丹後の盗賊・其の八、再び丹後半島へ

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:4人

冒険期間:02月13日〜02月18日

リプレイ公開日:2009年02月26日

●オープニング

 丹後半島――。
 伊根の町を中心に、沿岸部には丹後の盗賊の町が点在している。犯罪者天国の町々には、ならず者やかっぱらい、人攫い、海賊が横行し、白昼から呑んだ暮れがいかがわしい場所に出入りする、まさに世界の掃き溜めのような場所である。
 そこへ先日、冒険者達が訪れた。なぜかと言うと、丹後舞鶴の松尾寺の住職、陽燕和尚とともに、丹後の盗賊に潜んでいる?という悪魔の調査に向かったのである。
 冒険者達と和尚は伊根の町に入り込み、調査を行った。蛇が出るか否か、その結果、街の中で頻繁に悪魔の反応に出くわすことになる。昼夜を問わず、冒険者達は伊根の町で悪魔の反応を感知した。何ゆえそれほどの悪魔が町に潜んでいるのか、謎は尽きない。
 また丹後の盗賊が有している潤沢なレミエラの謎の一端に冒険者達は触れることになる。伊根の町のレミエラ工房は厳重な警戒のもとに置かれており、その内部でも至近距離で悪魔を感知することになる。そしてレミエラ工房に侵入した冒険者達は、遂に悪魔と思しき魔物と遭遇する。
 だが得られた情報は決して多くは無い。悪魔と遭遇したとは言え、予測していたような盗賊団との関わりは判明しなかった。本当に盗賊たちと悪魔との間に繋がりがあるのか、それについては手がかりは無い。
 だが、伊根の町の至るところで悪魔の反応があったのは事実である。

「あれほどの悪魔の反応があったということは、盗賊団の町に悪魔信者が潜んでいてもおかしくは無い、そう思えるのですが‥‥」
 冒険者ギルドにやってきた陽燕和尚は形の良い眉を曲げて思案顔で呟く。
 ギルドの手代も報告書をめくりながら眉をひそめた。
「確かに‥‥妙ではありますな。報告書を見るに、町には悪魔がはびこっている様子。単に治安が悪いとか、悪人の集まりだとか、悪魔が好んで集まりそうな場所ではありますが」
「堕落した場所です。おっしゃるように、すでに悪魔に汚染されているのかも知れません。ただ、確証を掴んだわけではありません。それに、盗賊と悪魔が繋がっているとすれば、今はともかく、イザナミ軍がやってくる前は盗賊たちは諸藩をしのぐ大勢力だったのです。悪魔が丹後を支配していたとすれば、それは放置してはおけません。‥‥もっとも、何もかも手がかりは宙に消えたままですが。悪魔は変幻自在。正体を掴むのは至難の業ですからね」
「それで、今回はどうなさるおつもりですか?」
 手代が問うと和尚は神妙な面持ちで言った。
「調査の続行を依頼したいのです。引き続き伊根の町を調べてみようかと思います。ひとたび町に足を踏み入れれば、悪魔の監視が付くことは分かっているわけですが」
「悪魔祓いでもなさるおつもりですか?」
「まあ‥‥何とも言えませんな。前回悪魔が現れたのは盗賊団のレミエラ工房を調査していた時です。あそこは盗賊団にとっても重要な場所のようです。今回はレミエラ工房を手始めに調べてみようかと思っています」
「しかし和尚様、工房に接近なさるのは危険ではありませんか? 報告書を見る限り、警備も厳重なようですし」
「そうですねえ、隠密行動に長けている方がいれば心強いものですが‥‥まあ浸入不可能であれば、他を当たってみるつもりではいます。実際舞鶴には悪魔の術を使う盗賊が現れたわけですし、悪魔と盗賊のつながりを調べる必要もあるでしょう」
「そうですな‥‥」手代はうなった。「黄泉人で手一杯だというのに、悪魔は地獄だけで勘弁して欲しいものですな」
「まったくです」
 陽燕和尚は優しげな微笑を浮かべて肩をすくめるのだった。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 eb3601 チサト・ミョウオウイン(21歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb5817 木下 茜(24歳・♀・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

ミラ・ダイモス(eb2064)/ セイル・ファースト(eb8642)/ マグナス・ダイモス(ec0128)/ ガルシア・マグナス(ec0569

●リプレイ本文

 丹後半島、伊根の町――。
「悪なる蛇が動き出したと言った所だが‥‥」
 天城烈閃(ea0629)は周囲の盗賊たちを見やりながら呟く。
「大量の特殊なレミエラか。ただの盗賊が抱えているうちはまだしも、地獄から来る悪魔どもの手に渡って、各地で悪用されるようになっては大問題だ。願わくば早々に首謀者を見つけ討ちとりたいところだが‥‥」
「盗賊の町という隠れ蓑を使って、レミエラの量産とは‥‥私達が生み出せない強力なレミエラでも多数所持しているというのは、やはり悪魔の知恵によるところなのでしょうか」
「さてな、何者がこれほどのレミエラを作り出しているのか知らんが、白虎団‥‥ただの盗賊では無い様だが」
 ゼルス・ウィンディ(ea1661)の言葉に天城は思案顔で応える。
 と、石の中の蝶に目を落としていたチサト・ミョウオウイン(eb3601)ははっと目を見張った。
「信じられません‥‥」
 チサトは指の石の中の蝶を見つめていた。蝶は激しく羽ばたき、悪魔の接近を知らせていた。
「近くまで悪魔が接近しているようです」
「ほう」
 天城と木下茜(eb5817)は既に周囲に視線を走らせている。ただならぬ気配を漂わせて男達が数人、方々から接近してくる。
 陽燕和尚はデティクトアンデットを唱える。
「どうやら悪魔のようですが‥‥。白昼堂々襲って来るつもりですかな」
 男達――悪魔たちは不敵な笑みを浮かべてやってくる。
「安底羅大将の手下か」
 悪魔は出し抜けに言った。
「???」
 冒険者達は顔を見合わせる。安底羅大将とは仏法の神で十二神将の一柱である。
「安底羅大将に会ったら伝えておけ、鳩摩羅天様は逃げも隠れもせぬとな。もっとも、奴一人で何が出来るものか。所詮神の使い走りではないか」
 悪魔たちはそう言うと、笑声を残して立ち去った。
「安底羅大将に鳩摩羅天って?」
 困惑する冒険者達に一人和尚は険しい表情を見せる。
「ようやく、敵も正体を見せ始めたということでしょう。鳩摩羅天なる者が‥‥丹後の悪魔の総大将と言うことなのでしょうか」
「地獄でも上位デビルが続々と現れていますからねえ。‥‥ただ、レミエラは鳩摩羅天が作り出しているのでしょうか?」
 ゼルスの問いに一同頭をひねる。鳩摩羅天とは一体‥‥。
「しかし何と申しますか‥‥地獄ならともかく、悪魔が住んでいる町というのは正直気持ちいいものではありませんね」
「全くだ。悪魔なんぞ調査依頼じゃなかったら問答無用で叩き切るところだが」
 天城は調査依頼ということで小さな短剣しか持って来ていなかった。
「まあいい、とりあえず調査を続けよう。丹後の盗賊のことは調べておいた方が良いだろう、今後のためにもな」
 そんなわけで一行は気を取り直して情報収集に向かった。

 例によって酒場に入った冒険者達は適当な席を見つけて盗賊たちの内情を探る。
 チサトは始終石の中の蝶に目を落としていたが、最初に出くわして以来、悪魔の反応は無くなっていた。
「おい、ちょっと尋ねたいんだが」
 酒場の女性店員や出入りしている娼婦を捕まえて天城は問いかけた。
「最近幹部の中で性格が急に変わったものはいないか、あるいは最近になって急に幹部になった者など、いたら教えて欲しい」
 女達はじろじろと天城を見つめて、ぶつぶつ言った。
「あんたよそもんだね。何でそんなこと聞くのさ」
「俺は都の冒険者だ。京都からの依頼でな、丹後の盗賊の調査に来ている。何かと噂の丹後の盗賊の近況が知りたくてな」
「ふうん‥‥都の人ねえ‥‥」
「ただでとは言わない」
 天城は女達の手に金貨を握らせた。すると渋っていた女達の舌が途端に饒舌になる。
 女達はよく喋った。もっとも女達が幹部クラスの詳しいことを知るはずも無く、内容は噂話程度だったが。
 本音を言えばもっと金貨が欲しかったのだろう。

 それから一行は港に立ち寄った。港には数々の帆船が停泊しており、水夫達が船に荷物を積み込んでいた。水夫と言っても正確には海賊と言った方がいいだろうが。
 ブレスセンサーの反応を確認したゼルスは、海賊達がみな人間であることを確かめる。
 それからゼルスは港をぶらぶらと歩きながら手近な水夫に話しかけた。
「あの船はいつ頃戻ってくるんだ」
「いつ頃って?」
 歯の無い水夫はぽかんとしてゼルスを見上げた。
「今出た船がいつ頃戻ってくるのかと聞いてるんだ」
「ありゃあ‥‥よその国に荷物を運んでいる船だ。そうさなあ‥‥帰ってくるのはいつになるかなあ」
「荷物って‥‥盗品を売りさばいているのか」
「ジャパンも広いからねえ。常に俺たちの販路は開拓されているのさ兄さん」
 水夫は曖昧に答えた。
「どうやら‥‥海人族は今では白虎団の海賊として働いているようですね」
 木下が情報を持ち帰ってきた。
 チサトは仲間達に海人族のことを話している。近海の小島や隠れ家などを白虎団に提供している可能性もあるだろうと。
「海人族が何だと?」
 チサトの背後にぬうっと巨漢の河童が姿を見せた。木下も驚く身のこなし、海人族の長、英胡だ。
「また会ったな。何だ、こそこそと調べものか? 前回から何を嗅ぎ回ってる」
「それは‥‥」
 隻眼の英胡はにやりと笑うと、懐から一つの宝珠を取り出した。鈍い光を放つその宝珠に、チサトは見覚えがあった。
「狙いはこいつか?」
「まさか‥‥潮乾珠‥‥! どうしてそれを‥‥!」
「お前らから盗まれた潮乾珠を、白虎団が持っていたんでな。事情を説明して返してもらった。もっとも、こいつは今では白虎団の宝でもあるがな。何にせよ気をつけろ、海の上で出会った時は容赦しねえ」
 英胡はそれだけ言うと、笑声を残して立ち去った。

 深夜‥‥昼間だけでもそれなりに色んなことがあったが、まだやるべきことが残っている。盗賊団のレミエラ工房の調査である。
「ふむ‥‥」
 ゼルスは建物を巡回している盗賊たちの様子を見やりながら、ブレスセンサーの反応を確かめた。
「呼吸はある、悪魔ではないようだが」
「アタイが行って、おとなしくさせましょうか」
 出向こうとする木下をチサトが制した。石の中の蝶がゆっくりと羽ばたいているのだ。
「近くにデビルが‥‥」
「なら、他の入り口を探してきます」
 木下は月影の袈裟を使って足元の影に潜り込んだ。ほどなくして戻ってきた木下は警備が手薄なところを発見したと仲間達を案内する。
 壁の一部が壊れて中に入れるようになっている。
「さあ、早く」
 木下は壊れた壁を開いて仲間達を招いた。
 冒険者達は工房に潜入する。

 石の中の蝶が激しく羽ばたいている。物影から様子を伺う冒険者達。
 工房の中には老若男女、大人から子供までがいて、信じ難いことにみなレミエラ素体を作成するガラス職人であった。
 チサトのミラーオブトルースに映った職人達はみな光っていた。
「と言うことは‥‥変身しているのでしょうか?」
「職人達が‥‥みなデビル?」
 ゼルスの問いに天城は舌打ちした。最悪の予想が当たった。デビルにガラスを作る能力があるとは驚きだが、驚いてばかりもいられない。と言うことは、盗賊団の秘密の一端である高度なレミエラをデビルが作り出していたことになる。それも無償で。
「白虎団の頭領永川龍斎は、少なくとも悪魔と何がしかの取引を行っているのだろうな」
「あるいは魂を売り渡したのでしょうか、丹後を征服する際の見返りに」
「十分にあり得ることですが‥‥」
 さすがにこの状況ではデビルアイを使えない。木下は仲間達の話を聞いていた。
 念のために陽燕和尚がデティクトアンデットを唱えると、多数の反応があったが――。
「しまった‥‥!」
 和尚は背後を振り返った。いつの間にか盗賊たち――いや、浮いているので悪魔だろう――が冒険者達を見下ろしていた。
「恐れ知らずな連中よな、ここまで来るとは」
 悪魔が前進してきたので、冒険者達は否応なく工房の真ん中に押し出された。
「侵入者か」
 周りの悪魔が立ち上がる。
「さて‥‥どうしますか‥‥」
 冒険者達は室内を見渡したが逃げ道はなさそうである。
 と、そこへひときわ美しい姿をした、人らしき者が突然現れた。人らしき――その魔物は黒い衣を身にまとい、黒い翼を生やして、浮いていた。
 悪魔たちは翼を生やしたその化生にひれ伏した。「鳩摩羅天様」と。
 鳩摩羅天‥‥! 冒険者達は仰天した。鳩摩羅天とは悪魔のボスか。まさか御大自ら登場とは予想外。
 鳩摩羅天は冷たい笑みを浮かべる。
「皆の者、予期せぬ客人たちをどう扱えばよい?」
「生かして返すわけには参りません」
「その通りです! 八つ裂きにしてはらわたを引きずり出してやりましょう!」
「ふむ‥‥」
 鳩摩羅天は思案顔で冒険者を眺める。と、木下が進み出て鳩摩羅天に話しかける。
「貴方がここの主ですか、導師の丹後を渡すくらいなら、盗賊達を利用するより此方に情報を渡す気は有りませんか」
「ない」
 鳩摩羅天はそっけなく言った。
「悪魔の軍隊を以ってすれば、黄泉人を滅ぼし丹後を蹂躙するのは簡単なことだが‥‥復活された魔王陛下は何を思われるのか‥‥。いずれにしろ、お前達を生きては帰さんがな」
「そうですか‥‥では‥‥ゼルスさん!」
「超越ストーム!」
 心得たとばかりにゼルスは鳩摩羅天に向かって超越ストームを叩きつけた。
「ぬっ! おのれ!」
 吹っ飛ぶ鳩摩羅天に悪魔たち。室内の壁も暴風に吹っ飛ばされた。
「行け行け! 急げ!」
 天城はチサトを抱え上げると、吹っ飛んだ残骸を乗り越えて脱出した。ゼルスは逃げながらもう一発ストームを叩き込んだ。みなわき目も振らずに逃走した。
 何とか工房から脱出して闇に紛れた一行。追っ手が来ないことを確認して安堵の息を漏らす。
「和尚様は‥‥?」
 チサトは陽燕和尚の姿が無いことに気付いて見渡した。
 あるいは逃げ遅れたか‥‥だが今から戻ることは出来ない。
 和尚の無事を祈って、冒険者達は伊根の町を後にしたのであった。