丹後の盗賊、白虎団・其の六

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月09日〜01月14日

リプレイ公開日:2009年01月17日

●オープニング

 丹後、舞鶴――。
 現在舞鶴には丹後・藤豊連合軍約二千が駐屯している。丹後の中央から西方、峰山、宮津はイザナミの不死軍、丹後の導師に蹂躙された。現在宮津、峰山の状況は不明だ。民はここ舞鶴か、丹後南東大国主の領域に逃げ延びた。
 人々は丹後最後の砦となった舞鶴で、迫り来る不死軍の脅威に怯えていた。イザナミ軍が攻めてきたら一巻の終わりだ‥‥そんな噂が人々の間に広がっており、舞鶴は暗澹とした空気に包まれている。
 ここ最近の丹後で最大の猛威を振るっているのは言うまでも無くイザナミ軍だが、民を脅かすのは不死者だけではない。丹後には「白虎団」と言う名の盗賊がおり、かつては丹後全域を荒らしまわっていた。
 だがさしもの丹後の盗賊団も不死軍の脅威にすっかり勢力を後退させたと言われる。舞鶴に都の連合軍が駐屯していることもあって、盗賊たちが大々的に活動する余地もなかった。丹後の盗賊のことなど誰もがすっかり失念していた。そんなある日‥‥。

 舞鶴の小村に盗賊たちが現れた。盗賊の頭領を黒川金兵衛と言う。過日、ここ舞鶴で冒険者達に撃退された盗賊の主である。過日は極悪非道な手口で村人を殺戮した黒川であったが、今回は手口が違った。
「丹後はもう駄目だ。イザナミの亡者どもがもうすぐやって来る。逃がしてやるから丹後半島に来い。俺達が安全な場所へ逃がしてやる」
 そう言って村人たちを勧誘し始めたのである。丹後半島は白虎団始め、盗賊たちの本拠地である。
 誰が好き好んでそんなところへ行きたいはずもない。村人達は沈黙をもって黒川を無視した。だが黒川はしつこく勧誘した。そうして、あまりのしつこさに村人たちは舞鶴城に助けを求める。
 村人の要請に応えた舞鶴城からは侍が一人と足軽が数名派遣された。盗賊たちもほんの数名程度だったので十分だろうと思われた。

 ところが――舞鶴城に足軽だけが戻ってきた。
「何とした?」
 侍大将が問い質すと、
「お侍様がやられました」
「何?」
「盗賊の黒川って野郎の不思議な魔法で‥‥何で盗賊が魔法を使えるんですかね? そこまでの相手だと想定してませんでしたから、あっしらは逃げるしかなく‥‥」
「魔法だと?」
 侍大将は眉をひそめた。盗賊が魔法を使うなど余り聞かない話だ。そこで陰陽師や僧侶に聞いてみると、黒川が使ったのは尋常な魔法では無いという。
「尋常な魔法ではない?」
「確信は持てませぬが、悪魔の使う技かもしれませぬ」
 目撃証言を聞き、侍の遺体を調べた僧侶が云う。
「黒川なる者が悪魔の術を? 一体どういうことなのだ‥‥」
 黒川はこうも言っていたと言う。――このままではいずれ丹後は黄泉人の大軍に滅ぼされるだろうが、いいだろう、丹後くらいくれてやる、と‥‥。
「むう‥‥」
 悩んだ侍大将は冒険者ギルドへ使いを走らせる。イザナミ軍が迫っている今、盗賊たちに多くの戦力は割けない。
 デビノマニと言う言葉を知る者はジャパンでは冒険者くらいだろう。デビル魔法を操る黒川がデビノマニかどうかは分からない。
 いずれにしろ、先の凶行を見ても黒川は凶暴な性格だ。事態が悪化する前に止める必要があるだろう。

●今回の参加者

 eb3601 チサト・ミョウオウイン(21歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ec3862 メイム・エスタナトレーヒ(24歳・♀・志士・シフール・イスパニア王国)
 ec4061 ガラフ・グゥー(63歳・♂・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ec6001 吉村 貫一郎(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 舞鶴――。
「そうですか‥‥分かりました‥‥」
 チサト・ミョウオウイン(eb3601)は足軽や僧侶たちから話を聞き、黒川の正体について考えを巡らせる。
 その傍らでシフールのメイム・エスタナトレーヒ(ec3862)が侍達に掛け合っていた。
「あるいは、黒川は普通の武器が利かない魔物かも知れません。オーラパワーを使えるお侍様二人ほど、ご一緒願えませんか」
 侍二人に足軽数名の助勢を要請するメイム。
「魔物か‥‥」
 侍大将は思案顔でうなったが。
「よかろう」
 頷いて若い侍を二人呼んで来た。
「黒川という盗賊の件は聞いておろう。弔い合戦だ。賊の首を上げてこい」
 大将から言われて若手は生真面目に頷いた。

 村に先行するシフールのガラフ・グゥー(ec4061)は盗賊たちの様子を探っていた。
 盗賊たちは情報どおり村人たちを勧誘しているのか、しきりに話しかけていた。
「‥‥丹後半島に来ないか? ここはもう駄目だろう。俺達のところへ来れば、黄泉人からかくまってやるぞ」
「‥‥‥‥」
 村人は答えない。侍が一人殺されているので恐怖に怯えていた。
「だんまりか? 全く、俺達がそんなに恐いのかねえ」
 それは恐いだろう。
「なあ、よく聞けよ。黄泉人がやってきたらどうする? もう都へでも逃げるしかないんだぜ? 慣れ親しんだこの土地を捨てて都まで逃げたいか? 丹後半島なら安全なんだ。それが証拠に、丹後の導師は半島には見向きもしないだろ。なあ、俺達を信じろって。半島まで来りゃ、安全だぜ」
 盗賊は優しい声で勧誘していたが、村人が賊を信用するはずもない。
 ガラフは首をひねった。
「あ奴ら、何を考えておるんじゃ。啓蒙活動でも始めるつもりかの。いや、まさかのう‥‥」
 話を盗み聞きしていたガラフは枝に止まってまた様子を探る。
「ぬ‥‥あれは、黒川か‥‥」
 ガラフは諸悪の根源を発見して再び飛んだ。気付かれない程度まで近付く。
 黒川の隣には小奇麗な衣を着た子供がいて、何やら話しこんでいた。
「村人たちの様子はどうだ黒川」
「はい、やはり駄目ですな。俺達の言葉を聞く連中なんていませんな」
「そうか‥‥それは残念だ。やはり悪玉の言うことなんて聞く人間はいないか‥‥はっはっはっ」
「どう致しましょう。そのうち黄泉人がやってくれば、丹後から人がいなくなってしまいます」
「黄泉人どもにも困ったものだ。まあ、人間ももう少しやるかと思ったが‥‥仕方あるまい。こうなった以上、お前達盗賊も、丹後の人間と一緒に黄泉人と戦うか?」
「え? ですがお頭がどう言うか‥‥」
「永川龍斎は俺が説得してみよう。もっとも、人間が盗賊を受け入れるかどうか‥‥」
 そう言うと、不可思議な子供はガラフが見ている前で、消えた。
「何じゃあの子供みたいなのは‥‥魔物か」

「‥‥それって黒川が契約した悪魔じゃないかな」
 村に到着したメイムはガラフの話を聞いて言った。
「悪魔との契約とは穏やかな話ではありませんな」
 侍の言葉にメイムは頷く。
「黒川が第四段階のデビノマニかどうかは分からないけど‥‥前に出てこない様子なら第四段階に達していない可能性が高いと思う。その場合は普通の武器でも多分大丈夫。魔法にも回数制限があるはず‥‥だよねチサトちゃん」
 チサトは写本「悪魔学概論」を片手にメイムの説明を補完する。
「黒川が使った魔法はデスハートンのようです。それも複数回にわたって使用したようですから、単なる契約の段階は過ぎているでしょう。第二段階以上に達している可能性があります」
「その‥‥第二段階とか、何なのだ」
 侍は首をひねる。
「悪魔との契約には段階があります。第一段階は悪魔が簡単な力を貸している状態です。第二段階、第三段階と悪魔との契約を重ねていくほどに強力な力を手に入れることが出来ます。無論、契約はただ行われるのではなく、契約者の魂が要求されます。その代償と引き換えに悪魔の助力を得ることが出来ます」
「なるほどな‥‥黒川はもはや半分魔物と化しているわけだな」
「まだ人間ではあります。ただ、黒川は進んで魔物への道を歩んでいはいるようですが‥‥」
「しかし丹後の盗賊、村人を勧誘とは何を考えているのか‥‥」
「悪魔の分際で我らとともに戦おうなどと‥‥いっかな何を考えているのか見当もつかん」
「とりあえず、行きましょうか。村人さんたちは困り果てている様子だし。黒川が本性を現して犠牲が出たら大変なことになるしね」

 ‥‥そうして、冒険者達は盗賊との戦闘に突入する。
「アイスブリザード!」
「ライトニングサンダーボルト!」
「盗賊ども! 今回は先のようにはいかんぞ! 貴様らに命を奪われた同胞の仇、取らせてもらう!」
「しっふしふ〜、ソメイヨシノは重すぎたみたい‥‥」
 戦闘が始まると積極的に冒険者達、侍たちは盗賊に打ちかかっていく。メイムは一応飛べるが刀を持ち上げることが出来ない‥‥。
「またしても冒険者か、しつこい奴らだ」
 黒川はさっと手を翻すとデスハートンを唱える。侍の体から奪われた生命力が黒川の手に白い塊となって吸い取られた。
 ガラフはサイレンスで黒川の魔法を封じる。さすがに黒川が慌てた。
「今じゃ! 黒川の魔法は封じたぞい!」
 チサト、ガラフの範囲魔法で援護射撃を行いつつ、侍達は盗賊を追い詰めていくが――。
 形勢不利と見た黒川は近くにいた子供を捕まえると刀を突きつけた。好奇心からか、男の子が戦いを覗き込んでいたのだ。
「おい武器を下ろせ冒険者ども! 子供がどうなってもいいのか!」
「何おう、この期に及んで‥‥」
「おのれ‥‥卑劣な」
 歯ぎしりする侍達。
「貴様! 村人の安住などと嘘八百を並べ立ておって! 魔物と結託して何を企んでおる!」
「俺は改心したんだよ。こう見えてな、丹後の将来が不安に思えてきたんだ。だから償いの意味も含めて、少しでも多くの丹後の民を救いたいと願っているんだぜ」
「ふざけるな!」
「ふざけているもんか。俺は大真面目よ。黄泉人の進軍を前にお前達はなす術もないじゃないか。この危機に立ち向かえるのは悪鬼羅刹の力をもつ悪魔しかおらん」
 死の様な沈黙が下りた。黒川の長口上に冒険者たちは閉口してしまった。人質さえいなければ問答無用で切りかかるところだが。
「さて‥‥どの道お前達とは幾ら話しても埒が明かん。おっと、動くなよ、今回はおとなしく引き下がってやる」
 黒川たちは人質を盾に村外れまで後退する。そして最後に子供を手放すと村から逃亡した。

「うー、逃げられた〜、悔しいしっふしふ〜」
 メイムは地団駄を踏んだ。
「村人たちに被害が出なかったのは幸いとするべきかも知れません。悪魔が絡んでいたのですから‥‥」
 チサトの言葉にガラフは吐息する。
「今ひとつ釈然とせんのう‥‥悪魔が何を企んでいるのかさっぱりじゃ」
「む〜、黄泉人以上の災いとは思えないんだけど、地獄との戦いが始まったばかりだし、足元をすくわれたくないね」
 メイムは遠くに消えた盗賊たちの影を見つめていた。