人切り事件、江戸近郊の町にて
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:7人
サポート参加人数:3人
冒険期間:01月01日〜01月06日
リプレイ公開日:2007年01月05日
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●オープニング
‥‥江戸近郊のとある町。小さな武家の屋敷――屋敷と呼ぶには小さな家であるが、その頭領、侍の雪村甚六はいらついていた。仕事のことで上司の侍から叱責され、その腹立ちを紛らわせる方法はないかと思案に暮れていた。
そして、甚六は家を出ると、町に繰り出した。甚六は街中を歩きながら目を動かしていた。せわしなく動いている割には、その眼は注意不足だった。不意に飛び出してきた百姓の家族、野菜を乗せた荷車を引いていた百姓夫婦と子供が甚六と激突した。
甚六は地面に倒れ込んだ。
「何だ貴様ら! このわしの邪魔をするか!」
甚六は抜刀した。
百姓夫婦は恐れ多いとばかりに土下座する。
「も、申し訳ありません。つい、うっかりしておりました‥‥」
「袴が汚れたではないか! 百姓! どこに目をつけておる!」
「も、申し訳ありません‥‥」
百姓夫妻は土下座する。
「ふん! 百姓風情が! このわしの邪魔をしおって!」
甚六は百姓夫妻に歩み寄ると、その妻を切って捨てた。
「ふん! 二度とわしの邪魔をするな!」
甚六は歩き去った。
「あ、ああ‥‥」
夫は動かなくなった妻の体を抱き起こす。
「雅‥‥雅‥‥なんてことだ‥‥こんなひどい‥‥」
子供はわけも分からず泣き出した。
雅‥‥雅‥‥百姓の夫は妻の名を反芻した。
そして江戸‥‥冒険者ギルド。
「おら‥‥こんなことが許されて良いはずないと思うんだ」
雅の夫、彦兵衛はギルドにやってきていた。
「何の罪もないおらの嫁を、刀でばっさり‥‥おら‥‥悔しくて‥‥」
彦兵衛の傍らには年端も行かぬ息子の姿が。
「侍だからって、何でも許されるはずがねえ。甚六はそれなりの報いを受けるべきだ」
ギルドの職員は同情するように彦兵衛の言葉を書き連ねていく。
侍の甚六に対する報復‥‥彦兵衛の依頼はそのような内容であったが、武家と百姓の関係を考慮に入れて、うまく事件を取りまとめるように、とギルドの職員は依頼書に捕捉しておく。
「報酬だば‥‥ほんに少ししか用意できねえが‥‥」
彦兵衛は一握りの報酬をギルドの受付に渡すと、肩を落としてギルドを後にした。
●リプレイ本文
●張り込み
事件のあった江戸近郊の町にやって来た冒険者たち。依頼解決に向けて動き出す。
まずは甚六の屋敷の場所の把握に務める楊苺花(ea7447)。事件があった場所の近くで聞き込みを行う。
「え? 彦兵衛の奥さんが甚六に切られた? いや、それは聞きませんな、本当ですか?」
楊の問いかけに耳を疑う侍。
楊は聞き込みを終えると、そのまま甚六の家の前に張り込む。
夜になると、リオ・オレアリス(eb7741)が甚六の家に向かう。
「楊さん、見張りをお願いね」
「気をつけて、リオさん」
そして、リオは四苦八苦しながら甚六の家に忍び込む。無駄な魔法を使うことは出来ない。縁側から上がり込み、そろそろと家の中を捜索。甚六は居間で酒を飲んでいた。リオはスクロールを広げると、女性の幽霊のような幻影を作り出し、さらに別のスクロールを使って落とし穴を作り出す。運良く魔法は成功。
リオは頃合を計って障子の隙間から甚六に石をぶつける。甚六は振り向くと、幻影に腰を抜かして刀を抜く。甚六は幻影に切りつけようとしたが、穴に気付いて立ち止まる。やがて魔法の効果が切れる。
リオは内心で「惜しい」と呟いた。
と、甚六が素早く行動し、障子をぱっと開けた。
リオはびっくりして逃げ出した。
「危ない危ない‥‥」
リオは脱出しながら呟く。
リオが外に出ると楊が駆け寄ってきた。
「大丈夫でした? 中々出てこないから心配してたんですよ」
「ちょっとやばかった」
リオは胸をなでおろす。
「仇は必ず取る。すまんな」
町へやってくる前に依頼人の彦兵衛に挨拶しておいた椋木亮祐(eb8882)。甚六の行動範囲と評判について調べてみる。
評判の方は、今回の事件いくらなんでもやりすぎでは、との町人たちの声も所々で聞かれる。
また、敵討ちはしっかりした理由があれば事後でも認めて貰えると聞いた椋木。以前の状況や内容を調べて、敵討ちに認定してもらえないか、出発前に冒険者ギルドで確認してみた。ギルドの職員は甚六の上司や町奉行所と連携するのがベターであろうと封書をしたためてくれた。万が一の場合は封書を上司の侍なり奉行所に提出して、これが敵討ちであることを知らせるようにと。
それから数日間は甚六の見張りを続ける冒険者たち。甚六は町の役場と家を往復する毎日。
そして三日目の夜‥‥。
●敵討ち
出来るだけ甚六を説得し、彦兵衛への謝罪などで済ませたいところではあるが、今回は依頼人の妻が切られている‥‥謝罪だけでは償われない。だが、無礼打ちで済ませられるとすると‥‥闇討ち‥‥になるであろうか。甚六が一人になったところを見計らっての急襲‥‥好機が訪れるかどうかは分からないが‥‥。クリス・クロス(eb7341)は目の前の甚六を眺めながら水で薄めた酒に口をつける。
ここは酒場。クリスは甚六の愚痴を適当に聞きながら相手のおちょこに酒を注いでいた。
自分があまり酒に強くないので水で薄めた酒を飲んでいるクリス。逆に強い酒を甚六にどんどん飲ませて酔わせてみる。
すると、甚六は自分の口から今回の事件について語り出した。あれは運の悪い事故だった‥‥気の毒なことをしたと思っている云々‥‥。
それを聞いていた客の侍たち。偶然この場に居合わせた侍たちだが、びっくりした様子で甚六の様子うかがっている。一瞬訪れた沈黙は、すぐに人々の話し声にかき消された。
「それじゃ、二件目の店に行きましょうか」
クリスは甚六を促す。甚六は酔っ払ったままクリスの後から店を出る。
外は霧雨が降っていた。
クリスは適当に会話を続けながら甚六と歩いていた。やがて好機が訪れる。人通りがぱったりと途絶えたのだ。
突如雷鳴が轟き、稲妻が甚六を直撃する。リオの魔法、ヘブンリィライトニングだ。甚六は膝をつく。
「始まったか‥‥」
クリスはその場を離れる。
闇の中から姿を現す楊。ナックルをかちんかちんと打ち合わせながら甚六を見つめている。
楊に続いて、黒装束に身を包んだ小鳥遊郭之丞(eb9508)が姿を見せる。感情を押し殺して甚六を見つめる。雨露をぬぐって、立ち上がる甚六に厳しい眼差しを向ける。
そして、二人の後から椋木も姿を現す。抜刀して口を開く。
「無礼打ちは八つ当たりの言い訳ではないんでな。人殺しの報いを受けろ甚六」
「何の話だ? お前たちは誰だ?」
その声は酔った侍のものではなかった。
「忘れたか甚六。まあいい、この剣にかけて思い出させてやろう」
「剣にかけてだと? このわしと正面切ってやる気か? 面白い、かかって来い小僧」
「ふん、調子に乗るなよ侍」
椋木はすうっと刀身を持ち上げる。
楊はファイティングポーズを取る。
小鳥遊は柄に手をかけると、じりじり、と甚六との間合いを詰める。
甚六は抜刀すると、ゆっくり刀身を持ち上げる。
隙の無い構えだ‥‥小鳥遊は甚六に近付きながら口を開く。
「侍、私の名は小鳥遊郭之丞。本来なら一対一の果し合いによって貴様を葬りたいところ。このような所業に及んだのは、彦兵衛の無念を確実に晴らすためだ」
甚六の表情がかすかに揺れる。小鳥遊の気迫が一瞬甚六を圧倒したのだ。その瞬間小鳥遊は踏み込んだ。抜刀。鞘から解き放たれる刀身が甚六の胴を薙ぐ。
舌打ちして間合いを図る甚六。すぐさま反撃に転じる。小鳥遊の刀と甚六の刀が火花を散らす。技量はほぼ互角。
甚六の背後に回りこむ楊。それを察知して刀を振るう甚六。一撃、二撃と甚六の刀身をサイドステップでかわす楊。反撃に転じる楊の蹴り。高速の蹴りが炸裂する。甚六はよろめいた。
「あんた、人を斬ったわね。あたし、見てたのよ。あんたが罪も無い百姓を斬って捨てるとこ。そんなことが許されると思う? 人は死んだら二度と生き返らないんだよ? 家族がどれだけ悲しむか解る? あんたは鬱憤晴らしの為だけにそういうことをしたんだよ? ‥‥というわけで、その罪の重さを身を持って知れ! この外道! 覚悟!」
「やかましいわ!」
甚六は苛立たしげに刀を振るう。
と、そこへ町の侍たちがやってきた。現れたのは二人の侍。
「甚六! 何事だ!」
「見て分からぬか! 闇討ちよ!」
闇討ちと聞いて、侍たちは抜刀する。
「雑魚どもは引き受ける、甚六をやれ」
椋木は侍たちに向かって刀を振り下ろす。衝撃波が侍たちを直撃する。ソニックブームだ。突撃する椋木。二人の侍たちを引き付ける。椋木は攻撃を回避しながら侍たちにあえて峰打ちを食らわせる。
甚六はと言うと、楊と小鳥遊から挟み撃ちを受ける格好となっていた。じりじり、と後退する甚六。そして、甚六は逃げ出した。
「どうされましたか甚六殿」
鬼灯(eb5713)は甚六の前に立ち塞がる。鬼灯は人遁の術で役人姿に化けている。
「おお役人! 良いところに来た。実はな、何者かがわしを狙っているようなのだ。今そこで闇討ちにあってな‥‥」
「ほう、何か心当たりでも?」
「恐らくわしが切った百姓が何か小細工をしよったのだ。それらしきことを言っておった‥‥くそ! もう追ってきおったぞ。役人、早くわしを奉行所へ」
「失礼だが、今百姓を切ったと申されましたな。それはいつのことですか」
「役人、細かいことを気にするな。今はそれどころではないのだ。わしは追われているのだ」
甚六は背後から迫る楊と小鳥遊の姿を見て、血相を変えている。
「追っ手なぞおりませんぞ甚六殿」
鬼灯は男の声音で言う。そして――。
「あれは、あんさんを冥土に連れて行く導き手なんやから‥‥」
女の地声でそう言いつつ、鬼灯は甚六の背後から襲い掛かる。
甚六は驚いたように反転して鬼灯の攻撃を跳ね返した。
「観念しなはれ、あんたの幸運も限界や」
鬼灯はしかめっ面を浮かべて言った。
「わ、わしは侍だ! あの百姓はわしの袴を汚したのだ! このわしの袴を‥‥」
と、甚六の体を黒い光が包み込む。甚六は悶絶して倒れた。
「く、苦しい‥‥」
甚六はもがき苦しむ。
そこへ姿を現すカーラ・オレアリス(eb4802)。たった今、彼女の魔法が甚六からかなりの生命力を奪い去ったのだ。
「貴方は些細なことで人をあやめました。貴方は貴方がした行いの報いを受けねばなりません」
カーラは淡々と言った。
やがて、楊と小鳥遊が追いついてくる。それからリオが姿を現し、椋木がやってくる。
甚六を見下ろす冒険者たち。
「心をなくした奴は、武士でもなんでもないな。その上害になるなら、生きている価値もあるまい」
と椋木。
「慈悲など無用、今ここで私が止めをさそう」
小鳥遊は刀を振り上げる。
「袴を汚されたくらいで人を切るなんて! なんて奴! 人の命を何だと思ってるの! 絶対に許せない!」
楊はナックルを振り上げる。
「恨み屋さんってところなのかしら今回の依頼って。因果応報よね。人の命を虫けらのように扱ったのですもの、それにふさわしい報いを受けるべきだわ」
とリオ。
そして、冒険者たちは甚六に止めをさした。
●その後
彦兵衛の許可を得て、甚六の上司の侍と町奉行所に敵討ちの申請をする椋木。
ただ闇討ちしたのでは、犯罪者にされるかも知れない。
「犯罪者になる危険を減らしておくにこしたことはないからな」
椋木は仲間たちにそう説明する。
結局上司の侍が申請を受理し、敵討ちは認定されることになる。
彦兵衛の村に立ち寄った小鳥遊。依頼解決の報告を行う。ペットの子猫「とらち」を彦兵衛に預けていた小鳥遊。とらちは元気に走り回っている。そんな子猫の様子を見つめながら、彦兵衛親子に報酬の返還を申し出る小鳥遊。彦兵衛はそれは受け取れないと、報酬を小鳥遊に返した。口下手なりに、頑張って彦兵衛親子を慰める小鳥遊。
そして、小鳥遊は子猫を抱き上げ、村を後にするのであった。