丹後の死人使い、赤曜

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:05月12日〜05月17日

リプレイ公開日:2009年05月22日

●オープニング

 丹後、宮津――。
 源細ガラシャは共の土侍数名を連れて舞鶴を脱した。混迷を極める舞鶴の情勢がどのような帰結を迎えるか、今はまだ知る由も無かった。
「民は‥‥無事に逃げることが出来たでしょうか‥‥」
 ガラシャの問いに土侍は吐息する。ガラシャも土侍も顔や衣服が土にまみれていた。
「分かりませんな‥‥今はただ、祈るしか‥‥」
「それよりもガラシャ様、足の傷をお見せ下さい。顔色がすぐれませんぞ」
「大丈夫です‥‥これくらいの怪我何でもありません。急ぎましょう。まだ丹後には民が取り残されています。宮津にも、峰山にも。彼らを探し出し、何とかして安全なところへ連れ帰らねば‥‥」
 そこで、不意にガラシャたちの背後に一人の人物が姿を見せた。
「もし、もしやガラシャ殿ではありませんか」
 一同が振り向いた先には、丹後松尾寺の住職であった陽燕和尚の姿があった。
「あなたは‥‥陽燕和尚様」
「奇遇ですな、お互い何とか逃げ延びた口ですか」
「ご無事で何よりです‥‥」
「これからどうなさるおつもりです。丹後はもはや黄泉の手に落ちたも同然。戦い続けるのは困難ですぞ」
「まだ為すべきことがあります。この地にはまだ民が残されているのです。彼らを見つけ出し、安全な場所へ連れ帰らねば‥‥」
 そこでガラシャの言葉が宙に消え、そのまま地面に倒れ伏す。
「ガラシャ様!」
 土侍達が血相を変えてガラシャを抱き起こす。ガラシャの顔は青白く、額に汗の粒が浮かんでいる。
「どこか怪我でもなさっているのですか?」
 和尚の問いに、土侍は舞鶴から脱出する際に死人に襲われた経緯を話して聞かせる。その際にガラシャは足に傷を負ったという。
「では怪我の具合を見てみましょう」
「お願いします」
 陽燕和尚はガラシャの足袋を脱がせると、足の切り傷に目を落とした。傷は赤く腫れ上がって悪化している。
「ガラシャ様‥‥! 傷がこんなに悪く‥‥」
「大丈夫です。傷はすぐに直せます」
 和尚はリカバーを唱えると、傷は一瞬で治癒した。

 目を覚ましたガラシャは、心配そうに覗き込む土侍たちを制して起き上がった。
「和尚様、ありがとうございます。このご恩はいずれ‥‥」
 ガラシャは和尚に深々とお辞儀して、その場を後にしようとする。
「お待ちなさいガラシャ殿。どこへ行かれる」
「丹後にはまだ民が残っています。彼らを見捨てるわけには参りません‥‥」
「私もお供しましょう」
「え‥‥?」
「私も民の安寧を願う丹後の僧の一人。あなたに協力いたしましょう」
「それは‥‥何と申して良いか」
 ガラシャは言葉が出なかったが、陽燕和尚は優しい笑みを浮かべるのだった。

 丹後のアンデッドリーダー、死人使い「赤曜」は赤毛の美女である。その外見とは裏腹に残忍な性格をしており、数多の民を手にかけていた。アンデッドなのだから当然ではあるが。
 赤曜は黄泉軍の進軍に合わせ、宮津方面の民の生き残りを狩っていた。
「クハハハ‥‥隠れても無駄なこと‥‥そこにいるのは分かっておるぞ」
 赤曜は人気のない村に亡者を率いて踏み込み、隠し戸に隠れている民を探知して見つけ出した。
 声にならない悲鳴を上げる村人たちを赤曜は見据える。
「‥‥安心するがいい、すぐに我らが同胞に加えてやろう。‥‥お前達、やっておしまい」
 赤曜の合図で、死人憑きが一斉に村人達に襲い掛かった‥‥。

「‥‥この先の村で丹後の死人使いが村人を狩っているようですね。あれは‥‥赤曜と呼ばれる魔物でしょうか。村にはまだ生き残りがいる様子、探知に反応がありました」
 戻ってきた陽燕和尚はガラシャたちに告げる。
「何ということを‥‥ひどい‥‥」
「都に文を飛ばしなさい。冒険者を呼ぶのです。民を狩っている魔物を放置しておくことは出来ません」
 陽燕和尚の言葉に頷くと、ガラシャは伝書鳩に文を託して京都へ放った。

 京都冒険者ギルド――。
「ガラシャ殿からの文が届いたって?」
 ギルドの手代は文の内容を精査する。
「ガラシャ様はまだ丹後を離れぬおつもりか‥‥ふむ、陽燕和尚も一緒とある」
 ことは急を要する、ギルドの手代は文を元に依頼書を作成して、死人使い「赤曜」の撃退、村人の救出依頼を張り出したのであった。

●今回の参加者

 ea1309 仔神 傀竜(35歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2975 陽 小娘(37歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5817 木下 茜(24歳・♀・忍者・河童・ジャパン)
 ec4061 ガラフ・グゥー(63歳・♂・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ec4801 リーマ・アベツ(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ルーラス・エルミナス(ea0282)/ カイ・ローン(ea3054)/ ベアータ・レジーネス(eb1422)/ 明王院 月与(eb3600)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601)/ エレノア・バーレン(eb5618

●リプレイ本文

 村人達の絶叫がこだましてくる。源細ガラシャ(ez1176)は悲痛な面持ちで目を閉じていた。その拳を痛いほど握り締めている。
「今は堪えるのです。都から冒険者たちがやってくるのを待つしかありません」
 陽燕和尚は言ってガラシャをなだめた。
「早く‥‥来てくれよ」
 土侍の一人が祈るように呟く。
 と、そこへ木下茜(eb5817)がやってくる。
「遅くなりました。ガラシャ殿に、そちらが陽燕和尚様? 忍びの木下茜と申します」
「おお、待っておりましたぞ。心強い味方が来てくれましたな」
 挨拶もそこそこに、木下は村の中へ偵察に向かう。
「間もなく仲間達もやってきます。赤曜の好きにはさせません」

 村の中――。
 亡者達が村人達を狩りゆく様を、赤曜は赤い瞳で見つめていた。
 と、そこへ空中に霧のようなもやが立ち込め、霞は実体化して黒い杖と化した。
 赤曜は杖が目の前にやって来て、はっと顔色を変えて膝を付いた。
「大護様」
 すると、驚いたことに黒杖の先端がうごめいて、口のようにしわがれた言葉を発した。
「舞鶴における勝敗は決したが‥‥我らも大国主の前に後退を余儀なくされたわ‥‥大国主‥‥何かを探し始めたようだが‥‥」
 驚く赤曜。黒い杖は話し続ける。
「いずれにしても、我らは黄泉国の成立を宣言する時が来た‥‥急げ赤曜」
「は‥‥」
 黒杖は霞となって掻き消えた。
 その様子を透明になって見つめていた木下。今のは一体‥‥。
 その場から離れると、村の中の様子を探る木下。
 死人憑きや怪骨が点在していて、村を徘徊している。
 無残に傷つき倒れた民の姿が時折目に入ってくる。
「‥‥‥‥」
 木下は亡骸に冥福を祈ると、村の中を駆け回り、避難経路を頭の中に叩き込んでいた。

 ‥‥やや遅れて他のメンバーも到着してくる。
「ガラシャ殿に陽燕和尚様、時は一刻を争うようですな。舞鶴も陥落した今、もはや黄泉人の勢いは止まるところを知らず」
 明王院浄炎(eb2373)の言葉にガラシャは吐息する。
「多くの民が傷つき倒れました‥‥もうこれ以上の犠牲は‥‥」
 顔も服も土まみれのガラシャや土侍達は、犠牲となった民を思い言葉が出なかった。
「ガラシャさん、民は必ず救い出します。赤曜を倒し、民を京都へ連れ帰りましょう」
 巨人の鉄壁神聖騎士メグレズ・ファウンテン(eb5451)は言ってガラシャの肩に手を置いた。
 合流を果たした木下が村の中の様子を伝える。
「村の中には赤曜率いる亡者達が徘徊しています。相変わらず、村人達を襲い、手にかけているようです」
 それから木下は目撃した黒杖のことも報告する。
「赤曜も恐れる謎の黒い杖か‥‥いずれ黄泉人と関係あるのだろうが‥‥」
 アラン・ハリファックス(ea4295)はうなって腕組する。
「では、わしらは当初の予定通り村人たちの避難に回るとするかの。赤曜討伐は任せたぞい」
 老シフールのガラフ・グゥー(ec4061)はアランたちに言葉をかける。
 ガラフ、木下、仔神傀竜(ea1309)、陽小娘(eb2975)が民の避難誘導に当たり、アラン、浄炎、メグレズ、超越魔法の使い手リーマ・アベツ(ec4801)が赤曜討伐に向かうことになる。
「では、行くとするかの」
「私もお供しましょう。お力になれるはずです」
「かたじけない」
 和尚の申し出を冒険者たちは受け入れる。

 ‥‥木下の手引きで村人の「保護・護衛」班は民の捜索に当たる。
 陽燕和尚は何と白黒両方の神聖魔法が使えるという。デティクトライフフォースで探索に当たり、ガラフは上空からブレスセンサーで民を探した。
「あそこにどうやら民が残っているようじゃが‥‥」
 ガラフが一軒の民家を指差す。
 その前に一体の死人憑きが立ち塞がっている。冒険者たちを発見すると、ゆらゆらした足取りでうめき声を上げながら近付いてくる。
 ライトニングサンダーボルトを叩き込むガラフ。
「傀竜さん、下がってて」
 小娘は月桂樹の木剣を構えると、オーラパワーを付与して死人憑きに立ち向かった。
 陽燕和尚もホーリーで牽制する。
「はぁ〜、いっくら退治しても湧いてくるなんて害虫みたいだね!」
 えいやあ! と死人憑きに打ちかかる小娘。亡者の攻撃をかわして打ちのめす。
 小娘の連撃でぼろぼろになった死人憑きの体が遂に崩れ落ちる。
「よし、早く村人さんを助けよ」
 崩れ落ちた扉をどけると、民家の中に入る冒険者たち。
「もしも〜し? 村人さん、助けに来たよ〜?」
「ガラシャ殿がみなを助けに来ましたぞ。ご安心なさい」
 ガラフは再度ブレスセンサーを使うと、床の下に気配を察知する。
「ここじゃな」
 傀竜が床の板にこつこつと拳を打ちつける。
「みなさん、安心して下さい、助けに来たわよ。京都から皆さんを迎えに来ましたわ」
 すると‥‥。がたごと、と床が開いて、中から村人達が姿を見せる。老若男女の一家が隠れていた。
「京都からの助けとは‥‥」
「もう大丈夫ですわ」
 傀竜は事情を説明して村人達に手を伸ばす。
 疲れきった様子の村人達は安堵の息をもらしながら上がってくる。
「さぞや大変な思いであったでしょう」
「いや‥‥亡者の大軍が村を通過して行った時には、生きた心地がしませんでしたが‥‥」
 民家から脱出する一同。
 それから冒険者たちは民を護衛しながら、数軒の民家に隠れていた村人達を発見する。
 木下がみなを先導し、村人たちは村の外で待っていたガラシャと対面する。
「みな無事でしたか‥‥」
 民とガラシャの再会を見やりつつ、木下と傀竜は和尚たちに護衛を頼み、赤曜との直接対決に臨む。
「んじゃ、あたしとガラフさんと和尚さんでみんなを守るよ。傀竜さん気をつけてね。無理しちゃ駄目だよ」
「大したことは出来ないけど‥‥討伐に向かったみんなを少しでも助けることが出来ればいいわね」
「では行きましょうか傀竜さん」
「ええ‥‥」
 木下と傀竜は再び村の中へ。

 ――アラン、メグレズ、浄炎、リーマらは村の中の亡者達を蹴散らしながら進み、赤曜と対峙していた。
 アランは烈火のごとく怒りを赤曜に叩きつける。
「はじめまして死人使い、そしてさよならだ。貴様らは私の輩を闇討ちで殺した。お前、綺麗にこの村で死ねると思うなよ。磨り潰すぞ死にぞこない(アンデッド)!!」
 赤曜は残酷な笑みを浮かべる。
「クハハ‥‥怒るがいい、憎しみや怒りは我らの糧となる。その怒り、わらわにぶつけよ」
「何‥‥だと?」
 アランは牙剥いて村雨丸の柄を握り締める。
「だが‥‥丁度いいところへ来た。今しがた狩りの途中でな。何人かの村人達を捕まえてある」
 赤曜が合図すると、怪骨が村人達に剣を突き立て姿を見せる。
「人質‥‥ですか」
 リーマはペットのエレメンタルフェアリーにブレスセンサーで確認させる。確かに村人達は呼吸している。
「人の死を弄ぶ輩に常識で挑んではならないと教わったことがあります」
 リーマは冷たく言い放つと、詠唱を開始する。
「赤曜、貴様の命運もこれまでだ。その手は読んでいる」
 浄炎はリーマの詠唱が完成するのを待った。そして――。
「ストーン超越級!」
 完成した超越ストーンが周囲の亡者達を次々と石化していく。
「ぬっ‥‥」
 赤曜は異変を察知して身構える。
 別方向から木下が忍び寄り、人質となっていた村人達を救い出す。
 傀竜がホーリーフィールドを張り、村人達を保護する。
「行くぞ赤曜、お前を守るものは何もない!」
 アラン、メグレズ、浄炎は突進した。
 ストーンで撃ち漏らした怪骨などは浄炎が引き受ける。
 裂ぱくの気合いをこめて突進するアランとメグレズ。
「飛刃、散華!」
 メグレズはソニックブーム+スマッシュを叩きつけて一気に距離を詰める。
 二人の刃が赤曜を捕らえようかと言う時――。
 ギャリイイイイン!
 と、刀剣が赤曜の寸前で跳ね返された。
「‥‥何!?」
 アランは目の前に立ち塞がる物体に目を上げる。
 それは、巨大な骸骨の蛇であった。地中から飛び出して、赤曜の盾となっている。
「甘いわ。わしが容易く主らの刃に身を晒すと思うか?」
 赤曜は地面に手を置く。
「出でよ我が僕!」
 すると、地面が次々と盛り上がって、白骨の大蛇が現れた。
「クハハ‥‥お前達にこやつらが突破できるかな」
 アランとメグレズは骸骨大蛇に一瞬後退するが。アランは冷静に村雨丸を握り直す。
「骨大蛇の群れか‥‥ならば、全て叩き潰すまでよ」
「誓約拝命、逆徒討滅」
 メグレズはテンペストを立てると、赤曜をひたと見据える。
「来い」
 赤曜は蛇の中に隠れると後退する。
 突撃するアランとメグレズ。骨大蛇の頭突きを跳ね返しながら、骸骨を叩き潰していく。
 リーマの超越グラビティーキャノンが赤曜を貫通する。また木下が破魔矢を叩き込むと、赤曜は鷲に変身して逃げ出した。骸骨大蛇も地中に逃げ込んだ。
「逃がしたか‥‥」
 アランは歯噛みして飛び去る赤曜の姿を見つめるのだった。

 ‥‥戦闘終結後。
 浄炎やガラフ老は陽燕和尚に問うていた。
「御坊が悪魔らの動きを知るは、悪魔らが言う御使いの言を得ているからではなかろうか? 我らはあまりに事を知らな過ぎる。力をお貸し頂けぬだろうか?」
「御坊はこの混乱の最中でも混迷を治める術を、悪魔の魔手を退ける術を探求されていたようじゃが、何か糸口は見付かったのかのぅ」
 すると陽燕和尚は思案顔で答える。
「鳩摩羅天‥‥かの者は第六天魔王の眷属ではありますが、あの天魔が丹後の盗賊たちの背後にいたことは確信しております。確かに私は今まで悪魔を追って来ましたが、この地は今や黄泉と悪魔が結託して勢力を拡大しております。今は一人でも多くの無辜の民を救わなくては」
 そう言ってから、和尚は浄炎に深遠な表情を向ける。
「浄炎殿、敵は今や悪魔のみならず、黄泉、謎の大国主が覇を唱えております。丹後を救う手がかりを、私も捜し求めているのですが‥‥」
 和尚はそう言って、吐息するのだった。