【道敷大神】丹後の決戦、導師の侵攻
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:15人
サポート参加人数:5人
冒険期間:12月07日〜12月12日
リプレイ公開日:2008年12月14日
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●オープニング
一週間前、京都――。
イザナミの不死軍を退けた宮津藩主立花鉄州斎はその足で都へ向かい、藤豊秀吉と謁見する。来訪を予期していた秀吉は御所にて鉄州斎とまみえる。
「藩主自ら参られたか」
秀吉は好奇の視線を若き宮津藩主に向ける。丹後の現状を秀吉は承知だ。イザナミ軍の侵攻を受ける藩主本人が訪ねて来る理由は一つしかない。
鉄州斎はこれまでの経緯を話した上で、京都からの救援を求める。これは藤豊家の庇護下に入る事を意味したが、平織家との同盟交渉が不首尾に終わった今、誰に憚る理由もない。
「今までよう頑張られた」
秀吉は即答する。
「峰山の平野から文書は受け取っておる。鉄州斎殿、急ぎ宮津のために兵を派遣しましょうぞ」
鉄州斎は平伏する。
「我が家には関白に差し出す何物もありませぬが‥‥お力を頂ければ宮津藩は関白の盾となり戦いましょう」
「頼もしい言葉じゃ、期待しておりますぞ」
必死の鉄州斎を前に秀吉は扇を弄んだ。頼る鉄州斎の労苦を、秀吉は背負った。秀吉は都も背負っている。これからが大変だ。平織の援軍は望み薄‥‥大和の黄泉人復活の頃、家康の援軍が少ない事を嘆いた虎長の立場に似ている。あの時とは危機の規模が比較にならないが。
これで丹後に打てる手はほぼ打った形になる。人事を尽くして天命を待つとはこのことか‥‥さしもの秀吉もこの先がどうなるかは読めなかった。
藤豊家の若武者片桐且元が率いる藤豊軍千――侍五百、足軽五百からなる軍勢は京都を発つ。
且元は部下達を叱咤する。
「急げ! 宮津に到着次第、戦となろう! 峰山の平野、大江山の糟屋に遅れを取るなよ! 丹後の民に殿下の勇名を響かせよう! 丹後の導師とやらに思い知らせてくれるわ!」
藤豊軍の士気は高い。峰山藩の平野長泰が率いる藤豊軍が先の戦いで善戦したことも大きい。不死軍を打倒せんと、藤豊軍は宮津へ急行する。
宮津城――。
帰ってきた鉄州斎を天津神と物の怪たちが待っていた。
「いよいよ始まったようだぞ、導師の進軍がな」
天火明命が鉄州斎に告げる。丹後の物の怪の総大将である白狐は頷く。
「導師は峰山城を出発し、非常にゆっくりとした足取りではありますが、宮津へ向かって進んでおります」
「そう‥‥いよいよですか。都の援軍も間もなく到着いたします。打てる手は打ちました。この宮津で何としても不死軍を止めませんと、後がない」
鉄州斎の呼びかけに丹後の寺社が応え、およそ五十人の僧侶が宮津城に集まっている。迫り来る不死軍を前に、丹後の僧侶達は宮津藩との共闘に立ち上がったのだ。そして丹後の土侍達も集まっていた。
今、丹後の民は、神も物の怪も一つとなって、不死軍に立ち向かおうとしている。
峰山――。
藤豊軍を率いる平野長泰は導師動くの知らせに立ち上がる。
「いよいよか‥‥片桐が宮津に向かっているというな。我らも発つぞ、ここで不死軍を食い止める」
峰山藩主の中川克明も甲冑を身にまとう。
「導師を打ち倒し、峰山を取り戻したいものだが‥‥」
克明の瞳には、遠く故郷の地が映っている。
冒険者ギルドに依頼が張り出された、丹後決戦への参戦を求める依頼だ。
丹後宮津藩に押し寄せるイザナミ軍数千。迎え撃つ藤豊軍二千を加え、今、丹後諸藩は一致結束して導師との戦いに臨まんとしている。
こちらの戦力は現在宮津に向かっている藤豊軍千、峰山で待機していた藤豊軍千、峰山・宮津の侍たちがそれぞれ百ずつ。また藤豊軍の陰陽師約四十、僧侶・僧兵約三十、丹後の僧侶達およそ五十、丹後の土侍およそ百である。
導師を止めることは出来るのか? 宮津藩の命運は‥‥今、丹後決戦の火蓋が切って落とされた。
●リプレイ本文
宮津――。
武将や兵士達が集まる中、エル・カルデア(eb8542)は前回助けた地精霊たちに助力を請うていた。
大太法師や大蛇らはやる気満々で丹後・藤豊連合軍に加わった。次いでエルは天津神のもとを訪問する。
「炎が司るは破壊と再生、即ち命でございます。導師は命を枯らす大邪悪、どうか炎による命の再生の為に御力をお貸し下さい」
元より天御影命や天鈿女命は戦うつもりであった。ただ一人不動の姿勢を保っていた天火明命の瞳に氷のような閃きが宿る。
「そなたの文言気に入ったぞ」
天火明命は言ってから腕組みする。
「だがイザナミとの争いに直接介入するつもりはない。導師とやらの件はミカゲとウズメに任せる。我はこの戦静観させてもらおう‥‥」
エルはおとなしく引き下がった。一瞬気迫が見えた天火明命であったが。あるいはイザナミ本人が現れるような事態になれば天火明命も動くのかも知れない‥‥。
明王院未楡(eb2404)はと言うと、稲荷神らに敵の航空戦力への対応を請うたが、さすがの白狐がややたじろいだ。
「あの不死軍に飛び込んで行けとは未楡殿も無茶を申される。我々は上空から敵情視察を行いましょう」
「そうですか‥‥ではご助力お願いします‥‥」
未楡は深々とお辞儀した。
‥‥戦場に近付く連合軍の前に、散発的に不死者の群れが現れる。かれこれ数日間、冒険者達もその相手に眠れぬ日々を送った。
やがて遠視していた陰陽師が不死者の大軍を発見する。妖狐たちも上空を飛んで戻って来た。
「前方に導師の軍勢が展開しています。いよいよですな‥‥」
不死軍本陣――。
何と、今回導師は巨大な石の天幕をがしゃ髑髏に引かせ、その中に鎮座していた。天幕の中では導師の将軍達が主の前にひれ伏している。
「人間どもの様子は」
「先行に偵察させたところ、千以上の軍団を揃えてきたようです。と言っても、こちらの半分以下ですが」
「ほう‥‥」
「いかが致しますか導師様‥‥」
「前進し、奴らの陣を突き破るまでだ。小細工は無用。正面から奴らを押し潰す」
「は‥‥」
導師の号令を受けて、不死軍はゆっくりと動き出した。
「不死軍、全軍が来ますぞ!」
妖狐たちは飛びまわっていた。陰陽師もテレパシーで連絡を送っている。
片桐且元率いる千五百の主力は三層編成。前二列が前衛で、三列目が後衛である。更にその後ろには突入予定の部隊が控えている。
接近してくる不死軍が弓の射程に入る――。
「今だ! 放てえ!」
後衛の弓隊から火矢が放たれる。木下茜(eb5817)も破魔矢の一撃目を放った。
前進してくる不死軍に次々と浴びせかけられる火矢。――と、グリフォン騎乗で空中戦に備えていたアンドリー・フィルス(ec0129)の目に、不死軍から飛び立つ無数の影が映った。
「あれは‥‥不死軍の航空戦力か」
ルーラス・エルミナス(ea0282)は超越魔法の使い手イリア・アドミナル(ea2564)をグリフォンに乗せている。
「来ましたね‥‥イリアさん、準備を」
ルーラスは滑空して迫り来る以津真天の正面に回りこむ。殺到してくる以津真天!
「アイスブリザード!」
イリアの超越魔法が以津真天の大軍をなぎ払う。が、今回はさすがに数が違う。超越魔法をもってしても払ったのは以津真天の一角のみ。魔法をすり抜けた以津真天は地上の味方に襲い掛かっていく。
「させるか!」
アンドリーはグリフォンを駆って以津真天に突撃するが――。
これも第一波であった、第二波の以津真天が方々から押し寄せる。ルーラス、イリアは忙しく飛び回って以津真天の迎撃に追われることになる。
地上でも侍衆が数百発のソニックブームを不死軍に叩きつけ、いよいよ本戦が始まる。
ミラ・ダイモス(eb2064)は前線に出ると、亡者を超絶的な一撃で両断する。
「上空からも敵が‥‥堪え切れるでしょうか‥‥」
未楡は姫切で不死者の群れを切り裂きながら一抹の不安を覚える。以津真天が上空からも殺到する中、地上の不死軍は圧倒的な戦力で攻めかかってくる。
「後退しつつ第二列と交代! 怯むな! 押し返せ!」
南雲紫(eb2483)は怪骨兵士を打ち砕き、死人憑きの首を吹っ飛ばしながら叫ぶ。必死の応戦。丹波の轍を踏むわけにはいかない。
「エル! 魔法を頼む!」
「承知!」
エルの超越グラビティーキャノンが炸裂。亡者の戦列を一挙になぎ払う。
元気な二列目が前線に出てくる。上空からイリアも時折アイスブリザードの掃射を行うが、以津真天に狙われて苦戦している。
そして戦列に死食鬼や小型がしゃ髑髏が進み出てくる。がしゃ髑髏の鉄球が兵士達をなぎ倒す。
ミラは積極的にがしゃ髑髏を迎撃する。鉄球を食らいながらも斬魔刀を叩き込む。
魔法攻撃や冒険者達ががしゃ髑髏を止めるが‥‥。
「不死軍の回復力は無限か。また次のがしゃ髑髏が出てくる‥‥」
乱戦ではどこから敵が出てきても不思議ではない。さらに悪いことに、不死軍の正面攻撃は予想以上で、連合軍の戦列は突破されようとしていた。
次々と運びこまれてくる負傷者を前に、白翼寺涼哉(ea9502)はトリアージを行っていた。
「こいつはもう駄目だ」
傷を一目見て白翼寺は兵士のもとを立った。すでに白翼寺自身最大リカバーを使い切ってMPを使い果たしているのだ。ここで瀕死級のダメージを復活させることは出来ない。
「負傷者は下がらせろ。出来る限りは助けたい」
こういう時は医師として自身の無力さを痛感する。白翼寺は僧侶達に指示を出しながら負傷兵の応急手当に当たる。
冒険者達の見込みは甘かった。不死軍が全軍でぶつかってくれば、少数の兵で持ち堪えるのは不可能。イリアは三十発以上の超越魔法を用意していた。まさに彼女達は一軍にも匹敵する戦力だが、空中の敵にも対処せねばならず、援護射撃は十分に行われなかった。アンドリーも以津真天の大群を放置しておくわけもいかず、単騎前進することは不可能であった。
こちらの主力は瞬く間に包囲されるだけであるし、思わぬ形で出血を強いられ、それを回復するにも限りがある。戦況は見る間に悪化していく‥‥。
「平野殿、このままではただ消耗するだけだ‥‥。作戦通り、打って出るべきだろう」
天城烈閃(ea0629)は平野長泰に進言した。平野も同じことを考えていた。
「甘かったようだ‥‥よもやここまで押し込まれようとは‥‥」
アラン・ハリファックス(ea4295)は険しい表情だ。
「まだ策が尽きたわけではありません、引魂旛を使って不死軍に陽動を仕掛けたわけでもありませんし」
井伊文霞(ec1565)の言葉に平野は頷く。
「最後の賭けだ。引魂旛にどこまで亡者が食らいつくか」
そこで楠木麻(ea8087)のスモールホルス、シンダラが帰ってきた。
「不死軍の背後にはまだ沢山の幽霊もいるようです。上空からの侵入は困難でしょう」
「敵の本隊はいたかいシンダラ」
「分かりません。麻さん、行くなら気をつけて下さい」
木下ら後方部隊の足軽たちは高台車に上って交代で引魂旛を振り始める。効果の程は‥‥薄い。この乱戦で広い戦場の後方にある引魂旛を目撃する亡者は少ない。
それでも、残された道は無い。横撃隊は不死軍の戦列を迂回して、側面に回りこむ。
カンタータ・ドレッドノート(ea9455)のメロディーが侍や冒険者たちの心をかすかに勇気付ける。そして陰陽師たちが冒険者、武将優先でレジストメンタルを付与。僧侶達は出来る限りグットラックとレジストデビルを用意する。
目の前には不死軍の分厚い戦列。
「行くぞ!」
何とかこっちに回ったルーラス、イリアが超越魔法で援護。楠木も上空からグラビティーキャノンで援護する。
道を切り開くはファング・ダイモス(ea7482)の騎兵。超人的な技で馬を操り不死軍の戦列を突き進む。
ルーラスのオーラセンサーに反応はない。以津真天に阻まれて敵陣奥深くまで探査する余裕はなかったのだ。空中にいる限りは狙われる、今もそうだが。
どうすれば‥‥この戦いに勝利を収めることが出来たのか? 冒険者達の脳裏をそんな言葉がかすめていても不思議ではない状況だ。
何れにせよ、大軍を擁する不死軍を前に、連合軍は少なからずダメージを受けた。十分な陽動作戦は行えず、天城、アラン、ファング、文霞が属する平野長泰率いる横撃部隊は敵中で孤軍奮闘を余儀なくされる。
‥‥そうして、ファングと文霞だけがこの乱戦を制して敵陣深くに侵入し、幸運にも導師の石の天幕を発見する。
「たった二人でここまで来るとは‥‥都の兵士ではないな」
魔道士が二人を見つめる。護衛のがしゃ髑髏たちが不穏な動きを見せ始める。
「貴様が‥‥導師か」
「私は導師様にお仕えする身よ、愚かな、ここまで来たことを後悔するがよい」
周囲を飛び交う怨霊が二人を取り囲まんとする――。
そこでアンドリーがバラスプリントで瞬間移動してきた。
「導師か?」
「違うようだが‥‥」
と、その時、天幕から導師本人が現れた。
「何事だ」
「導師様‥‥都の冒険者達が乗り込んで参りました」
「ほう‥‥勇者達か」
あっという間の出来事だった。導師が腕を一振りした瞬間、怨霊の弾丸が炸裂し、冒険者達をなぎ倒した!
「愚かな‥‥たった三人で乗り込んでくるとは」
この状況、単騎で突撃すれば犬死にの恐れもある、アンドリーは自重した。それよりも仲間を逃がすために空中を飛び交い導師の注意を逸らす。
ここで天城とアラン、ルーラス、イリア、楠木がやってきて、ファングと文霞を回収して後退する。
「まだだ、まだ我らは完全に負けたわけではない」
片桐と平野、丹後の鉄州斎らは敗軍をまとめると、撤退の準備を進める。冒険者達もしんがりを務め、連合軍は一路舞鶴へと後退していくことになる。
敗戦。
冒険者達の顔にはいずれも苦い表情が浮かぶ。単純な戦力差で云えば連合軍は全滅、或いは潰走していて不思議の無かった事を思えば、尋常でない善戦をしたと言うべきか。不死軍にダメージは与えた。
だが、導師を討つには至らず、連合軍は宮津を明け渡すことになる。