丹後の薄墨桜

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月12日〜04月17日

リプレイ公開日:2009年04月22日

●オープニング

 丹後――。
 京都におけるイザナミ軍との決戦にからくも勝利?したという知らせは丹後を駆け抜けた。
「何とか‥‥京都は持ち堪えましたか‥‥」
 丹後を旅する源細ガラシャは、編み笠を持ち上げると春の日差しを眩しそうに見上げた。
「何でももの凄い数の勇士が集まったようですな」
 ガラシャの護衛を務める土侍は言って周囲に警戒の目を向ける。丹後は黄泉の軍勢との最前線だ。いつ亡者たちが現れても不思議ではない。
「ここもすでに黄泉の手に落ちましたか‥‥」
 人気のない山村を通り過ぎる一行。ぎゃあぎゃあとカラスの声が寂しい村に鳴り響く。
 ふと、ガラシャは足を止めた。一本の桜が咲き誇っている。小さい桜の木だが、力強い命を感じる。
「薄墨桜‥‥」
 ガラシャは桜に近付いていった。
 すると、どこからともなく青白いもやが立ち込めてきて、二人の小さな男の子と女の子が現れた。
「あなた達は‥‥木霊ですね。桜を守る精霊‥‥」
 二体の木霊は嬉しそうに桜の周りを飛び交っている。
「桜咲いた」
「桜生き返った」
 木霊たちにガラシャは微笑みかけると、小さな桜を前に膝をついてお辞儀した。
 供の土侍は油断なく辺りを見渡している。
「ガラシャ様、参りましょう。いつまでもここに止まっているわけにも参りません」
「ええ‥‥そうですね」
 と、その時である。ガタゴト、と建物の扉が崩れ落ちて、人が姿を見せた。
 土侍はさっと弓を構えるが。
「ひっ! 撃たないで! 亡者じゃないですよ!」
「土地の者か? まだ残っていたのか」
「あっしは卯太郎と言いまして、この村の生き残りでさあ」
 ガラシャと土侍は顔を見合わせる。何でも卯太郎は逃げ送れてしまって、それから恐くなって村から抜け出せないでいると言う。
「ここは見張られてるんです。早く隠れた方がいいですよ。またあいつらがやってきますから‥‥」
「あいつらとは‥‥?」
「骸骨達です。いつからかここをアジトにしてるんでさあ」
 カラカラカラカラ‥‥。
「ひっ、来た!」
 卯太郎は慌てて逃げ出す。ガラシャと土侍が振り返ると、一体の怪骨が歯を鳴らしながらこちらに向かってくる。
「怪骨か、ガラシャ様、お下がり下さい」
 土侍は装備の中から槌を取り出すと突進する。
 襲い来る怪骨を土侍は打ち倒した。怪骨は砕け散る。
「行きましょうガラシャ様。一体ならまだしも、囲まれると厄介です」
 ガラシャたちは馬に鞭を入れると、その場を後にする。
「‥‥!」
 背後を振り返ったガラシャの目に、数体の怪骨がばらばらとやってくるのが目に入る。
 怪骨を振り切ったガラシャたちは、その足で京都の冒険者ギルドに向かう。
 捕らわれの卯太郎救出を冒険者達に呼びかけたのだった。

●今回の参加者

 eb3601 チサト・ミョウオウイン(21歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ec0129 アンドリー・フィルス(39歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ec4697 橘 菊(38歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ec5511 妙道院 孔宣(38歳・♀・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ec6337 花 霞(30歳・♀・ファイター・エルフ・華仙教大国)
 ec6381 シャールーン・アッジィーク(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

アンリ・フィルス(eb4667)/ 宿奈 芳純(eb5475

●リプレイ本文

 シャールーン・アッジィーク(ec6381)は山村の周辺を見回っていた。ガラシャたちが発見した卯太郎意外にも、要救護者がいるかもしれない。
 と、シャールーンの目が止まった。
「足跡が‥‥」
 シャールーンは足跡を指でなぞると、森の奥に目を向ける。
 と、そこへパラディンのアンドリー・フィルス(ec0129)が瞬間転移の魔法でやって来た。
「何か見つかったか」
「ああ‥‥森の奥に向かって足跡が残っている」
「よし、行って見よう」
 アンドリーは超越魔法の使い手、白の僧侶シェリル・オレアリス(eb4803)がくれたホーリーライトを森の奥にかざした。

 ‥‥村の中に入り込んだ一行は、卯太郎の捜索に向かっていた。
「卯太郎さん、卯太郎さん、どこですか」
 チサト・ミョウオウイン(eb3601)は寂しい村の中で呼びかけた。沈黙が重たくのしかかってくる。
 その時、橘菊(ec4697)のデティクトライフフォースに反応が――。
「ふむ‥‥こちらに生物の反応が」
 菊はシェリルが作り出したホーリーライトを掲げ持って家屋を指差した。
 妙道院孔宣(ec5511)が先頭に立って進む。
 シェリルのペット、スモールシェルドラゴンのとかこさんも主の言いつけ通り、側を守っている。
 チサトの横には戦闘訓練を受けた柴犬の焔(ほむら)が付いている。
「誰か、いるか」
 孔宣は扉を持ち上げてどけると、中に呼びかけた。
 菊が家の中を照らし出す。
 と、ひゅん! と石つぶてが飛んできて――孔宣は剣で弾いた。
「助けに来ました、安心してください」
 チサトの呼びかけに、奥の壁の隙間から姿を見せたのは少年だ。
「助けに来たって? 本当か?」
 少年はこわごわと光の中に姿を見せた。少年はやつれた様子だ。
 事情を説明すると、少年は崩れ落ちた。孔宣が少年を支える。
「大変だったでしょう。長い間一人でよく頑張ったわね」
 シェリルは少年に微笑みかけると、水と食糧を差し出した。
 少年は涙を浮かべて食糧を胸に抱くと、ありがとう‥‥ありがとう‥‥と言って気を失った。

 シャールーンとアンドリーは現れた怪骨を打ち倒した。
「へっ、この亡者め」
 シャールーンは砕け散った怪骨のかけらをハンマーで小突いていた。
「足跡はまだ見えるか」
「ああ、こっちだ」
 シャールーンは答えると、歩き出した。
「ん? 足跡が途絶えた‥‥ここで消えてるが」
「シャールーン、どうやら民はあそこにいるらしい」
「何だって」
 アンドリーが指差した先、木の上に女がしがみついていた。
 アンドリーはフライで浮かび上がると、女のもとへ向かった。
「大丈夫か、よく無事だったな」
「来るのが遅いよ」
「すまんな。まだ生き残っている者はいるのか」
「さあね、逃げ遅れた連中はいるかも知れないね。それより、さっさとここから下ろしてくれない?」
「ああ」
 アンドリーは女を抱き上げると、地上に下りた。

「おや‥‥こっちにも反応があるようじゃのう」
「意外に、生き残っている方々がいるのですね」
 菊の言葉に孔宣は先頭に立って歩いていく。
 と、そこで怪骨が現れた。
 カラカラカラ‥‥。歯を鳴らして突進してくる怪骨。
 とかこさんと焔が怪骨の迎撃に向かい、孔宣は剣を持ち上げた。
「下がって下さい」
 孔宣は怪骨に向かって走り出す。
「鏡月!」
 カウンターアタック+スマッシュの合成技を怪骨に叩き込む。
 ぐしゃっと怪骨の肋骨が砕け散る。怪骨はよろめいて、態勢を崩す。
 とかこさんと焔が連続攻撃を加え、孔宣は怪骨の反撃を跳ね返してこの死人を打ち砕いたが――。
 カラカラ‥‥カラカラカラカラ‥‥! 次々と現れる怪骨。
「怪骨の集団か」
 孔宣は眉間にしわを寄せると、剣を立てた。
 そこへアンドリーとシャールーンがやってくる。
「大丈夫か!」
「ああ、そっちはどうだった」
「逃げ遅れた民がいるようだ」
 そうこうする間に怪骨たちは二組に分かれて戦闘隊形を取ると、突進してきた。
「まずはこの亡者達を片付けてからだ」
 怪骨たちはホーリーライトの光に一瞬怯んだ様子を見せたが、刀を構え直すと、光の中に踏み込んできた。
「退魔の光が通じない‥‥」
 シェリルはすっと瞳を細めたが、動じる様子はなくホーリーフィールドを展開する。
「上位の黄泉人などから命令を受けていると、死人も退魔の光を無視して侵入してくることがあるそうです」
 チサトは手を差し出すと、ウォーターボムの詠唱に入る。
「こいつの出番じゃ‥‥悪即斬、ドタマかち割ったる!」
 シャールーンはハンマーを構えて突進する。
「無理はするなよ、常に動いて挟撃される隙を与えるな。危なくなったら逃げろ」
 アンドリーはシャールーンにアドバイスを送ると、女を置いて空中から突撃した。
 駆け抜けるシャールーン、雄叫びを上げて怪骨にハンマーを叩きつける。ガキィンッ! とハンマーが怪骨に命中する。
「食らえやあ!」
 だが怪骨も反撃してくる。実戦慣れしていないシャールーンはおっかなびっくりしながらもその攻撃を跳ね返した。
 アンドリーを見れば、一撃ごとに怪骨を破壊している。
「ふう‥‥」
 シャールーンは怪骨と距離を取り、相手を見つめて吐息すると、撃ちかかっていく。
「鏡月!」
 孔宣は怪骨にカオススレイヤーを叩きつける。怪骨から反撃を受けるが、レジストデビルで耐える。
 ペットのとかこさんと焔も怪骨相手に立ち回り、冒険者をサポートする。
「おりゃあ!」
 ハンマーが怪骨を打ち砕く。シャールーンは何とか記念すべき怪骨撃破を成し遂げる。
「やった‥‥! おっと!」
 側面からの攻撃を跳ね返すシャールーン。怪我を被りながらも何とか怪骨を撃破していく。
 やがて、戦闘は程なくして終結する。怪骨たちは冒険者達の剣の露と消えた。
 再び静寂が訪れるが、少年と助けられた女性が歓声を上げる。
「さあ、生き残っている人を探しましょう。怪骨はいなくなったはず」
 シェリルは少年の肩を抱いて、このささやかな勝利が少年の希望となればと願うのだった。

 そこは地下室のようになっていた。孔宣が板を持ち上げると、数人の村人が隠れていた。
「死人は倒しました、さあ」
 差し出された手を村人達は恐る恐る取った。孔宣は村人達を引き上げていく。
「あ、あなた方は?」
「京都の冒険者です。ガラシャ殿の知らせを受けて卯太郎殿の救助に参った」
「冒険者‥‥おお、ガラシャ様はご無事ですか」
「みなさんのことを心配しておいでです。生き残っている民がいればお喜びになるでしょう」
「そうですかそうですか、ガラシャ様がのう‥‥ありがたいことじゃ」
「それにしても、肝心の卯太郎さんはどこにいるんでしょうか‥‥」
 チサトの呟きは中に消えた。ペットのホワイトイーグルが空で旋回している。人影を見かけたら合図するようにテレパシーリングで言っておいたのだ。
 冒険者達は用心しながらホワイトイーグルの下に進んでいく。
「あれは‥‥?」
 家屋の壁に張り付くようにして、卯太郎はきょろきょろと見渡していた。どうやら逃げ出すつもりらしい。
「卯太郎さんですか」
「え?」
 卯太郎はきょとんとして冒険者達の方を見やった。
「あ、あんたらは‥‥」
「ガラシャ様から、あなたを救うように依頼を受けてきた者、京都から来ました。卯太郎さんですか?」
「あ、ああ。ガラシャ様が‥‥本当に」
 卯太郎は呆然と立ち尽くしている。
「卯太郎!」
 アンドリーに救われた女が駆け出した。
「お、おう、ちよじゃねえか。生きてたのか」
「あんたこそ無事で‥‥良かったよ」
 ちよは涙をこぼすと、卯太郎に微笑みかけた。
「骸骨はみんなあの人たちが倒してくれたよ。早くここから出よう」
「そ、そうだな。噂じゃみんな舞鶴か、南東の大国主神のところへ向かったって話だが‥‥」
「とにかく‥‥みんなに会いたい‥‥」
「おい、泣くなよちよ、きっと家族は無事だって、きっと再会できるって。行こう‥‥ほら、他の連中も無事みたいじゃないか」
 卯太郎はそう言って、救い出された村人達の方を見やるのだった。
「舞鶴方面は危険です。激戦の渦中にありますから。どちらにしろ、大国主命がいる南東地域を目指した方がいいでしょう‥‥」
 チサトは村人達に現在の丹後が置かれている状況を説明するのだった。

「これは‥‥」
 その後も捜索を続けた冒険者達は、おそらく隠れることもまま無かったのだろう。死人の手に掛かったと思われる村人達の亡骸を発見する。
 チサトの提案で、冒険者達は薄墨桜が望める場所に怪骨の骨や亡くなった民を埋葬した。
 チサトは瞳に静かな光をたたえて、聖水と日本酒で墓を清めた。
「イザナミ率いる不死軍のやっている事は決して許せる事ではありませんが‥‥死して尚彷徨い恨み辛みに際悩まされる彼らを哀れにも思うのです」
 シェリルは墓の前で手を合わせ、言葉なく御仏に祈りを捧げる。
「尊き魂よ‥‥安らかに‥‥」
 孔宣も願わくば魂が安息を迎えることを祈る。
 墓を前に沈黙するアンドリーも、死者の安息を願う。
「南無南無‥‥」
 シャールーンはこの国で覚えた念仏を唱えながら胸に十字架を切った。
 チサトは立ち上がると、薄墨桜に近付いていく。
 少年と少女の姿をした木霊たちは無邪気に桜が咲いたことを喜んでいる。
「土地神のお二方、どうか民を見守って下さい‥‥。この薄墨桜とともに」
 チサトは空海の杖で桜に水を振り掛けると、鎮魂の祈りを捧げる。菊や他の仲間達もチサトに倣った。
「みんなが桜を大事にしてくれたからここまで大きくなったよ」
「でも黄泉人、山や森を壊してる。沢山の木が枯れた‥‥大太法師が怒るのも仕方ない‥‥あの死人使いは許せない!」
 木霊たちは「丹後の導師」が森を枯らしたことに怒っているのだった。長命の精霊は人間とでは感じ方も違うのだろう。
 やがて時間が訪れる、冒険者達は立ち上がった。
 村人達は一路丹後南東を目指して村を立ち去るのだった。