芝居「源徳家康英雄記」

■イベントシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 13 C

参加人数:1人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月14日〜12月14日

リプレイ公開日:2008年12月19日

●オープニング

 芝居は江戸市民の娯楽の一つである。題材も様々で、最近の流行は戦国の世を扱ったものが多いとか、誰かが言ったとか言わないとか。
 実際に起こった戦や最近の情勢など、人々が芝居を通して知ることは多い。
 とは言え、それらは脚色されたものも多く、現実とはかけ離れていることもしばしば。
 冒険者ギルドに、江戸でも流行の芝居小屋の主がやって来たのは冷たい風が吹きすさぶ師走も半ばに差しかかろうかと言う時であった。
 聞けば、近々新しい演劇を執り行うので、冒険者にも出演してほしいと言うもの。
「ちなみに、題目は?」
 ギルドの手代が問うと、主は満面の笑みで応える。
「源徳家康英雄記、です」
「それはまた‥‥この時世によくそのような芝居を思いつきましたね。大丈夫なのですか? 今は戦時中ですよ? 政宗公から睨まれたりしませんか」
「それはもう大丈夫です! 政宗公は庶民の楽しみを奪うようなお方ではありませんからな。お許しを頂きました」
 まさかと思ったが、確かに許しは得ているようだ。
「そうですか‥‥では、単純に芝居に参加して欲しいと言う依頼でよろしいのですね?」
「ええ、実際に戦場にも赴かれている冒険者の皆さんの演技を観客も期待しているでしょう」
「まあ時世が時世ですから冒険者受けするとは限りませんよ?」
 ギルドの手代は念を押してから依頼を引き受けた。
 芝居小屋で執り行われる演劇「源徳家康英雄記」果たしてどのような芝居になるのだろうか‥‥。

【芝居、源徳家康英雄記についての主なシーン】
 第一幕:上州騒乱
 朝廷の命を受けた源徳家康が上州で反乱を起こした新田義貞の討伐に向かう。後半、西の長州反乱で兵を引くことになり、討伐そのものは頓挫する。

 第二幕:華の乱
 奥州の勇伊達政宗が家康を裏切り、江戸城を奪取する。敗戦の身となった家康は再起を近い三河に落ち延びる。

 第三幕:源徳大遠征
 朝廷に裏切られた家康は自ら伊達を打つ決意をし、江戸城目指して大遠征を開始する。

●今回の参加者

トマス・ウェスト(ea8714

●リプレイ本文

 芝居小屋は閑古鳥が鳴いていた‥‥。
「源徳家康英雄記」の評判は思ったほど上がらず、客席にはまばらに人がいるだけであった。
 トマス・ウェスト(ea8714)は源徳派の冒険者である。今回の依頼に参加したただ一人の冒険者であった。
「我が輩のことは、ふむ、『西行』と呼びたまえ〜」
 クラウンマスクをつけた怪しげなトマスは舞台裏で準備していた。
「客の入りが少ないのが残念だね〜、江戸の民に悪辣な政宗の正体を知らしめる機会だというのに〜」
「いや‥‥評判が今ひとつだったのもやはり時世を読み違えたのかもしれませんなあ。戦時中に行う芝居ではなかったのかも知れませんなあ‥‥」
 客席を見て吐息する主だったが、トマスは身振り手振りを交えて語る。
「まあ嘆いていても仕方がないね〜、とにかく我輩の即興についてきて欲しいね〜」
 トマスはそう言うと、舞台に踏み出していった。

 ‥‥第一幕、上州騒乱。
 上州の地で上杉謙信に反乱を起こした新田義貞に、家康は激昂する。
「おのれ義貞! 朝廷に対して反乱を起こすとは‥‥!」
 家康の傍らには、西行と名乗る異国の僧侶(トマス演)がいた。
「まあ落ち着きたまえ家康君。相手は所詮小者ではないか〜、家康君が関東の統治に腐心しているというのに、天下に反旗を翻すとは、小者の新田には目先のことしか見えていないようだね〜。家康君、実際君は朝廷から関東を預かる身、手を噛む鼠には相応の報いをくれて然るべきだね〜」
「御坊、戦をせよと言うのか」
 家康は首を振った。
「この国は長い間戦を経験しておらん、関東を預かるわしが戦を起こせば、諸侯の絆に亀裂が生じよう。戦は最後の選択肢だ。あくまでも対話の道を探るべきだろう」
「さすがは家康君だね〜、とは言え現に新田は反乱を起こしているし、手をこまねいていれば上州の乱は泥沼と化してしまうだろうね〜。苦しむ上州の民を救うためにも、家康君自ら諸大名に対して鞭を示すべきだと思うがね〜、小者は放っておくと付け上がるよ」
「むう‥‥」
 家康は考え込んだ。
「悩むことはないね〜、家康君は源氏の筆頭。家康君が範を示せば諸大名はみな恐れをなして従うだろうね〜」
「御坊、そ、そんな簡単なものだろうか‥‥?」
「家康君以外の誰にこの乱を治めることが出来るかね? 万事うまく新田を服従させるのは家康君しかいないね〜」
 家康は西行と一月にわたって語り合った。西行は新田を攻めるべきだと進言する。
「‥‥分かった御坊。わしは決心した。上州に兵を進めよう。騒乱を鎮め、陛下の御心を騒がせる新田の首をねじ伏せよう」
 かくして家康は上州に兵を進め、新田と争うことになる。優勢に戦を進める家康には余裕があった。新田は必死に抵抗したが、圧倒的な家康の大軍に徐々に追い詰められていた。
 そんなある日のこと‥‥。
「家康様! 一大事にございます!」
 武将が駆け込んでくる。
「どうしたか」
「都で長州藩が反乱を起こし、陛下を襲ったと報告が入って参りました!」
「何と!? 陛下はご無事か!」
「新撰組を始め、都の守備隊が何とか陛下をお守りしている様子でございます!」
 そこへ現れた西行。
「おお、御坊、大事であるぞ。都で長州藩が反乱を起こしたと言うのだ」
「うむ、話は聞いているね〜」
「何とか持ち堪えているようだが‥‥」
「こうしてはおれないね〜、都の一大事に新田を相手にしている場合ではないね〜」
「御坊の申すとおりだ。戦などしている場合ではない。急ぎ西国の情勢に手をつけねば‥‥しかし、何と言うことだ」
「聞くところによると、五条の宮を祭り上げた長州は私利私欲で帝に反乱を起こしたと言うね〜、家康君は関東の平定に尽力していると言うのに、西も東も戦続きで天下は乱れそうな気配だね〜」
 西行の顔が曇る。かくして家康はいったん上州から兵を引くことになる。
 シリアスな展開に少ない観客もうなっていた。
 ――第一幕、了

 ――第二幕、華の乱
 西国の混乱は収まりつつあった、しかし、相変わらず上州の新田は抵抗を続けており、情勢は泥沼化しつつあった。長引く戦にさすがの家康にも疲れが見える。そこへ西行が姿を見せた。
「家康君、少し気になる風聞を耳にしたのだが」
「これは御坊、どうしたと言うのだ」
「ふむ‥‥諸侯の動きが何やら活発になっているとの噂を耳にしたのだよ」
「それはどういう?」
「分からないね〜、我輩が聞き及んでいる限りでは、武田と上杉の間をここ最近使者が往復していると言う話だね〜。まさかとは思うが、新田に付いて家康君に戦を仕掛けてくるのではないかと思ってね〜」
「そ、そんな馬鹿な‥‥」
 役者もトマスの即興に付いていくのが大変だ‥‥。
「まあ注意しておいた方がいいね〜、前だけを見ていると、意外なところで足をすくわれかねないね〜」
 程なくして、西行の読みは現実のものとなる。上州戦に突如として武田と上杉の軍勢が現れたのである。驚いたのは家康。
「馬鹿な! 信濃と越後を預かる大藩が戦を引き起こすなど、関東を火の海にするつもりか‥‥!」
「やはり思ったとおりだね〜、諸侯たちは家康君が弱っていると見て、反抗に出てきたね〜。朝廷に刃向かう家康君の、いや、天下の敵だね〜」
 そこへ武将が駆け込んでくる。
「家康様! 武田軍、上杉軍、ともに戦場を後退しつつあります! この好機を逃さず、追撃するべきかと!」
 この時家康の背後には江戸に入った伊達政宗が守備を固めていた。家康は背後の憂いなしと見て、武田軍と上杉軍の追撃を決断する。
 西行の表情が曇る。
「何か嫌な予感がするね〜、罠ではないかね〜」
 程なくして西行の不安は的中する。追撃戦に向かった家康の背後で、江戸城が伊達政宗によって奪われたという知らせが届く。
「コレは家康君を裏切った何者かが仕組んだ陰謀なのだよ〜」
 西行は腕組しつつ舞台の中央で演説を打った。
「伊達政宗は最初から江戸城を奪うつもりで家康君に臣従する振りをしていたのだね〜、そして、武田と上杉、あまつさえ新田をも取り込み、密かに反源徳同盟を組んで家康君をおびき出したのだね〜、とんでもない話だね〜」
 かくして、江戸城を失い敗れた家康は、本国の三河に後退することになるのであった。それは、長い雌伏の始まりであった‥‥。
 ――第二幕、了

 ――第三幕、源徳大遠征
「聞け、わしの心は決まった。伊達を討つ」
 三河、岡崎城で、家康は家臣たちを前に鋭い口調で言った。家康は平織家と屈辱的な和議を成し、背後の憂いを絶っていた。江戸を奪われて一年半、雌伏の時は過ぎた。
 虚空を見つめる家康の傍らに、西行の姿があった。
「行くのかね、家康君‥‥」
「御坊、もはやわしにはこの道しかないのだ。例え逆賊の汚名を着せられようとも、不当な支配のもと、周辺諸国に戦を仕掛ける政宗を倒し、関東に平穏を取り戻すことこそ、わしに与えられた天命だと思っている」
「家康君‥‥君は‥‥」
 西行の瞳にうっすらと涙がうかぶ。感動に打ち震える西行。
「我輩は止めはしない、この戦に勝利し、源氏長者としての正当な地位を回復したまえ」
「御坊‥‥世話になった」
 家康は戦場に赴く。
 そうして長きにわたる戦を乗り越え、家康はついに悲願の江戸入りを果たす。ここに至るまでに家康は小田原の激闘を制し、その後も神がかり的な勝利を収め、反源徳同盟を打ち砕いたのである。
 ――江戸城。政宗は逃げる準備を進めていた。そこへ、西行が姿を見せる。
「だ、誰だ!」
「貴様に名乗る名はない、ただ、諸悪の根源を打ち倒しに来た」
「な、何だと?」
 演技も終盤、トマスは何としてもこのシーンを完成させたかった。
 逃げる政宗を追い詰めた西行は、天守閣から政宗を蹴り落とした。
「裏切り者に天罰を! 諸悪の根源に滅びの一撃を!」
 西行はそう言ってラストのシーンを締めくくった。
 このラストシーンでトマスは涙を流していた。
「この光景を是非とも現実のものとしたいね〜、家康君、我輩は君を信じているよ〜」
 ――第三幕、了

※これはお芝居です。西洋風に云えばふぃくしょん? 現実の人物、団体とは一切関係がありません。
 ですので、聞いた話と違うという批判は受け付けませんのでご了承ください。

 芝居終了後‥‥。
「いや〜、芝居とは言え些か張り切りすぎたね〜」
「お客様は驚いた様子でしたな‥‥このような芝居をよく政宗様は許可されたと。やはり戦時中ですし‥‥間もなく小田原で戦いが始まろうかって江戸の噂ですからね」
「むう‥‥伊達に乗せられた気もするが、ふむ、こうしてはおれん、我輩も小田原戦に向けて準備を進めておくとしようか。では主、世話になった。また機会があれば」
 トマスはそう言って芝居小屋を後にしたのであった。
 伊達政宗が西行の噂を聞いて何と言ったかは‥‥知らない。