丹後の盗賊・其の九、舞鶴港襲撃
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月17日〜03月22日
リプレイ公開日:2009年03月22日
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●オープニング
丹後半島――。
かつて丹後最大の武装勢力であった白虎団など、丹後の盗賊たちの拠点である。要塞化された半島に、沿岸部には盗賊たちの町が点在している。ならず者、かっぱらい、人攫いなど、無法者たちが闊歩する犯罪者天国だ。
黄泉人の進軍が押し寄せるまで、丹後の盗賊は丹後藩の大名を凌ぐ武力をもって域内で猛威を振るっていた。イザナミ軍の侵攻が本格化してからその勢力は後退したのである。「かつて」と言われる所以だ。
現在丹後には大きく分けて四つの勢力がある。一つは丹後の民を守るべく黄泉人や盗賊たちと戦う丹後・藤豊連合軍。二つ目は丹後南東地域を押さえ、多数の民を影響下に治めている大国主の亡霊軍隊。三つ目はイザナミ軍の先遣部隊として丹後に進軍してきた不死軍。四つ目がこの丹後の盗賊たちである。数えに入っていないがこれに天津神の精霊や丹後の妖怪、人と争う大江山の鬼などもいる。
大きな流れとして、不死軍と丹後・藤豊連合軍の戦いが挙げられるが、この大きな戦いが丹後の盗賊たちの勢力を後退させた原因である。
さて、不死軍の指揮官である黄泉人たちは普通に考えて人類の敵である。命あるものを食らい、西国に壊滅的な被害をもたらした。話し合う余地など無い、だからこそ丹後軍も懸命の抵抗を続けてきたわけであるが‥‥。
丹後半島、伊根の町に一体の黄泉人が姿を見せた。変身しておらず、ミイラのような外見そのままに、黄泉人は盗賊たちの前に姿を見せた。
白昼姿を現した黄泉人に、さすがに仰天した盗賊たちはアンデッドスレイヤーのレミエラで強化された刀を抜いた。
「待て――」
黄泉人は手を上げて盗賊たちを制する。
「我らは現在丹後軍と交戦中だが、都の軍勢はお前達にとっても脅威であろう」
「???」
盗賊たちは黄泉人の言葉の意味を図りかねた。黄泉人はふっと笑う。
「盗賊たちよ、我らの統治を受け入れよ。上の方では話が付いている。我らに味方し、丹後軍を打ち滅ぼすために力を貸せ。さすれば、丹後軍崩壊の後、この地をお前達にくれてやろう」
盗賊たちの頭をぐるぐると黄泉人の言葉が駆け巡った。
「つまり‥‥何だ、黄泉人に従えってのか?」
「そうだ。お前達の頭も了解している」
「お頭たちが‥‥」
「あり得ねえ、黄泉人と手を組む? お前らは人間を餌にする怪物だろう」
「そう思うのも無理はない。我らの目的は確かに人への復讐だ。だが、考えてもみよ。餌を滅ぼせば我らも滅びるのだぞ。もうすぐ我らはかつての地位を取り戻す、さすれば人に平穏を約束しよう。憎んでも憎みきれぬ大和の王、神皇だけは滅ぼすがな」
と、そこで盗賊の頭が出てきた。
「そいつの話は本当だ」
「お頭‥‥」
「俺たちは黄泉人の統治を受け入れる、その見返りに丹後を頂く。邪魔な丹後軍は不死軍に協力して倒すまでだ」
黄泉人に協力‥‥さすがの悪党達が閉口した。そんなことが可能なのか。
「かつて黄泉人は、人にとって神であった」
その言葉は空から響いてきた。盗賊たちが見上げると、屈強な男が浮いていた。
「聞け、我が名は羅刹。お前達に英知を授ける者だ。――黄泉人は本来、お前達が知るような暴虐の魔物ではない。かつてこの国で最も旧き神の眷属であったのだ‥‥」
「‥‥悪魔に黄泉人、丹後半島はとんでもないことになっています」
冒険者ギルドに姿を見せたのは前回の盗賊関連の依頼で行方不明になった、丹後松尾寺の住職、陽燕和尚であった。どうやら無事に脱出したらしい。
「丹後の盗賊と不死人の橋渡しをしたのは、盗賊団にはびこる悪魔たちです。悪魔たちは盗賊の上層部を扇動し、黄泉人との協力を取り付けたのです」
ギルドの手代は驚いた様子で和尚をみやる。毎回のことながら悪魔が絡む情報には反応が早い。
「一体どうやってそんな情報を入手されたのですか?」
「少し奥の院を偵察しましてね」
和尚は曖昧に誤魔化した。
「それはともかく、舞鶴に不死人の一隊と盗賊団が攻め込みました。不死人は舞鶴の西から、盗賊たちは船で舞鶴港に上陸し、いずれも丹後軍と交戦に入っています」
陽燕和尚は一息ついた。
「不死人の件は丹後軍に任せておいて大丈夫でしょう。ただ、舞鶴港に上陸した盗賊には悪魔が同行しています。空を飛び、姿を変えるあの魔物たちが盗賊を背後で操っています」
「また悪魔ですか‥‥」
最近大規模な悪魔の攻撃が京都に来たばかりである。東寺が壊滅的な被害を受けた。
「前回の丹後の盗賊関連の依頼で急展開がありましたからねえ‥‥それにしても核心を掴む前に盗賊の方から攻撃してくるとは、息つく暇も無い」
「私たちに安穏と構えている余裕はありません。黄泉人と盗賊、悪魔が手を結んだのです。盗賊たちは魔と結び、丹後を手に入れようと画策しています。敵は一枚岩となって強化されたのです」
陽燕和尚は厳しい表情だ。黄泉と悪魔と結束した盗賊たちは丹後軍の脅威となるかも知れない‥‥。
和尚も松尾寺を離れ、丹後軍に合流したと言う。丹後軍には警戒を呼びかけており、和尚も今回は軍から直接依頼を預かってやってきた。
「悪魔との戦い、冒険者の皆さんの力なくして乗り切ることは出来ません」
舞鶴港に攻撃を仕掛けてきた丹後の盗賊、その背後には丹後の悪魔がいると言う。
――依頼の張り紙を見つけた「あなた」は立ち止まり、舞鶴へ向かうか否かを思案するのだった。
●リプレイ本文
「う‥‥わああああ!」
琉瑞香(ec3981)はペガサスに振り落とされて舞鶴港に到着した。
「だ、大丈夫ですか‥‥瑞香お姉ちゃん」
チサト・ミョウオウイン(eb3601)が駆け寄って瑞香を立ち上がらせる。
「いや、どうも少し無茶をしたようです、あの子とはまだ付き合って日も浅いので‥‥」
瑞香は飛び去るペットを見送った。どうやら足代わりに使われた事が不満のようだ。
「さて‥‥戦況は‥‥」
舞鶴港を襲撃した盗賊は丹後軍と激しく刃を交えている。
「盗賊にまで攻め込まれるとは‥‥なんたる不覚よ」
アラン・ハリファックス(ea4295)は丹後軍の指揮を取る藤豊武将・片桐且元のもとを訪れた。
「且元殿」
「おお、アラン殿か」
片桐は驚いた様子である。
「陽燕和尚の知らせを受けてやって来たのだが‥‥」
「和尚の知らせ、そうであったか」
且元は陽燕和尚に目を向ける。
「盗賊が魔物と結託したのは事実のようだ。空飛ぶ魔物を戦場で見た者がいる」
アランの表情が険しいものになる。
「黄泉人も盗賊も、すっかり悪魔に飼い慣らされてしまったというわけですか。利用され、魂を弄ばれるだけでしょうに‥‥なんて馬鹿なことを‥‥」
ゼルス・ウィンディ(ea1661)は悪魔の手口に不快感を覚えていた。盗賊に憐れみは感じないが、悪魔の手先が増えるのは歓迎すべき事態とは言えない。
アランは肩を怒らせる。
「盗賊如きがふざけやがって‥‥千成瓢箪にここまで盾付いて、生きて帰れると思うな」
千成瓢箪とは藤豊秀吉の旗印だ。
「河童海賊の姿はありませんか?」
チサトは且元に問うた。
「うむ、在る。‥何か、知っているようだな」
「彼らは昔から丹後を縄張りとする海賊で、海人族と言います。彼らは昔話の頃も悪魔と手を結ぶ事を選び、先もまた‥‥気を引締めねば、手痛い目に合います」
「丹後の海人族か‥‥噂には聞いたが」
「盗賊との戦いですが‥‥海人族――海賊の支援を断ちきり、退路を断つ意図からも、多少港の内陸まで誘き出すくらいで丁度良いかもしれません」
「だが、目的が舞鶴港ならば、みすみす敵に奪われることになるまいか?」
チサトの意見に、普段はノルマンで活動する神聖騎士、エメラルド・シルフィユ(eb7983)が答えた。エメラルドはジャパンは初めてらしい。
「盗賊が港町を手に入れてどうする気か。諸侯にでもなる夢を見たのかもしれないが、デビルと結んだ時点で終わっている」
「盗賊もデビルに頼るっちゃあおしまいだなあ‥‥ま、こうなった以上情けはいらねえが」
雷真水(eb9215)は両の手を頭の後ろで組んで、ぼやき混じりに呟く。
「悪党と言えど人の子と思っていましたが、ここまで神皇様に弓引くとは‥‥丹後の盗賊、徹底的に懲らしめてやる必要がありそうですね」
瑞香の言葉に仲間達は頷く。それぞれに武器を構えると、彼らは戦場に向かう。
‥‥とその前に、チサトには一つ気がかりなことがあった。
過日の悪魔の言動と言い、和尚の不思議な言動と言い、チサトは陽燕和尚に疑念を抱いていた。チサトはミラーオブトルースに映った陽燕和尚を覗き込んだ。和尚の体が光る。
(「魔法の反応‥‥これだけでは決め手にかけるけれど」)
チサトは何も言わずその場を離れた。
「‥‥へっ、久々の戦場だが、やるこたあ変わらねえ。抵抗する奴はぶった切る。それだけのことよ!」
眼帯をした隻眼の河童が吠える。
屈強な河童の男は船の上から戦闘を見つめていた。海人族のボス、英胡である。
英胡はとっくりを煽りながら悠然と、だが瞳には冷徹な光をたたえている。
そしてその傍らには空飛ぶ悪魔、羅刹が。
「まともにやり合って勝てる相手じゃねえぜ。そのためにあんたらを引き入れたんだ」
「せいぜいこの地に絶望と恐怖を振りまいてくれることを期待しているぞ。鳩摩羅天様もそれをお望みだ」
「御託はいいぜ羅刹さんよ、こちとらあんたらのやり方に従っているんだ。少しは手を貸してくれねえとな」
羅刹は浮かび上がると、戦場に向かって飛んでいった。
「おおおおりゃあああああ!」
前線の人となったアランは豪快に修羅の槍を一閃した。圧倒的なパワーで盗賊をなぎ倒す。
「アランの野郎、張り切ってるなぁ。こっちもやるか。情けはかけねぇぜ」
真水はアランと組み、天国と包丁正宗のダブルアタックで盗賊を斬り伏せる。
「つ、つええ‥‥へへっ だがお前らはおしまいだ! 悪魔と黄泉を味方につけた俺たちを倒せると思うかよ!」
踊りかかってきた盗賊をアランは無言で叩き落した。
「ふざけろよ貴様ら」
「ふざけちゃいねぇ、これも処世術だっ。お強い戦士様には分かりゃしねえだろうがな」
「愚か者め‥‥!」
エメラルドは魔剣で盗賊を打ち据えた。
「どうせ、末は死人憑きになるか打ち首しかねえなら、悪党の天下を作りたくなったのよ。俺らも後がねぇのさ」
丹後は黄泉人との最前線だ。この国の民は、いつ死人が襲ってくるかと夜も満足に眠れない日々を送っている。怒りに任せて槍を振るったアランの目に、倒れる盗賊の後ろで呪文を唱える賊の姿が映った。
「――デスハートン!」
盗賊のデビル魔法に、アランの体から力が抜けた。
盗賊の手にアランの体から生命力が白い固まりとなって吸い取られた。
「しまったっ」
「へへっ‥‥! 見たか! これが悪魔の力だぜ!」
狂喜する盗賊だが――。
次の瞬間にはアランの魔槍がその胴体を貫いていた。連続攻撃で盗賊を葬り去るアラン。吸い取られた白い固まりを取り返して飲み込む。
「貴様が一目散に逃げを打っていたら、俺も危なかった」
「大丈夫かアラン」
駆け寄る真水。
「盗賊たちは魔法を使うぞ、気をつけろ二人とも」
「デビノマニか‥‥この国にも」
エメラルドは苦痛に耐える表情で剣を握り直す。
悪魔と契約を交わしてその力を得た者、悪魔信者はこれまでのジャパンでは滅多に見ない存在だった。一介の盗賊がデビル魔法を使うのは多いに違和感がある。
「そこかしこに羅刹が‥‥」
ゼルスの超越ミラーオブトルースに羅刹の姿が映る。盗賊に紛れて丹後軍と戦っているが、正体は歴としたデビルだ。
「丸見えですよ」
ゼルスのヘブンリィライトニングを受け、羅刹が倒れる。人混みが羅刹の姿を一瞬隠し、次には消えていた。
「‥‥こんなに‥」
戦場に立つチサトの指には石の中の蝶――蝶は常に羽ばたき続けている。戦う盗賊たちの中に、変身した悪魔が相当数紛れている証拠だ。
「皆さん! 道を開けて下さい! 魔法を打ち込みます!」
兵士達は慌てて飛びのく、チサトは盗賊の列にアイスブリザードを叩き込んだ。しかし、盗賊の方も直前に散っていて、効果を受けたのは少数だ。
「成る程、戦いに長けた羅刹が盗賊を助けている、実質的には盗賊を駒にした魔軍も同然ですね。‥‥まあこの程度地獄での戦いに比べれば‥‥」
ゼルスはストーム、トルネードを連続でお見舞いする。超越術師のゼルスの遠慮の無い攻撃に、盗賊たちは木端のごとく吹っ飛び舞い上がる。
瑞香は少し下がって魔除けの風鐸とホーリーライトで安全地帯を作り出し、味方の治療に当たっていた。
「敵の中には魔物が多数紛れ込んでいるようです。気をつけて下さい」
デティクトアンデットには多数の反応があった。
「ああ‥‥そいつは多分武器が通じない奴だろう。幾ら切っても血が出ないんだと」
「丹後の盗賊は本気で魔物と組んだのか? 同じ人間じゃのに」
兵士達は驚きと、憎しみを持った。丹後の民を救わんと死人相手に戦う彼らには、悪魔と組んだ盗賊は全く厄介だし面白くない。
「魔物の事は任せて下さい。皆さんは無理をせず、お侍様の指揮に従って戦ってください」
「そのようですな‥‥」
ぼやきつつ足軽たちは戦闘に戻っていく。
アラン、真水、エメラルド、ゼルス、チサトらは盗賊を兵に任せ、羅刹に的を絞って攻撃を集中する。羅刹は戦慣れした悪魔だが、前衛にあってはアランを中心に、後衛にあってはゼルスの魔法攻撃に散々に打ちのめされていく。
羅刹の数が減ると盗賊たちは足並みを乱した。やはり羅刹が盗賊の統制を取っていたようだ。算を乱して逃げ出す盗賊に、冒険者と丹後軍が追撃をかける。
「ここで逃がせば後顧に憂いを残す。奴らを生かして帰すな!」
「悪魔が居なくなったら退散なんて、だらしねぇにも程があるぜ」
アラン、真水が先陣を切る。
情勢を察した河童海賊の海人族も港から海に飛び込んでいく。
「逃がすか! 行けナイアス!」
ペットのケルピーに跨って海に飛び込んだエメラルド。ウォーターダイブで海人族を追う彼女に、海賊船は矢雨を降らせる。
「むっ‥‥うわぁぁ!?」
水晶の盾を構えたエメラルドの背中に、強烈な暴風が叩きつけられた。ゼルスのストーム、海賊船は転覆こそ免れたが激しい揺れに何人も海に落とされた。足の止まった海賊船に、超越トルネードが炸裂。
「馬鹿なああああっ!」
海に投げ出されて慌てふためく盗賊たち。
何隻かは逃したが、海賊船で逃げようとした盗賊はほぼ御用となった。
盗賊たちのアンデッドスレイヤーの武器は回収して丹後軍で利用されることになる。
「悪魔と黄泉人の件、どんな手を使ってもこいつらの口を割らせて、真実を吐かせてやる」
アランは片桐に凄んだ。
盗賊は尋問されるとあっさり白状した。それは陽燕和尚の情報を裏付けるものだった。
「‥‥それにしても、確か安底羅大将‥‥でしたか。この前の悪魔が警戒していたのは。他の地域で、天の使いが悪魔の説得に動いていることがありましたが、この悪魔達を監視している方もいらっしゃるということですかね。その辺、どう思われます? 陽燕和尚?」
「仰る通りでしょう。第六天魔王の復活に丹後の鳩摩羅天、御仏の使いが見過ごすはずが無い」
ゼルスの問いに、頷く和尚だった。