東桜屋の災難
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月16日〜04月21日
リプレイ公開日:2009年04月25日
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●オープニング
京都、左京区――。
市街の一角に東桜屋と言う名のお店があった。主の名を秋山宗助。
宗助がまだ名を権太と言い、賭博の借金返済に追われたところを冒険者に救われたのは昨年のことか。
それから桜屋の翁に救われ、独立して東桜屋を営むまでになった。東桜屋の経営も今では軌道に乗り、宗助は日々の仕事に追われていた。
その日、遅れている荷物を確認するために、宗助は大阪に出向く支度をしていた。
「ここまで京都の情勢が悪化するとは思っていなかった‥‥が、とにかくもイザナミ軍は引き上げたようだ。いつまでも荷物を放っておくわけにもいかんし、一度見てこよう」
「道中気をつけて‥‥まだ死人憑きがいるって話ですし、治安の悪化で盗賊なんかも出るそうですよ」
妻のさちは宗助の身支度を手助けしながら、不安そうに言った。
市民にとっては京都決戦で残った亡者の大軍は脅威である。治安の悪化も歓迎すべき事態とは言えない‥‥。
「何とか、天下の騒乱を関白様に収めて欲しいものだ。この大乱に立ち向かうには大きな力が必要だ。私たち町人にはなす術もない」
宗助は地下足袋の紐を結ぶと、立ち上がった。
「宗助様、大丈夫ですよ、きっと関白様は黄泉人を倒してくれるでしょう。今回の勝利で陛下はイザナミ討伐へ向かわれるだろうと、みな噂しております」
言ったのは東桜屋の奉公人である佐吉。佐吉も旅支度を整えている。
「そうだといいがな‥‥では、行って来るよ」
宗助は佐吉と共に旅立った。さちと娘の竜は二人の無事を祈って見送ったのである。
それから数日後‥‥。
街道に赤鯱団と言う盗賊たちが現れて、旅人がかどわかされたと言う知らせがさちと竜のもとへ届いた。
「‥‥父と佐吉さんが!?」
竜は口を覆ってさちを見やる。赤鯱にさらわれたのは宗助と佐吉であると言う。
程なくして東桜屋に赤鯱団から文が届く。宗助と佐吉を渡して欲しくば金五百両用意しろと言う。
二人は見回組のもとへ出向いたが、都の治安部隊はイザナミ戦の後始末に追われていた。
絶望するさちを見て、竜は金貸しの二宮銀之助のもとを訪れる。竜は自分の身と引き換えに銀之助に身代金の用立てを頼んだのである。普通なら銀之助は笑い飛ばすところだが‥‥。
「赤鯱団か‥‥ではこうしましょう。とりあえず交渉材料として百両用意しますから、それを持って赤鯱団のもとへ行きなさい。依頼は‥‥冒険者に頼むと良いでしょう」
銀之助はそう言って、百両の入った包みを差し出す。竜は決意を込めてそれを受け取るが――。銀之助は竜の手を止める。
「ただし、冒険者達にこの条件を提示して下さい。赤鯱団の頭領を捕まえて私のもとへ引きずり出すこと、もしくは頭領の首を持ってくるように‥‥」
冒険者ギルドにやってきた竜はここまでの経緯をギルドの手代に話していた。
「二宮銀之助と赤鯱団ですか‥‥関係ないかも知れませんが、赤鯱団の頭領にはさる豪商が賞金をかけているという噂が流れておりますな。まあ銀之助の思惑は無視していいでしょう。竜さん、無茶しちゃ駄目ですよ」
手代は吐息して竜と集まった冒険者達見つめる。
「冒険者の皆さんには宗助さんと佐吉さんの救出をお願いします。銀之助から提供の百両ですが‥‥あの男の目的は分かりませんし、直接確認した方がいいかも知れませんな」
竜はただひたすら、冒険者たちに宗助と佐吉の救出を願うのだった。
●リプレイ本文
左京区の一角にある東桜屋を訪れた冒険者達は竜とさちに面会する。
「本当に‥‥宗助は無事なんでしょうか」
「お願いします、何とかしてお父さんを‥‥」
夫の無事を祈るさちとすがるような竜の視線に、冒険者達は「安心して」と声をかける。
「二人のことは必ず助けて見せますから、大丈夫ですから」
リアナ・レジーネス(eb1421)はとにかくも竜とさちを落ち着かせる。
「でも‥‥赤鯱団なんて悪党に捕まって、二人ともひどい目に遭っているんじゃ‥‥」
竜は泣き出しそうになる。
「竜さん、今はとにかく、僕たちが野盗たちとの交渉に向かいますから‥‥きっとお二人を助け出してきます」
東桜屋とは少なからぬ縁のある酒井貴次(eb3367)は竜の手を取って勇気付ける。
「酒井様‥‥」
竜は涙目で貴次を見つめる。
「都の治安組織が健在なら、私たちが出向くことも無いのですが‥‥」
乱雪華(eb5818)は言って吐息する。イザナミ軍との凄まじい大規模戦闘の影響はいまだに消えることが無い。
さて、リアナはひとまず自前の五百両を見せると、身代金は冒険者負担で用意できることを説明する。
「竜さんが借りた百両を銀之助殿にお返ししてきます。どんな事情があるのかは分かりませんが‥‥」
「でも‥‥そんな大金‥‥私たちのために‥‥」
「あくまで盗賊たちとの交渉材料です。‥‥失敗した時は、それは私自身がしたことですし、五百両失っても仕方ありません」
リアナの説得に応じた竜は銀之助から借りた百両の入った包みを持って戻ってきた。
にっこりと優しい笑みを浮かべるリアナ。
「では、行ってきます。お二人とも、吉報を待っていて下さい」
それから冒険者達は同じく左京区の一角にある二宮銀之助邸を訪問する。
「二宮銀之助ね‥‥一体何を考えているのでしょうか」
雪華は権謀術数とは無縁だが、銀之助が竜に言った言葉が気がかりでもあった。赤鯱段の頭領の首でも構わないという銀之助の要求は尋常ではない。もとより冒険者は暗殺集団ではないので頭領を生け捕りにするつもりであったが。
女が一人出てきて、冒険者たちに用向きを尋ねる。
「宗助さん救出の件でまかり越しましたリアナと申します。恐れ入りますが二宮銀之助様へのお取次ぎをお願いします」
リアナの言葉に、女は驚いた風もなく、彼らを中に通す。
「銀之助様、宗助の件で依頼を出した冒険者達が参りましたが‥‥」
「お通ししなさい」
銀之助の無機的な声が響く。
「初めまして」
銀之助と相対する冒険者達。銀之助は一見どこにでもいそうな中肉中背の男だ。
「で、一体何用ですかな。依頼は受けていただけるのですか」
「その件で一つ確認したいことがございます」
「何か」
「赤鯱団の頭領の件です。かの者を連れて来ることに異存はありませんが、出来れば理由をお聞かせ願えませんか」
銀之助の瞳がきらりと光った。銀之助は卓の上で手を組み合わせると――。
「あなた方には関係ないことだが。依頼が成功したら教えましょう」
その声には有無を言わせぬ圧力があった。リアナは肩をすくめると、百両の包みを差し出した。
「これは必要ありません。身代金は私が用意致します」
「ほう。ではあなた方は無償奉仕と言うわけですか。何とも気前の良い話だ」
銀之助は吐息する。
「全く冒険者と言うのは‥‥おかしなことをするものですな」
「宗助さんと佐吉さんをお救いするにはこれが最善だと思うだけです」
「ふむ‥‥まあ良いでしょう。ですがただと言うわけにもいきますまい。この依頼の報酬は私が出すと、竜とさちにお伝え願えますか。そもそも私が出した依頼ですからな。改めて、あなた方には赤鯱団の頭領を捕まえるよう依頼します、みな名うての冒険者のようですしな」
「あなたの気の済むように。私たちは竜さんとさちさんのために全力を尽くします」
冒険者達には銀之助が何を考えているのか分からなかったが、相手の声にはただならぬ威圧感があった。
とにかくも根回しは済んだ。後は人質を救うのみだ。冒険者達は指定された交換場所の山中に向かった。
「来たか‥‥」
盗賊たちはやって来た冒険者達に目を細める。
「お前達は? 東桜屋の人間じゃないな」
盗賊たちは不審な目を向ける。警戒されるのは当然であるが‥‥。
「僕たちは代理人です。東桜屋の方々に頼まれてやってきたんですが‥‥」
話しながら貴次は巻物を広げると、一度は失敗しながらチャームを完成させる。
チャームの効果で盗賊たちの表情が緩む。
「そ、そういやあ、別に代理人でもいいかもな。要は金さえ手に入ればだなあ」
「人質はどこですか」
リアナの問いに盗賊たちは首を振る。
「駄目駄目、金が先だ。持ってきたろうな」
「ええ、ここに‥‥」
リアナは背後の茂みに目をやりながら現金五百両をちらつかせた。
「よーし、お前達、金を置いて下がれ」
そこで、雪華が茂みから飛び出してきて、疾風のように盗賊たちのもとへ駆け抜けた!
「‥‥!」
驚く盗賊のみぞおちに雪華の拳がめり込む。盗賊は空気の抜けたような声をもらして倒れ伏した。
「貴様!」
盗賊の反撃をかわしながら雪華は賊の首筋に手刀を叩き込む。スタンアタック。崩れ落ちる盗賊。
三人目の盗賊の攻撃もかわすと、雪華は裂ぱくの気合いを込めて鳥爪撃を叩き込む。直撃を受けて盗賊の肋骨が砕け散る。
「ぐ‥‥! 野郎‥‥」
雪華は逃げる間も与えずスタンアタックを叩き込んだ。
「ひとまずここには三人‥‥残りの居場所を掴めると良いんですが」
雪華は周囲を見渡して呟くと、盗賊たちをロープで縛り上げた。
リアナは盗賊たちの体に手を当てるとリシーブメモリーのスクロールを広げる。
得られた記憶で役に立ちそうなものは、人質は山奥の洞窟、というものであった。
「洞窟ですか‥‥」
「これから洞窟を探す時間はありません。宗助さんたちに危害が及ぶ恐れが‥‥」
雪華は盗賊の一人を叩き起こすと、洞窟の場所を尋ねる。
「へへっ‥‥馬鹿め‥‥もう手遅れだ。死なばもろともよ。お頭は金が届かなければ逃げるまでだ」
雪華は無言で盗賊の腕を捻り上げると、ぐいっと力を込めた。
「ぐあっ! そんなことしても無駄だ! 喋るもんか!」
「どうかな」
雪華はそのまま力を入れて盗賊の腕を折った。
バキッ、と痛々しい音が鳴って賊はわめいた。リアナと貴次ははらはらしながらその様子を見つめた。
雪華はさらに折れた腕を押さえつける。
「やめろ! 分かった! 言う! 言うから! やめてくれ!」
「よし、案内してもらおう」
雪華は盗賊を立ち上がらせる。
森の中を行く冒険者達。先頭を歩く盗賊は黙って歩いていく。
「‥‥? 誰かいる?」
リアナのブレスセンサーに反応があった。
「洞窟が近いのでしょうか。魔法に反応があります。宗助さんたちかも」
「私は別の方向から近付きます」
雪華はリアナと貴次に耳打ちするとその場を離れる。
リアナの予測は当たったが、盗賊が案内したのは洞窟ではなかった。
森の中の開けた場所に出た冒険者達。そこで、宗助と佐吉を盾にして、赤鯱団のボスが待っていた。
「お頭、交渉は決裂です! こいつらは何者か分かりませんが、相当な凄腕です。東桜屋に雇われたんでしょう」
「そうか‥‥」
ボスの巨漢は冷たい目を冒険者達に向ける。
「金はあるのか」
リアナは無言で進み出ると、五百両を見せた。
「ふん、確かに金はあるようだな。よし、金を投げてよこせ」
「‥‥‥‥」
リアナは無言で金が入った包みを放った。
「これでいいでしょう。さあ、人質を放して下さい」
「金を取って来い」
ボスは手下に命じると、震えている宗助と佐吉を見下ろした。
「運が良かったな。お前達は助かる」
そこで雪華が飛び出した。疾風のごとく頭領に襲い掛かる。
「‥‥!」
ドスッ! と頭領のみぞおちに雪華のパンチが決まる。
「何だ!」
「奇襲だ! お頭がやられた!」
雪華は宗助と佐吉を確保する。
動揺する盗賊たちにリアナがライトニングサンダーボルトを、貴次はサンレーザーを打ち込む。
「影縛り!」
貴次がシャドウバインディングを詠唱すると盗賊の動きが固まった。
元々盗賊たちは人数が少ないこともあって、雪華のスタンアタックで瞬く間に叩き伏せられる。勝負はあっという間に決まった。
リアナはアイスコフィンで頭領を氷付けにする。三人で氷付けの頭領を運ぶ。
尤も京都までは氷が持たないので、結局ロープでがんじがらめにして運ぶことになったが。
かくして冒険者たちは京都に帰還する。
「これは‥‥見事ですな」
銀之助は氷付けの頭領を見て感心したように見上げる。
「この男は以前大阪へ向かった私の荷物を襲った男でしてね。多くの商人たちが被害を受けているのです。さる豪商が賞金を賭けているくらいでしてね」
「その噂は聞きました‥‥あなたはどうするおつもりなのですか?」
興味があったので貴次は尋ねてみる。
「無論、見廻組なりに突き出すつもりです。この男には然るべき裁きを受けてもらわねば。噂の豪商にでも捕まったら、闇に葬られかねませんからね」
‥‥東桜屋。
「お父さん! 佐吉さん!」
帰ってきた二人に竜が駆け寄る。
「よく無事で‥‥」
さちも歩み寄って二人の生還を喜ぶ。
「大変な目に遭った‥‥もう会えないかと思ったよ」
「生きた心地がしませんでした‥‥恐ろしい」
京都周辺の治安が回復するには時間が掛かるかも知れない。
「ありがとうございました、これで救われたのは三度目ですね‥‥何とお礼を言っていいか」
お辞儀する竜に冒険者達は首を振った。
「しばらく、京都を出る時は用心棒を雇った方がいいかも知れませんね」
貴次の言葉に宗助は頭を下げるばかりだった。
かくして、東桜屋の災難は無事に解決。だが治安の悪化は冒険者達の心に一抹の影を落とす。このようなことが二度と起こって欲しくないと願うばかりであった。