【道敷大神】丹後の戦い、混迷の舞鶴
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:15人
サポート参加人数:8人
冒険期間:04月30日〜05月05日
リプレイ公開日:2009年05月12日
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●オープニング
丹後、舞鶴――。
先の戦いで敗北した丹後軍は舞鶴城へ後退していた。
そして今、一万を越える黄泉の大軍が舞鶴城を包囲している。人々は恐れ、泣き、絶望に暮れていた。
「申し上げます!」
兵士の一人が城内に駆け込んでくる。
「城門が破られました! 不死軍は八十禍津日神を先頭に、程なくして城下になだれ込んでくるかと!」
「何‥‥!」
「遂に来たか‥‥」
丹後軍の将帥である立花鉄州斎、中川克明、相川宏尚、平野長泰、片桐且元らは腰を浮かせた。
「一人でも多くの民を逃がしたいところだが‥‥」
「態勢を立て直す時間も無かった。仕方あるまい、城を捨てて野に下るしかないだろう。民には自力で京都まで辿り着いてもらうしか」
と、その時である。
「民の護衛、引き受けよう」
丹後の物の怪が一柱、狼の長が口を開いた。
「京都まの道のり、我らの一族、千の狼が引き受けよう」
「それは‥‥助かります」
「わしらも撤収の準備を進めるとするかの。生きておればまた会えるじゃろう」
猿やネズミも城からの脱出を図る。
舞鶴城は逃げまどう人と最後の抵抗を試みる丹後軍で慌しいことになっていた。
「終わった‥‥あっけないものだな。大連よ、よくぞ今まで手こずっておったな。この程度の敵に」
八十禍津日神は恐れ入る導師を睨みつけながら兵士を蹴散らし、城下に侵入していた。
そこへ、不意に丹後の悪魔の首魁、鳩摩羅天が姿を見せた。美しい青年の姿で、黒い翼を生やしている。
「これからどうするつもりだ禍津日神よ」
「京都で予想外の敗退を被った。せめてこの地を平らげ、イザナミ様に献上するとしよう」
「人間は皆殺しか」
「ふっ‥‥適度にな。人間には大神イザナミ様を崇拝する礎となってもらう。この地で生贄の儀式を執り行い、イザナミ様に捧げるとしよう」
丹後軍と黄泉軍はいよいよ城下で激突する。最初に死人憑きに襲い掛かったのは人間ではなく、狐達であった。その小さな体躯で、白狐を中心に死人憑きの進行を遅らせるべく狐の大群が立ち塞がったのだ。
「何! 狐達、いや稲荷神様が!」
諸将は驚いた様子だ。天御影命と天鈿女命も立ち上がる。天火明命はじっと目をつむっていた。
「出てくるのが人間ではなく獣か。妖怪が人間のために戦うとは‥‥」
八十禍津日神は長大な剣で狐を真っ二つに切り裂いた。
「こざかしい! 人間はどこだ!」
「ここだ!」
丹後軍の兵士や侍達、天津神が駆けつけると、八十禍津日神は哄笑を発した。
「ようやく到着か! 狐を幾ら殺したところで京都への見せしめにはならん!」
その時だ、遙か南方から飛来する一団に黄泉人も人間も足を止めた。
「何だあれは‥‥?」
それは――誰もが忘れかけていた大国主の亡霊軍隊であった。
「大国主だと?」
八十禍津日神は人々のざわめきを聞いて眉をひそめた。
大国主は岩のドラゴンに乗って、万を越える圧倒的大軍の亡霊兵士たちを率いて舞鶴城に降り立った。
大国主は情勢を見渡すと、黄泉人や丹後軍に向かって言った。
「丹後の臣民、そして黄泉人よ、聞け、余の国作りの道筋が立った。余が築き上げる王道楽土は失われた魔法を復活させ、新たなる魔導王国の再生にある。黄泉、妖、精霊は余のもとに集うが良い。失われた地位を約束しよう。そして臣民には平穏を約束しよう」
大国主の声は雷鳴のように舞鶴城に響き渡った。
「馬鹿め!」
導師は進み出ると、瘴気の渦を持ち上げた。
「太古の化石が何を抜かすか! イザナミ様こそ絶対の神!」
そして導師は瘴気を――それは怨霊の弾丸となって大国主に襲い掛かった。導師の攻撃が炸裂――するかに見えた。だが、怨霊の弾丸は大国主を取り巻く虹色のシールドに跳ね返された。
「何!?」
「下郎、余を誰だと思っている」
大国主は懐から呪符を取り出すと、それを導師目がけて投じた。
「‥‥!」
呪符が導師に張り付いた途端、導師は動けなくなった。
「下がれ黄泉人、余は戦いに来たのではない」
大国主は呪符をばばっとまき散らすと、呪符は異形の魔物に変身して次々と立ち上がる。魔物を解き放って笑声を上げる大国主。
「どうだお前達、余に仕えぬか。この国を一から作り直すのだ。現世の人は増長し、神と魔に良いようにされておる。お主らの怒り、余には理解できる」
大国主はそう言って魔物や亡霊軍隊を前進させる。
「‥‥噂には聞いていたが、彼奴に膝を屈するなど言語道断。人間もろとも叩き切ってくれるわ」
八十禍津日神が剣を抜いて飛び上がると、大国主配下の亡霊、長髄彦や八十神も抜刀した。
「大国主! 半神の身で魔王への忠誠を忘れたか!」
鳩摩羅天の叱責に大国主は冷静であった。
「余は王ぞ、神にも魔にも仕えぬわ。魔王は余の良き理解者であったぞ」
「何っ」
「奴は真の大国主であるというなら、我の敵となる」
天火明命のまとっている炎がごうっと吹きだし、渦を巻く。すると――。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥と微震が発生して人々を驚かせた。
「ホアカリ! 力を制御しなさい! あなたが激情に身を任せたら、この地はどうなると思うの!」
「ホアカリ!」
天鈿女命と天御影命は天火明命をつかんで揺さぶったが。天火明命の瞳からこれまでにない闘争心がみなぎっていた。
かくして、天津神の激情に揺れる大地、対峙する黄泉と大国主、そして妖怪、人を巻き込んで、舞鶴の状況は混迷を極めていく。
この状況の中、源細ガラシャは京都へ文を飛ばした。
‥‥冒険者ギルドに届いたガラシャの文の最後には、「助けて下さい」と書かれていた。
●リプレイ本文
舞鶴――。
ジークリンデ・ケリン(eb3225)の超越バイブレーションセンサーが全く役に立たない。大地が激しく揺れている。
「これがガラシャ殿の手紙にあった、天火明命の力‥‥」
一同急ぎ舞鶴城に入り込む。
「‥‥秀吉公は自力で京都へ戻れと仰せです。今京都から兵を割くわけにはいかないと」
ベアータ・レジーネス(eb1422)は丹後軍の将帥たちに告げる。
「平野殿は、ご無事では‥‥」
白翼寺涼哉(ea9502)の言葉に片桐且元はうなった。
「都へ出向いたところで暗殺されたと知らせが‥‥情報が錯綜しているようですな」
「何と‥‥」
白翼寺は絶句。やはりあちらが真であったか‥‥。
「殿は京へお逃げ下さい。丹後の民は我らが連れ帰りますれば」
丹後藩主達に一部の侍達が告げる。宮津・峰山にはまだ生き残りがいる。
「分かった‥‥死ぬなよ」
雪切刀也(ea6228)と尾上楓(ec1272)、明王院未楡(eb2404)は一縷の望みを託して前線に、荒ぶる天火明命のもとへ向かうことに。
「諸将には撤退の準備を、俺たちもあとから合流する」
アラン・ハリファックス(ea4295)は言ってベゾムを担ぎ出した。
「導師に接近するぞ。奴が持っている潮盈珠だけでもこの混乱に乗じて奪いたい」
御多々良岩鉄斎(eb4598)が導師に向かうアランやベアータ、バーク・ダンロック(ea7871)、アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)や雷真水(eb9215)にオーラエリベイションやオーラボディを付与する。
ジニールとともに戻ってきたジークリンデが敵の様子を告げる。
「不死者たちが西から続々と入り込んでいます」
未楡は傍らに立つ大太法師を見上げて城下への伝令をお願いした。
「氏神様、一人でも‥‥一柱でも多くの方々が無事に落ち延びれるよう、お力を貸して下さい」
大太法師は唸ってから手近な木霊を呼び寄せると、人間達の道案内をするように伝える。
そうして一同舞鶴からの脱出に向けて動き出した。
――城下西方。
未楡、刀也、楓は大国主と八十禍津日神を見つめている天火明命のもとへ辿り着いた。相変わらず激震が大地を揺るがしている。
天火明命は一歩踏み出した。ズシン、と大地が揺れる。
「天火明命様‥‥!」
未楡の声は届かない。
大国主は八十禍津日神と距離を保つと、冷静に地上に目を落とす。
「天火明命よ、今や余とそなたは敵ではないはずだ‥‥」
だが天火明命は大国主の言葉に耳を貸さず、燃え上がる拳を地面に叩きつけた。
直後、亀裂が走って大国主の真下の地面が爆発し、マグマが吹き上げた。
「‥‥!」
大国主は転移の呪符で逃れる。
町中で起こった噴火が家屋に降り注いで燃え上がる。
「馬鹿め‥‥傍若無人な奴よ」
大国主はプットアウトで周囲の炎を消し去ったが‥‥。
天火明命は再び拳を振るうが、天御影命が寸前で止めた。
「天津神よ‥‥どうかお鎮まり下さい」
楓はテレパシーで天火明命に語りかける。竪琴をかきならして魂鎮の儀式を行う。未楡とガラシャ、天鈿女命が舞い、天火明命の注意を引きつける。矛収め、荒ぶる心を断ち鎮める舞、自然への感謝、調和の営みを示す舞を‥‥。
やがて地震が収まっていく。心が通じたのだろうか‥‥。
「天津神よ――」
刀也は口を開いた。
「自身の感情に素直になるのは正しいことかと存じます。ですが、その下に無関係の者達を巻き込んでしまうのならば、それはお待ち頂きたい」
刀也は続ける。
「その最たる者としてのイザナミ‥‥。他者を巻き込み、強引に復讐劇へと引きずり込んだ時点でそれは本来の意味を失い、最早一種の陶酔であると断じます。それは、自分自身を裏切ったとも言えるのです」
天火明命は吐息する。イザナミを糾弾する声を聞くのはこれで幾度目か。
「どうかご自重を。力ある者だからこそ、今は激情を圧し殺し、様々な者達を省みて頂きたいのです。御自身を慕う者たちの事を、決してお忘れにならないでください。それが、自分の願いです」
「我は二度と戦わぬ誓いを立てた‥‥誓いを破ったことは我が不明」
すると未楡が進み出た。
「大国主が誠に大国主ならば、貴方様の敵‥‥それは如何なる理由なのでしょう? 大国主が復活させた古の呪法‥‥その力の源が原因ですか?」
「あの者とはかつて引き分けた、お互いに因縁の間柄なのだ」
「ですが、何も肝心な事は語らず、ただ静観するだけであった貴方様がここに来て民人も氏神様達さえも巻き添えにしかねない暴挙に出る‥‥それでは信じて集った者達が余りに報われません」
未楡は思いのたけを込めて訴える。
「神皇家がイザナミの復讐を受けるのは運命‥‥と仰られていましたが、生きとし生ける全てのものがその矛先に打ち倒される‥‥それは当然の事なのでしょうか?」
「イザナミが黄泉国を成立させようと言うなら、あ奴にとって人は邪魔者でしかあるまい。今やあの者に人への情はあるまい」
とにかくも理性を取り戻した天火明命はその場を後にする。
楓は隙を見計らって大国主との会話を試みていた。天火明命と敵対する理由を聞いてみると。
「あの者は余の統治に牙を剥いた反逆者よ。古い話ではあるが‥‥変わらぬ奴だ」
「あのう、神様と冒険者が友達になるなんて、古代じゃあり得ないですよね。でも、だからこそ面白いとは思われないです? 友達がまずければ、御伽衆とか客分とか」
「友だと? 図々しい奴よの。その心意気は気に入ったぞ。いつでも我が居城を訪れるが良い」
「一応聞いておきたいんだけど、失われた魔法‥‥もしそれが復活したら丹後の古の結界が復するのかな?」
だがその件については大国主は知らぬ様子であった。
と、そこへ舞鶴藩主相川宏尚と侍の一団が姿を見せた。
「大国主様‥‥この不肖宏尚、あなた様に忠誠を尽くします。どうか舞鶴をお助け下さい。我々はあなた様を王とし、舞鶴の地を委ねますれば」
冒険者たちは驚いた。土壇場で起きた裏切り、宏尚は伏して大国主に救済を請うのだった。
「‥‥導師! 同じ手は食わねえぞ!」
バークは導師が召喚した怨霊をオーラアルファーで吹っ飛ばした。
アランとベアータは上空から導師の潮盈珠を伺っていたが宝珠は見当たらなかった。
ダブルアタックで切りかかる真水。だが導師はがしゃ髑髏を盾に後退する。
「ピュアリファイ超越級!」
アルフレッドの超越魔法が導師を包み込むが、導師は何事もなかったかのように周囲の亡者達を差し向ける。
「今回は逃げに徹している様子だな‥‥賢明な判断だが‥‥」
導師は言って怨霊の弾丸を叩きつける。バークはオーラアルファーで対抗。
「時間切れか‥‥」
アランは呟くと、仲間達に撤収を告げ、冒険者たちは導師から離れる。
丹後軍の戦いは困難を極めたが、冒険者たちは殿を務めて民を逃がす。
「早く、行って下さい! ここはボクが引き受けます!」
月詠葵(ea0020)は押し寄せる亡者の列に単身立ち向かいながら丹後軍と民を援護する。逃げる民の殿につき、葵は丹後軍の戦列の穴を埋めるように東奔西走した。
「少しでも多くの民を逃すのだ! 急げ!」
刀を振るうアランは子供を抱きかかえながら後退する。
冒険者たちは戦線各所で殿を務め、丹後軍の崩壊を何とか食い止めている。だがそれにも限界がある。
刀也は薙刀で亡者達をなぎ倒して後退する。逃げまどう中で取り残された子供を抱き上げると、迫り来る死人を払って逃げる。
「囲みを破ったぞ! 急いで脱出するんだ!」
声を張り上げて民を逃がす白翼寺。侍とともに民の誘導に加わった。
紅千喜(eb0221)はグリフォンから振り落とされてしまった。グリフォンはまだ飼い慣れていなかったようだ。
「仕方ないわね‥‥あの子とはまだ日が浅かったかしら」
気を取り直して立ち上がった紅は姫切と村雨丸の二刀を構えると、亡者の群れに突進。ダブルアタック+シュライクEXで死人たちを食い止め、民の盾となる。
南雲紫(eb2483)は最前線に身を置き、迫り来る亡者の列に立ち塞がった。圧倒的大軍を前に南雲はひたすら刀を振るい、敵の数を撃ち減らしていく。
「兵士たちよ! 何としても亡者の進軍を遅らせるぞ!」
ジークリンデは亡者の列に次々と超越ストーンを見舞う。凄まじい数の亡者がジークリンデのストーン詠唱のたびに石と化していく。
恐れて足が止まっている民たちにアルフレッドが超越メンタルリカバーをかけて回る。
「みなさん何としても京都まで行きましょう!」
混乱する戦場で岩鉄斎は超越オーラアルファーを放つ。レミエラ効果で味方を巻き込まないように。
「急げよ、立ち止まるな」
岩鉄斎は民を叱咤し、オーラアルファーで死人の足を止める。
「さあ急いで! 皆さん振り返らずに!」
逃げ遅れた老人を介助しながら井伊文霞(ec1565)は接近する死人憑きをなぎ払った。
「大丈夫ですか? さあ、早く行って‥‥!」
がしゃ髑髏の鉄球が飛んでくる。文霞は老人を庇って鉄球を受け止めた。
「くっ‥‥お爺さん、早く逃げて下さい」
「文霞殿! 我々も後退しましょう!」
「少しでも、一人でも多くの民を逃がすまで踏み止まりましょう‥‥」
文霞は侍に言って、亡者の列に突撃する‥‥。
「私は藤豊家家臣のベアータと申します。これより京都までの道程を空より護衛しご案内致します」
ベアータは舞鶴から脱出する民の護衛についた狼の長に礼を言ってから、道案内を買って出た。
かくして、丹後軍は舞鶴から撤退することとなる。民の犠牲を最小に押し止め、彼らは殿を務めて民を逃がした。
京都帰還後‥‥。
アランと白翼寺は片桐らとともに秀吉に謁見した。
「かような敗戦、真に申し訳ありませぬ‥‥!」
だが秀吉は帰還した将兵を責めることは無かった。
「大儀であるぞ。わしは既に多くの兵を失った。御主達が生きて戻ってきたのは何よりじゃ。今はしばし休息せよ」
秀吉も諸将の労を労うしかなかったのである。