長崎藩邸の会合
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月02日〜01月07日
リプレイ公開日:2009年01月14日
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●オープニング
長崎藩邸――。
藤豊家臣のアラン・ハリファックス(ea4295)とベアータ・レジーネス(eb1422)は昨今の情勢を憂慮して吐息する。
「ともすれば都が陥落しようかって時に、平織の援軍は無く、丹波は黄泉人の手に落ち、丹後も危ない‥‥」
平織の援軍が期待できない以上、藤豊のみでイザナミの大軍に対抗するしかない。果たして、それで勝てるのか‥‥頭の痛い問題だ。
「そうですねえ‥‥」
ベアータも同僚の苦悩を察するが、諸侯を一つにまとめようとする藤豊の前には複雑に入り組んだ政治情勢が立ちはだかる。
「東国で勃発した源徳の戦、とても早期に決着のつくものではないぞ。誰が勝つにしろ、だ。おかげで諸侯の足並みは乱れるばかり。秀吉公は人同士が戦をする時ではないと言っておられる。その通りと思うが‥‥」
過日、藤豊家は丹後を支えようと援軍を派遣したが、イザナミとの会戦に敗退した。
丹後の状況は悪化の一途を辿り、このままでは丹波に続いて不死軍の手に落ちる公算が高い。京都攻略を控えたイザナミが単身比叡山に侵入し、鉄の御所と接触したという情報もある。
「ベアータ、貴族の中には京都を捨てて脱出すべきという声を上げる者すら出ているのだ」
「逃げる? 一体、どこへです?」
西も東も、安全とは言い難い。世界的な悪魔の侵攻の話もある。神皇が都を捨てる事態は避けたい。
「そうだ。逃げ場なんて、な。‥‥ベアータ、最早待つだけの時は過ぎちまった。対処を話し合うべき必要がある」
アランは立ち上がった。そして、主君の藤豊秀吉との拝謁を願い出たのであった。
アランは京都御所にて秀吉と相まみえる。藤豊家の若き文官石田三成がアランを案内した。
「アラン殿、近頃は東奔西走されていると聞き及びましたが‥‥」
「ああ、殿下の目となり耳となるのが俺の果たすべき役目だからな。俺にはそれくらいしか出来ん」
三成はただ頷いて応えるのみであった。
「どうぞこちらです」
三成に案内された部屋は内裏の一角にあった。日本庭園を見渡せる広間である。
「殿下、アラン・ハリファックス殿、参られました」
「おお、よく来たのぉアラン」
「は‥‥」
秀吉はいつものように扇を弄んでアランを出迎えた。
「東国の土産話も聞きたいが、その前に話があるようじゃな」
「はい」
アランは一礼してから用向きを伝える。
「殿下、昨今の情勢の激変について――」
「聞こう」
西からはイザナミの脅威。そして東で勃発した関東大乱。都を預かる藤豊家は、イザナミに対して諸侯の兵をまとめ、また諸侯の戦の回避に動いたが、全て後手に回った。事実上、平織も源徳も都とは別の動きを見せている。
「今後の藤豊家の対応を見直し、修正するために会合の機会を設けて頂きたいのです」
「ふむ」
扇を弄ぶ秀吉は鋭利な眼光を放つ。
「良くぞ申した。イザナミと戦う前に、一勝負じゃな」
今のままイザナミとぶつかっても勝算は薄い。藤豊家として最後の手を打つ必要は秀吉も感じるところだ。
秀吉はアランの提案を承諾し、長崎藩邸にて会合の席が設けられる事になる。秀吉自身、それにちょうど新年で揃う藤豊家の高官達も出席させる予定であり、いわば藤豊家の最高会議に等しい席となる。
「提案を入れて頂き、恐懼の極みにございます」
「何の、大事な話ではないか。そうじゃな‥‥三成、お主も同席せい」
石田三成は「はい」とかしこまって一礼する。
「それでは私も参加者を募ってまいります」
アランはそう言って秀吉の前を辞した。
「‥‥という次第だ」
アランは冒険者ギルドに立ち寄っていた。
長崎藩邸の会合の出席者を募って依頼を出す。
「重要な会議なのに、いいんですかね? 冒険者なんか呼んでも?」
ギルドの手代は正直な感想を口にした。
アランは笑わない。冒険者は戦場働きほどは、政治関連は強く無いとも言われるが。
「殿下はさようなことを気にされる方ではない。所属勢力は問わん。参加者全員の考えを織り込み、柔軟な結論を出したいと考えている」
「時代が違う」
少し前まで小鬼を追っていた冒険者達が、関白の御前会議に出席する不思議に、年配のギルド員はしみじみと吐息を漏らした。ふと別の事に気づいて口端を歪める。
「都も大変な時期ですが、みなさんも休み無しですねえ‥‥」
かくして、長崎藩邸にて年明けに会合が開かれる運びとなったのである。
●リプレイ本文
長崎藩邸の一室――居並ぶ諸将が新年の挨拶を交わしている。
やがて現れた秀吉は平伏する家臣の列を抜けて上座に着いた。
「面を上げい」
秀吉の一声でみな関白と向き合う。
新年の挨拶もそこそこに、この陽気な男には珍しく真面目な顔で云った。
「――さて、今後の藤豊家の対応をどうするか、じゃ。苦しゅうない。みなの意見を聞かせて欲しい」
そうして始まった会合で、主な話題となったのはやはりイザナミと、関東諸侯の動きについてであった――。
「秀吉公、謹んで新春のご挨拶を申し上げます」
アラン・ハリファックス(ea4295)は主に一礼する。
「最初に申し上げたき議は京都の防衛についてにございます」
「聞こう」
「丹後方面以外の近隣部隊を召集し、京都郊外に移動させるべきと存じます。また可能であれば京都周辺に防御陣地を構築するべき。またご存知と思いますが、イザナミと鉄の御所との同盟が成った可能性がある以上、何としても京都の防備は固める必要があるかと存じます」
「イザナミ軍十万に鉄の御所が味方したとなれば、どれほど帝都の防備を強化しても足りないでしょうな」
三成の言葉にアランは頷く。
「畿内の全戦力を京都周辺に展開すべきです。ただこれまでの経験を申し上げれば、敵は人の道理が通じる相手ではありませぬ。まともにやり合っては戦力を消耗するだけ」
「何か妙案はあるか」
「いえ‥‥正直方策はありませぬが‥‥」
「頼りないのう」
アランを見やりながら秀吉は思案を巡らせる。不死の大軍相手に、丹後でも丹波同様に敗北が続いている。秀吉は御所でも、徹底して京都の守りを固めるように公卿達から毎日言われていた。
「敵は未曾有の魔軍。まさに神代の世界が現代に甦ったようじゃな。これまでの戦の常識は通用せぬ。わしは今までのやり方では行かぬと思い、お主達にかけておるよ」
秀吉はそう言うと、一つ一つの顔を眺めるように一同を見渡した。
通常の戦は、負けても破滅とは限らない。降伏し、のちに隆盛する例は多い。だがイザナミ戦は違う。負ければ亡者の列に加わり、同胞の肉を食らう運命が待っている。
武将たちも皆、徹底抗戦を唱えるが、果たして勝算はあるのか。この戦いの先は誰にも分からない‥‥。
「寺社仏閣への迅速なる物資援助、部下に代わって御礼申し上げます」
白翼寺涼哉(ea9502)はデビルとの戦いに迅速な対応を示してくれた秀吉に謝辞を述べる。
まず最初に報告したのは丹後の大国主について。
「‥‥王として都に譲る気はなさそうです。朝敵ではありますが、今は距離を置くべきかと」
その言葉をベアータ・レジーネス(eb1422)が継いだ。
「謹んで新年のお祝いを申し上げます」
一礼してから口上を述べる。
「昨今の報告書では『臣従を求める姿勢は変わらず』との事。徒に同盟を結んでしまっては丹後の上に立つ藤豊家に対する不信感を抱かせる恐れが高く、ここは一旦話を凍結した方がよろしいかと愚考致します」
「確かに大国主は厄介だが‥‥今はイザナミが大事じゃ。あ奴に打つ手はないかの」
するとチサト・ミョウオウイン(eb3601)が進言を申し立てた。
「唯一恐れるのは、黄泉と人と精霊と妖しが一致結束し立ち向かって来る事、地に溢れた死霊を治める術を知る道標は黄泉を友とする事‥‥大国主はそう語っていました」
「そなたには思うところがあるようじゃな」
「大国主の言葉の真意を調べとう存じます‥‥神話の時代に隠された真実、そこに今起こっていることの解決の糸口が隠されているように思えるのです」
「ふむ‥‥神話に隠された真実か」
「陰陽寮、寺社‥‥引いては神皇家に秘蔵された書簡、口伝等で無ければ失われた伝承・知識はないかもしれません‥‥」
ベアータも秀吉に秘匿資料の閲覧を願い出る。
「恐れながら皇室関係の所持する極秘資料には、あるいは封印されていた太古の魔物に対抗できる書物も含まれているかと存じます」
「殿下、そう言った資料の調査も必要かも知れません。神を名乗る者たちの情報は確かに少ない」
アランも彼らの意見に賛同する。何しろ、数年前まで黄泉人の存在すら伝説でしか無かった。
「その方らの気持ちは痛いほど分かる‥‥」
秀吉はぱちんと扇を畳んだ。
「わしも同じ気持ちじゃ。神祇官や陰陽寮は、いまだにイザナミが黄泉人である事や、大国主が魔物を使役する事を認めようとはせぬ」
朝廷の祭祀を司る神祇官はイザナミや大国主を偽物と決めつけて取り合わない。無理もない話だが、イザナミ対策に奔走する秀吉は毎日遣り難い思いを募らせていた。イザナミ達を調べる研究も秀吉から見れば捗捗しくない。
「この期に及んでそのような‥‥都が落ちてからでは遅い」
「アラン、都の闇は深いぞ。わしは御所とは距離を取っていた。家康殿や虎長殿の苦労が分かるわ‥‥」
今にも陰陽寮に押し入って極秘文書を強奪しに行きかねないアランを秀吉は留めた。最高権力者といっても秀吉の立場は微妙である。強行手段は取れない。
「まあ、大昔の事じゃ。そのような極秘文書、確かにあるとは限らぬが‥‥」
この件は秀吉もアラン達も手を考える事にして、アランが話題を変える。
「一ヶ月後を目途に、新たに部隊を作れないでしょうか」
イザナミ対策として新部隊を立ち上げようというのだ。
この事はベアータと白翼寺も同意見らしく、私見を述べた。
「イザナミ軍と戦う兵は、既存の部隊では間に合いません。専門化する必要があり、屈強な浪人等を募り、取り急ぎ編成する必要があると存じます。ただ規模を大きくすれば準備に時を逸するかもしれず、詳細は実務を取り仕切る方々と相談する必要がございますが‥‥」
「私も新部隊には賛成です。特に、その部隊の指揮官は女性が適任かと。丹後峰山藩の春香姫を推挙致します。華があれば軍は潤います。戦乙女が旗印となりますれば藤豊軍の士気も高まるでしょう」
冒険者達の意見に、秀吉は何度も頷く。新設の急造部隊でイザナミと対するには色々と問題も考えられる。が、予想された意見であり、秀吉はこうした勢いは嫌いでない。
「うむ。神退治の部隊じゃな。勇者達を募ろう‥‥じゃが」
秀吉は困った表情で扇を畳んだ。部隊長に春香姫を用いるには問題もある。人質として藤豊家に預けられた姫の処遇は秀吉次第とも言えるが‥‥。
「どうかな?」
「‥‥」
秀吉から話を振られ、春香姫は冒険者たちに目を伏せてお辞儀する。指揮官の件はさておき、秀吉は新部隊設立を許した。
「さすが秀吉サンは話が早いぜ! そうこなくちゃなっ」
そばで聞いていた雷真水(eb9215)は膝を叩いて破顔大笑。戦場往来の女武者は、政治向きの話は苦手だったが仲間に誘われて参加していた。
「及ばずながら、あたしもそっちに参加しようじゃないか。せっかくの大戦なんだ、盛りあげていかなくちゃ嘘だろう」
「うむ、まったくじゃ」
秀吉は雷を見て人懐こい笑みを浮かべる。
「ま、宜しく頼むぜ。それと、あー正直あたしは情勢を仔細に理解してるわけじゃないんだが、今こそ神皇サマの鶴の一声が必要な時じゃねえかい?」
秀吉と相対した真水が言う。真剣な眼差しで話を続けた。
「いや、命令聞くとかないのはわかってるよ? そんなのはとっくにやってるだろうし。けどまあ、勢いってのがあるだろう。人間、悲しい事に義だけじゃ動けねえモンさ。つっても無い袖は振れねえだろうから、神皇サマがジャパンを守る聖戦とか言ってよぉ、盛りあげてけば違うんじゃねえかな‥‥うん、上手くまとまらないけどさ。どおよ?」
戦場とは勝手が違う話に、汗をかきながら弁をふるう真水。いかにも憂国の士が話しそうな内容で、諸将は冷ややかな反応だが。
「さあ。陛下の意を無視して戦を始めた不心得者どもが、従うかは分からぬのう」
「駄目かい?」
ばつの悪そうに頭をかく真水に、秀吉は言った。
「駄目なものか。その方の申す通り、此度はジャパンを守る聖戦じゃよ。源徳も伊達も、戦を捨てて京に馳せ参じねば腹を切らせるわい」
真面目な顔で言ったが、一瞬後には表情を崩した。
「戦の後に、このわしが生きておればじゃがの。生憎と、必ず勝てるとは言えぬわい。情けない関白で、申し訳がないのう」
「いえ‥‥とんでもない」
微笑する秀吉に、真水はすっかり恐れ入ってしまった。
話題が東国関連に移る。イザナミの脅威に晒された京都にとって、関東で起こった戦は厄介な問題だった。伊勢誠一(eb9659)は東国で活動する伊達家の冒険者である。彼は、伊達と藤豊の会談を唱えた。
「平織家は、神皇の剣たるべし、と唱えております。ですが現状をご覧下さい。陛下が和睦の御意を示したにも関わらず、それを蹴って戦を始めた源徳家康に呼応する如く、和睦受け入れの準備有りを表した武田領に攻めいりました。これを矛盾と言わず、何と申しましょう」
関白秀吉はジャパンの混乱を収拾し、神魔の猛威に備えるために人間同士の戦を禁じた。諸侯が修復不能な争いを抱えている事を承知の上での和平案だったが、平和を願う安祥神皇と、それ以外に道が無いと考えた関白の決断だ。だが、源徳家は公然と拒絶し、平織家も武田を攻めている。平和な時代であれば、有り得ない話である。
「関白殿下には平織・武田停戦の勅を出して頂くと共に、家康を朝敵として討ち、和睦に賛成した諸侯で東国の乱を治め、以後はイザナミや悪魔に一致団結して当たる、これこそ今為さねばならぬことです」
秀吉は扇を弄んでいる。伊勢の言は正論だが、源徳や平織の処置は秀吉としても最も頭の痛いところである。関白の様子を見て、白翼寺が提言した。
「関白殿下、この難局にあるいは知恵を持つ方がおられます。美濃の竹中半兵衛殿です」
白翼寺はかつて半兵衛のもとを訪れた経緯を話す。
「半兵衛か‥‥」
「関白殿下が神皇様の意を汲まれても、大名に疑念を抱かれたままでは、和平は望まれますまい。征夷大将軍殿とも協力していかねばなりません」
「ならばこそ、殿下は平織家を征夷大将軍にと陛下にお願いしたのでござる。にも関わらず、尾張は都を守るよりも東の戦に出かける始末」
武官の一人福島正則が苛立たしげに言った。藤豊家の武将が、平織家に不信を覚えるのも当然。
秀吉と平織家の奇妙な関係は、あえて簡潔に言うならば、両者の畿内での主導権争いが根にある。拗れた糸は、時と共に更に絡まる気配を見せていた。
「よろしいですかな」
口を開いたのは老エルフのアルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)。
「小田原で戦端を開いた以上、そう簡単には収まらんぢゃろう」
アルスダルトは小田原戦の際、上州で活動していた。同様に、この場には関東戦に参加していた者も多い。
「ぢゃが、最悪の事態は避けねばなるまい。関東諸勢力の疲弊ぢゃ。混乱が続けば結局苦しむのは民。それゆえ、関白殿には頃合を見て再び関東の仲裁に入って頂きたい」
北条、伊豆を接収した源徳軍と、武田を中心とする反源徳軍は源徳の旧領であり、今は武田領の小田原にて激突した。両軍合わせて万を超える大戦であり、数に劣る源徳軍の奮戦は、家康復活の急報を関東にもたらした。これに安房の里見が呼応する気配を見せ、関東勢力の殆ど全てを巻き込んだ未曾有の大戦に発展する様相である。
「講和に臨んでは、含んでほしい事がある。そもそも裏切りとは言え、江戸城を奪われたのは家康の不覚ぢゃ。家康には神剣に関する不明確な釈明と併せて、武門の長らしからぬ失態は明白ですな」
有耶無耶になったが、何故神剣が江戸城の地下にあったのかは今も謎である。
「摂政に背いた四国同盟の諸侯を処罰できなかった朝廷にも非がある。形だけでも手を打って置けば今日の事態は避けられたぢゃろう」
華の乱と称される四侯反乱劇は、誰も予想しなかった展開を見せた。源義経を担いで取り繕った伊達に対し、当時混乱していた都は無視する以外の手を打たず、当然すぐに反撃すると思われた家康が不気味な沈黙を守った事から、一年以上も問題が棚上げされた。逆に伊達政宗の方が「何故家康は来ないのか?」と不思議がったとも伊勢は聞いていた。
ともあれ、アルスダルトの言うように、摂政に対する反乱事件に、朝廷がシカトするだけだったのは恥ずべき事に違いない。
「それがイザナミが迫るや仲良くせよ、ではのう。家康が朝廷に絶望し、激発したとしても無理はなかろうて」
武家にとって領地の回復は、大問題。それを粗略に扱われてはジャパンが滅びようとも伊達を討つ、位の想いは源徳武士にあるだろう。
「アルス老、三河武士の心情は察するに余りありますが‥‥ならばこそ、家康は交渉を拒絶せず、公の場にて裁定を頼むべきでした。それこそが摂政として正しい戦ではありませんか」
と言ったのは政敵の立場にある伊勢。
「間違った和平では、断じて拒絶せざるを得ないわい」
二人の視線が絡み、火花が散る。
「‥‥四国同盟の言い分を聞くにしても今一度良く吟味し、筋が通った裁定をする事が必須ぢゃろう。関東の問題は政道の理を正した上で当らねば、今後更なる混乱を招くだけぢゃからな」
戦が終息しても、禍根が残ればより大きな戦になる事は多い。秀吉はアルスダルトの言葉に頷いた。だが、穏やかに口にしたのは。
「伊達の件は捨て置かぬ。なれど、朝廷を蔑ろにして戦を始めた源徳も許せぬなあ」
‥‥会合も終結し、酒が振る舞われた。
「神皇様が最後の望みを託して和を説いたにも関わらず、家康が之に叛いた事実は拭い去れないもの。藤豊としては如何致しましょうか。御命令あらば丹後のみならず、東国にも赴き全力を尽くす所存です」
アランは秀吉に今後の行動の指針を尋ねていた。
「近く家康の官位を剥奪する」
秀吉は家康の官位を剥奪すると言った。摂政は返上する事が既に決まっているが、それ以外に武蔵守と三河守、大名としての証しを奪うという。
「では家康を討つと?」
「討ちたくはないな。いや、少なくとも今は討てぬよ」
イザナミ戦を抱えている故に討伐令までは出さないと言った。しかし、事実上の逆賊扱いに変わりはない。
「まずはイザナミじゃ」
秀吉と京都は東国に頭を悩ませつつ、神との戦いに挑む。