丹後の戦い、大江山の鬼退治・其の六
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:14人
サポート参加人数:4人
冒険期間:01月19日〜01月24日
リプレイ公開日:2009年01月29日
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●オープニング
丹後南部、大江山連峰――。
京極家の救援として都からやってきた藤豊軍はここで年を越した。兵士達に疲労の色は無い。補給は十分だ。
藤豊軍の総大将である糟屋武則は京極高知と話し込んでいた。
「‥‥高知殿、イザナミ軍の猛威が確実に迫っているでござる。大江山平定を成し遂げても丹後が黄泉人に飲み込まれては元も子もありませぬ。私としては、大江山の平定は一時中断し、我らも丹後の決戦に備える必要があるかと思います。どうですかな」
「確かに、黄泉人の軍勢が押し迫っている今、大江山の平定ばかりを優先するわけにもいきますまい」
「丹後の導師‥‥今はあ奴を止めねばなりません。ここ丹後南部には最小限の戦力を残し、もし次に導師が舞鶴へ動くようなことがあれば、その時は我らも戦場へ向かう‥‥それが今必要なことではないでしょうか」
「ただ糟屋殿、戦端を開いた以上、鬼がこのままおとなしく引っ込んでいるとも限りませぬ。黄泉人の進軍と合わせて鬼どもが山を下りてきたなら、厄介なことになりますぞ。ここ丹後南部は舞鶴の藤豊軍など大軍を支える兵站の要。もし黄泉人に舞鶴を奪われた場合、ここを押さえておかなくては丹後に十分な物資を提供できなくなる恐れがあります‥‥」
高知の懸念はもっともである。今は舞鶴に直接物資を提供できるが、最悪の場合丹後南部を押さえておかなくては、丹後軍は戦闘を維持することは困難になる可能性がある。
糟屋はうなった。確かに高知の指摘は重大である。どれほどの大軍も補給無しには活動できない。ここ丹後南部を確実に押さえておくことは、黄泉人との戦いが長期化した場合に必須とも言える。
「この地を放棄するのは確かに危険が大きすぎるかも知れません‥‥ですが、半数でも導師との戦いに振り向ければ、舞鶴の同胞の戦いを楽に出来るかも知れません」
この地に駐屯しているのは千近い大軍である。高知は思案顔で顎をつまんだ。
「どうでしょうな‥‥難しいところです。兵站を確保しておくのは重要な役割です。山にはまだ多くの鬼がいる様子。兵を半数に減らしたところを鬼が狙い打ってきたら‥‥」
「高知殿には危険と映るようですな」
「ええ。まだ手綱を緩める時ではないと考えます。ここにいる兵力は大江山の平定に当たらせ、確実に丹後南部を押さえておくべきだと考えます。舞鶴の同胞には、最悪の時は逃げるように提案しておくべきでしょう。一言で丹後と言っても広大です。仮に舞鶴で敗れたなら宮津、峰山の奪回に向かうという策も考えられます。無論、導師に対して勝利を収めるに越したことはないわけですが」
「ふうむ‥‥」
糟屋は高知の言葉を吟味する。糟屋には高知の考えは慎重に過ぎると思われた。この地には最低限の兵を残し、今は導師との戦いに赴くべきではないか‥‥。
そんな時である、警戒に当たっていた京極家の侍が駆け込んできた。
「糟屋様、高知様、山の上方より鬼どもが姿を見せております。どうやら下山してくる気配です」
「そうか、来たか‥‥」
高知は立ち上がる。
「数は?」
糟屋の問いに、
「百体は越えるでしょう。久しぶりの大軍ですぞ」
「ほう‥‥打って出てくるとは‥‥先の手痛い敗北が利いておらぬか、よし!」
糟屋は全軍に号令する。下山してくる鬼を迎え撃ち、先に進撃した場所より更に奥深く、山中にあるの鬼の砦を攻略する。
先の戦いで大江山の上方に鬼の砦が築かれているのが発見されている。今回はそこまで進撃する。
「大江山の鬼どもめ‥‥恐れ知らずな連中だ。こちらは大軍だと言うのにな。砦を攻略し、何としても鬼どもを山奥に封じ込めておかねば」
糟屋は都にも使者を飛ばす。冒険者ギルドにも大江山の戦いへ呼びかける依頼が張り出される。
かくして、年明け最初の大江山の戦いが始まった。
備考:藤豊軍の戦力は侍五百、足軽五百、陰陽師二十、僧侶・僧兵十。それに加えて京極家の侍百人が出陣する。
●リプレイ本文
未だ至らず
未だ為さず
然れども、立ち止まれず
今はただ戦うのみ
無辜の民の未来の為に
――アンドリー・フィルス(ec0129)が大江山にて詠んだ歌である。
降りしきる雨が冷たい。ヴェニー・ブリッド(eb5868)がレインコントロールで雨を降らせたのだ。迎撃と連動して行われる奇襲攻撃を成功に導くためである。雨で奇襲部隊を隠しておこうというのだが。
ベアータ・レジーネス(eb1422)はウイングドラゴンに乗って上空を旋回する。ブレスセンサーに多数の呼吸を感知する。
地上では例によって陰陽師たちが遠視の魔法や透視の魔法を駆使して鬼軍の接近を告げていた。
ベアータが鬼と思われる全軍の位置をヴェントリラキュイで伝えてくる。
「鬼達は前方に展開しております、幾つかの集団に分かれておりますが、およそ百体余り。京極家のお方が申された通りです」
陰陽師とのテレパシーで細かく情報を確認する間にも、楠木麻(ea8087)と明王院浄炎(eb2373)らが鬼の進軍ルートに罠の設置へ向かう。
浄炎は馬を引いて進んでいくと、適当な場所を見繕って道具と木材を取り出して罠を作っていく。
楠木はファイヤートラップの仕掛けに向かう。
「雨かあ‥‥雷撃魔法には助かるけど‥‥寒さが身にしみる!」
ペットの月精霊は楠木の回りを飛びながら「麻、寒いか?」と言って笑っていた。
「えい! 僕は今仕事で忙しいんだよ」
そうこうする間に鬼の部隊は近付いてくる。
「奇襲部隊の皆さんが無事に砦まで辿り着かれると良いですが‥‥」
メグレズ・ファウンテン(eb5451)はデュランダルの柄を握りながら兜から滴り落ちる水滴を拭っていた。
「敵、間近に迫っています」
ベアータの声。罠に掛かって怒号を上げる鬼の咆哮がほぼ同時に鳴り響いた。
楠木も空飛ぶ絨毯に乗って飛び出す。
「弓隊構え!」
ばらばらと鬼の群れが姿を見せると、味方の弓兵が一斉射撃を行う。
ベアータは鬼の群れにストームを、楠木はアイスブリザードを叩きつける。
同じく上空、グリフォンの鞍上で様子を見ていたアンドリーは火の手が上がるのを確認してフライで突っ込む。
乱戦が始まる。人喰鬼に矢が降り注ぐがびくともしない。アンドリーは突撃すると、オーラマックスで上昇したAPにものを言わせて連撃を叩き込んだ。人喰鬼も攻撃を跳ね返すがアンドリーの連続攻撃には及ばず沈んだ。
侍衆が束になって人喰鬼に打ちかかるが――炸裂する人喰鬼のスマッシュEX!
「ぐあっ!」
一撃で行動不能に陥る侍。さらに人喰鬼のポイントアタックEXが兵士の胴を切り裂いた。
「妙刃、水月!」
メグレズはコンバットオプションの合成技で人喰鬼と互角以上の奮戦を見せる。だが鉄壁で鳴らすメグレズですら人喰鬼のスマッシュEXにダメージを被った。
盾持ちの浄炎はスマッシュEXは跳ね返したが、人喰鬼の通常攻撃とは互角、武器と武器がぶつかり合う。
ともあれ藤豊・京極軍は数では勝る、何とか迎撃には成功した。鬼達は後退し始める。
重傷者を馬に乗せて救護所まで運ぶメグレズや兵士達。
「亡くなった方をお連れしました!」
「涼哉先生、首や胴が切られていますが、まだ時間はあるはずです」
頴娃文乃(eb6553)の鋭い声に白翼寺涼哉(ea9502)が頷いた。
「遺体を下に置け、結合を試みる」
首と胴体を置いてクローニングを唱える白翼寺。何とか成功。他にも死亡した者にクローニングを使うことになる。死んだ者は都の寺に運ぶことになるだろう。
それから怪我人の診察に当たる白翼寺。怪我人を文乃と僧侶、僧兵達に割り振って全員で回復作業に当たる。
さて奇襲部隊はその頃‥‥。
「生き残る為に人も必死なんでしょうけど、今も昔も京都の権力者さんは相当腹黒いってことは確かみたい。それに振り回される下々の人にはいい迷惑でしょうけど‥‥」
ヴェニーはリトルフライで上空から砦の偵察を済ませており、仲間達にも伝えていた。
「鬼さんたちには悪いけど、逝ってもらおうかしら」
そして、ヴェニーの超越ショーが始まる。レミエラ効果でコーン状になった超越ライトニングサンダーボルトを鬼の砦に打ち下ろしたのだ、MPの続く限り。傍若無人なまでの破壊力で数個の砦に大打撃を与えたヴェニーだが――。
「魔法使い、随分と同胞を殺してくれるものだな」
「全くだ。ここまでやるとは驚きよ」
人喰鬼だ、鬼が話している。しかもヴェニーの上にいて飛んでいる。
(嘘!?)
「これからが本番‥‥お前達の手並みを拝見するとしよう」
空飛ぶ人喰鬼たちは笑声を残すと飛び去った。‥‥ヴェニーは混乱して飛び去る鬼を見送った。
「どうやらうまく近づけたみたいなのです」
月詠葵(ea0020)は上空から落ちてくる稲妻の様子を伺っていた。ヴェニーの攻撃は終わったようである。
ここまで一行を導いてきたのは京極家家臣の木下茜(eb5817)である。
「さて、あとどれくらいの鬼が残っているのかな」
そう言ったのは南雲紫(eb2483)。
そこへヴェニーが空から戻ってくる。
「空飛ぶ鬼を見た?」
一同ヴェニーの話に耳を疑った。
「本当に鬼だったの?」
南雲の問いにヴェニーは思案顔。
「あるいは天狗の一種かも知れません。天狗も空を駆ける神通力を持っていますし。天狗と鬼は同じ分類に属するモンスターですから」
「天狗ねえ‥‥でも天狗が人を襲うなんて聞いたことが無いけど」
「いずれにしても、空を飛び、人語を解する鬼がいるということは確かなわけです」
ではなぜ攻撃してこなかったのか? 謎を残しつつ、奇襲部隊は奥に進むことにするが。
「その前に、アタイがちょっと中を見てきます」
木下は透明化の指輪で姿を消すと、月影の袈裟を使って足元の影に潜り込んだ。
‥‥ほどなくして戻ってきた木下。砦の中はまばらに鬼が残っているという。
「では倒すしかないな」
アラン・ハリファックス(ea4295)は槍を担いで背後の二人を見やる。美女二人。馬に乗った雷真水(eb9215)とアイシャ・オルテンシア(ec2418)だ。二人とも馬を操る術には長けている。荒々しい地形を克服してここまでやって来た。
味方の陰陽師数人とアイシャでブレスセンサーを唱える。鬼の数は数体。
木下の手引きでさらに砦に接近する。
「よし、頼むぞ」
アランは陰陽師たちに合図する。陰陽師が砦の中にシャドウフィールドを張って鬼の視界を封じる。フィールドの直径は砦を覆うほど。高度な技だ。ゆえに連れて来たのは貴重な数少ない熟練陰陽師である。
冒険者達は待った。鬼の鳴き声がして、やがて暗闇から馬頭鬼と牛頭鬼が飛び出してきた。
「行くぞ!」
「はい!」
月詠と南雲で牛頭鬼に切りかかる。
「こちらも始めるか‥‥真水、アイシャ、援護を頼む!」
「任せときな!」
「お任せを!」
アラン、真水、アイシャらは馬頭鬼に立ち向かう。
木下は戦闘の合間を飛び回って大鬼達をダガーofリターンで牽制。
オフシフトで牛頭鬼のスマッシュをかわした月詠は返す一手で相手の腕を切り落す!
激怒する牛頭鬼の分厚い胸板を南雲の一撃が切り裂く!
アランたちは三位一体の連携攻撃。真水とアイシャの攻撃で手数を封じてアランが主となり攻撃を仕掛ける。馬頭鬼は苛立たしげな咆哮を上げるが遂には倒れた。
牛頭鬼も倒れる。
冒険者達は続いて現れた人喰鬼を葬り去って砦の残敵を掃討する。
それからヴェニーが攻撃した砦を回り、残る鬼と戦っていた冒険者達だが、そこへ下から迎撃部隊に追われて鬼が戻ってくる。
戻ってきたのは山鬼や熊鬼に率いられた小鬼たち。
アンドリーが瞬間移動してきて奇襲部隊と合流する。
「砦の様子はどうだ?」
「幾つかは落としたが‥‥まだ先があるだろう。空飛ぶ鬼とやらもいるようだしな」
「こちらは辛くも勝ったのだが、人喰鬼もそうだが、山鬼、熊鬼と言えど束になると厄介だ」
前回のように強力な魔法を正面からぶつけることが出来なければそんなものだろう。鬼の側も全滅する前に逃げた。
上空をドラゴンライダーのベアータや空飛ぶ絨毯に乗った楠木が飛んでいる。兵士達は追い立てるように鬼を追撃していくが。
「深追いしないように言っておけ。まだ砦は残っているからな」
アランはそう言って、藤豊家の侍達に自重するよう求めた。
逃げる鬼を木下は追った。
小鬼達は砦に逃げ込む。奥地の砦にはまだ大鬼が健在で、一つの砦に少なくとも一体は大鬼が陣取っていた。木下は姿を消している。まさか敵陣のど真ん中で姿を見せるわけにもいかない。デビルアイはともかく、インタプリティングリングを使っても相手が見えなければ鬼も話しようが無い。もっともまともな話合いになるかどうか疑問だが。
とりあえず出来るだけ奥まで進むと――。
砦の数々を抜けた先、奥地の山あいにその町?砦?はあった。どうやったのか、巨石を積み上げた防壁が張り巡らされている。岩の町。数百を越える鬼の大集団が町を徘徊している。
「鬼の小国か‥‥」
木下は身震いした。どうやら大江山は想像以上に恐ろしい場所のようである。
‥‥藤豊・京極軍は瀕死の鬼を捕虜にし、情報収集を試みる。陰陽師のテレパシーである。
「お前達の首領のことを聞きたい」
真水は通訳を頼む。人喰鬼は怯えた様子もなく笑う。
「我らには偉大な神がついている。お前達は鬼神の逆鱗に滅ぼされるだろう」
「鬼神? そいつが知恵をつけてるのか」
「あの方たちは偉大な神だ。我らが及ぶところではない」
それから鬼国の戦力を聞き出す。
「我らが国に攻め入るのは不可能だ。人間よ、お前達は侵略者だ。攻め入るなら覚悟しろ」
そこまで言って人喰鬼は沈黙した。そして糟屋自身が鬼の首を刎ねた。
戦闘終結後、今後の大江山の攻略について話し合われ、藤豊軍はここ丹後南部を押さえる役目を果たすことで方針はまとまった。