【道敷大神】導師の侵攻、舞鶴決戦
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:15人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月04日〜02月09日
リプレイ公開日:2009年02月16日
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●オープニング
丹後、宮津城――。
イザナミ軍数千を率いる黄泉の王、丹後の導師は先の戦いの報告を受けて、舞鶴の丹後・藤豊連合軍がいまだ十分な戦力を有していることを確認した。その意味では丹後の死人使いは役に立ったわけである。
「そうか‥‥丹後の民はまだ諦めぬか‥‥無駄なことを」
ローブの奥で導師の眼光がゆらゆらと残酷な光を放つ。導師の目的は一つ、丹後を滅ぼし、この地をイザナミに献上することである。導師はイザナミの盾たらんとしていた。
「あるいはイザナミ様も待ちくたびれておるやも知れませぬ」
そう言って進み出てきたのは導師配下の将軍を務める魔道士たち。
「予定は大いに遅れております。人間どもの抵抗は思ったより頑強」
「その通りだ、いまだ舞鶴に数千の兵を残している様子。今度こそ、彼奴らの息の根を止めねば‥‥!」
将軍達の意気が上がる。
導師の口もとに冷たい笑みが浮かぶと、その体から瘴気が立ち上り、瘴気は怨霊となって導師を取り巻いた。
「ふふ‥‥将軍達よ、これ以上イザナミ様をお待たせするわけにはいかん。人間どもに最後の一撃をくれてやろう」
導師は立ち上がった。
「全軍に出撃を命じよ! 舞鶴に立て篭もる人間どもに滅びを与えてくれん! 丹後滅亡の時は来た!」
――おお!
いよいよ導師は動き出した。黄泉の大軍を率いて、宮津城を発ち、全軍を以って由良川の渡河に向かう――舞鶴への進撃を開始したのである。
舞鶴城――。
宮津方面から飛行して戻ってきた妖狐、狐の神々である――白狐らは導師動くの知らせを持ち帰る。白狐らはフェアリーに変身して宮津城に潜入し、一部始終を聞き取って戻ってきた。
「いよいよ、導師は全軍を以って舞鶴を攻撃する模様です」
「その時が来たか‥‥」
丹後藩主、藤豊の武将達の顔が厳しいものに変わる。丹後の命運を分ける一戦となろう。丹後・藤豊連合にとっては、後には退けない戦いだ。勝って、何とか舞鶴を死守するしか道はないか‥‥。負ければ泥沼の戦いが待ち受けているだろう。
「我らに生き残る道はあるだろうか?」
「何を以って勝利と呼ぶのか‥‥。導師を討てば全てが終わるのか?」
「それでも、我らに道は無いのだ。戦う以外に」
「諦めない限り希望はある‥‥そう簡単な状況ではないが、死力を尽くすしかあるまい」
藩主、武将達は黙々と武器を取る。
兵士達も黙々と戦いの準備を進めていく。侍大将から足軽に至るまで、丹後を守るために、乾坤一擲の戦いを望まんとしている。その顔に悲壮感は無い。だが誰もが不安だった。迫り来る不死軍の恐怖と戦いながら、彼らは戦場に向かおうとしている。
――と、そこへ丹後の大地の守護神である大太法師が姿を見せる。その後ろには十体の大蛇の姿が見える。
「何じゃ、氏神様も戦われるのか‥‥」
人々が驚いて見つめると、大太法師は言った。
「丹後の山や森に住む者たち、みんな敵と戦う。丹後に住んでいる者たち、大勢やって来た!」
大太法師が指差す先、空には木霊の大軍が浮かんでいた。百を越える木霊が空に集まっている。丹後に住まう大蛇や木霊が集まってきたのだ。
「敵は倒す! みんな戦う!」
大太法師は拳を振り上げた。
おお‥‥と、兵士達は畏怖の念を込めて土地神の集団を見上げるのだった。
「負けぬ戦をするのは容易いことだ。だが、勝つには奇跡を起こさねばなるまいな‥‥」
天津神の一柱天火明命はそう言って、これまでの経緯を振り返った。
「我らに勝機はあるでしょうか?」
藩主、武将達は思案顔で天津神に問うた。
「簡単なことではあるまい。敵は数千の黄泉人だ。お前達には生き延びろとしか言えん。舞鶴城を枕に討ち死にするつもりなら止めはせんが。いずれにしろ――」
いずれにしろ? 藩主、武将達は珍しく思案顔の天津神の言葉を待った。
「いずれにしろ導師を倒したとして、亡者の大軍が消滅するわけで無し。導師を倒すか、亡者どもを削るか、あるいは逃げるか。意思統一を明確にすべきだろうな、多くは望めない状況だ」
この一戦、本より与えられた選択肢は少ないのだ。丹後軍はもちろん戦う、だが、戦って生き残らねばならない。イザナミ軍との戦いは降伏して再戦を望むというわけにはいかないのだ。
かくして、導師率いる六千余の不死軍と丹後軍は雌雄を決することになる。不死軍は多数の小型がしゃ髑髏、死食鬼、怪骨戦士などを有し、航空戦力の以津真天や怨霊も豊富、そして疲れを知らぬ死人憑きや怪骨兵士の圧倒的な地上軍で攻めてくるだろう。脅威の軍隊だ。
丹後側の戦力は藤豊軍二千弱、峰山・宮津・舞鶴の侍たち三百弱、藤豊軍の陰陽師約四十、僧侶・僧兵約三十、丹後の僧侶達およそ五十、丹後の土侍およそ百である。例によって戦略レベルでの不足は否めないのだが。
冒険者ギルドにも舞鶴決戦の戦いに参戦を求める依頼が張り出された。この圧倒的不利な状況にあって、丹後軍の士気は砕けていない。死線を越えた兵士達の心は一つだった。
ここに、丹後の命運を決する一戦の火蓋が切って落とされたのである。
●リプレイ本文
地平の彼方から、黄泉の軍勢が接近してくる。
「来たか‥‥」
足軽と侍達は隊伍を組み、静かに武器を構えた。
ベアータ・レジーネス(eb1422)はドラゴンに乗り、由良川を渡河してくる黄泉の大部隊の前方にいた。ブレスセンサーには何の反応も無い‥‥。
「やるしかありませんね、状況は選べませんが」
ベアータは本陣に戻る。
「敵の様子は?」
尋ねたのはノルマン王国から駆けつけたセイル・ファースト(eb8642)。
「変わりはありません。ただひたすら、こちらを目指して前進あるのみです」
「大軍に区々たる用兵は必要ないってか」
「イザナミ軍の常套戦術です。大軍をもって前進し、相手を突き破る」
今回丹後軍には策があった。地精霊たちが味方に付いた今、彼らの縄張りである山林で戦い、出来るだけ敵の大部隊を引きずり出すつもりであった。
かくして、丹後軍はあえて戦わずに後退を開始する。
「しかしとんでもない大軍だ‥‥」
セイルは亡者を打ち倒しつつ後退する。死人憑き、怪骨兵士程度なら囲まれなければ何とかなるが、イザナミ軍の恐ろしさはここからである。
「来たわね‥‥上空からの敵が‥‥」
朱蘭華(ea8806)は空を見上げた。特に冒険者の飛行戦力を苦しめてきた以津真天の大軍が襲い掛かってくる。
殺到してくる以津真天にベアータはストームを叩きつける。
「この程度、焼け石に水ですが‥‥」
地上から兵士達が弓で迎撃する。
以津真天の攻撃に合わせてイザナミ軍の地上部隊が続々と前進してくる。怪骨戦士、死食鬼、骸骨巨人戦士がしゃ髑髏が姿を見せ、あっという間に丹後軍を突き破らんとする。
――だが、丹後軍は一糸乱れぬ動きで、背後の森に溶け込むように消えていく。
つられる様に亡者の大軍は森の中へ入ってくる。
森は氏神たちの世界である。氏神たち、そして陰陽師が一斉にプラントコントロールを解き放つ。森の各所で木々が生き物のように不死者たちを襲う。
丹後軍は木々の障壁を抜けてくる亡者達を待ち構え、一斉攻撃をかけた。
破魔矢の一斉射撃にがしゃ髑髏の動きが鈍る。
「突撃!」
セイル、蘭華も先陣を切って突入。がしゃ髑髏の鉄球を跳ね返し、アンデッドスレイヤーを叩き込む。
丹後軍もがしゃ髑髏を集中攻撃。ついに沈むがしゃ髑髏。
「戦況はどうです?」
白翼寺涼哉(ea9502)は前線で立花鉄州斎に手当てを施しながら問うた。
「何とも言えん‥‥氏神様の魔法で何とか持ち堪えているが。敵は無限の回復力を持つ相手だし、まだ空には以津真天の大軍が残っている」
鉄州斎は立ち上がると、再び戦場に向かう。
「何れにしろ、今回は“彼ら”が導師を倒してくれることを願うのみだ」
導師の将軍達は空を飛び、森の異変を察知していた。
「一体何が起こっているのだ? 我らが兵士の足が止まっているぞ」
「人間どもめ‥‥罠か? こしゃくな真似を。増援だ、増援を送り込め!」
さらなる大軍が森に押し寄せるが、森の障壁は戦線各所で亡者達の進軍を奇跡的に遅らせている。
それでも突破してやってくる不死者は多数。それに空からの攻撃を封じる手はない。それらを何とか森の中で凌ぐ。
頴娃文乃(eb6553)は運ばれてくる兵士達を治療しながら僧侶達の指揮を執っていた。
「丹後の未来は貴方達に懸かってる、頑張ってね」
文乃は兵士達を励ましながら戦場に送り出していた。時折グットラックを兵士に付与する。
一人でも多くの命を救いたい。だが、怪我を治したら治したでまた前線に送り返さなくてはならない。文乃の心中は正直複雑だ。
「後が無い戦いだしそんな事も言ってられないかァ‥‥」
文乃は吐息して僧侶達の指揮に気を取り直す。
‥‥導師の本陣を強襲する冒険者部隊は密かに渡河を済ませ、その時を待っていた。
「この戦、負けはない。我らには、天津神たち、丹後の神たち、そして戦女神と称される私がいるのだからな」
騎兵を預かる南雲紫(eb2483)は侍達を鼓舞する。
彼らは待っていた。丹後軍本隊が不死軍を引き付ける時を。そして――。
「どうやら黄泉人の本隊も動き出すようです」
狐姿の白狐が戻ってきて、一同に告げる。
「どうやら、これ以上は待てんか‥‥やるしかないな」
アラン・ハリファックス(ea4295)は仲間達に出撃の時を告げる。
「御武運を‥‥」
白狐に見送られて、冒険者達は出撃した。導師の本陣目指して。
「導師様‥‥本陣後方より人間どもが奇襲をかけてきた模様です」
「奇襲だと?」
南雲の騎兵部隊が突撃してきたと聞いて、導師は岩の天幕の中で笑った。
「少数の騎兵隊で何が出来るものか。放っておけ」
その時である――。ドゴオオオオォォォォ! と天幕が揺れた。
「何だ?」
別の将軍が飛び込んできた。
「導師様、空からの強襲です。少数の飛行部隊がこちらへ向かっております。騎兵隊に注意を向けたところへ、別方向から魔法の攻撃が‥‥」
「アイスブリザード!」
「グラビティーキャノン!」
ムーンドラゴンに乗ったイリア・アドミナル(ea2564)とエル・カルデア(eb8542)の超越魔法が導師の本陣を直撃していた。
多数の敵地上部隊に大打撃を与えることに成功したが、反撃も大きい。例の航空戦力、以津真天と怨霊の大軍が飛び立ってくる。
以津真天や怨霊は空から侵入を試みる冒険者達を追いたてる。イリアは超越魔法で右に左になぎ払う。エルは地上目がけて超越キャノンを連発している。
「邪魔だ!」
フライで敵中に飛び込んだバーク・ダンロック(ea7871)のオーラアルファーが怨霊達を一瞬吹っ飛ばす。
その間にアランを乗せたグリフォンを操る磯城弥魁厳(eb5249)、同じくグリフォン騎乗の雷真水(eb9215)、魔法の絨毯に乗った明王院未楡(eb2404)、王冬華(ec1223)、琉瑞香(ec3981)が一気に導師のもとへ突撃する。
「あそこだ! 怨霊達が飛び交っているところ! がしゃ髑髏たちが天幕を守っている! みんな低く飛べ!」
アランの指示に従って、一同低空飛行で亡者の上を滑る様に侵入した。導師の岩の天幕の前に降り立つ冒険者達。
何と導師は天幕から出て待っていた。
「ようやく来たか都の勇士たち。少しは本気になったようだな。それでこそ叩き潰しがいがあるというもの」
導師の体を取り巻く瘴気から怨霊が立ち上り、導師の将軍――魔道士たちが周囲のがしゃ髑髏や死食鬼たちに動きを命じる。
瑞香は仲間達にレジストデビルを付与して回る。魁厳は長弓「鳴弦の弓」をかき鳴らし始めた。冒険者達は武器を構える。
「今ここでお前を倒し、この戦いにけりをつける」
「アンデッド・デビルキラーの冬華さんの鉄扇でおしおきよ!」
導師――その姿は美しい若者だが――の瞳がすっと細くなる。
「来い」
がしゃ髑髏が鉄球を振り上げる。死食鬼や怨霊達は攻撃態勢を取る。
そこでエルとイリア、バークが到着。
「食らえ!」
エルのローリンググラビティに導師たちが舞い上がった。そこにイリアのアイスブリザードが直撃。導師は転倒。
未楡が将軍達に切りかかる。
「はあっ!」
将軍の肉体を切り裂く退魔の刀。そこへ死食鬼が飛び掛ってくるが未楡はかわした。
イリアの超越ミラーオブトルースに映っていたもの――魔道士の正体はミイラのような魔物であった、恐らく黄泉人か。また導師の真の顔は、朽ち果てた骸骨であった。
飛び掛かったアランに鉄球が立て続けに飛んでくる。
「ちいっ!」
鉄球を跳ね返したところへ、導師が怨霊の弾丸を放った。
「ぐ‥‥何だと‥‥!」
弾丸が貫通してアランは動けなくなった。
「やあああっ!」
真水と冬華は導師に肉薄。真水の刀剣、冬華の鉄扇が導師を捕らえるが――。
「愚か者!」
導師が召喚した怨霊の連続攻撃に二人とも瞬く間に動きを封じられる。
瑞香がアランに駆け寄り何とかダメージを回復させる。
バークは隙をついて何とか導師の背後にバラスプリントで転移。やった、と思った瞬間。
「甘いわ」
導師はさっと振り向きバークに怨霊を叩きつける。
「ぐ、はっ‥‥!」
後退するバーク。何とか瑞香の回復を受ける。
と、その時である。魔道士が駆け込んできて、導師の耳元に何やら囁いた。導師の表情が変わる。
「何! それは真か!」
「はい‥‥たった今知らせが参りました」
導師は狼狽した様子で立ち去ろうとする。
「待て! 逃がすか!」
激昂するアランの前に将軍達とがしゃ髑髏が立ち塞がる。
「お前達と遊んでいる時間は無い――殺せ」
導師は将軍に命じると、奥に姿を消した。
「愚かなり‥‥導師様が本気で相手をすると思ったか。貴様らはここで死ぬのだ」
将軍はそう言って、周囲の亡者達に号令する。圧倒的多数の亡者が冒険者を取り囲みつつ動く――。
「逃げるのじゃ!」
魁厳はゼムゼム水を上空から降りかけた。亡者の列が一瞬乱れる。冒険者たちは後退するがそこは亡者の壁――だが奇跡的に南雲ら騎兵隊が突破してきて退路を開く。
「何とか間に合ったようね」
「すまん! 導師は討ち漏らした!」
「仕方ないわ、とにかく一旦引きましょう」
かくして、冒険者達は命からがら逃げ出した。
「何だ? どうした?」
白翼寺は慌しく駆け抜けていく侍を呼び止めた。
「敵が引き上げて行きますぞ! 奇跡だ、奇跡が起きましたぞ!」
「引き上げていく?」
白翼寺は前線に出ると、欄華やセイル、文乃やベアータと合流した。
「敵が引き上げていく‥‥どうなってんだ?」
奇襲部隊のアランたちが空から戻ってくる。
「導師は討てなかったが、何か予想外のことが起きたらしい。慌てて姿を消しやがった」
不死軍に何が起こったのか? とにかくも舞鶴は救われた。
撤退する不死軍を地平線に見やりつつ、冒険者達、丹後軍の兵士達は呆然と立ち尽くすのだった。