【道敷大神】八十禍津日神来る

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:14人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月26日〜03月31日

リプレイ公開日:2009年04月07日

●オープニング

 丹後――。
 黄泉の軍勢と人類の戦いが続いている。不死軍六千を率いて丹後に進軍したイザナミ配下の謎の死人使い“導師”は、丹後軍を数度にわたって打ち破り、人類は壊滅するかに見えた。前回、最後に行われた大規模戦闘は舞鶴。冒険者達は奇跡的に導師の懐に飛び込み、超越ミラーオブトルースでその正体を見破る。人間の姿をしていた導師の真の姿は朽ち果てた骸骨であった。そして、その導師は冒険者達を一蹴するも、予期せぬ事態に舞鶴から軍を引き上げる。不死軍の後退に救われた丹後・藤豊軍、だがそれは、さらなる強敵が丹後に近付いていることの前触れであったのだ‥‥。

 丹後西方、旧峰山藩――。
 八十禍津日神――イザナミ軍の大幹部が峰山領に到着していた。八十禍津日神、その姿はジャイアントを遙かに凌ぐ七、八メートルの巨人であった。禍々しい重量感のある甲冑――骸骨の装飾が施されている――を身にまとい、長大な剣を装備している。意外にも顔は人間だが、黄泉族と言うことを考えれば、あるいは仮の姿かもしれない。
「大連(おおむらじ)、イザナミ様はいたく失望しておいでだ。いまだに丹後軍に手こずっているようではな」
 八十禍津日神が「大連」と呼んだのは導師である。導師は這いつくばって、八十禍津日神にひれ伏していた。
「い、イザナミ様が‥‥わ、わ、わたくしは‥‥」
 導師はわなわなと震えている。八十禍津日神は腰の長大な剣を抜き放つと、導師の首に当てた。導師は「ひっ」とすくみ上がる。
「だが、イザナミ様は寛大なお方よ。このわしを丹後に派遣されたが、お前はまだ役に立つと仰せだ。以後、わしの手駒として不死軍の指揮を取れ」
「はっ‥‥ははーっ! この大連、必ずや雪辱を果たして見せましょうぞ」
 八十禍津日神が率いてやって来た不死軍の総数は一万。導師の軍勢の倍である。例によって指揮官となる黄泉人たちの他に骸骨巨人戦士がしゃ髑髏や腕の立つ怪骨剣士など精鋭、死食鬼のようなモンスター、そして多数の死人憑きや怪骨兵士、以津真天や怨霊を引き連れている。これで丹後の不死軍は総勢一万六千に増強されることになる。
「さて‥‥者ども、出撃の準備をせい。導師よ、お前は六千の兵を率いて舞鶴方面に兵を進めよ。それ以外の者たちは本隊を率いて宮津に進軍し、兵力を展開せよ」
 八十禍津日神は黄泉人たちに号令すると、進軍を開始した。

 舞鶴――。
「‥‥どうやら、稲荷神様の情報どおり、不死軍はさらなる大部隊で攻め込んでくる模様ですな」
 丹後軍の諸将、藩主達は不死軍動くの知らせを受けて厳しい表情であった。
 と、そこへ兵士が飛び込んできた。
「た、大変でございます! 舞鶴城下に魔物が! 空から巨大な魔物がやってきました! 丹後軍の大将を出せと申しております!」
「何?」
 諸将、藩主達は顔を見合わせると、城下に出向いた。
 そこで待ちうけていたのは、巨大な剣を地面に突き立てた八十禍津日神であった。
「何だあいつは‥‥でかい」
 藤豊武将、丹後藩主達は恐る恐る八十禍津日神に近付いていく。天津神や丹後の狐神も彼らと共に黄泉の神とあいまみえる。
「わしは八十禍津日神、イザナミ様にお仕えする将軍が一人よ」
 八十禍津日神は威風堂々と名乗った。
「‥‥!」
「こやつが噂の八十禍津日神だと‥‥」
「人間達よ、お前達に機会をやろう。我らに降伏せよ。抵抗せねば命まではとらぬ。また、降伏できぬとあれば逃げる機会をやろう」
「何だと‥‥」
「西国で、この国の人間が全て大和の王に従っている訳ではないと聞いた。我らが目的は黄泉を裏切り封じた都の神皇家。我らの邪魔をせぬならば、見逃そう」
 八十禍津日神は人間達を見下ろした。
「黄泉人に降伏などせぬ‥‥! 左様な話を聞いて逃げるなど、論外。我らは神皇様をお守りするために戦う者。都への侵攻を企てる黄泉の軍勢に背を向けるなど、あり得ぬ選択」
 人間達は八十禍津日神に言葉を叩きつけた。黄泉の神は笑った。
「‥‥ふっふっふっ、そうであろうな。そう来なくては、戦いがいが無い。では次に見えた時が最後だ。お前達の誇りを見せてもらおう! 容赦はせぬぞ!」
 八十禍津日神は巨体に似合わぬ速さで空中に飛び上がると、そのまま飛び去った。

 丹後軍と黄泉の軍勢は宮津と舞鶴の国境、由良川を挟んで向き合った。由良川流域の防御陣地は完成しており、丹後・藤豊連合二千余は高台に防壁を張り巡らせた堅牢な陣地にて不死軍を待ち構える。
 対する不死軍先鋒は六千余り、背後の宮津にはさらに一万の本隊が控えていると、丹後軍と合流した妖怪たちが知らせを持って帰ってくる。
「進軍を開始せよ」
 八十禍津日神は本隊に鎮座し、先鋒を預かる導師に短く命令を下す。
 かくして、再び激戦の幕は上がり、冒険者ギルドに丹後の戦いへ参戦を呼びかける依頼が張り出された。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb9215 雷 真水(26歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec0312 烏 哭蓮(35歳・♂・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

 潮盈珠に潮乾珠、二つの秘宝が敵の手に渡った今、敵はいつでも大洪水を引き起こすことができる‥‥。
 明王院未楡(eb2404)、イリア・アドミナル(ea2564)、白翼寺涼哉(ea9502)らは丹後軍の指揮官達に洪水対策について意見していた。
 片桐且元、平野長泰らはその意見を取り入れ、全軍に防波堤を築くように言った。
「あら、私スクロールを忘れてきたのかしら‥‥」
 リアナ・レジーネス(eb1421)はあたふたと荷物の中を探していた。
 兄のベアータ・レジーネス(eb1422)は秀吉との面会を望んだがイザナミ決戦で都は混乱しており、会うことは出来なかった。ベアータは積み上げられていく防波堤にアイスコフィンをかけて回り、陣地を強化していた。
 戦闘開始前、クァイ・エーフォメンス(eb7692)は丹後軍の兵士たちの間を回り、武器の手入れを行っていた‥‥。

 不死軍本陣――。
「ふっふっふっ、我が秘宝の力を見せてくれよう。奴らが築いた防御陣など、一撃で粉砕してくれるわ」
 導師はそう言うと、懐から鈍い光を放つ宝珠を取り出し、コマンドワードを唱えた。
 水流が見る間に沸き起こり、濁流と化し、巨大な津波となって丹後軍に向かって襲い掛かる。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥。
「あれは‥‥!」
 偵察に出ていた化け鼠や妖狐、化け烏たちは不死軍の前方から突如として沸き起こった大波に息を飲んだ。
「まずい!」
 妖狐はネズミたちを抱えて飛び上がる。

「津波が来ますぞ! とてつもない大波です!」
 妖狐が慌しく陣中に駆け込んでくる。すでに丹後軍にざわめきが走っている。前方から巨大な波が驀進してくる。
 不死軍最初の攻撃は潮盈珠による津波攻撃。
 アラン・ハリファックス(ea4295)は苦い顔で舌打ちした。
「潮盈珠か‥‥あのとんでもないアーティファクトは厄介だな」
「みんな、急いで!」
 イリアは仲間達、多くの者たちにウォーターダイブをかける。
「波が来るぞ! 捕まれ!」
 ドドドドドドドオオオオオオ!
 丹後軍の防御陣に叩きつけられる津波。
 ザシュウウウウウウ!
 土石流が壕に流れ込み、防波堤に波が激突する‥‥が、防波堤は決壊。波が陣中にも押し寄せ、地面を水浸しにした。

「来るぞ! 立て! 戦列を整えろ!」
 南雲紫(eb2483)やアラン、片桐、平野、丹後藩主たちは兵士たちを叱咤する。
 何重にも掘った壕は津波の一撃で埋め尽くされ、土砂の上を不死軍が乗り越えてくる。防波堤や障壁は壊滅、恐るべき潮盈珠の威力である。そして防御陣の高台を亡者達が登ってくる。
「反撃だ! 落石の封印を解除しろ!」
 アランの呼び声で丸太や落石の封印が解かれ、登ってくる亡者達に叩きつけられる。
 それでも亡者の進軍は止まることを知らない。圧倒的な大軍で正面から押し寄せる。
「ふむ‥‥これほどの亡者とまともに戦うのは何とおぞましい光景でしょう。血が騒ぎますね〜、クックックッ」
 旅の僧侶と名乗って参戦した烏哭蓮(ec0312)は陰陽師と僧兵を連れて不死軍を見下ろしていた。
 程なくして大魔法使いの攻撃が始まる。みな飛行ペットに乗った魔法使い達は上空から強力な魔法を連発する。
 イリアの超越アイスブリザードが亡者をなぎ倒し、リアナの超越ライトニングサンダーボルトが不死軍を貫通し、ロッド・エルメロイ(eb9943)の超越ファイヤーボムが不死者たちを吹っ飛ばし、ベアータの達人ライトニング、アイスブリザードが不死軍の戦列に叩きつけられる。
 だが不死軍の反撃も早い。これまで幾度と無く魔法使い達を苦しめてきた不死軍の航空戦力、怪鳥アンデッド以津真天と怨霊の群れが飛び立ち、魔法使い達に向かってくる。
「京都で頑張っている春香姫の為にも、必ず導師を討ち丹後を守ってみせる‥‥」
「空中戦は得意じゃないんだけどな。だけど、青き守護者の名にかけて守り通してみせる」
 グリフォンに乗ったルーラス・エルミナス(ea0282)とペガサス騎乗のカイ・ローン(ea3054)は魔法使いの前に立ちはだかると、武器を構える。
「青き守護者カイ・ローン、参る」
「行くぞ!」
 ルーラスとカイは襲い掛かってくる敵に飛び込んだ。

「がしゃ髑髏だ!」
 兵士の一人が叫んだ。
 地上では不死軍の戦列に骸骨巨人戦士がしゃ髑髏が姿を見せ、回りには怪骨剣士や死食鬼を引き連れている。
 がしゃ髑髏が現れたことで亡者が勢いを増しているように見える。
「撃って撃って撃ちまくれ!」
 南雲、アラン、丹後軍の武将達から号令が飛ぶ。
「がしゃ髑髏に集中攻撃を!」
 エーフォメンスも狙いを定めてホーリーボウを引き絞る。
 上空からも魔法使いたちが援護する。
 だが突進してくるがしゃ髑髏は、一体、また一体と丹後軍の戦列を突き破る。
「これ以上は通さねえよ! みんな踏みとどまれ!」
 雷真水(eb9215)は侍や足軽を率いてがしゃ髑髏に立ち向かった。
 ぶん! とがしゃ髑髏の鉄球が先頭の真水を打ち倒す。
「ぐ‥‥! この怪物め」
「お姉ちゃんしっかり」
 明王院月与(eb3600)が駆け寄り、リカバーポーションを飲ませる。
「すまねえ」
 侍たちは果敢に撃ちかかっていく。エチゴヤ強化済みの武器やアンデッドスレイヤーで立ち向かう。
 真水は立ち上がると、気合いを込めて突進する。オーラエリベイション、オーラパワーを発動、ダブルアタックで打ちかかる。
 月与も最前線に向かう、続々と不死軍が到達し、丹後軍の戦列に襲い掛かっている。

「忙しくなってきたな‥‥喜べる状況じゃないが」
 白翼寺は本陣後方、救護所にて運ばれてくる兵士たちを診察していたが、吐息して立ち上がった。
「どちらへ?」
「戦場だ、ここは任せる」
 言って白翼寺は歩き出した。
「お気をつけて‥‥」
 丹後の僧侶たちの顔には厳しいものが浮かんでいた。

「格闘戦はお武家様の出番ですね‥‥しかし、壮観ですねこの亡者達は‥‥私など及びもつかない血の香りがしますよ‥‥」
 哭蓮は陰陽師と共にスクロールで死人たちを牽制していたが、一旦後退する。
 前線の人となった未楡は死食鬼や怪骨剣士を叩き切っていた。
「くっ、押さえきれないですね‥‥」
「母様、いつもこんな戦いを‥‥」
 月与は怪骨を倒しながら母の横を支える。
「最初の津波さえなければ‥‥あの骸骨野郎」
 骸骨野郎とは導師のことだ。アランは罵りながらがしゃ髑髏に姫切を浴びせかけていた。
 上空の魔法使い達は敵の航空戦力と戦闘状態にあり、ルーラスやカイは術士の護衛に奔走している。
「怯むな! 敵を冥府に送り返してやれ! 百であろうと千であろうと万であろうともだ!」
 南雲は兵士を叱咤激励しながら対がしゃ髑髏、死食鬼、怪骨剣士など強敵の一団を相手にしていた。
 上空を飛ぶ木霊の群れはストーンウォールの押し潰しやグラビティーキャノン、ローリンググラビティーで亡者達の戦列を崩している。また大太法師はがしゃ髑髏と激突。
「黄泉め‥‥世界を支配しようなどと愚かな‥‥我らは自然の理の中で人と共生してきたのだぞ」
 天津神の火精霊、天御影命や天鈿女命は、黄泉人の大量殺戮を快くは思っていなかった。そんな思いで民のために剣を振るっていた。ただ一人、後方にあって相変わらず観戦しているのは天火明命‥‥。

「では‥‥そろそろ決着をつけに参りましょう。この大連の手でな」
 導師は黄泉人たちとともに全軍を率いると、先陣に立って戦場に赴く。

「あれは‥‥?」
 怨霊をまとった導師の一団が出てくると、ルーラスは接近してオーラセンサーで導師を指定した。
「導師?」
 ルーラスは地上の仲間達のもとへ向かう。
「奴が来た?」
 アランは死人憑きを叩き伏せると、ルーラスの言葉を受けて下に目をやった。飛び交う怨霊、がしゃ髑髏を引き連れた先頭集団。その中心に怨霊を身にまとったローブ姿の骸骨がいる。
 導師現るの報にアランは苦心の末に仲間や兵士たちと連携を取り、一斉攻撃の姿勢を取る。
「合図のムーンアローに注視! ‥‥全弓、全魔法で吹っ飛ばせ!!」
 エーフォメンスもアランの横に立ち、合図を待つ。魔法使い達も敵を振り切って一瞬にかける。
 そして――陰陽師が導師を指定してムーンアローを放つ。
 アローは吸い込まれるように導師を捕らえた‥‥!
「今だ!」
 イリアの超越ウォーターボム、ロッドの超越マグナブロー、ベアータの達人ライトニング、弓兵の破魔矢、エーフォメンスも矢を放ち、導師に魔法と矢を叩きつける。
 しかし――導師は怯むことなく前進してくる。
「第二射放て!」
「これでもか!」
 ロッドは温存していた超越マグナブローを連発する。
「導師とは言え所詮は黄泉人‥‥ここに貴方の場所はないのですよ〜」
 哭蓮もブラックホーリーを放つ。攻撃は確かに命中しているが‥‥?
「神皇の民よ! この大連が滅ぼしてくれるわ!」
 導師の体から瘴気の渦が爆発し、瘴気が怨霊となって襲い来る。
「これが噂の怨霊召喚術ですか‥‥!」
 哭蓮は背中を走る戦慄に歯が牙のように剥き出していた。
 導師を討てず、押し寄せるアンデッドの大軍に丹後軍の戦線は後退する。
「だ、駄目だ!」
「もう一度前回のように一か八か!」
 魔法の絨毯で導師に突撃しようとする未楡と月与をアランが止めた。
「よせ、死ぬ気か!」
 と、後退する丹後陣中へ巨大な八十禍津日神が降り立ってくる。
「や、八十禍津日神だあ‥‥!」
 乱れる丹後軍、リアナら魔法使い達が超越魔法を浴びせるが八十禍津日神は微動だにしない‥‥。
「ふふ‥‥ここはもはや落ちたわ」
「八十禍津日神‥‥? 貴様はもしや絶滅した一族では」
 いつの間にかやってきた天火明命が八十禍津日神と対峙する。
「ほう、天火明命か‥‥噂には聞いていたが、人間に付くか」
「イザナミの復讐は止めはせぬ。お前達に滅ぼされるなら、それも神皇家の運命」
 天火明命はそう言って踵を返した。
 撤退する丹後軍は最後の砦となる舞鶴城へ後退するのだった。