【道敷大神】丹後の戦い、大江山の死闘
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:15人
サポート参加人数:5人
冒険期間:06月07日〜06月12日
リプレイ公開日:2009年06月17日
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●オープニング
丹後東方の状況――先の舞鶴決戦において、大軍を率いて出現した大国主はそのまま黄泉軍を退け、舞鶴をほぼ併合。丹後南東地域から領土を拡大し、逃げ遅れた民を吸収してその勢力を拡大した。舞鶴には人間に憑依状態の八十神の一人、アスナラ王が統治を担当し、舞鶴城の復興に当たっていた。そして大国主は神戦国(しんせんこく)の成立を宣言し、敵対していた丹後の勢力に向けて黄泉・精霊・妖・人の共存を唱えて使者を飛ばす。大国主は京の朝廷とも和することを約束するが、これに対し、大江山の藤豊・京極連合は敢然と拒否。大江山に合流していた天津神や氏神、丹後の妖怪たちも拒絶の姿勢を示す。
大国主は拒絶されても怒ることはなかったが、定期的に使者を送ってくるのだった。大国主が使役する最大の武力は亡霊軍隊であるが。大国主は精霊を召喚して自らの領土の守護に当たらせ、また六精霊の術で強化したゴーレム兵士を配備、また領内の移動手段に空飛ぶ箱舟を配置、民の中から神官を選んで祭祀を執り行うなど、着々と国作りを進めていた‥‥。
さて、予期せぬ大国主の出現に撤退を余儀なくされた八十禍津日神と丹後の導師らが率いる黄泉の軍勢は丹後中央――宮津から舞鶴の国境に展開し、黄泉国の成立を宣言する。
黄泉人たちの要求は唯一つ、神皇家の身柄を引き渡すことである。
「イザナミ様の望みは神皇家に復讐することにある。人類の滅亡にあらず。京都の神皇さえ我らに膝を屈せれば、戦は終わる。だが、神皇が抵抗を続ける限り、無辜の民の命は失われ、人類にとっての安寧は永久に訪れることはないであろう」
八十禍津日神はそう言って、丹後南部大江山に残る藤豊・京極連合に最後通告を突きつけ、自ら軍勢を率いて大江山に迫るのだった。
京都――。
「ベアータ。次は俺達が、黄泉に攻勢を仕掛ける番だ」
アラン・ハリファックス(ea4295)は長崎藩邸にて、ベアータ・レジーネス(eb1422)と片桐且元を誘い、秀吉との会合に臨んでいた。
殴られっ放しで引き下がるほど、三人は諦めていなかった。それに、居残りを決めた一部の侍達が丹後では民の救出に当たっている。彼らを見捨てるわけにはいかない。
やがて、三人の前に藤豊秀吉と、丹後の藩主であった立花鉄州斎と中川克明が姿を見せる。
「ご苦労じゃな三人とも、楽にせい」
秀吉は少なくとも表情に疲れの色は見えなかった。相変わらず扇を弄んで楽に構えている。
「殿下――」
アランは大江山戦における鬼の討伐戦の報告を行い、残る藤豊軍糟屋武則の部隊の消耗は悪魔を介し黄泉軍が察知したことに加え、黄泉軍自体も舞鶴より撤退する丹後軍を追い、大江山に踏み込み糟屋隊を襲う危険性があると述べる。現にそうなりつつある。
「‥‥‥‥」
秀吉は黙って聞いている。
「そこで、でございます――」
アランは本題に入った。舞鶴から撤退した兵で、すぐにでも戦える士気の高い者を中心に兵一千、陰陽師、僧侶僧兵の部隊を編成。冒険者も雇い、山林という地勢を生かしてのゲリラ戦を目的とした部隊を大江山へ派遣すべしと献策する。尚、この部隊は大江山の鬼の早急な掃討も担うと。
「‥‥‥‥」
秀吉はどういうわけか、うるうると涙を浮かべ始めた。
「殿下?」
「いや‥‥アラン、わしは嬉しい! あっぱれじゃ! あっぱれ! お主のような猛者がわしのもとにあって嬉しいぞ! わしらは確かに負けた。状況は厳しさを増しておる。明日はないかも知れん。だが、お主らの様な者がおれば、わしは最後まで神皇様の盾となって戦おう」
京都では都の貴族たちが東国への避難を進めていると言う話もあった。神皇が京都にいる限り、都は安泰とは言えない。道連れはごめんというわけである。
「丹後の状況は混沌としておる。大国主が神戦国とやらを宣言し、不死軍は黄泉国の成立を唱えておる。聞けば悪魔が跳梁し、盗賊までも魔と組んでおるとか。もはや京都の力が及ばぬ状態になっておる‥‥。勇士を募ろうぞ」
「では‥‥殿下」
アランの問いに秀吉は頷いた。
「うむ、片桐、新たに兵一千を率いて丹後に向かえ。指揮はそなたに任せるぞ。アラン、ベアータ、主らも片桐を補佐してやってくれ」
「ははっ!」
かくして、アランの献策を入れた秀吉は、再び丹後に兵を差し向ける。
最初の目的は大江山に接近する八十禍津日神ら黄泉軍の迎撃。
山林でのゲリラ戦も予想されるこの戦い。アランの献策が入れられ、武装も月道経由でライトシールドを仕入れ、部隊の兵装も刀と盾を用いたものとなった。
そうして、準備を整えた千人の勇士たちは一路丹後大江山目指して京都を出立したのである。
●リプレイ本文
大江山、黄泉軍陣中――。
空中から霞とともに黒い杖が出現。杖は導師の手に収まると、言葉を発する。
「どうやら京都の軍勢が増援に来たようだ。南から数百近い軍勢が大江山に入っておる」
「愚かな‥‥」
導師は傍らの巨人――八十禍津日神を見上げる。
「禍津日神様、人間どもは降伏勧告を蹴ってあくまで戦う様子」
「ふっふっふっ‥‥わしは大国主のように甘くは無いぞ。我が軍への抵抗は死を意味する」
八十禍津日神は不適な笑みを浮かべると黄泉人たちに全軍出撃の号令を発する。
シフールのイフェリア・アイランズ(ea2890)は黄泉軍陣中から脱出すると、街道を中心に山林に入り込んでくる無数の不死人を観察する。
「いよいよ来よるで〜、宿奈はん、八十禍津日神が黄泉人たちに行軍の号令を下しよった」
宿奈芳純(eb5475)の超越テレパシーで連絡を取り合う。
「イフェリアさん、敵の位置を教えて頂けますか」
「ああ、各街道を中心に侵入、山林にも散開してなだれ込んできおる。どこからでも掛かって来いって感じやな。まあ無理もない。アンデッドは数では圧倒的や」
丹後軍陣中――。
「‥‥だそうです、アランさん」
宿奈はアラン・ハリファックス(ea4295)にイフェリアからの言葉を告げる。
「予定通りだな。数で押し切るつもりだろう」
「そうはいかねえぜ。今回はこれまでとは違う。前々みたいに正面から捕まると思うなよ」
雷真水(eb9215)はこれまでの雪辱を誓って牙を剥いた。
忍の京極家家臣、木下茜(eb5817)は山中を駆け回って黄泉軍の状況を伺っている。
「宿奈さん、敵が第一の砦を突破しました。敵の先陣はがしゃ髑髏を中心にした地上軍。黄泉人たちが指揮を取っています‥‥」
山中を進軍する導師の体から瘴気が発散している。瘴気は草木に触れると周りの木々を枯らしてく、はずだが。
「‥‥妙な気配だな、どうなっている」
導師は自身の瘴気が草木にほとんど影響を及ぼしていないのを確認して疑念を抱く。
実は木下の提案により山中のそこかしこに祈紐が結び付けられており、それが瘴気の影響を弱体化させていたのである。
亡者達の歩みがやや鈍っている。何か重りを引きずっているように動きが重たい。
「敵黄泉軍、第二の砦に到達しました」
空中からドラゴンに乗ったベアータ・レジーネス(eb1422)はヴェントリラキュイで味方に情報を伝達するとともに宿奈にも状況を伝える。
黄泉軍は着々と進軍している。今のところ以津真天や怨霊は待機しており、地上部隊が続々と前進していた。
丹後軍は迎撃ポイントまで黄泉軍を山中ふかく引きずり込んで行った。
「人間どもめ‥‥罠の可能性もあるが、この大軍相手に小細工は通用せん」
八十禍津日神は丹後軍を恐れる風も無く言ったが、例の黒い杖が空中に浮かんでいて、助言した。
「禍津日神よ、少数の兵で戦うにはこの地勢は向いておる。平地と違って大軍の用兵が勝敗を決するとは限らん」
「ふふ‥‥何を恐れるか大護よ」
と、そこへ黄泉人が駆け込んできた。
「前方に丹後軍が姿を見せました。少数の兵で撹乱攻撃を仕掛けております」
「‥‥小賢しいわ」
そう言って八十禍津日神は以津真天と怨霊の一部を解き放つ。
丹後軍の兵士たちは不死軍に向かっていくことはせず、弓で撹乱攻撃を仕掛けている。決して無理はせず、一矢放っては逃げるように姿をくらませる。
「奴らを追い詰めろ! 所詮は逃げることしか出来ん!」
黄泉人は亡者達を焚きつけて前進させる。
しかし亡者の群れは街道に張り巡らされたバリケードに阻まれることになる。
右往左往する死人の群れに両脇の森から丹後軍が一斉射撃を行う。ばたばたと倒れていく亡者たち。
それでもがしゃ髑髏などは鉄球を振るって矢を跳ね返し、突撃してくる。
「敵を引きつけろ。攻撃は受け流し、奴らを山中で分断して各個撃破する」
アランや片桐且元、糟屋武則の言葉は宿奈の超越テレパシーでイフェリアや木下、ベアータらが全軍に伝える。さらにそれを陰陽師たちがテレパシーでつないでいく。
空に展開していた西中島導仁(ea2741)、カイ・ローン(ea3054)、マミ・キスリング(ea7468)らは姿を現した以津真天を確認してペットの手綱を手繰り寄せる。ベアータもドラゴンの向きを変える。
「人一人一人の力は小さくとも、同じ志を持つ者が集まり一つの目的のために邁進した時、その目的は必ず成就される。悪に屈せず戦い抜く正義の者達‥‥人それを『勇者』という」
西中島は言った。ちなみにペットに聖女の祈りは効果がないようだ。
「今こそ我らの心意気を見せる時! 行くぞ!」
「青き守護者、カイ・ローン、参る」
「我は磨魅キスリング、悪を断つ義の刃なり!」
マミもペガサスを旋回させる。
「死してなお操られしアンデッドよ! 我が刃を恐れぬならば、かかって来なさい!」
反転して後退する冒険者たち。突進してくる以津真天にベアータがミストフィールドをかける。
霧の中に以津真天を引き込んで冒険者たちは地上へと下りていく。
森を漂う怨霊を叩き切るセイル・ファースト(eb8642)。
「今回は先の借りを返させてもらう」
森を走りながら他の兵士に混じってゲリラ戦を展開する。
なだれ込んでくるアンデッドを一体ずつ確実に仕留めていく。
今回丹後軍は山地を生かして神出鬼没の戦を仕掛け、容易に突出せずに黄泉軍の攻撃を受け流していた。
黄泉の大軍は平地では絶大な威力を発揮するが、山地ではそうはいかない。黄泉人が統制すると言っても限度がある。
山地でばらばらになっていくアンデッドに丹後軍は確実な攻撃を当てていった。
だが亡者の数は確かに脅威であり、丹後軍も一気阿世に攻めかかるというわけにはいかない。地道な戦いが続く。
「無尽蔵の黄泉人相手に正面から当たってはまず無理。ですが山岳でのゲリラ戦ならそう容易く捕らえられないでしょう」
アイシャ・オルテンシア(ec2418)は怪骨戦士を叩き潰して森の奥に解け消える。
「鬼の無念か‥‥」
明王院浄炎(eb2373)はかつてこの地で倒した鬼の亡骸を発見して鎮魂の祈りを捧げる。
「成り行きから戦うことにはなったが、せめて魂は安らかに眠れ‥‥」
立ち上がった浄炎の視線の先に死人憑きが現れる。浄炎はガラントスピアを投げつけた。
槍のもの凄い一撃で死人憑きはもんどりうって倒れる。
白翼寺涼哉(ea9502)は僧兵二名とともに戦場付近を周回して負傷者の様子を見回っていた。
今回は丹後軍もゲリラ戦と割り切って各個撃破に専念しているため、味方に大した被害は出ていない。
兵士たちは敵の先陣を打ち砕きながら山中に黄泉軍を引きずり込んでいく。
白翼寺も山中を歩き回って常に移動していた。
「仕事が少ないのは歓迎すべきことだが‥‥」
僧兵の琉瑞香(ec3981)もこれまでの戦いで亡くなった兵士や鬼の骸をピュアリファイで浄化し、鎮魂の祈りを捧げていた。
戦場を機動治療でペガサスで回るが白翼寺と同じく今回は仕事が少ない。
それから救護所にホーリーフィールドを張り巡らせ、丹後軍の僧侶達と祈紐を使った祈りの儀式にも参加。これには白翼寺のペット三笠大蛇が加わっていた。
この祈りの儀式がアンデッドたちの足かせになっている。
戦場で戦う兵士や冒険者たちはその効果を何となくだが感じていた。
がしゃ髑髏や怪骨戦士、死食鬼らの動きが若干鈍くなっていると報告があった。
地上に下りた西中島、カイ、マミらも加わって、戦いは森の中で行われていた。空は以津真天に許したが、以津真天は森には下りてこない。
ベアータのヴェントリラキュイ、宿奈らのテレパシーで官制を行いながら丹後軍は各個撃破を続け、薄くなった敵陣への攻撃、すなわち導師への強襲を試みるが――。
「そうは簡単にはいかぬようだな」
浄炎は続々と現れる死人を槍で粉砕しながら呟く。
「ちっ、導師の奴、簡単には出てこないか」
露払いで亡者を叩き切っていた真水も舌打ちする。
導師も本陣の戦力を全て山中に解き放つほど甘くは無い。丹後軍の狙いが戦力の分断であり、実際黄泉人達が各個撃破にあっていたため、八十禍津日神が進軍を自重したのだ。
ここに、戦況は黄泉軍の一方的な攻勢から膠着状態に陥る。
「敵さんも簡単にはいかないと踏んだようだな」
「さて‥‥と言ってこのまま大江山に止まるのは無理がありましょう。補給は確保するとしても、抵抗を続けるならば密かに宮津方面へ抜けるなどする必要があるのでは」
セイルの言葉にアイシャが応じる。
「‥‥丹後は主要な都市の周辺を覗けば山岳地帯がほとんどだ。宮津、峰山、舞鶴‥‥は大国主がいるとしても。山地に潜っての抵抗なら相手が大軍とは言え容易く破られることはないだろう」
「補給をどうするかだが‥‥」
「そうだな‥‥確保するのが望ましいが、適時大江山に帰還して受けることも不可能ではないだろう」
「いずれにしても、山地に潜っての戦いは厳しいものとなろうが‥‥」
それでも、とアラン、ベアータ、片桐、糟屋らは黄泉人との戦いを決意する。
かくして、丹後軍は密かに大江山を脱出する。京都との連絡に必要な部隊を残して、一路宮津方面へ出立したのであった。
京都帰還後‥‥。
藤豊家臣のベアータは白翼寺を伴って秀吉のもとを訪れた。祈紐の件だ。
「祈紐には癒しや瘴気を消す効果がございます。諸外国では地獄戦における支援を進めている模様。我が国でも策を講じなければ、他国に顔向け出来るかどうか‥‥」
「今回祈紐の儀式は黄泉人軍相手に多大な効果を上げました。つきましては今後黄泉人軍と戦う為、京に残る僧侶や僧兵にも祈紐作成を依頼する許可を賜りたく存じます」
地獄での戦いは秀吉も耳にしている。祈りの力で悪魔と対抗しようと言う動きがあるのも。
秀吉は丹後での実績を確認し、祈紐の作成を今後の戦いに取り入れると約束した。