京都近郊〜迫り来る鬼たち

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月21日〜12月26日

リプレイ公開日:2006年12月24日

●オープニング

 京都。
 近郊で多発するモンスターの攻撃、あるいは諸問題に対して、今日も冒険者ギルドには、様々な方面から依頼が舞い込んでいた。
 ギルドの職員たちは、詰めかける冒険者たちに依頼の内容を説明していた‥‥。

「ええっとですね‥‥」
 職員は冒険者たちを前に依頼用紙を広げる。
「まあこれは、政府からの依頼でして。ご承知の通り、京都の政府は何かと手一杯でしてね。モンスターの攻撃とか、色々、地域の問題には中々対処し切れない部分があるようでしてね」
 職員は用紙を確認すると、それを読み上げた。
「二つのモンスターの集団が村の猟師に目撃されました。近郊の村からの報告です。一つは十体以上の小鬼のグループ、もう一つは七、八体の茶鬼のグループです。ギルドの方で目撃情報を確認したところ、茶鬼と小鬼の間で戦闘があったようです。モンスターの縄張り争いでしょう。村から数キロ離れた山の中、谷川の岸壁にある洞窟を茶鬼が占領しました。蹴散らされた形の小鬼は山の中を徘徊しています。この小鬼たち、もしかすると村まで下りて来るやも知れません。そして谷川に陣取った茶鬼の存在も不気味です。事態が悪化する前に、モンスターを駆逐せよと、京都見廻組からも通達が出ています」
 職員はいったん言葉を切った。
「茶鬼が陣取った谷川の洞窟ですが、その真横で大きな滝が落ちており、周囲は岩場、まあ、山の中でも河川の上流に位置する場所ですね。茶鬼は主に洞窟の外に出ていることが多いようです。洞窟の外、河川の周りの岩場は広く、まとまった人数が戦うには十分な広さがあり、視界は良好です。それだけに不意を突くのは難しそうです。また、そこへたどり着くまでには高低差のある山の中を突破していかなくてはなりません。山の中は高木が生い茂って視界が悪く、足場も獣道ばかりと、戦うには厄介です。小鬼たちは基本的にあちこちに点在して山の中で野営しています。小鬼も数が集まればそれなりの脅威です。くれぐれも油断なきよう。補足ですが、依頼の村の人口は老若男女含めて二十人弱。山道で町とつながっている山の中の小さな村です。村人たちは冒険者の到着を待っています。迅速にモンスターを排除、殲滅して下さい」
 そう言うと、職員は、村までの地図を取り出して、冒険者たちに手渡した。
「それでは宜しくお願いします。戦闘に備えて、準備を怠りなく。健闘を祈ります」
 職員は冒険者たちを見送ると、次の書類を取り出した。
「それでは次の方、どうぞ!」

●今回の参加者

 eb8812 夜桜 火花(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb9683 イーシャ・ゾーロトワ(21歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb9725 新崎 里穂(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb9936 神戸 新(43歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

ユナ・クランティ(eb2898

●リプレイ本文

●村へ
 山道を行く冒険者たち。
 夜桜火花(eb8812)は愛馬の野武士の鞍上で揺られながら地図を広げている。
 イーシャ・ゾーロトワ(eb9683)と新崎里穂(eb9725)はその後から付いていきながら世間話を交わしている。新崎の足元にはペットの柴犬がくっついている。
 途中、道の脇で腰を下ろしていた行商人の男が冒険者たちに加わった。商人の男は鬼退治の話を聞くと、ぶるっと身を震わせたものである。

 山道を抜けると、視界が開ける。田園風景が広がる。遠くには村の家々が見える。

 村の中に入ると、子供たちがわーっと寄ってきた。商人の男が来るのを待っていたようである。
 商人は子供たちの相手をしながら、村人たちに呼びかけた。
「村の衆! 冒険者が来たぞーい!」
 縁側から冒険者たちを見つめていた人々はにっこり笑って挨拶する。
 鞍上から村の様子を眺める夜桜。イーシャと新崎は人々に向かって会釈する。
 やがて、村長の男がやってくる。
 村長は自分の家に冒険者たちを招き入れると、鬼たちを目撃した猟師の男を呼びにやる。
 その間にも、村長は改めて状況を話して聞かせる。
「茶鬼が陣取った洞窟と言うのは、どこなんですか?」
 夜桜が問うと、村長は縁側まで冒険者たちを案内する。
「大体あの辺りなのですが」
 村長は村の背後に見える山の中腹を指差す。
 と、猟師の男がやってくる。猟師の男は洞窟までの道順と周辺の山の地形などを夜桜に告げる。
 洞窟までの道のりを聞いたところで、冒険者たちは夜になるのを待つ‥‥。

●洞窟までの道のり
 夜。野武士に乗って山中に分け入る夜桜。後に続くイーシャと新崎。
 焚き火の明かりが見える。夜桜は野武士を適当なところにつないでおくと、森に分け入る。
 落ち葉を踏みしめて焚き火に近付く冒険者たち。
 うまく奇襲の形を取ることが出来れば‥‥。
「ん?」
 夜桜は耳を澄ました。
 イーシャと新崎も不審げに周囲を見渡す。
 何かの声が聞こえる。
 と、焚き火の方で大きな声がした。冒険者たちは焚き火の方へ油断なく目を向ける。
 現れたのは小鬼たち。深手を負っている。小鬼たちはよろよろと歩いていたが、焚き火のところでばたっと倒れた。
 焚き火のもとへ歩み寄る冒険者たち。小鬼たちは息絶えていた。
 と、林の向こうで影が揺らめく。
 夜桜は抜刀した。
「イーシャ、魔法で援護を頼む」
 イーシャは印を結ぶと詠唱に入る。
 そして、林の中から二体の茶鬼が姿を現した。
 その瞬間にイーシャが魔法の力を解き放つ。二体の茶鬼は魔法の波動の直撃を受けて転倒した。
 夜桜は茶鬼に襲い掛かって立て続けに刀を突き立てる。
 一体の茶鬼が斧を振り回しながら起き上がる。それを引き付ける新崎。茶鬼の攻撃をかわしながら相手の体にぽんと手をついて側面に回りこむ。
 イーシャは夜桜に向かって斧を振るう茶鬼目がけて魔法の力を解き放つ。茶鬼は重力波の直撃を受けて逃げ出した。
 新崎と相対する茶鬼。茶鬼は空振りを連発。その背後から夜桜が切りつける。ぎゃっとわめいて振り返る茶鬼。茶鬼は勢いよく斧を振り回す。頬をかすめる茶鬼の斧。夜桜は裂ぱくの気合い込めて茶鬼に向かって刀を突き出す。刀身が茶鬼の鎧を貫通。よろめいて後ずさる茶鬼。茶鬼は逃げ出した。
 冒険者たちは周囲を見渡す。
 近くでも騒々しい声が響き渡っている。
「どうやら茶鬼と小鬼の間で乱戦模様のようだな。不意を突くチャンスだ。この機に乗じてかたをつけてしまおうぜ」
「いいわよ、魔法で先制攻撃するわ」
「私は出来るだけ相手をひきつけることにします」
 三人は暗い森の中を駆け抜けていく。
 次の焚き火でも、小鬼たちが二体の茶鬼の攻撃を受けていた。やがて、茶鬼たちが小鬼を蹴散らしていく。茶鬼は勝利の咆哮を上げて斧を振り回している。
「よし、今だ」
 飛び出す夜桜と新崎。イーシャは魔法を二連発。
 奇襲を受けた茶鬼の一体が転倒。そこに刀を振り下ろす夜桜。茶鬼の鎧をその一撃が貫通する。
 回避に専念しつつ茶鬼を夜桜から引き離す新崎。
 何とか起き上がった茶鬼が斧を振り回す。夜桜の体をわずかにかすめる斧。舌打ちして反撃する夜桜。大上段から刀を茶鬼に叩きつける。茶鬼の胴体にめり込む刀身。茶鬼はうなり声を上げて撤退する。
 新崎の方へ加勢する夜桜。無防備な茶鬼の背中に刀を振り下ろす。ぎゃっとわめいて振り向く茶鬼。夜桜は刀を振るう。その一撃が茶鬼の盾と激突。茶鬼の反撃をかわしながら小刻みに打撃を与える夜桜。茶鬼は苛立たしげに斧を振るう。間一髪でその一撃をかわす夜桜。と、そこで茶鬼は盾を構えたまま後退。茶鬼たちは夜の森へ姿を消した。
 森に静寂が訪れる。
 森を一回りする冒険者たち。茶鬼たちとの戦闘で、小鬼たちは敗走したようである。

 一夜明けて、洞窟を目指す冒険者たち。野武士の背中に揺られながら、夜桜は周囲に目を向けていた。そろそろついても良い頃だが‥‥と思っていると、遠くから轟々という音が聞こえてくる。
「滝かしら?」
「そのようだな」
 イーシャの言葉に頷く夜桜。馬を下りると、適当な木につないでおく。愛馬の野武士は臆病な奴だし邪魔でもある。

●洞窟前
 岩場。滝が怒涛となって流れ落ちている。八体の茶鬼が洞窟の前にたむろしている。茶鬼たちは何やらわめきながら焚き火を囲んでいる。
「地形を利用して何とかしたいところだがな‥‥」
 夜桜は岩場から茶鬼たちの様子をうかがいながら呟く。
「相手の数が数だしなあ‥‥昨夜は不意をついて運良く撃退できたけど。やっぱりこの戦力で倍以上の茶鬼を相手にするのは自殺行為かな」
「そうね‥‥やれるところまでやっても良いけど‥‥一体、二体ならともかく、八体の茶鬼をまとめて相手にするのは無理かしら。地形を利用したとしても、ちょっと無理があるわねえ‥‥」
 イーシャも同意する。この戦力では、せいぜい二体の茶鬼を相手にするのが妥当なところである。
「残念ですけど‥‥ここまでが精一杯ですかね‥‥」
 新崎は肩をすくめる。
 仕方ない‥‥冒険者たちは撤退を決断する。

●ギルドにて
 京に帰還した冒険者たち。ギルドに状況を報告する。
「そうですか、小鬼の撤退は確認したものの、茶鬼の退治は諦めたと‥‥」
 ギルドの職員は、ふむ、と頷く。
「まあ、モンスターの動きに変化があればまた情報が入るでしょう。今回は退治に失敗したと言うことで、その分の報酬は減額となります」
 ギルドの職員は報酬の入った巾着を三つ取り出すと、冒険者たちにそれらを渡した。
 実を言えばこの職員、内心は冷や汗をかいていた。今回の依頼、何とか四人集まったと思っていたら、一人がドタキャンで三人で出発。後からそのことを聞いて、冒険者たちが全滅したらどうしようかと心配していたのであった。冒険者たちの無事な姿を確認して、安堵の息を漏らしたものである。
「さすがにね、戦ってみて分かったけど、今の俺たちじゃ八体の茶鬼を相手にするのは無理があると思ったよ」
 夜桜は「なあ?」とイーシャと新崎を顧みる。
 イーシャと新崎は夜桜の言葉に同意するように肩をすくめる。
「ま、仕方ありませんよ。とりあえず体を休めて、また次の依頼に備えてはいかがですか」
 職員がそう言うと、冒険者たちはやれやれ‥‥とその場を後にする。
 モンスターはまたどこかに現れるかも知れない。その時はまた新たな依頼が出るだろう。何れにせよ、冒険者たちは次の依頼までしばしの休息を取るのであった。