【黙示録】強襲フラウロス!
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:15人
サポート参加人数:6人
冒険期間:03月04日〜03月09日
リプレイ公開日:2009年03月07日
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●オープニング
京都近郊、真昼時――。
空間から滲み出るように異界の風景が広がっていく。人々は何事かと異界の門を指差していた。
広がる異界の風景の向こうには真紅に染まった空、飛び交っているのは異形の魔物たち。
「何だあ、ありゃあ‥‥!」
魔物たちの咆哮がつんざくように人々の鼓膜を貫く。西洋の教会ではお馴染みの、デビルと呼ばれる魔物たちだ。しかし、この国の人々は、翼の生えた小悪魔たちがなにものかも分からなかった。
赤い空をわがもの顔で飛び回る小悪魔たちに、人々はただ絶望を覚えた。
赤い異世界の門――地獄へと繋がる空間はやがて地上に達し、悪魔の兵士達が進軍を開始する。
悪魔たちは黒い翼を生やし、西洋で言うところのガーゴイルのような姿をしており、燃え盛る炎の槍を片手に前進してくる。口からは鋭い牙が生えており、みな巨人並の体格をしている。
その先頭には、炎に包まれた巨大な漆黒の豹がいた。その名をフラウロス。現在地獄で冒険者と戦闘を行っている大将軍モレクの配下である悪魔軍の指揮官である。
「我らが王の復活は近い‥‥人間たちがいかに抵抗しようと、この世から災厄が過ぎ去ることは無い。人間達がどれほど祈りを捧げようと、神が慈悲の手を差し向けることは無い。この世はすでに混沌と化した。戦乱と恐怖は拭い去れない傷となって世界にはびこり、もはや神の手をもってしても世界の混沌を正すことは出来ない。地獄の兵士達よ! 時は来た! 人間達に我らの声を轟かせよう!」
フラウロスの雷鳴のような声が轟くと、悪魔の兵士達はときの声を上げて目の前の大都市――京都市街に殺到して行ったのである。
地獄での戦いが続く中、フラウロス率いる悪魔の軍勢は京都市街に突如攻撃を仕掛けてきた。
ジャパン在住の外国人冒険者などの口から、京都に攻め込んできたのがネルガルの軍勢であることが判明する。
悪魔たちは次々と人々に襲い掛かり、容赦ない攻撃を加えていく。新撰組や見廻組、黒虎部隊はこの魔物たちと交戦に入り、現状地獄の悪魔と交戦状態にある冒険者たちにも可能な者は迎撃してくれるよう依頼が張り出された。
悪魔の軍勢は炎を操り、京都市街に次々と火を放っている。中でもたびたび目撃されているのが口から炎を吐く巨大な漆黒の豹である。その魔物は人語を解し、時には豹の毛皮をまとった大男に姿を変え、ネルガルたちの指揮を取っている姿が目撃されている。
捕獲したネルガルを尋問し、悪魔軍の指揮官が炎を操るデビル、フラウロスであることが判明。現在地獄で交戦中のモレクの命を受けて、京都への攻撃を開始したという。
「緊急事態です、地獄より押し寄せる魔物に対抗するべく、戦う力を持つ方に各方面から応援依頼が入っています。京都市街に押し寄せる魔物を迎撃し、出来うることなら“ふらうろす”なる悪魔を何とかして下さい。変幻自在の悪魔たちは炎を操りこれまでに無い勢いで攻撃を仕掛けています。皆さんの尽力が期待されています」
ギルドの手代はそう言って、集まった冒険者達を送り出して行くのだった。
●リプレイ本文
市街各所で燃え立つ炎。縦横無尽に飛び交うネルガルたちは火を放っていた。
「地獄へ仕掛けてくるとは意外にやってくれる。だがその代償も大きいと知れ」
ネルガルは子供に槍を振りかざした。――刹那。ネルガルが一刀両断された。
「大丈夫か」
ネルガルを葬り去った巨人戦士が少年に手を差し伸べた。黄金色の瞳を持つジャイアント、風雲寺雷音丸(eb0921)、志士である。
「神皇様のお膝元でこのような所業‥‥悪魔どもめ」
雷音丸は舌打ちした。こちらがディーテ城砦を攻めている間に現世に反撃が来るとは。
風生桜依(ec4347)は仲間から借り受けたウイングシールドで上空にいた。さすがに燃え盛る町を見て気持ちのいいものではない。眼下では逃げまどう人々。
「フラウロス‥‥一体どこにいるの?」
その姿を求めて市街を駆け抜けていくセピア・オーレリィ(eb3797)。はっと見えない方向からの攻撃をかわす。姿を現したネルガルは槍で襲い掛かってきた。
「この期に及んで地獄から現世へ戦力を出すのは、モレクの自信の現れなの、それとも‥‥」
「モレク将軍は破壊と殺戮をお命じになった、悪魔が暗闇に隠れている時は過ぎ去ったのだ」
ネルガルは上空に飛ぶとファイヤーボムを放った。ホーリーフィールドを張るセピア。
「お前達が住まうこの大都市に、壊滅的な一撃を与えてくれよう」
ネルガルは笑声を残して飛び去った。
ぐったりとして動かなくなった子供を抱きかかえ、明王院浄炎(eb2373)は怒りに打ち震えていた。
新撰組や見廻組なども奔走しているが、神出鬼没のネルガルに手を焼いていた。彼らの手が及ばないところで、無辜の民が殺されていく。
「すまん‥‥力が及ばなかった」
浄炎は立ち上がり、子供に毛布を被せると、フラウロス目指して走り出した。
火消しが人々を逃がしながら火事を消す。だが火の手は無数にある、手が回りきらない。
そこへ姿を見せたウィザードのエルザ・ヴァリアント(ea8189)。
「こんな穢れた炎、片っ端から消し去ってあげる」
エルザは真顔で呟くと、プットアウトを詠唱する。
「火霊よ。その尊き御霊の力にて眼前の邪なる炎を滅せよ!」
瞬く間に消滅する炎に火消しの男達は驚いた様子でエルザを見やる。
「お嬢ちゃん術師か、心強い。こっちは全く手が足りないんだ。力を貸してくれ!」
思案の末にエルザは答えた。火の手があるところにフラウロスもいるかも知れない。
「いいわ、一緒に行きましょう。案内して」
と、そこへ天馬に乗ったカイ・ローン(ea3054)がやってきた。
「肝心のフラウロスはいないみたいだ‥‥どこに隠れているのかな」
「全くね‥‥ネルガルを指揮していたというけれど」
「簡単にはいかないみたいだ、エルザさんも気をつけて」
カイを見送り、エルザは走り出した。
「神皇様のお膝元で、よくもこんな真似を‥‥」
天城烈閃(ea0629)は難を逃れて倒れ伏した民衆に水を飲ませていた。天城がいる街角は火消しの手も及ばず、炎に包まれていた。
「民を助けるのも志士の務めのうちだ。今は、これくらいしかしてやれないが‥‥」
「志士様‥‥あの虎のような怪物は一体‥‥」
「奴が来たのか? 心配するな、魔物たちは必ず撃退してみせるからな」
民は気を失った。
合流してきたイリア・アドミナル(ea2564)は燃え盛る炎にウォーターボムをぶつけていく。
「ここにフラウロスが来たようだがな‥‥」
神妙な面持ちで呟く天城にイリアはちらりと視線を向ける。イリアは今のところネルガルと遭遇しただけだった。
「広大な都に紛れ込まれては探しようがありませんね」
「だが見つけるしかない。火の手が上がる先に、必ず奴はいるはずだ」
天城は冷たい瞳で炎を見つめるのだった。
「食らえネルガル!」
デュラン・ハイアット(ea0042)は飛び交うネルガルたちにストームを叩き込んだ。さらにストームの連撃でネルガルたちは吹っ飛ぶ。
「一発目は凌いでも、こちらは二段構えだ!」
そこへ切りかかるのはフライの効果で空飛ぶ井伊文霞(ec1565)。ポイントアタックEXでネルガルの首を吹っ飛ばす。
「大変だ首が飛んだ!」
ネルガルの胴体は落ちた首を拾って舞い上がる。
文霞はネルガルたちに突進。だがネルガルたちは逃げる。
「見ているがいい! この都に絶望と恐怖を与えてやろう! お前達に止められるかな!」
「待ちなさい!」
「待て文霞! 挑発に乗るな、一人で突撃するのは危険すぎるぞ」
デュランは冷静に文霞を止めた。唇を噛みしめる文霞。
「フラウロス‥‥どこにいるのでしょう? ウイングシールドの効果にも限りがありますし」
「焦るな、大将首は必ず見つけ出す。いずれ派手な動きがあるはずだ‥‥七魔の刺客と言われる強力なデビル、何か目的を果たすために乗り込んできた、と考えられなくはないか」
「目的、ですか‥‥」
文霞は眉をひそめた。そんなものがあったら知りたいくらいだが‥‥。
黒虎部隊隊士の壬生天矢(ea0841)は、出動した黒虎部隊の面々に逃げ遅れた市民の救助に向かうよう伝えた。
「お前は?」
「俺は本命を叩く」
天矢はフラウロス狙いだが、いっかな敵大将には行き着かない。出会ったネルガルを何匹か片付けていたが、広い都をウイングシールドを借りて飛び回ることになる。龍晶球は至るところで光るので余り役には立たなかった。
フライの効果が切れて地上に降り立った天矢。リュー・スノウ(ea7242)に山本建一(ea3891)が民の救助作業に当たっている。
レジストファイヤーで耐火を得ている健一は炎に包まれた民家から子供を抱きかかえて出てきた。子供の母親が健一に駆け寄る。
「ありがとうございます!」
健一は子供を母親に預けながらにっこり笑った。
スノウは負傷した民衆達をリカバーで回復させる。
「ひどいことを‥‥この国は木の都、炎の悪魔を長居させるわけにはいきませんが‥‥」
そこへ合流を果たすエルザ。エルザのプットアウトで炎は消える。
「フラウロスは出てこないわね」
「見つかるのはネルガルばかりです‥‥」
同じく民を介護していたマロース・フィリオネル(ec3138)、リカバーやメンタルリカバーで人々の傷を癒す。
南雲紫(eb2483)もウイングシールドの効果が切れて下りてきた。
「意外に苦労するわね。もっと目立つ相手かと思ったけれど‥‥そっちは?」
南雲の問いかけに首を振る天矢。
そして数日が無為に過ぎる‥‥冒険者達は手を尽くしたが、フラウロスは見つからず、都の方々で行われる破壊活動に治安部隊は翻弄された。
だがそれらは前兆に過ぎなかった。さらなる大規模な火災の発生が京都を駆け抜ける。
都の大寺院、東寺が攻撃されたと言うのである。冒険者達に衝撃が走る。
「東寺だと‥‥」
「西洋で言えば教会への攻撃ってわけね。デビルの狙いはこれ?」
「フラウロスめ‥‥まさか僧侶達を‥‥」
「急ごう」
走る冒険者達。
フラウロスは眼下の炎に無感動な眼差しを向けていた。今この悪魔は豹の毛皮をまとった巨人の姿をしており、その手には槍があった。
槍の戦端は地上に向けられている。――と、その矛先から巨大な火球が放たれる。
炸裂する火の玉、お堂が吹っ飛び僧侶達はなぎ倒された。フラウロスは冷淡に火の玉を打ち込んでいく。
破壊された寺にネルガルが襲い掛かり、僧侶達を殺めていく。
そこへ稲妻が飛んできてフラウロスを打ち抜く。
「ぬっ‥‥」
フラウロスは稲妻が飛んできた方角を見やる。デュランのライトニングサンダーボルトだ。
冒険者達が次々と飛び上がってくる。
「フラウロス! そこまでだ!」
南雲、天矢、雷音丸、カイ、文霞、風生たちだ。
しかし――イリアの超越ウォーターボムが直撃するも、フラウロスは姿を消した。
地上に下りたフラウロスは漆黒の豹に姿を変えると、ネルガルたちに冒険者の攻撃を命じる。
天城は襲い来るネルガルたちに矢を放つ。イリアは超越アイスブリザードで迎撃。
健一や浄炎、セピアはスノウやエルザ、マロースたち術士の盾となって刀を振るう。
「聖なる光よ、悪を打ち給え!」
ホーリーの光がネルガルを打つ。僧侶を焼き尽くしたフラウロスの所業に、スノウもマロースも怒り、恐れた。
エルザはフラウロスが身にまとっている炎をプットアウトで消せないか試みたが無駄だった。
空中に飛んでいた冒険者達が戻ってきてフラウロス戦に加わる。
「大きな的じゃ炎に強い私の攻撃が当たりっぱなしよ、剣を取りなさい!」
「それでも地獄の公爵か! 堂々と戦ってみろ!」
風生とデュランが挑発すると、フラウロスは突進してきた。そして――。
フラウロスの口がかっと開かれ、灼熱の炎が冒険者達に叩きつけられた。必殺のブレスウェポン。
「あ、危ない‥‥」
しかし彼らは無事だった。イリアのレジストファイヤーが無かったら一撃で瀕死だったか。
「天に徒なす者共よ。我らの怒り‥‥その身をもって受けるがいい」
天矢は槍を構えて突撃、仲間達も続く。
「京の民の受けた苦しみと怒り‥‥地獄の業火にも勝ると知れ!!」
天城のホーリーアローがフラウロスを打ち抜くが――。
そこでフラウロスは再び舞い上がった。
「目的は果たした‥‥そろそろ地獄の戦いへ戻るとしよう。モレク将軍が待っている‥‥」
そしてフラウロスは姿を消した。ネルガルたちも次々と姿を消す。
後に残ったのは瓦礫と化した寺院、絶望に崩れる僧侶達。そこでようやく治安部隊がやってきた。
「何てことだ‥‥東寺が‥‥」
カイはがっくりと膝をついた。
真言密教の根本道場であり、国家鎮護の大寺院。東寺は都の人々の心の拠り所だ。これが地獄を攻めた人間への悪魔の報復か。
「許せぬ‥‥この所業‥‥」
浄炎も激しい怒りに身を震わせる。
この戦いに参加した冒険者の中には特に神聖騎士や僧侶も多かった。非情なまでのデビルの攻撃に、彼らは激しい戦いの予感を覚えるのだった。