太古からの目覚め
|
■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:5人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月05日〜06月10日
リプレイ公開日:2009年06月12日
|
●オープニング
丹後南東、大国主の居城、針の岩城――。
大国主は城の最上階にあって、遠見の水晶を覗き込んでいた。
大国主が手をかざすと、水晶に一人の少女の姿が浮かび上がる。
そして、大国主が呪文を詠唱すると、水晶は鈍い光を放ち、光は玉となって水晶の向こうにいる少女に届いた。
京都近郊、某村――。
村娘の静香は夢を見ていた‥‥。
そびえ立つ神殿に古代人達が集まり、神官たちが仰々しく祭祀の結果を告げていた‥‥。
その中心にいるのは‥‥大国主であった。
「みなの者、世はあまねく混乱しておるが、今こそ結束が求められているぞ。余の下にあれ、強く清い国を築いていこうではないか‥‥」
「大国主様‥‥」
静香は大国主の側にあり、護衛の兵士として大国主を見つめていた‥‥。
そして今、静香は遙か彼方から迫り来る何かを感じて、目を覚ました。
目の前に光の玉が浮かんでいる。
「これは‥‥」
静香は恐る恐る光の玉に手を差し伸べた。すると、玉は静香の肉体に吸い込まれ‥‥。
「静香? どうしたんじゃ?」
朝、静香は両親から不思議そうな目を向けられていた。
ろくに食事に手もつけず、静香はじっと宙を見詰めていた。
「大国主様‥‥」
静香の呟きに両親は顔を見合わせる。
「私‥‥行かなくては‥‥あの方を守らなくては」
「静香、一体何を‥‥」
静香は立ち上がると、そのまま駆け足で家を飛び出した。
それからしばらく静香は帰ってこなかった。
両親は眠れぬ夜を過ごしたが、一体何が起こったのか分からなかった。
「静香はどうしてしまったんじゃ‥‥」
「あの子大国主って呟いていたけど‥‥一体何が‥‥」
そして、静香は帰ってきた。静香は甲冑をまとっており、古代人のような服装をしていた。そして、静香には数体の亡霊武者がつき従っていた。
「し、静香‥‥一体、どこへ行っておったんじゃ‥‥何じゃその格好は?」
「静香ちゃん?」
村人達の問いかけに、静香は無表情に答える。
「私は大国主様の忠臣、ヤズタノカヅチである。聞け村人達、今日よりこの村は大国主様のもの。侍ではなく、丹後の大国主陛下のもとへ貢物を納めよ。これは陛下からの勅命である。逆らう者は、反逆者として処罰する!」
「静香! お前何を言ってるんだ! 目を覚ましなさい!」
父親が駆け寄って静香に近付くと、亡霊武者が切りつけた。
「ぎゃ!」
「お父さん‥‥私は大国主様の近衛の一人、ヤズタノカヅチです。あなたの知っている娘は死にました‥‥」
「そ、そんな‥‥静香! 何を言ってるんだ」
静香――ヤズタノカヅチは哀しげな瞳を父親に向けると、決然と村の制圧に乗り出した。その後ヤズタノカヅチに迷いは無かった。亡霊武者を率いて村に踏み込んだのである。
京都、冒険者ギルド――。
「何でも近隣の村が大国主の部下を名乗る者に制圧されたらしい。亡霊武者を率いて乗り込んできたのは元々村の娘だったと言うが、ヤズタノカヅチと名乗って村人たちに大国主への服従を要求しているそうな。村は制圧されたようだが、今のところ犠牲者は出ていないらしい。都としても放置しておくわけにもいかず、こちらに仕事が回ってきた」
ギルドの手代はそう言って、冒険者たちに状況を説明する。
「とにかくも村の解放が先決だ。亡霊武者が数体娘に付き従っているようだ。娘は‥‥別段特別な力を持っているわけでもないようだし‥‥どうするかはお任せだそうだがな」
冒険者たちは依頼書に目を落とすと、どうしたものかと顔を突き合せるのだった。
●リプレイ本文
「娘の事情に興味は無ェが‥‥自分の親に手を挙げたのはいただけん。大国主が関係している? さて、何が起こっているのか見当もつかねえが、あるいは何者かの憑依なのか‥‥ともかく、行ってみるしかねぇな」
「亡霊武者は、丹後の人々に取っては、人々を守る者のようだ。まずは、娘に呼びかけ亡霊武者を鎮めて貰う様にするべきだろう」
マグナ・アドミラル(ea4868)の言葉に巴渓(ea0167)は鼻で笑った。
「マグナのおっさん、甘いな。娘は亡霊を操る魔物の頭目だぜ? 魔に加担した奴に情けも何もねえよ。ぶちのめすまでよなあ」
「巴、大国主はいたずらに戦を引き起こす悪魔や黄泉人とは異なるようだ。圧倒的な亡霊軍隊を率いて京都に攻め込むことも出来るはずだが、その京都に対しても柔軟な姿勢を見せている。我らが娘を叩き潰すことも可能かも知れんが‥‥」
「と言って、制圧された村を救い出すのが俺たちの目的だぜ? 手加減して村人に犠牲が出るのは頂けねえ」
二人のやり取りを聞いてチサト・ミョウオウイン(eb3601)は吐息する。シフール便で届いたサポートの調査結果は芳しいものではなかった。何と言っても国津神に関する手がかりは全くと言っていいほど無い。
「桔水御前がスセリビメを名乗り大国主の元に下った事や、長髄彦は復活に際し、憑依し肉体を得たと聞いていますけど、静香さんにも似たような事が起きたのでしょうか」
欧州にて極めて稀な事例とは言え、極めて近しい血筋など特定の条件が重なった場合、本来他者の魂は受け付けないはずなのだが融合したり、相手の魂を生命力として使ってしまう事例がある事が暗示されていた。
大国主の重鎮の末裔が今も血筋を残す可能性も可能性が少なくなく――ヤズタノカヅチが重鎮であるか否かは知る術が無いのだが。記憶と言うのはとかく不確かなものだ。娘の妄想という可能性もあるのだ――大国主が呪的な処理を施している可能性があるにせよ、古の魂が憑依や融合させられている可能性も考慮する必要性があるとチサトは説いた。
「出来うることなら彼女と対話し、何ゆえ両親を傷付けてまで大国主のもとに走ったのか‥‥その理由を問いたいものです‥‥」
国乃木めい(ec0669)は孫娘のチサトの分析に頷きながら思案顔で賀茂慈海(ec6567)を見やる。
慈海は頷いて眉をひそめる。
「まあ正直私などには大国主の呪術など想像もつきませんが、とにかく村人の無事を祈るばかりですが‥‥」
そうして、冒険者たちは件の村に到着する――。
村人たちは一見普段と変わりない様子であった。農作業に従事しており、見たところ制圧されて人質に取られている様子は無い。
不思議に思った巴は手近な村人に依頼でやって来た旨伝える。
「よお、どうなってんだ? 見たところ平和そうだが」
村人は吐息する。
「ああ‥‥静香ちゃんのことか」
村人は説明する。亡霊武者に守られた静香に村人達が手出しできるはずも無く、確かに村は静香に制圧された。今のところ犠牲者は出ておらず、静香は住居の一つを占拠して支配者然と振る舞っていると言う。
「んなら話しは早い」
巴は村人から静香のいる場所を聞き出す。村の奥の方で、いつも亡霊が数体いるから分かるはずだと。
「油断はできねえが、この状況なら静香を片付けるなんざわけねえぜ」
「依頼の完遂には静香の解放も含まれておるだろう。大国主の呪縛から静香を解き放ってやるのも我らの仕事の内だと考える」
マグナの言葉に巴は肩をすくめる。
「娘は人間をやめちまったろくでなしだがな‥‥」
「彼女はまだ人の心を失ってしまったわけではないはず‥‥説得を試みる価値はあるでしょう。大国主があの通り柔軟な姿勢を示しているわけですから」
「彼女の真意を図るまでは、まずは説得を‥‥それに呪いや憑依など他の可能性もあるわけですしね」
めいやチサトは巴をなだめて静香との交渉を提案する。
「まあ皆さんこうして言われているわけですから、ひとまず交渉に向かうということでどうでしょうか」
慈海も交渉に賛成したので巴もなだめた。
「わあったよ、まあみんながそこまで言うなら俺としても反対はしないさ。ただ亡霊どもは容赦なく行かせてもらうぜ」
‥‥静香は占拠した家の中で思考を漂わせていた。
「(これから先、大国主様はいよいよ京都を目指して動かれるはず。まずは大和の王である神皇家との戦いが待っているだろう。大国主様は寛大なお方だが、都の関白や神皇は依然として陛下と和する道を選んでおらぬ。和睦がない以上、京都を平定する道は武力を持ってするしかないだろう。無論京都を除いた体制を作り上げることも不可能ではない。いや、或いは陛下のこと、そこまで読んでおられるのかも知れぬ。世は戦乱に乱れ、人は増長して神魔にいいようにされている‥‥そんな日ノ本の国を作り変えることを陛下は目指しておられるのかも‥‥)」
そこで思考の糸は途切れた。
亡霊武者が入ってきて、敵襲を告げたのである。
「ヤズタノカヅチ様‥‥人間が襲ってまいりました‥‥お逃げ下さい‥‥我らが時間を稼ぎます‥‥」
静香の前に朽ち果てた骸骨の姿をした亡霊武者が浮かんでいる。静香は立ち上がると、剣を持ち上げた。
「敵は何人だ」
「五人でございます‥‥」
「陛下の御意に刃向かうとは京都の使いであろう。援軍を呼んで参れ。たった五人でわしを倒せると思うなよ‥‥行け」
静香は亡霊に命を下すと、表に出た。
――冒険者たちは亡霊たちを残らず始末すると、吐息して民家を見上げた。ここに静香‥‥ヤズタノカヅチがいるはずだが。
すると、甲冑に身を包んだ古代人のような服装の娘が現れた。
冒険者たちは静香を見上げた。静香は年の頃十七、八と言ったところか。瞳には冷たい光が宿っている。
「京都の手の者か」
「静香殿か」
「その名を持つ娘は死んだ」
そうこうする間にも巴は念を込めてオーラホールドを仕掛けている。
静香は眉をひそめて歯を食いしばった。
「こしゃくな真似をする奴がいる」
チサトはミラーオブトルースを覗き込んでいたが、映っている静香に変化は無かった。
だが――。
慈海のデティクトアンデッドに反応がある。慈海は仲間の支援を受けて静香にクリエイトハンドをかける。
その瞬間、静香から女の魔物が飛び出してきた。
「悪魔‥‥!」
チサトはそれを夜叉と判断した。
「悪魔が取り付いていやがったか‥‥」
巴は夜叉を睨みつける。
夜叉はにいっと笑うと後退する。
「意外かの。だが娘だけでは大国主の言葉を受け入れるに迷いがあろう。わしが迷いを断ち切ってやったのだ」
夜叉は笑声を上げて飛び去った。
我を取り戻した静香は哀しげな瞳で手を振り上げると、亡霊武者が数体現れる。
「下がれ‥‥私は大国主様の忠臣ヤズタノカヅチ。京都の言いなりにはならぬぞ」
「ヤズタノカヅチとやら、亡霊武者は、民を守り安寧を約束する者として戦うのが、大国主の真意だと丹後の戦で、聞いている。丹後を離れ、京の近くを征するのは、本当に大国主の命か」
マグナの言葉に静香の表情に動揺が走る。
「貴殿の戦は、大国主の威光を汚しているように思う、剣を引き亡霊武者を鎮められよ」
「‥‥私は陛下に絶対の忠誠を誓う者。黄泉人の脅威から民を守るには、陛下の力こそが必要なのです」
静香はそう言って、震える手で亡霊武者を差し向ける。
だがマグナと巴が亡霊を叩き潰す。巴はトリッピングで静香を転倒させ、マグナがスタンアタックで眠らせた。
目を覚ました静香は、両親を始めとする村人や冒険者たちに囲まれていた。
はっとして飛び起きる静香をマグナが制した。
「ヤズタノカヅチ、いや静香殿よ。丹後において、大国主はイザナミの支配より民を救った神と聞く。その心は盛挙に走らず、穏やかに時勢を見て、力を蓄え、民を安寧に導いていると聞くが、今回は大国主の行動とは、かけはなれ過ぎている。此度の行動は、父母に静香は死んだと伝える決別の行為だと推測する。父母を捨てるな、信仰と人とは相反しない、魂の導きに従うのではなく、今世の縁に従い、父母を大切にされる事こそ、信仰につながると思う」
また国乃木はメンタルリカバーをかけてから静香との対話を試みる。
「貴方のご両親は‥‥子を慈しむ真に親たるご両親のように思えます。例え貴方の前世が何者であったとしても、今世において貴方を心から愛し、育んでくれた大恩ある両親を傷つけてまで成さないといけない事とはなんなのですか?」
国乃木は穏やかな瞳で静香を見つめる。
「私達が大国主を信じきれないのは、貴方のように今世の絆や心‥‥更には、命すら奪われた人が居ると思っているから‥‥もし違うのであれば‥‥本当に皆を救おうとしていると言うのであれば、その証を示しては頂けませんか?」
「大国主様はかつてこの国の王だったお方‥‥私は亡国の間際にあの方に魂を捧げ、七生報国を誓いました‥‥来世で会えるならば、秘術によって記憶を呼び覚まし、再び駆けつけると約束したのです‥‥」
「大国主の秘術‥‥来世に、亡国?」
めいは驚いた。静香は大国主に魂を捧げたと言う‥‥前世の記憶など夢のようなものだろう。
「静香‥‥戻っておいで‥‥お前の家はここだよ」
父母が静香に触れると、静香の目からぽろぽろと涙がこぼれ出した。
「お父さん‥‥お母さん‥‥」
と、そこで村人の一人が冒険者たちの前にやって来た。
「ご苦労だった冒険者たちよ。娘を取り戻したようだな。国津神については全く手がかりが無かったのでな」
「あなたは?」
「陰陽寮の賀茂光栄様の使いだ。娘のことは陰陽寮が引き受ける」
「引き受けるって‥‥」
「娘の記憶を調べることになるだろう。それが事実かどうかはともかくな」
男はそう言って家族のもとへ帰った静香を見つめる。
こうして依頼は達成した、だが静香の謎はそれから陰陽寮が調べることになったのである。