丹後の死人使い、蒼曜
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:7人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月25日〜06月30日
リプレイ公開日:2009年06月30日
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●オープニング
丹後、宮津山中――。
大江山での戦いで丹後軍は全くのゲリラ戦術を取り、丹後の山岳地帯に紛れ込み、黄泉人に対して攻撃に転じる。丹後は山岳地帯が多く、兵士たちへの補給の困難さはあるものの黄泉人に対してゲリラ戦を展開することも不可能ではなかった。
丹後軍は京都との連絡のために一部を大江山に残し、ほとんどが宮津へ抜けた。今のところ物資の心配はない。
丹後軍の動きは黄泉人の察知するところではなく、黄泉の軍勢は主だった街道を押さえて展開している。黄泉人の総大将である八十禍津日神や導師は丹後軍が移動したことを推測して、部下の黄泉人たちに丹後の山々を捜索させていた‥‥。
「奴らをおびき出すのは簡単なことです」
そう言って、幹部クラスの黄泉人に提案したのは丹後の死人使いの一人、蒼曜であった。銀髪の美しい青年と言った姿をしているが、蒼曜は紛れもなく丹後のアンデッドリーダーの一人である。
導師は蒼曜を見据えると、「言ってみろ」と先を促した。
「それは‥‥」
蒼曜の口もとに邪悪な笑みが浮かんだ。
――宮津山中にて野営を張っていた丹後軍に、その客人が現れたのそれから間もなくのことであった。
丹後軍に同行していた源細ガラシャは目を見張った。現れたのは彼女の夫、金剛童子の二つ名を持つ鬼「天樹」であったから。
「あなた‥‥一体どうしてここへ!」
丹後軍はこの鬼の出現に慌てることになる。
ガラシャはとにかくも夫と侍たちのトラブルを防ごうと奔走する。
そこへ続いて姿を見せたのは丹後松尾寺の住職であった陽燕和尚である。和尚の仲介で、天樹のことが死んだと思われていた丹後の守護神、金剛童子山の鬼であることが説明される。
「金剛童子は死んだはずでは‥‥?」
旧峰山藩主の中川克明が侍たちを制して和尚とガラシャに問いかける。
ガラシャは真実を打ち開け、冒険者たちの手によって天樹と金剛童子山に逃れ、隠れ住んでいたことを告げる。
サンタクロースハットと天狗羽織を身につけた天樹は前に進み出てくると、抱きかかえている村人たちを下ろした。
「聞いてくれ、丹後の侍達よ、生き残りの民が、黄泉人に襲われている」
たどたどしい口調で言った天樹の言葉を村人達が捕捉する。
銀髪の死人使い蒼曜が山村で生き残りの民を狩っているという。彼らは天樹と陽燕和尚に辛くも救われたのだと。
「どうか夫を責めないで下さい。鬼とは言え改心したのです。友との誓いを守り今に至っているのでございます」
「ガラシャ殿、その件はひとまずよい。死人使いが民を狩っていると、真ですが和尚」
克明の言葉に和尚は頷く。その狙いがゲリラ戦を展開する丹後軍を引きずり出すことにあるのは明白だ。
「おのれ卑劣な真似を‥‥」
「克明殿――」
言って進み出たのは京極高広。
「ここは少数精鋭で死人使いを討つべきでしょう。冒険者ギルドへ援軍要請の使者を飛ばしましょう」
「冒険者‥‥か、そうですな。それが最善かも知れませんな」
かくして、冒険者ギルドに宮津の山村にて民を狩っている死人使い「蒼曜」討伐の依頼が舞い込んだのであった。
‥‥廃村。
蒼曜は目の前の村人達を見つめていた。死人の大軍に囲まれて震え上がっている。蒼曜は残酷な笑みを浮かべる。
「人質というのは陳腐な策だ。使い古された策でもある。だが、それだけに有効な策でもある。こちらがある程度の亡者を動員すれば丹後軍も動かざるを得まい。あの鬼と僧侶は今頃丹後軍に知らせを持っていくだろう。奴らが動き出したその時が好機だ‥‥ふっふっふっ」
民の命運はいかに‥‥。
●リプレイ本文
京極高広(ez1175)ら丹後の侍たちは村人の救出を冒険者たちに託し、正面から蒼曜のもとへ向かった。彼らは陽動である。本命の冒険者たちは別方向から村に向かっている。
ケント・ローレル(eb3501)は金剛童子――天樹とともにこの陽動班に加わっていた。
天樹は明王院未楡(eb2404)の説得もあって、暫定的に丹後軍に受け入れられていた。暫定と言うのは、天樹は天津神などと違って常に戦いに身を投じるとは限らないので。彼は不殺の誓いを立てているのだった‥‥。
アラン・ハリファックス(ea4295)に言わせれば「さて、俺達が針にかかった魚なのか、死人使い7人衆が道化方なのか。確かめさせて貰おう」と言ったところなのだが。
――と、侍の一人が道を外れ、立ち止まった。言ってしまう京極やケントたち。それを見送って、侍は姿を変えた。悪魔羅刹である。
「さて‥‥黄泉人の使い走りというのは気に入らんが、鳩摩羅天様も酔狂なお方よ」
羅刹は向きを変えて浮かび上がると、丹後軍の方へ向かって飛んで行くのだった‥‥。
――村に到着したケントたちは蒼曜を探して回る。
「俺様ァタンゴとお砂糖ナイト・ケント・ローレル様だ! やい! 蒼曜とやら、汚ねェ手使わねェで出て来やがれぃ! タンゴのダチの邪魔する野郎は愛の刃で斬ってやらァ!」
ケントはたんかを切ったが、代わりに現れたのは怪骨兵士や死人憑きである。
「まあいい、こちらはせいぜい派手に動き回らせてもらうとしよう。蒼曜の注意を引きつけることが出来ればよし」
京極高広やケントら侍たちは抜刀すると、迫り来るアンデッドの集団に立ち向かっていった。
「ケント、気をつけろよ」
天樹の言葉にケントは手を振ってみせる。
にしても‥‥ケントは胸に呟く。戦で散った奴らがこンなカタチで戦わされるとはなァ‥‥楽にさせてやりたいぜぃ!
「道連れにすンのがてめェらの望みか? てめェらの好きな奴らは、誰かが傷つくのを望むのか?」
亡者から答えが返ってくるわけではないが‥‥死してなお黄泉人に使われる無念を思えばこそ。
「俺様ァてめェらの想いはムダにしねェ!」
ケントは亡者の列に突入した。
‥‥広場の一角で、蒼曜は知らせを持ってやって来た怪骨兵士を目にすると、立ち上がった。怪骨はぶんぶんと腕を振って外を指差している。
「来たか‥‥さて、羅刹はうまく紛れ込んだろうか。まあ後は悪魔次第ではあるが」
そう言うと、蒼曜は魔法を使って村人の一人に変身した。
背後には村人達が捕らわれている。
蒼曜は悪辣な笑みを浮かべると、怪骨兵士に村人を皆殺しにするように命じる。そして蒼曜は立ち去った。
だが、それを聞いていた者がいた。透明化の指輪で侵入していた忍びの木下茜(eb5817)だ。
「蒼曜‥‥何と言う卑劣な罠を」
木下は透明になったまま素手で何とか怪骨を倒した。間一髪、怪骨はまだ一体だけだったので。
指輪の効果が切れると、木下は村人達に救援の兵が来ていることを告げてから、月影の袈裟を使い、ムーンシャドウで再び仲間達のもとへ移動した。
ベアータ・レジーネス(eb1422)は超越ブレスセンサーで探りを入れていた。
「人質は‥‥あそこですか」
広場にいる村人達を確認してヴェントリラキュイで仲間達に情報を伝達する。
「これは‥‥」
リーマ・アベツ(ec4801)はバイブレーションセンサーに多数の震動を捕らえて眉根を寄せる。
「どうした」
アランの問いにリーマは首を振る。
「村の別方向に、多数の動きが‥‥何でしょうか?」
「敵の新手でしょうか‥‥」
未楡の言葉に雷真水(eb9215)は舌を鳴らす。
「増援かい。さっさと村人を救出して逃げようぜ」
そこへ木下が戻ってくる。透明のままなのでテレパシーリングで伝達。
木下は蒼曜が変身して逃げ出したことを伝える。
「悪魔だと?」
アランは思わず舌打ちした。それから、ついさっき一人だけ走って逃げ出したのが蒼曜だと知る。
「いずれにしても、待っている暇は無いということか。蒼曜の目を気にすることは無い。行くぞ」
未楡とリーマの魔法の絨毯に乗り込むアランと真水。みなミラージュコートなどで透明になる。未楡は絨毯ごと透明になった。
突撃する冒険者たちはあっという間に村人の前に降り立つと、迫り来る死人憑きや怪骨の群れを叩き潰す。
炸裂するリーマの超越ストーンで見る間に石化していくアンデッドの群れ。
上空からはベアータがドラゴンに乗りながら稲妻を放っていた。
「大丈夫か」
アランは村人たちに近付くと、手を差し出した。
村人は震えながらアランの手を取った。
「安心しろ。丹後の侍たちが救援に来た。ここから逃げるぞ」
「皆さん立てますか?」
未楡は子供や老人たちの介抱に回る。
「もう駄目ですじゃ‥‥わしは立てません‥‥行って下され」
老人はくたびれたように言ってうずくまっていた。
「諦めるなよ爺さん。あたしが背中を貸してやるよ」
真水は老人を励ました。
そこへベアータのヴェントリラキュイで敵襲の知らせが舞い込んでくる。
「上空から以津真天と怨霊の群れが接近してきます。かなりの数です‥‥早く逃げませんと」
「以津真天に怨霊か‥‥蒼曜め、厄介な置き土産を」
アランは憎々しげに呟いた。悪魔の件と言い、どうやら自分達は針に掛かった魚のようだ。
「死人憑きなら何とか振り切れるかも知れねえが‥‥あの怪鳥野郎に怨霊は厄介だぜ」
真水は上空から聞こえてくる以津真天や怨霊の声に眉をひそめる。
蒼曜は巨大な以津真天に乗って上空から見下ろしていた。
「‥‥さあ逃げろ。どの道丹後軍の動きは悪魔が知らせてくれるだろう。お前達は餌に食いついた魚同然よ」
上空を旋回する蒼曜。
眼下には退避する冒険者たちや村人達が映っている。
「よし、以津真天たちよ餌の時間だ! 怨霊たちよ人間どもを食い殺せ!」
蒼曜は巨大な以津真天を操ってアンデッドに号令を下す。そして自らも以津真天を操って足の遅い村人目がけて突っ込んでいく。
「何だあのでかい奴は?」
真水は接近してくる怨霊と以津真天を叩き切って、村人に襲い掛かる巨大な以津真天に向かって走った。
「やめろ! させるかよ!」
「人間ども! お前達は針に掛かった魚よ! ここで死ね!」
以津真天の言霊に顔をしかめつつ、真水は巨大な以津真天に切りかかる。
空に逃げる蒼曜。
真水は村人の手を引いて脱出。
「民を逃がせ! ――ケント、高広殿!?」
アランは侍たちとともに現れたケントと高広に間に合ったかと胸を撫で下ろす。
「間に合ったようだな! しっかし救出作戦はどうなってんだ? 蒼曜は?」
「逃げたらしいが。とにかく村人を頼む。以津真天は俺たちが止める」
「何がどうなってんだか‥‥まいいや、天樹!」
見ると天樹が体を張って以津真天を食い止めている。村人の盾となって以津真天の攻撃を跳ね返す。
「敵でしょうか‥‥さらに来ます!」
リーマが叫ぶと、ベアータが上空から知らせて来る。
「村の外れに亡者の一隊が現れました。続々となだれ込んできます」
「これほどの大軍‥‥あの巨大な以津真天に乗っているのは蒼曜では?」
未楡は敵を切り伏せながら村人を逃がす。
「行って下さい高広様。民を守るのがあなた様の役目。死人はアタイが‥‥引き受けます!」
木下は急降下してくる怨霊に矢を叩き込んだ。
「多勢に無勢だ。村人達は守る。お前達も殿を務めて後退しろ」
数で押し込まれてはどうしようもない。蒼曜は予備戦力として亡者達を待機させていたので、これにはどうしようもない。
ベアータは空で以津真天の攻撃を受けて逃げ回るしかなかった。その中でも何とか戦況を観察して情報を伝えていたのだ。
「野郎あのでかぶつ‥‥落とてやるぞ、未楡! 真水! 手を貸してくれ!」
アランは二人に声を掛けると、村人目がけて降下してくる巨大な以津真天に向かって突進した。
疾走するアランと未楡、真水に、蒼曜は気付くことなく、その騎乗物である巨大な以津真天はアランのオーラパワーにシュライク、未楡のスマッシュEXにシュライク、真水のオーラパワーにダブルアタックを立て続けに食らった。
巨大以津真天の首が吹っ飛び、大打撃を受けた巨体がもんどりうって倒れる。
転がり落ちる蒼曜。鳥に変身して逃げようとしたところを木下の破魔矢が貫き、ベアータのライトニングサンダーボルトが撃って墜落した。
「ま、待て! 俺を殺せば導師や八十禍津日神様の報復を受けることになるぞ! さらに村人が犠牲になることになる! 他の七人衆たちが容赦なく民を殺戮するだろう!」
「貴様が蒼曜か」
「そ、そうだ。いいか、俺を殺せば‥‥」
アランは容赦なく蒼曜の頭部を撃砕し、首を吹っ飛ばした。
それでもなお蒼曜は生きていた。首だけで笑声を上げた。
「馬鹿め‥‥俺を倒したところで無駄なことよ。黄曜、緑曜は俺より強い、そして最強の紫曜がまだいる。紫曜‥‥あの小娘にお前達が勝てるものか‥‥」
「‥‥‥‥」
アランは無言で蒼曜に止めを刺した。
統制を失った亡者の攻撃を退け、侍たちはアンデッドを撃破する。残党は退散していった‥‥。
「いつの日かこのような負の連鎖が終わる日が来ることを‥‥」
未楡は亡者に取り付く負の力が浄化されることを祈った。
戦闘終結後‥‥。
冒険者たちは宮津の丹後軍に立ち寄った。
蒼曜の首を掲げてみせるアラン。色々と問題はありそうだが勝つには勝った。
「戦友諸君。この首が示すように、我が軍は着実に勝利を収めつつある。私は確信している、俺の前に居る兵(つわもの)ならば、確かに丹後を取り戻せることを! いかな黄泉の呪詛とて、我らは乗り越えていけることを!」
歓声に沸く丹後軍。その影で、変身した羅刹が不敵な笑みを浮かべていることに気付く者はいなかった‥‥。