【黙示録】フラウロスの再来
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:7人
冒険期間:04月05日〜04月10日
リプレイ公開日:2009年04月15日
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●オープニング
京都、東寺――。
先日、フラウロスと言う名のデビルによって甚大な被害を被った大寺院は復興を遂げる間もない。京都には西方からイザナミ軍の大軍が押し寄せたのだ。未曾有の黄泉人との決戦に民の心は揺れていた。
東寺の僧侶達も多くが戦場に赴いたが、残った者たちは東寺の一刻も早い復興を願って、民とともに瓦礫を片付けていた。
「何と言うことだ‥‥地獄の魔物に寺を、御仏に仕える者たちが焼かれるとは‥‥」
僧侶は暗澹とした呟きを漏らした。
「皆の者、西からは黄泉の軍勢がやってくるが‥‥御仏に祈ろう。もはや、我々に出来ることは祈ることしかない」
僧侶は絶望に暮れる人々に呼びかけた。
「師よ、この困難に、果たして都の軍は立ち向かうことが出来るのでしょうか」
「うむ‥‥数多の勇士たちが黄泉との戦いに赴いた。彼らに御仏の加護があれば必ずや黄泉の大軍を退けてくれるだろう」
「ですが‥‥此度の戦いは有史以来の大戦‥‥」
「言うな。今は祈るしかない」
「は‥‥」
師と呼ばれた僧侶は瓦礫となった寺の敷地内を一回りすると、難を免れたお堂に入った。仏像が静かに見下ろしている。僧侶は床に座禅を組むと、瞑想に入った。
‥‥コトリ。
僧侶は物音に振り向いた。
「‥‥!」
豹の毛皮を着た大男が立っていた、手には燃え盛る槍を持っている。その瞳には踊るような炎があった。そして、男は浮いていた。
「魔物か‥‥!」
僧侶はホーリーフィールドを張る。
「予言を告げにやって来た」
男――デビル・フラウロスは冷淡に言った。
「間もなく地上で恐ろしいことが起きる。天と地を悪魔の兵士たちが多い尽くすことだろう。この世界は王の手によって再生される」
「何を‥‥」
フラウロスは呆気にとられる僧侶に向かって、槍の矛先を向けた。
――直後、矛先からもの凄い火球が炸裂し、結界もろとも僧侶を、お堂の壁を吹っ飛ばした。
ドゴオオオオ!
「ぐああああっ!」
「言ったであろう。予言を告げにやって来たと」
フラウロスは火の玉を連発して打ち込んだ。
僧侶は紅蓮の炎に包まれ絶命する。
そこへ駆け込んでくる僧侶たち。
――フラウロスは一瞬僧侶たちを見やり、一枚の紙切れを残して消えた。
「‥‥! 師よ!」
「大変だ! 医者を!」
「‥‥これは何だ?」
僧侶はフラウロスが残した紙切れを拾い上げた。
そこには血文字でこう書かれていた。
「1週間後、東寺にて前夜祭を行う、つまりは再度攻撃をかける、地獄の業火が全てを焼き尽くすだろう――フラウロス」と。
「た、大変だ‥‥」
フラウロス率いるネルガルの大軍は前回東寺を破壊し、多くの僧侶を亡き者にした。地獄からの報復と聖職者達に恐れられた。あの悪夢が起こると言うのだろうか‥‥。
都のまとまった戦力はイザナミ戦で混乱している。
僧侶達は、フラウロスの再来に備えるべく冒険者ギルドに駆け込んだ。一縷の望みを託して。
●リプレイ本文
「この間はやってくれたな‥‥これ以上聖職者を見殺しにするのは俺の矜持が許さない」
白翼寺涼哉(ea9502)の瞳は冷たい光を帯びている。対フラウロスへの防備を固める僧達の陣頭指揮を取っている。
「そっちはどうだシェリル」
戻ってきったシェリル・オレアリス(eb4803)に呼びかけた。シェリルは超越級の白魔法を操る恐らく世界有数の僧侶だ。
「反応なしね‥‥今のところは」
シェリルは超越デティクトアンデッドで寺を巡回していた。
「しかし‥‥本当に奴は来るのか? 事前に予告して攻撃など、デビルにしてはあまりも素直すぎるな」
「と言って、こちらに当てがあるわけもなし、京都の寺社仏閣には呼びかけておいた。万が一他が狙われたら知らせが来る」
デュラン・ハイアット(ea0042)は風雲寺雷音丸(eb0921)の答えに鼻を鳴らした。
「逆にこちらが東寺の守りを薄くすればそこを突かれる可能性もあるわけで‥‥フラウロスが何を考えているか分からないけど‥‥」
馬上で槍を構えるセピア・オーレリィ(eb3797)は不満そうなデュランに言って肩をすくめる。
ジャイアントの神聖騎士メグレズ・ファウンテン(eb5451)は目立つ体格を生かして寺を巡回していた。これを見ているかも知れないデビルへの牽制か。
「もし現れたら逃がしませんよ‥‥フラウロス、無辜の民を虐殺した報いは受けてもらいます」
それからメグレズは持ち込んだ木材で寺の修復作業を手伝いに向かう。
レイア・アローネ(eb8106)はロシアからの参戦だ。キエフではハルファスとの戦に参加したが結局本命のハルファスには会えなかったらしい。
「‥‥まあ、何だ、フラウロスと剣を交えてみたいというのも本音だし、何よりデビルは放っておけん。中級、上級のデビルと渡り合う経験を積まなければこの先の地獄の戦いを生き抜く事は難しいからな。要するにこれは自分の為の戦いでもある。私の勝手で参戦している以上、僧の者らはなんら恩を感じる必要はないぞ」
レイアは僧たちに気さくに笑いかける。
「そうか‥‥地獄との戦いを続ける冒険者か。ならば奴らの恐ろしさは我ら以上に知っていような」
僧たちの言葉にレイアは思案顔で腕組する。
「そう言えば、この国ではデビルは余り見かけないのだったな」
「ここ最近では魔王が復活したなどと噂になってはいるがな‥‥」
「地獄でも新たな魔王が現れたようだ。この戦いの果てに何があるのか、今は知る良しもないが。その前に私自身生き残らなくては」
レイアは苦笑する。
「デビルの影もない」
巡回していたアンドリー・フィルス(ec0129)はやってくると憮然として言った。
「何かの罠か?」
「‥‥何れにしろ、この僧侶達の悪魔探知をかいくぐって接近できるデビルはいまいが」
白翼寺と琉瑞香(ec3981)は対フラウロスの炎対策として救護所を設けることにする。水や外用薬、清潔な布を山と積んだ。と、そこへ一人の僧侶が姿を見せる。
「あなたは‥‥」
白翼寺と瑞香は驚いて相手を見上げる。東寺の高僧文観である。
「このような時、御仏がいらして下さればな‥‥」
文観の顔は厳しい。
「文観殿、真言宗の同盟相手である平織家の内紛と、東寺への援助要請は悪魔達の狙いでしょうか」
或いは直截に過ぎるかも知れないが、この機に白翼寺は文観の考えを尋ねた。
「あり得る話だ。我らは魔王の敵であるからには、延暦寺などと簡単に結びついてもらっては邪魔であろう。虎長が魔王であるというなら、我らは過ちを正して悪魔を倒さねばならない‥‥」
一夜明けて‥‥。
「来たわね」
シェリルは目を開けた。シェリルの視線の先に、デビルの大軍が姿を見せた。羅刹やネルガルの混成部隊、その先頭に巨大な炎をまとった漆黒の豹――フラウロス、しかも黒い霞をまとっている。
――敵襲! 敵襲だー! 東寺全体に緊張が走る。
「堂々とおいでなすったか‥‥迎撃準備!」
白翼寺は僧侶達に号令する。僧侶達はホーリーフィールドを展開。
雷音丸、セピア、メグレズ、レイア、アンドリーは前進したが――。
「私に一案が」
メグレズは仲間達を足止めすると、たった一人でフラウロスの方へ進んでいく。
「やっと来たか。こそこそ隠れないと何もできない雑魚頭。ん? どうした? 雑魚と言われて頭に来たか? また逃げるのか? やるのか? 何か言ったらどうよ?」
「面白い奴だ‥‥」
フラウロスは人型形態の大男に変身すると、手に持った槍をメグレズに向ける。槍から火の玉が炸裂し、メグレズを直撃する――!
果たして、爆炎の中からメグレズは立ち上がった。無傷だ。さすがのフラウロスが驚いた様子である。
「化け物じみた重装備だな。貴様は相手にせん。者ども、あいつを押さえ込んでおけ」
「承知しました」
ネルガルたちは姿を消すとメグレズを急襲。
「何!」
集団で襲い掛かってメグレズを組み伏せる。
「うわあああ!」
姿を現した十体以上のネルガルがメグレズに組み付いている。
「これ以上は待てん、行こう!」
雷音丸たちは突撃する。
「羅刹たちは地上から押し進め。ネルガルは我と共に来い。空から奴らの陣を突破する――ぬっ!」
バラスプリントで瞬間転移してきたアンドリーの一撃をフラウロスは跳ね返した。
「小賢しい真似を‥‥パラディンか‥‥だが無駄なこと。混沌神を破壊した刃も我を捕らえるには至らん」
そう言ってフラウロスは消えた。
「上空に悪魔の反応多数!」
僧侶達は恐慌状態に陥った。
「動くな! 結界を張って動くんじゃない!」
白翼寺が僧たちに自制を求める。
雷音丸たちは羅刹と交戦に入っている。
と、上空にフラウロスが姿を現し、比較的僧侶達が集まっているところにブレスを叩きつける。灼熱の炎が結界を突き破り、大地を紅蓮の炎で染め上げる。
「やめろおおお!」
白翼寺が叫び、駆け出そうとするのをシェリルと瑞香が止める。
「もう間に合いません!」
「ち、ちくしょう!」
上空にネルガルたちが姿を現し、次々と火の玉を叩き込んでいく。
フラウロスは消えた。
「おのれ地獄の兵士めが! 地獄に送り返してくれる!」
アンドリーはフライで飛行してネルガルの中に切り込んだ。たちまち数体のネルガルがテンペストの霞と消える。
と、ネルガルたちは空中に静止して念じ始める。やがてネルガルたちは黒い霞を身にまとって反撃に転じてくる。
「本体の力、好都合だ!」
アンドリーは地上の僧侶達と連携して回復を受けながら孤軍奮闘した。
「だが‥‥肝心の奴を逃しては‥‥」
ハイアットは上空にストームを放ちながら消えたフラウロスがどこかにいないか追っていた。
「フラウロスはどこへ行った!」
羅刹に追われるように後退してきた雷音丸たち。
「分からん! 相変わらず正面から戦うつもりはなさそうだが!」
「ちっ‥‥」
雷音丸は本体の力を引き出した羅刹を叩き切った。
「駄目! このまま下がったら僧侶たちを巻き込むわ!」
セピアは懸命に羅刹の攻撃を跳ね返しながら雷音丸とアンドリーに向かって叫んだ。
「フラウロスさえ落とせば‥‥」
「挑発にも乗ってこないか‥‥ならば!」
レイアは羅刹を一刀両断して仲間達に叫んだ。
「ならば――ここにいるデビル全て剣の露と化してやろう! それがこの寺を救う唯一の道! フラウロス倒せずとも、雑魚は全員地獄送りにしてくれる! 霊剣アラハバキの名にかけて!」
「聞こえるかフラウロス! 貴様がいかに策を巡らせようが、何度でも跳ね返してやる! この町は俺たちが守る!」
雷音丸は咆えた。
「おああああっ! どけいこの雑魚ども!」
メグレズもついに立ち上がってネルガルを振り払うと、ソードボンバーを叩きつける。消し飛ぶネルガルたちだが。
「‥‥無駄なことだ、一体どうやって姿無きあのお方を捕らえる?」
だが、意外にもフラウロスは近くにいた。シェリルのムーンアローが結界の外にいたフラウロスを捉える。
フラウロスは姿を見せると、槍の炎で超越ホーリーフィールドを破壊するとシェリルに迫った。
「コアギュレイト!」
は抵抗された。
「終わりだ人間、貴様は抵抗出来ずに死ぬのだ」
「シェリルさん! 食らえホーリー!」
瑞香のホーリーがフラウロスを撃つが、フラウロスは槍を振り上げた。
巻物を取り出すシェリルの手元をフラウロスは弾く。
やられる――! その瞬間、アンドリーがフラウロスを背後から貫いた!
「そこまでだフラウロス!」
「ぐ‥‥おおおおお‥‥!」
フラウロスの体から炎が漏れ出し、この悪魔が初めてよろめいた。
「おのれ‥‥!」
フラウロスは槍の炎をアンドリーに叩きつけた。
「やあああああ!」
レイアと雷音丸が突進してくる。
フラウロスはレイアの一撃を体で受け止め、雷音丸に火の玉をぶつけた。
「ガアアアア! 貴様の首ここで貰い受ける!」
「地獄の業火よ‥‥!」
最後を悟ったのか、フラウロスは雷音丸に火球の連弾を浴びせかける。
雷音丸は構わずぶち当たった。
「ぐ、おお‥‥!」
体から炎を吹き出し、後退するフラウロス。
ハイアットとメグレズ、セピアが駆けつけた時には勝負は決まっていた。
フラウロスは燃え盛る炎となって、最後に灰となって崩れ落ちた。
「馬鹿な‥‥! あの方が何と言うことだ!」
ネルガルたちは一斉に逃げ出した。羅刹たちも粛々と引き上げていく。
跡にはフラウロスが使っていた槍が残っていた。
「呪いが掛かってないといいけど‥‥この中で槍使いは、あなた?」
シェリルはそう言って、槍をセピアに差し出した。
セピアはしびれるような感覚を味わって槍を手にした。
「この槍を見るたび、この日を思い起こすわね‥‥みんな?」
仲間達の顔はくたびれていた‥‥とにかくやったのだ。
とは言え無傷では済まなかった。死者を弔うことになるだろう。
いずれにしても、かくしてフラウロスは倒されたのだ。