちの襲撃が来たのはそんな朝の出来事だった――。数は判然としなかったが多数。
強弓で射掛けてくる人喰鬼らは藤豊軍になだれ込んでくると近接戦闘でもスマッシュEXなど上級のコンバットオプションを用いて殺到してきた。ブレスセンサーに反応があったものの体勢を立て直す間もなく、早朝の奇襲は一撃離脱であった。あるいは夜間にこの準備を進めていたか。
ほとんどの冒険者達も不意を突かれて反撃もままならず、藤豊軍は大打撃を受けた。
負傷者多数、この混乱に白翼寺はトリアージを行い、診察に追われた。中には腕を吹っ飛ばされた重傷者もおり、クローニングが必要であった。
「くそ、ここじゃ碌な手当ても出来ん」
白翼寺は罵った。
「迂闊でした‥‥鬼達はすっかり後退したかと思われましたが‥‥」
「おまけに上級のコンバットオプションを操るとは、大江山の鬼め侮れん‥‥この奇襲と言い、切れる奴がいるな」
最後に思わぬ反撃を受けた藤豊軍だが、ここまではひとまず制圧に成功したと言って良い。
ともあれ完全な討伐への道のりは険しいものとなりそうである。