丹後の死人使い、白曜
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月26日〜01月31日
リプレイ公開日:2009年02月14日
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●オープニング
由良川流域――。
大きな戦いが終わったばかりである。丹後軍はかろうじて不死軍の攻撃を跳ね返した。
戦場跡には動かなくなった黄泉の軍勢の死体が転がっている。
一人立つ美しい少年は大地を眺め回すと、舌打ちした。
「丹後の連中め、意外に手こずるな‥‥導師様から大軍を預かったってのに、これじゃ僕たちの立つ瀬がないや」
少年の名は白曜。丹後の死人使い七人衆の一人――アンデッドリーダーである。冒険者達の知るところではないが、依頼「丹後の死人使い、進軍開始」にて亡者達を率いていた当人であるが、丹後軍から予想以上の反撃を受けてさっさと後退したのである。
「黒曜は倒されちゃったみたいだし、腕の立つ連中には油断がならないなあ‥‥」
依頼「丹後の死人使い、七人衆現る」において、アンデッドリーダー黒曜は倒された。
「とは言え、このままじゃ七人衆の名折れもいいとこだ。少しは面目を回復しないとなあ。せっかく導師様から一軍を任されたってのに」
白曜はぼやきつつ、さっと地面に手をかざした。すると、地中から新たな死人憑きや怪骨が起き上がってきた。外見に似ず恐ろしい術を使うらしい。
さらにいつの間にか死食鬼が数体、白曜の周囲で這いつくばっている。また怨霊の群れが上空を飛び交っている。
「来たか死食鬼たち、導師様が動かれる時は近いぞ。丹後の民に最後通告を突きつけてやろう。村々を滅ぼし、人間どもの士気を挫いてやるのだ‥‥」
‥‥舞鶴城。
近郊の村々が亡者たちに襲われているという知らせが入ってきた。さすがに戦ったばかりの侍たちに疲労の色が見える。人間は昼夜を徹して戦い続けることなど出来ないのだ。
「亡者どもに休みなしか‥‥仕方あるまい。討伐隊を派遣して死人たちを撃退するしかあるまい」
「先の戦いと言い、いよいよ宮津の導師が動く前兆か?」
「かも知れんな‥‥舞鶴が落ちれば、少なくとも民には逃げるように言うしかない」
「黄泉の王とはよく言ったものだな‥‥ここまで追い詰められるとは」
侍達が話し込んでいると、別の侍がやってきて死人使いの名を告げる。
「どうやら村を襲っているのは七人衆の一人で白曜と名乗る魔物らしい」
「七人衆と言うと、最近噂になっていた丹後の魔物か‥‥」
「村々に亡者達を解き放ち、丹後の最後は近いと触れ回っているそうだ」
「おのれ‥‥」
侍達の顔に苦いものが浮かぶ。現にそうなりつつあるのだから仕方ないところか。こちらは攻めまくられる一方だ。
「いずれにしても、討伐隊を」
「うむ、京都にも援軍を頼んでおこう」
侍達は慌しく武器を手に取ると、襲われているという村に向かう。
冒険者ギルドにも救援依頼が張り出される。白曜率いる亡者を迎え撃ち、今は耐え凌ぐしかないのか。ひたひたと、舞鶴に不死軍の足音が迫っている‥‥。
●リプレイ本文
舞鶴城――。
侍たちが慌しく出撃していく中、冒険者達は到着した。
「来たか」
侍大将は馴染みの顔も見えて会釈する。
「今のところ亡者どもをこれ以上入れないよう持ち堪えているが、肝心の白曜の所在は不明だ」
侍大将の言葉を聞いて、普段は口数の少ない山王牙(ea1774)が問いかけた。
「周辺の地図などはありませんか」
「うむ‥‥」
侍は足軽に言って地図を持ってこさせると、卓上に広げた。
「敵の襲撃範囲は主に由良川の周辺に分布している。亡者どもに策があるのかどうかは分からぬが、これまでの例から言ってこれは白曜の単独行動だろう。不死軍に連携は見られない。大軍で押して来るのが奴らの常套手段だと我らは見ている。ただ殺戮し、後に残るのは無人の荒野だ」
これまでの戦い、戦略レベルにおいて丹後軍は不利だった。しかも相手は疲れ知らずの不死者。まともに戦うのは限界だと、侍達も感じ始めていた。と言って奇策が通用する相手でもなく、新たな打つ手を彼らも模索していた。
山王は地図に目を落として侍の話を聞いていた。彼はイザナミ本人とも相対しており、あの黄泉女神の恐ろしさを知る冒険者でもあった。
「黄泉の大軍に打つ手はないかも知れませんが、敵は待ってはくれません。どうにかして戦い抜く算段を考える必要はあるでしょうが‥‥」
山王は唇を噛んだ。あのイザナミを倒すことなど、今の山王には思いもよらないことだ。
「希望はあります‥‥諦めない限り」
そう言ったのは明王院未楡(eb2404)。
「確かに負けが続いていますが、私たちはまだ生きています。黄泉人たちは全滅戦を仕掛ける勢いですが、私たちにはまだ守るべきものがあります。この大地と、命と‥‥」
「あなたは強いお人だ、未楡殿。私も武家の末席に名を連ねるものとして、主家に恥じぬ戦いをしたいものです。ですが正義が勝つとは限らないのも世の常。まして敵は大神イザナミです」
正義は幻想だと山王は思う。まさに今自分達が置かれた状況が物語っている。
「たとえ大神が相手でも、人は自分が悪だという認識に耐えられるほど強くは無いんだよ牙ちゃん。人は本来善なのよ!」
楠木麻(ea8087)の言葉に山王は微笑んだ。
「そうですね、あなたの言う通りかも知れない。私も皆さんのように強くありたいと、信じています」
「私たち一人一人の力は小さくても、神皇様は私たちを信じて下さいます。皆の力を合わせて、黄泉人の脅威に立ち向かうこと、そのためには山王様のような勇士の力が何としても必要です。そう、白曜を倒すためにも」
琉瑞香(ec3981)の言葉にソペリエ・メハイエ(ec5570)は大きく頷いた。
「私も正直黄泉人は恐い、けれど、山王様のようなつわものがいて下さることは単純に戦いを考えてみても有利。信じる神は違えど、強大な敵を前に、私たちの結束が試されているのだと思います」
冒険者達の話を聞いていた侍は苦笑しつつ口を開いた。
「ところで、イザナミ対策で何か良い案はないか。このままでは不死軍は一気に都まで押し寄せるだろう。敵は従来の戦の道理が通じぬ魔軍なのだ」
侍大将の言葉に冒険者達は沈黙する。彼らも今のところイザナミ軍に有効な手立ては打てずにいる。侍大将は肩をすくめる。
「まあここで話していても仕方ないか。それでは本題の依頼完遂を頼む」
「あ‥‥すいません」
未楡が侍を呼び止める。
「何か」
「先の戦いで強化弓の攻撃は怨霊を退ける大きな力になりました。又皆さんの力を貸して頂けませんか?」
「土侍か‥‥よかろう。討伐隊に合流するよう手配しよう」
「ありがとうございます(にこっ)」
「では行くか。私も出る」
侍大将はそう言うと、冒険者達と共に出立した。
空飛ぶ絨毯と軍馬の一群が疾走していく。冒険者達の一行だ。彼らは白曜討伐を第一に考え、村人の救出は討伐隊に任せていた。無限の回復力を有する相手にその元凶を放置していては解決は見出せないだろう。彼らが打つ手としてはアンデッドリーダーを倒す、然る後に残敵を掃討する。
だが一言で戦場と言っても広大である。亡者の群れを抜け、白曜を探すが目だった手がかりは得られない。
唯一の救いは楠木のペットの陽精霊のサンワードであったが、それも西へ東へ白曜の位置は錯綜する。討伐隊からの知らせには一応シフール飛脚で対応していたが白曜が現れたという報告は上がってこなかった。また避難民からの情報も混乱していて当てにはならなかった。最終的にはサンワードで近付くことが出来たのだが、実際に白曜を見つけ出すまでには数日を要したのである。
「あれが白曜?」
テレスコープで様子を探っていた楠木が眉をしかめる。死人憑きや怪骨兵士の群れの中に衣を着た子供姿の人物がいた。
と、空から接近する冒険者達に怨霊の群れが接近してくる。
「絨毯の上では戦えません。仕方ない、ここまでです」
山王は飛び降りると野太刀を抜いて接近してくる怨霊を叩き切った。
未楡も地上に降り立って抜刀する。空では孤立する。山王、ソペリエとともに背中を守りつつ怨霊に一撃を叩き込む。
死人憑きや怪骨が大量に接近してくる。左右、前後、地中から亡者が立ち上がり、冒険者達を取り囲む。琉が素早く魔除けの風鐸を取り出して対アンデッドの防壁を築く。
「さて‥‥どうしますか」
風鐸の音色が死人たちを退けるが、取り囲むアンデッドの大軍は見えない障壁をかきむしるように腕を伸ばし、ざわざわと冒険者達を包囲した。
「進みましょう。白曜のところまで。琉さん、退魔の明かりをお願いします」
琉はふうっと息を吐き出すと、ホーリーライトを唱えた。退魔の光球に亡者達は悲鳴を上げて後退する。
冒険者達は一歩、一歩、前進していく。亡者の群れが少しずつ割れ、道が開ける。
ソペリエの額から冷や汗が落ちる。ソペリエ自身、これほどの亡者を相手にするのは初めてのことだ。
ゆっくり、ゆっくりと進み行く冒険者達は、遂に白曜のもとに辿り着く。
美しい子供が一人、亡者を率いて立っていた。光球に照らされた白曜はしかめっ面を浮かべる。
「ちっくしょ〜、退魔の光かよ!」
白曜は眩しそうに手をかざしながら後退する。
「冒険者‥‥だな? お前達生きて帰れると思うなよ!」
「あなたが白曜ですか?」
「ああそうさ、間違っても僕は黒曜みたく間抜けじゃないぜ。冒険者さんよ、あんたらはここで成仏だ、光が消えたら終わりさ!」
御託を並べる白曜に対して楠木はグラビティーキャノンを放った。
「ええいうるさいんだよアンデッド! 踊れ踊れ!」
キャノンを受けて転倒する白曜は「覚えてろ!」と捨て台詞を残して亡者の群れの中に消えた。
取り残された冒険者達に逃げ道は無い。完全に包囲された。
「空です」
ソペリエが言った。
「空から逃げるしかないでしょう」
「そうですね‥‥一斉攻撃されたらこちらはひとたまりもありませんから‥‥」
「まさかこんな大軍を操るとはね、とんだ想定外だよ」
楠木はぼやきつつ空飛ぶ絨毯を広げた。未楡はウイングシールドの魔法を解き放つ。
琉はホーリーライトの明かりを絶やさず。
一同琉の光を中心に脱出する。
「白曜は倒せませんでした‥‥」
経緯を話して聞かせる冒険者達。
避難民の誘導に当たっていた侍大将はうなった。
「お主らでも駄目か‥‥厄介な。亡者だけが残ったか」
仕方あるまいと吐息する侍大将。
「だが白曜は逃げたのだな?」
「残念ながらそのようです」
「ではひとまず討伐隊で亡者を討ち取り、由良川以東の安全だけでも確保しておくとしよう。お主らも手を貸してくれ」
そうして、今度は冒険者達は死人たちの撃退に向かう。こちらは単なる戦闘だ。
舞鶴城からの増援を得て、冒険者達と討伐隊は亡者の群れを撃退する。
宮津城――。
鳥に変身して宮津まで舞い戻った白曜は他の死人使いたちと合流する。
「いやあ、参った参った、冒険者にしてやられたよ」
「戻ったか白曜。ふふん‥‥冒険者にしてやられたか」
「戦うだけなら自信あるんだけどなあ。退魔の光に当てられちゃどうにも出来ないよ」
白曜は冒険者達との遭遇について話す。
「いずれ無駄なことだ。舞鶴は我らの手に落ちる。そう遠くない日にな‥‥」
「宮津の大軍は間もなく出撃するだろう、丹後壊滅の時は近い」
宮津城に死人使いたちの残酷な笑声が響いた。
舞鶴――。
亡者の群れが掃討されたことで人々はとりあえず落ち着きを取り戻した。
琉やソペリエは村の再建に多少なりと力添えを果たしていた。
舞鶴城では、侍達が粛々と武器の手入れを行っていた。
「未楡姉さん、魔法の弓は役に立ってるぜ」
土侍はそう言って礼を言ったものである。
「あの大軍どうにかならないかなあ」
楠木は頭を抱え込んでいた。イザナミ軍と数で戦っては勝ち目が無い。何と言っても無限に等しい回復力を有する相手だ。
「やはり、大将の首を取るしか道は無いかも知れませんが‥‥」
山王は厳しい表情で呟く。
「未曾有の魔軍とどう戦うか‥‥正直兵法の常識が通じる相手でもありませんしね」
山王ほどの英傑クラスが集まってもイザナミ軍は小揺るぎもしない。何しろ敵は後方に十万を有する大軍なのだ。
「私たちに残された選択肢は多くありません‥‥戦って生き残るか、それとも‥‥」
未楡は言葉を飲み込んだ。厳しい表情を暗雲垂れ込める西に向ける。宮津――かの地には恐るべき丹後の不死軍の総大将がいる。
「あの敵とも、また会い見えることになるのでしょうか‥‥」
丹後の導師‥‥未楡の言葉が現実のものとなるのも、そう遠くは無いかも知れない。