●リプレイ本文
大江山攻略戦。丹後軍の京極高知と糟屋武則は藤豊武将アラン・ハリファックス(ea4295)の献策を受け入れ、当面の敵である百体の鬼を南雲紫(eb2483)率いる先遣部隊に任せ、本隊は一路奥地にあるという鬼の城砦を目指して進軍を開始した‥‥。
先遣部隊は前進を続ける。糟屋は南雲に侍百人と足軽を二百人を預けた。
南雲は先頭に立って兵と冒険者達を率い、道なき道を進んでいた。みな草や枝を切り飛ばしながら、見通しの悪い山中を登っていく。
先行する島津影虎(ea3210)は上から下りてくる鬼の一団を目にして身を潜める。
グオオオオ‥‥と鬼の唸りが影虎の近くを通り過ぎていく。人喰鬼だろうか。ゆっくりと顔を上げれば、大きな鬼の後ろから小柄な鬼が付いて来ている。影虎はその場を離れると、味方の方へ足早に戻っていく。
「この辺りがいいでしょうか‥‥」
ファング・ダイモス(ea7482)と尾上彬(eb8664)はやってくるであろう鬼への罠を設置しながら陰陽師のフォレストラビリンスに適した地形を探っていた。鬼を罠の中に誘い込もうというのだ。
フライングブルームネクストで森から飛び出した陰守森写歩朗(eb7208)は高速で上空を旋回する。ブレスセンサーを試すと、砦から出立する鬼の一群に反応があった。
「打って出てくるか‥‥」
陰守は味方との情報伝達を行い、鬼の接近を味方に知らせる。
テレパシーで先行する仲間たちから知らせを受けた宿奈芳純(eb5475)は南雲に陰守の言葉を伝えた。
「予定通りだな」
南雲は頷くと、護衛をつけて陰陽師たちを前に出す。
先行していた影虎や陰守が鬼を引き連れて山を下りてくる。
「南雲様、影虎殿と陰守さんのあとから鬼がやって参ります。大鬼多数、熊鬼、茶鬼らもやってくる模様」
テレスコープ&透視していた宿奈の報告に頷くと、
「ご苦労」
南雲は影虎や陰守に一声かけて尾上の合図を待った。合図が来るのに大した時間は掛からなかった。
南雲は頷くと陰陽師たちに号令する。
「マジカルミラージュとフォレストラビリンスを張り巡らせろ!」
陰陽師たちが一斉に巻物を取り出すと、二つの魔法を詠唱する。
グオオオオオ‥‥!?
森の蜃気楼が先遣隊を隠し、突進してくる鬼たちが森の迷宮に捕らわれて足が止まる。
「よし、迎撃用意。迷宮を抜けてくる鬼どもを順次撃退」
超越魔法の使い手ステラ・デュナミス(eb2099)は抵抗十分なのであえてラビリンスに踏み込み、ミラージュコートのインビジブルで姿を消す。混乱している鬼の群れに超越アイスブリザードを叩き込む。
「ラビリンスを越えてくる鬼は半数近くです!」
リーマ・アベツ(ec4801)はバイブレーションセンサーで鬼を探知して南雲に告げる。
リーマの言う通り、ばらばらと五十体近い鬼が突撃してくる。
迎え撃つ先遣部隊の冒険者たち。侍や足軽たちも隊伍を組んで鬼を迎撃する。
「出てきたか‥‥一匹足りとも生かして通さん。ここは通行止めだ」
円巴(ea3738)は向かってくる大鬼に侍達とともに当たる。四連撃で鬼の攻撃を封じて侍達に攻撃の機会を作る。
影虎は茶鬼の側面に回りこむと、鎧の隙間目がけてポイントアタックを見舞う。茶鬼の反撃をかわして次々と攻撃を見舞う影虎。
ファングは向かってくる鬼達の戦列にスマッシュEX+ソードボンバーを叩き込む。木っ端のように吹っ飛ぶ鬼達。
井伊貴政(ea8384)は姉の井伊文霞(ec1565)と背中を守りながら鬼に対峙する。
丹後軍は数では勝るが大鬼の突破力は凄まじい。人喰鬼たちの一撃で吹っ飛ぶ足軽たち。
「冒険者で大鬼を押さえろ! 足軽は近付くな!」
南雲は自身も刀を振るいながら仲間達に向かって声を張り上げる。足軽たちは冒険者と入れ替わるように後退する。戦場を走り回って味方に戦線の立て直しを呼びかける南雲。
明王院浄炎(eb2373)と明王院未楡(eb2404)ら夫婦は猛威を振るう人喰鬼に立ち向かう。
ファング、井伊姉弟も傍若無人に暴れる馬頭鬼や牛頭鬼の足止めに。
「下がれ‥‥ここはお前達には無理だ」
新撰組の上着を着た静守宗風(eb2585)は吹っ飛ばされた足軽の前に立ち塞がると、鬼切丸を人喰鬼に向ける。人喰鬼は長大な刀を構えて突進――鋭いポイントアタックの一撃が静守の装甲を貫く! 微かに顔を歪めた静守はカウンター+スマッシュEXで人喰鬼を叩き切った。傷跡に目を落とす静守。
「やってくれるな‥‥ポイントアタックとはな」
メグレズ・ファウンテン(eb5451)は軍馬を操り、馬上の人となって大鬼に攻撃を加える。
「飛刃、散華!」
メグレズのテンペストが縦横無尽に駆け抜ける。
「妙刃、破軍!」
鉄壁の防御力で戦場を疾走するメグレズだが、馬頭鬼が決死の一撃で繰り出したポイントアタックを正面から受けて馬から振り落とされる。馬頭鬼はカウンターで頭を潰されたが、メグレズは思わぬ一撃に腹部に突き立った槍を引き抜く。槍は脇腹の装甲を貫通していたが、体には達していなかった。デッドorライブで受け止めたのだ。
ソル・アレニオス(eb7575)は人喰鬼のスマッシュを跳ね返すと、カウンター+スマッシュEXを叩き込む。周りからちくちくと攻撃してくる熊鬼や山鬼を一撃のもとに粉砕するが――。
「ぬっ!」
別方向から繰り出された牛頭鬼のポイントアタックに咄嗟にデッドorライブで受け止める。
鉄壁を誇る冒険者達をしばしば大鬼のポイントアタックが脅かすが、幸い使い手はそれほど多くはない。
今回は鬼に鉄弓使いはいなかったが、クァイ・エーフォメンス(eb7692)は目を凝らして戦況を見つめながら、オーガスレイヤーの弓で味方の支援を行っている。
「指揮官はいないのかしらねえ?」
エーフォメンスは首を傾けて宿奈を見やる。
宿奈は「鬼達の指揮官」を指定して何度かムーンアローを放っていたがロストするばかりだった。
「どうもこちらには大将はいないのかも知れません」
「ふうむそうか‥‥」
宿奈からテレパシーで伝え聞いた尾上は肩をすくめる。大将狙いでグリフォンに乗って戦場に目を落としていたのだが。仕方ないとインビジビリティリングで姿を消すと、尾上は味方の露払いに向かった。
「デッドライジング!」
インビジブルホースに乗って姿を消したオグマ・リゴネメティス(ec3793)は鬼達の死角から矢を放っていた。騎乗シューティング+ダブルシューティングEX+クイックシューティングで味方を援護する。
乱戦の中、魔法使いのリーマはストーンとグラビティーキャノンを、ステラは専門級に押さえたアイスブリザードとマグナブローを見舞っていた。
「緒戦はこちらに分ありかしら」
ステラは戦況を見やり呟く。高レベル冒険者中心に人喰鬼などに立ち向かっている。糟屋が三百人を南雲に預けたこともあって戦いは有利に展開していた。
その頃本隊は先遣部隊の戦いを横に前進を続けている。
本隊付きの偵察を行う磯城弥魁厳(eb5249)、木下茜(eb5817)、アクア・ミストレイ(ec3682)たちは先駆けて砦に向かっていた。
念入りにスクロールに地図を記していく魁厳。前回の戦いで一度奥地の城塞都市まで進んでいる木下の手引きで、三人は山中を駆け抜けていく。
と、その時である。前方からやってくる気配を感じて、三人は足を止めた。
「あれは‥‥」
無数の鬼が続々と姿を見せる。人喰鬼、馬頭鬼、牛頭鬼を筆頭に、熊鬼、山鬼、茶鬼、小鬼たちがわめきながら前進してくる。
「とんでもない大軍でござる‥‥!」
「磯城弥さんは本隊にこのことを知らせて下さい。あたいとアクアさんで今少し敵状を探ってみます」
「うむ‥‥気をつけてな」
魁厳は疾走の術で飛ぶように駆けていく。
インビジビリティリングとミラージュコートで姿を消した木下とアクアは鬼の集団に忍び込む。
「凄まじい大軍です‥‥城塞都市から鬼達が出撃したのでしょうか」
「一体どれだけの大軍なんだ。半端な数じゃないぞ‥‥これだけのオーグラ見たことない」
「アクアさんあそこを‥‥」
「ん‥‥?」
木下が指差した先、甲冑を身にまとった大鬼が浮かんでいる。鬼の言葉で周囲に命令を出している様子だ。
「あっちにも、こっちにもいるぞ」
空飛ぶ大鬼が次々と姿を見せ、その奥には鬼の列がずらりと続いている。
「これは‥‥どうやら山中で決戦となりそうですね」
「行こう。さすがにこのままだと抜け出せなくなりそうだ」
アクアと木下はその場を後にすると、急いで本隊に戻った。
「‥‥何、真か? 鬼の大軍が‥‥」
糟屋は報告を受けて眉間にしわを寄せた。
「いよいよですな‥‥先遣隊の方はどうなっているのだ。彼らの戦力が必要だ」
「先遣隊は敵を撃退したとのこと。現在こちらに向かっているはずです」
京極高知の問いに伝令の兵士が答える。
「よし‥‥総力戦だ。ここで敵を叩くぞ」
先遣隊の指揮を務めていた南雲は、逃げ出す鬼に追撃をかけず、本隊との合流を優先した。
戦闘は味方にも僅かに被害を出しつつも人喰鬼たちを撃破した。
それから南雲は高速移動できる陰守を本隊に遣わせる。
陰守はほどなくして本隊の状況を持ち帰って来る。
「どうやら鬼も大部隊を出してきた様子。山中で決戦となるようだ」
「ならば、我らもなおのこと急ぎ本隊に合流する必要があるな。みな聞いてくれ! 敵の大部隊が本隊に迫っている! 我らも一刻も早く合流を果たす必要がある。急ぐぞ!」
かくして、丹後軍と鬼の総力戦の幕が上がろうとしていた。丹後軍は後退して合流を果たし、敵を待ち受けた。
と、そこへあの甲冑をまとった大鬼たちが空を飛んでやって来た。
「丹後の民よ、この戦、どうあっても引けぬか」
「お前達は‥‥噂の鬼神とやらか」
陸堂明士郎(eb0712)が進み出て問いかける。
「ふふ‥‥鬼達はそう呼ぶようだな。だがこちらの質問に答えておらぬな。どうだ、この戦、引けぬか」
「引けぬな。所詮人と鬼は相容れぬ存在。大江山は我らに取って討伐の対象だ」
「是非もない。ならば、鬼達を食らって大江山を血で染めるがいい‥‥それが望みだというならば」
鬼神たちはそう言うと、掻き消えるように姿を消した。
「宣戦布告と言うわけか。今さらのようだが」
アランの言葉は宙に消えた。戦いを前に、丹後軍の間に緊迫した空気が流れる。
カイ・ローン(ea3054)、リリー・ストーム(ea9927)、明士郎、ベアータ・レジーネス(eb1422)、コルリス・フェネストラ(eb9459)は上空から鬼の様子を見つめていた。対鬼神に警戒を怠ることはない。あたかも人間のような台詞を残していったが敵は鬼だ。戦いになれば切り捨てるまで。
丹後軍は待った。森の静寂が不気味な沈黙を保っていたが、やがて突撃してくる鬼の咆哮にそれもかき消された。
突進して来る人喰鬼の集団が鉄弓を叩き込んでくる。格闘戦に長ける冒険者たちは矢を弾き返したが、足軽たちはまともに矢を食らって倒れた。なだれ込んでくる馬頭鬼、牛頭鬼、熊鬼に山鬼たち。
「こちらも矢を放て! 奴らを生きて帰すな! 応戦しろ!」
糟屋やアラン、南雲が号令を下し、弓兵が反撃の矢を放つ。エーフォメンスも鉄弓の人喰鬼目がけて矢を放つ。
オグマは合成魔法ボォルトフロムザブルーのスクロールを使って鬼の群れに稲妻を叩きつける。
「凍て付く吹雪よ‥‥! なぎ払え!」
ステラの超越アイスブリザードが炸裂。鬼がばたばたと倒れていくが、敵も多数。
「大地の波動よ!」
リーマのグラビティーキャンが鬼たちをなぎ倒すが、鬼たちの戦列は横に長く、全てを倒すことは出来ない。
「来るぞ!」
鬼たちの第一陣、怒涛のような突進が丹後軍に叩きつけられる。両軍は正面からぶつかった。
敵は大型、中型と小型とまばらな鬼の集団だ。
「この総力戦でかたをつけるぞ‥‥!」
アランは槍を構えて突撃。人喰鬼目がけて突進する。
「アラン殿の道を作れ!」
足軽たちが小物を引き付け、アランを援護する。
「ガァアアア! 大江山の鬼ども、今日が年貢の納め時だ。死にたい奴から掛かって来い!」
風雲寺雷音丸(eb0921)は突進すると小物の首を跳ね飛ばしていく。
正面からぶつかった両軍の戦闘だが、瞬く間に乱戦と化していく。
ほとんど実戦経験のないポール・ドテル(eb1221)はこの緊張感に足が止まりそうになるが、勇気を奮い起こして刀を敵に叩きつける。
熊鬼の攻撃を盾で跳ね返して反撃するブリード・クロス(eb7358)。熊鬼は倒したが、戦闘は予想以上に過酷だ。大鬼の攻撃を食らった兵士たちが次々と倒れていく。ブリードはリカバーで回復作業に追われることになる。
混戦の中、ホーリーフィールドを張ってコンフュージョンの巻物やデビルアイで鬼を混乱させる烏哭蓮(ec0312)。だが無理は出来ない。術士が前線に出るのは危険すぎる。仲間達に救われ後退する。
「くうっ‥‥ここは任せてと言いたいけど、うち一人で支えきれるもんでもないなあ」
九烏飛鳥(ec3984)は丹後軍の侍達と大鬼の駆除に当たるが。
敵もかつてない大規模戦。激しい戦闘に至るところで負傷兵が続出し、白翼寺涼哉(ea9502)は戦場各地に僧侶・僧兵達を送り込んだ。自身も戦場に赴き機動治療に専念する。
「おう! 大丈夫か! しっかりしろ!」
現地で初期治療を行うケント・ローレル(eb3501)。応急手当とリカバーやポーションで回復を試みる。
今回は回復専門の術士が豊富である。彼らは戦場の各地で傷ついた者たちを回復させていく。
雀尾嵐淡(ec0843)はフライングブルームで戦場を飛び回り、テスラの宝玉で回復、メンタルリカバーで兵士たちの心身を癒して回っている。
またマロース・フィリオネル(ec3138)はケルピーを駆って往来し、彼女もリカバーとメンタルリカバーを兵士たちに付与する。重傷者は魔法の絨毯で後方へ搬送する。
ホーリーフィールドを張って回復作業に当たっているのはセフィード・ウェバー(ec3246)。重傷の兵士をクローニングとテスラの宝玉で回復していく。
白の僧兵琉瑞香(ec3981)もリカバーとメンタルリカバーで後方支援に当たっていたが。
「大丈夫ですか‥‥」
人喰鬼に腕を吹っ飛ばされた兵士も多数。出来る限りは助けたい。瑞香はペガサスに兵士を乗せると、再生治療が可能な白翼寺のもとへ運んでいく。
「しっかり! すぐに救護所にお運びしますから」
元馬祖(ec4154)は重傷の兵士に応急手当を施すと、空飛ぶ絨毯に乗せて後方に飛ぶ。
鬼たちの攻撃は整然としていた。突撃を行う部隊とその背後から援護射撃を行う鉄弓部隊が連携している。それを指揮しているのは鎧に身を包んだ鬼の大将だ。
「厄介な相手だ、だが、やるしかない」
明士郎はウイングシールドで空中から突進すると、森の中を飛び、鬼神と呼ばれる鬼に向かって加速した。
鬼神は迫り来る明士郎を見やると、飛んで後退する。
「逃げる気か」
明士郎は追う。
「明士郎さん、深追いは危険です」
ドラゴン騎乗のベアータが達人ライトニングサンダーボルトで援護する。
「青き守護者、カイ・ローン参る」
カイも森の中に侵入して鬼神に迫る。ペガサスでチャージングを仕掛けるが――。鬼神は消えた。空を切るカイの槍。
「消えた‥‥?」
鉄弓が飛んでくるのですぐに離脱する。
コルリスはオーラショットを打ち込むが、鬼神は姿を消すだけで攻撃はして来ない。
「鬼神は反撃無しですの?」
リリーはガラントスピアを鉄弓を打っている鬼に投げつけると、鬼神たちに不審の目を向ける。
神通力と言うからには、何か盛大な魔法でも使ってくるのかと思いきや案外地味だ。
だが鬼神の数は尋常ではない。戦場のそこかしこ浮いて、鬼軍の指揮を取っている。
鬼の第一陣を撃退した丹後軍だが、息つく間もなく第二波が押し寄せる。今度は中型と小型の鬼が多数で押し寄せてくる。
「整然とした攻撃に鉄弓の援護‥‥鬼神の統率力でしょうか」
影虎は小物たちと相対しながら隣の円に呟く。
「さてな、だが城砦に閉じこもっていられては打つ手も無かったかも知れん」
円は山鬼に四連撃を叩き込んでねじ伏せた。
「鬼神とやら、逃げるばかりで戦おうとせん」
戻ってきた明士郎はアランや糟屋、高知に告げる。
「敵の攻撃は統制が取れている。鬼神が指揮しているのだろうが‥‥」
その時、伝令の兵士が糟屋のもとへ駆け込んでくる。
「敵の第三波! 大型の鬼の集団が現れました!」
「何?」
ファングは出現した人喰鬼の群れに立ち向かい、テンペストを振るう。その戦闘力は凄まじいが一人で戦線を支えきれるものではない。適度に攻撃を受け流して後退する。
「敵はまだ後詰があるのか‥‥?」
ファングは矢を弾き返しながら敵の背後に目を向ける。
井伊貴政と井伊文霞の姉弟は最前線にあって熊鬼、山鬼を倒していたが、新手の大鬼に備えて味方と合流する。
「戦列を立て直せ! 敵を押し返すぞ!」
南雲は兵士たちを叱咤激励しながら熊鬼を叩き切った。
だが大鬼の突進は凄まじく、瞬く間に丹後軍の戦列を突き破った。兵士たちは吹っ飛ばされて後退する。
「侍衆! 冒険者を前に! 足軽たちは後方から援護射撃に切り替えろ! 被害が馬鹿にならん!」
糟屋や高知、アラン、明士郎や南雲は戦場を往来し崩れる戦列の立て直しに奔走する。
「負傷者を運ぶんだ! 傷ついた連中は救護所まで避難しろ!」
ケントは瞬く間に悪化する戦況に兵士に手当てを施しながら数少ない救護班に叫んだ。
「堪えろよ、今すぐ回復してやる」
白翼寺は後退してきた重傷の兵士たちにリカバーをかけて回る。額の汗を拭う白翼寺。
「どこまで持ち堪えられるか‥‥」
最前線――。
リリーも戦場の人となっていた。鬼神が前に出て来ない以上、苦戦している味方を放っておくわけにもいかない。ガラントスピアを投げつけ、鉄弓を構える鬼を打ち抜いた。
「あそこを突けば、有利に動くかしら? ちょっと行って来ますわね」
天馬に声をかけると、ウイングシールドで飛び立ち、味方が苦戦しているところへ援軍に回る。
「ガアアアア! 何体来ようと叩き潰すまでだ!」
雷音丸は侍達とともに人喰鬼に突進する。――雷音丸殿に続けえ!
「是非もない。鬼神が出てこぬというなら大鬼を潰すまで」
明士郎も激戦の渦中に身を置く。
「浄炎さん‥‥!」
未楡の声に明王院浄炎はとっさに反転して鬼の攻撃を跳ね返す。
「ぬう‥‥お前達を倒すのも丹後のため。ここで負けるわけにはいかぬのだ」
前線で暴風のように暴れる静守。再び鬼のポイントアタックが襲い来るが。
「同じ手は食わん」
鬼の武器をバーストアタックで破壊すると、スマッシュEXで人喰鬼の腕を叩き落した。
「妙刃、水月!」_
メグレズのコンバットオプションが炸裂、牛頭鬼の頭部を一撃で破壊する。
「‥‥次! 掛かって来い!」
アレニオスはカウンター+スマッシュで大鬼をなぎ倒していく。大鬼のポイントアタックはデッドorライブで耐える。
「飛鳥さん‥‥! そっちを頼みます!」
メグレズは背後を飛鳥に任せると、前方の鬼に突撃する。
「みな無茶しよる‥‥てとんでもない連中や」
飛鳥は突撃するメグレズを見送って人喰鬼に突進する。
「どこ見とるんや、おたくの相手はこっちや」
飛鳥は「鬼砕き」を構えて撃ちかかっていく。
激戦の中に降り立った雀尾、ホーリーフィールドを展開してテスラの宝玉を患者の腹部に置く。祈りを捧げる雀尾。程なくして侍の意識が戻り、立ち上がる。
「すまん、やられたようだ」
「敵の攻撃は止まるところを知りません‥‥これ以上押し込まれればこちらも危ない」
「うむ‥‥」
「どうですか?」
マロースは足を無くした兵士を白翼寺のもとへ運び込んだ。
白翼寺は首を振る。
「出血を抑えるくらいしか出来んな。俺も魔力を使い果たした‥‥」
倒れ傷ついた兵士が戦場のそこかしこで助けを待っている、だが救助の手はとてもではないが足りない。
「駄目だ‥‥これ以上は私の力をもってしても‥‥」
セフィードの魔力も遂に尽きた。倒れる兵士たちを癒す術はない‥‥。
瑞香も前線近くで回復に当たっていたがさすがに患者の数が多すぎる。
糟屋は味方の被害を黙然と受け止める。多数の兵士たちが恐らく帰らぬ人となったが、丹後軍は敵の第二陣、第三陣も跳ね返した。侍衆と冒険者達が大鬼の足を止めたのだ。
そして鬼たちは後退を始めている。
「敵の増援はあるか?」
糟屋は敵状を偵察している宿奈に問うた。
「いえ‥‥敵は‥‥鬼たちは撤退を開始した模様です」
「そうか‥‥」
「追撃されるか」
アランの問いに糟屋は吐息して首を振った。
「これ以上は無理だろう。こちらも二百名近い死者を出した。まともに戦えるのは半数と残っていない」
「そうだな‥‥」
アランは戦場に横たわるおびただしい両軍の亡骸を見つめる。鬼たちも相当な被害を受けたはずである。味方はかなりの大鬼を倒した。
「敵は恐らく山奥へ引き上げるであろう。戦力も疲弊しているはず。この機会に、本拠地までの地図を隠密に長けた者たちにお願いしたい」
糟屋の依頼を受けて、影虎、魁厳、木下、陰守、尾上、アクアたちが鬼の後を追った。
疲弊した鬼たちは砦を抜け、山奥へと引き上げていく。さしもの鬼の大軍も丹後軍の前にとてつもない損害を出してくたびれた様子である。
空飛ぶ鬼神たちは鬼語で檄を飛ばしていたが、不意に集まって、鬼の姿から屈強な姿をした人間へと姿を変える。
「この辺りが潮時か。大江山の鬼たちは討伐される運命であろう」
「我らも引き上げるとしよう。鬼の滅亡を見届けるのも一興ではあるがな」
「程なくして大江山は落ちるだろう。所詮丹後の鬼は滅びゆく運命にあるようだ。‥‥鬼の魂に何の価値があるわけでもない。鳩摩羅天様も我らを遣わすとは酔狂なお方よ」
ふっふっふっふっ‥‥。
鬼神たちは不敵な笑みを浮かべると、大江山から飛び去った。
透明化の指輪で姿を消していた木下は鬼神たちの会話を聞き取っていた。
「鳩摩羅天‥‥連中は丹後の悪魔なのか」
ここにもデビルの影が。大江山の鬼を操り、京極家と争わせてきたのは丹後の悪魔だというのか。この戦、全て悪魔が仕掛けた陰謀だったのだろうか‥‥。
木下は首を振ると、今は鬼たちの後を追う。
偵察に向かった忍やレンジャー達は鬼の城塞都市までの地図を完成させて戻ってくる。ここに大江山の全貌が明らかとなり、京極高知は万感の思いで出来上がった地図に目を落とした。
「高知様、鬼たちは残りわずかです。大鬼も残り少なく、総数は百を切っているかと」
「そうか‥‥よくやってくれた木下。大江山平定も近いぞ」
「ただ気になることが」
「どうした」
木下は鬼の背後にいたのが悪魔である可能性を指摘する。
高知はうなったが、決意は変わらぬようだった。
「悪魔の陰謀だとしても、鬼との共存は出来ぬ。この地を平定し、わしは京極家の復興に道筋をつけたい」
「は‥‥」
木下は主君の決意にただ平伏した。
「いずれにしろ、これで鬼たちはほとんど出て来れなくなるはずだ。ほぼ丹後南部は押さえたと言っていいだろう」
アランはそう言って、亡くなった兵士たちに鎮魂の杯を掲げた。
大江山に静寂が訪れると、雨が降り始めた。傷ついた兵士たちは空を見上げる。
「勝つには勝ったが、犠牲も大きかったなあ‥‥」
人と鬼の争いで赤く染まった大地を、雨が洗い流していく。
「我々の行く先に何が待ち受けているのか‥‥今はただ、このささやかな勝利を逝った者たちに捧げるとしよう」
冒険者も、侍達も、兵士たちも、亡き戦友たちに鎮魂の酒をたむけるのだった。