【道敷大神】反転攻勢・宮津激闘
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:14人
サポート参加人数:5人
冒険期間:07月03日〜07月08日
リプレイ公開日:2009年07月11日
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●オープニング
丹後南東、大国主の居城、針の岩城――。
城の最上階にあって、大国主は十数名の人々に囲まれていた。みな古代の神官服を着ている。
「よくぞ集まった亡国の忠臣たちよ、カセ、ヒコゴ、シズネ、ヨモセ‥‥国津神たちよ、時は余の元へ動きつつある。京都の抵抗は皆無であるぞ、各地に眠る国津神たちを復活させ、余の統治を磐石なものとしよう」
「陛下の御心のままにことをお進め下さい。嵐が過ぎ去った後、生き残っているのは神皇でも黄泉人でもなく、我らが国津神でございますれば」
すると、大国主が両手を突き出すと、数多の光の玉が空間に出現する。大国主はそれらを解き放つ。
「行け、亡国の魂よ、あるべき肉体へ戻り、余の元へ戻ってくるのだ」
そして光の玉はジャパン全土に散っていった‥‥。
京都――。
最近の事情もあって、京都も常に忍びを放っており、丹後の京都軍や大国主の動きは秀吉に逐一報告されていた。
数多の人間が大国主の元へ集まっていると言う話は秀吉を警戒させた。
「国津神の復活とは‥‥あるいは大国主め、京都への大掛かりな侵攻を企てるつもりか」
その傍らには、陰陽寮の重鎮賀茂光栄がいた。
「例の術は、どうやら人間の魂を使った転生の秘術のようですな」
賀茂光栄は解説する。先日の依頼で捉えた村娘――ヤズタノカヅチと名乗っていた娘を調べたが、娘は前世において大国主へ魂を捧げ――少なくとも娘はそう言っている――今世に国津神として復活したのだという。冒険者の協力を得て、それが悪魔の術と関わりがある可能性も判明する。
「本当に前世の記憶が蘇るのか? 誑かされておるのではないか?」
「さて‥‥確かなことは分かりませぬが、妖術としても大掛かりなものですな」
大国主はその後も国津神を復活させ、手元にかつての配下を呼び寄せているようだ。
民百姓から野盗、さらに侍から僧侶まで、大国主の元に国津神として集まっている人々は様々であるという。
そこへ慌しく武将が駆け込んでくる。秀吉の懐刀、石田三成だ。
「殿下、丹後から急報です。大国主の元へ、青木一重が現れたとの知らせが入ってきました」
「何?」
さすがの秀吉が眉を吊り上げた。青木一重と言えば黄母衣衆の一人。藤豊家の軍略を知る人物だ。それが国津神として丹後に現れたと言う。
「おのれ大国主‥‥まさか家臣から引き抜かれることになるとは」
丹後、宮津山中――。
‥‥かくして、大国主が静かに力を貯える一方で、丹後の京都軍は黄泉人との激しい戦いを繰り広げていた。
一万を越える黄泉の軍勢相手に、二千弱の丹後軍は山岳地帯に潜んで徹底抗戦を続けていたのである。
徹底したゲリラ戦。山中を徘徊する亡者達とそれを率いる黄泉人の軍団を、丹後軍は各個に撃破していた。
実際黄泉人たちは苛立ちを募らせており、丹後軍の攻撃に為すところが無かった。
丹後軍の野営地に京都からの忍びが到着すると、物資の補給の段取りと大国主の動き、秀吉からの伝言を伝えていく。余談ではあるが、丹後軍は京都の商人である万屋、将門屋にも物資の発注を上げている。
「‥‥そうか、国津神どもが復活しているか」
言って刀を弄んだのは天津神の天火明命。長らく戦いを傍観してきたこの火精霊も、いまや丹後軍の戦力として剣を振るっていたのだ。
「黄泉と神皇が共倒れになれば、漁夫の利を得るのは大国主と‥‥あるいは第六天魔王と言う事になるやも知れんな」
「そうはさせませぬ。黄泉人は必ず倒して見せます」
藤豊武将の片桐や糟屋、旧丹後藩主の鉄州斎や中川克明らは言って眉間にしわを寄せる。
日に日に大国主の勢力は強化されている。最近では伝説の神器を求めて新たな力を手に入れようと画策しているとか。
「大国主は捨て置けませんが、ひとまず黄泉人を何とかしませんと」
丹後軍の武将達は目下の敵の攻略に専念する。ようやく守勢から攻勢に転じたのである。成果も上がっている。
そこへ丹後の物の怪――妖怪戦力たちが次々と戻ってくる。
「導師と八十禍津日神が動き出しましたぞ。西の街道から続々と亡者達が山中になだれ込んできます」
「それと、見落とすところだったが、最近周辺の山中に野盗どもがうろついているぞ。こちらの動きを探っている様子だ。何やらきな臭いものを感じるな」
黄泉人と丹後の盗賊たちは手を結んでいる。これを偶然と見なすほど丹後の侍たちもお人好しではない。
「黄泉人め、盗賊を使ってこちらを探し始めたか」
「黄泉人の陣容は?」
その問いには陰陽師が答える。
「正確な数は分かりませんが、複数のまとまった集団を形成しているようですな」
侍たちは頷くと出立の準備を整える。
「大目標は八十禍津日神か導師、次いで黄泉将軍、黄泉人だ。地の利はこちらにある」
かくして、丹後軍は動き出す。冒険者ギルドにも依頼が飛ぶ。宮津山中にて、再び激闘が始まろうとしていた‥‥。
黄泉軍陣中‥‥。
八十禍津日神は後方にあって、怨霊部隊を編成していた。
「姿を見せろ丹後軍、敵将の首、このわしが捻り潰してくれるわ。導師よ、将軍達よ、何としても奴らを引きずり出せ。わしが瞬く間に叩き潰してやるわ」
八十禍津日神は巨体を揺らすと、腰の大刀を抜いて牙を剥いた。
●リプレイ本文
黄泉軍陣中――。
八十禍津日神は盗賊や悪魔からの知らせを待っていた。不死軍は奇襲攻撃には向いていないので、攻め込むには丹後軍の確かな位置情報が必要であった。
そこへ丹後の悪魔の首魁である鳩摩羅天がふっと姿を見せる。
「禍津日神よ、丹後軍の位置が判明したぞ」
「‥‥そうか、手柄だな悪魔よ」
「不機嫌そうだな」
「ここまで人間に抵抗されるとは想定していなかった。その間に大国主が力を貯えつつある‥‥それに黄泉軍は奇襲攻撃には向いておらん。このような山地では大軍の利を生かすことが出来ん」
「丹後軍はどういうわけか悪魔狩を行い、盗賊たちを片付けたようだが、悪魔は虫にもなれるのでな。手下の羅刹はうまく逃げ出した」
鳩摩羅天の歌うような口調が八十禍津日神には耳障りであった。かつて、遙かな太古の時代を思い出す‥‥。禍津日神も悪魔を信用はしていなかったのだ。だが権謀術数では悪魔が上か。
「それで、丹後軍の位置は」
「部下に案内させよう」
鳩摩羅天が言うと、八十禍津日神は立ち上がった。山のような巨体が空中に浮かび上がる。背後には千近い怨霊たちが浮かんでいる。
「導師よ、地上部隊を率いて進め。わしは先行して奇襲を掛ける」
「は‥‥お気をつけて。すぐに追いつきます」
「では者ども‥‥行くぞ」
八十禍津日神が舞い上がると、怨霊達が咆哮し、山中を一気に飛びすぎていく。
木下茜(eb5817)は森の中を飛んでいく八十禍津日神や怨霊たちを間近で目撃していた。
「宿奈さん、敵総大将、八十禍津日神を森の中で確認しました! もの凄い数の怨霊を引き連れて味方の方へ飛んでいきます! 凄まじい数です!」
「‥‥そう来ましたか」
宿奈芳純(eb5475)はテレスコープ、インフラビジョン、エックスレイビジョンで木下がいる方角を確認しながら、上空のベアータ・レジーネス(eb1422)とも連絡を図る。
「ベアータさん、そちらはどうですか。空から敵の動きは」
ドラゴンで上空を旋回するベアータはブレスセンサーに反応がないことを確認。
「空に異状はありません。八十禍津日神が単身突撃してくるのですか? 地上部隊に動きは?」
宿奈は超越バイブレーションセンサーで常に地上を警戒するリーマ・アベツ(ec4801)に問いかける。リーマは首を振った。
「今のところ至近に敵の存在はなさそうです。しかし、どうしてこちらの位置が分かったのでしょうか? 出陣式も無事に終わり、盗賊たちは残らず刈り取ったはずですが」
「逃がしたのがいるのかも知れんな」
白翼寺涼哉(ea9502)は言って肩をすくめる。
「とは言え、実際に接近するまでは禍津日神も手探り状態だろう。迎え撃つ準備はあるさ」
「万全を期したつもりではありましたが、残念です‥‥」
明王院未楡(eb2404)は厳しい顔つきで吐息する。
「向かってくるっちゅうなら容赦はいらんな。しかしいい加減導師くらいは片付けたいところだなあ」
バーク・ダンロック(ea7871)は遠い目で空を見上げた。丹後の導師の正体は今もって不明なところが多い。
「来ます‥‥!」
宿奈の視界に次々と青い点が浮かび上がってくる。
「恐らく八十禍津日神と怨霊達でしょう」
「速いな」
白翼寺は舌打ちすると、祈りの儀式の様子を見に行った。
そこで天津神の天火明命が冒険者、武将たちに言った。
「お前達は早く隠れろ。我が囮となって、隙をついて奴に集中攻撃を浴びせる機会を作ろう」
「囮とは‥‥敵は黄泉軍の総大将ですぞ。それに怨霊まで‥‥」
アラン・ハリファックス(ea4295)の疑念を天火明命は真面目に頷いた。
「何とかしてみよう。実際怨霊の大軍は厄介だが」
「かたじけない、ではひとまず軍は辺り一帯に幻影を張り巡らせて隠れましょう」
「吉と出ればよいがな。とにかくまずは奴を止めねばならん‥‥」
八十禍津日神は木々をなぎ倒しながら怨霊を引き連れて驀進していたが――。
やがて禍津日神は丹後軍がいた場所に到達する。
そこにいたのはただ一人、炎をまとった天火明命である。
「天津神か‥‥丹後軍はどこへ行った」
「さてな」
「貴様‥‥一体何を考えている?」
「どうだ禍津日神、我と一戦交えぬか」
「何?」
八十禍津日神の瞳がぎらりと光ると、この黄泉の神は神速の早業で突進し、チャージング+カウンター+デッドorアライブ+スマッシュEXを叩き込んだ。
が――禍津日神の大刀を、天火明命は何と指先一本で受け止めた。
八十禍津日神はにたりと牙を剥いた。
「ふん、貴様は霊的な力に守られておるからな、こしゃくな奴よ。何を考えている?」
「お前の突進はここまでだ」
「何?」
次の瞬間、周辺の森から丹後軍が出現し、魔法と矢が雨あられと降り注いだ。
「さて、雑魚どもはまとめて引き受けよう。私が飽きる前に親玉を叩いてくれよ」
デュラン・ハイアット(ea0042)のストームで怨霊が吹っ飛ぶ。
八十禍津日神は魔法に耐えながら刀を動かし、矢をミサイルパーリングで跳ね返した。
透明化の指輪で姿を消したアランが背後からポイントアタックで禍津日神の重装甲に突きを入れる。
「普通の戦い方でやれるとは思ってなくてなぁっ!」
「ぬうっ」
だが八十禍津日神は振り向きざまに大刀を一閃、スマッシュを食らってアランは吹き飛んだ。
「小賢しい奴がいる」
バークは怨霊をオーラアルファーで吹っ飛ばしていた。
突進する侍たちの刀を跳ね返し、八十禍津日神はポイントアタックEXで胴体を真っ二つに切り裂いた。
「さすがに化け物だ、被害が馬鹿にならん。まともにいくなよ!」
白翼寺は治療しながら叫んだ。
ベアータは怨霊たちにアイスブリザードを打ち込む。
「みなさん、下がって! 八十禍津日神には冒険者が当たります」
未楡は怨霊を切り伏せながら侍達を下がらせる。
「八十禍津日神を守っている魔法アイテム!」
を指定して木下は月の着流しでムーンアローを打ち込んだが、矢はロストした。
ヴェニー・ブリッド(eb5868)はがしがしと超越ライトニングサンダーボルトで怨霊を削っていく。
セイル・ファースト(eb8642)はウイングシールドで空に舞い上がると、チャージング+スマッシュEX+ポイントアタックで禍津日神に突進。
「黄泉の神だかなんだか知らねえが、これでも食らえ!」
「面白い!」
八十禍津日神は飛び上がると、脇差を抜いて、チャージング+スマッシュEX+ポイントアタック+カウンターでセイルの重装甲に突き出した。
「何!」
激突するセイルと八十禍津日神。セイルの魑魅魍魎刀は相手の装甲を貫いたが、セイルも深々とダメージを食らった。
追い討ちを掛けるように、八十禍津日神は数珠を掲げて魔法を放つ。神聖魔法か。
黒い光に包まれるセイル。
「ぐああああ‥‥! 魔法だと‥‥!」
セイルは後退する。
「セイル!」
雷真水(eb9215)は上空の友を気遣って叫んだ。
「離れろ! 殺されるぞ!」
「それならば‥‥」
ヴェニーはライトニングサンダーボルトを打ち込んだが、やはり八十禍津日神は微動だにしない。
「まさに化け物じみた戦闘力ですね‥‥」
「だが生命活動を行う以上不死身ではあるまい」
マグナス・ダイモス(ec0128)とアンドリー・フィルス(ec0129)のパラディンコンビはフライで飛び上がって連続攻撃を浴びせかけた。
八十禍津日神は素早く急所を外してデッドorライブで耐えるが‥‥本当にそれだけの生命力が?
反撃のカウンタースマッシュを食らって吹っ飛ぶマグナスとアンドリー。
「くっ‥‥導師と言いこの怪物と言い‥‥どうなっている」
「空を飛び、武術の達人で、並外れた体力で神聖魔法を使う? どんなモンスターなんですか」
冒険者たちと交戦した八十禍津日神は、魔王のように立ち塞がった。
「そろそろか‥‥ここまで持ち堪えれば」
八十禍津日神は最後に背中の大弓を取り出すと、ダブルシューティングEX+シューティングPAEXを侍たちに叩きつけて後退する。
「‥‥! 震動多数! 宿奈さん! 敵が近付いています!」
「来ましたか」
「すぐそこまで‥‥来ました! 見る間に敵が増えていきます」
リーマの知らせを受けた宿奈は全軍に不死軍接近するの報をもたらす。
「八十禍津日神は時間稼ぎか‥‥」
アランは周囲を見渡す。八十禍津日神との激闘で傷ついた味方が倒れている。
だが回復も早い。白翼寺ら僧侶らは手分けして素早く治療を済ませていく。
「だが、奴の力の一端だけでも見ることが出来たのは幸いか。あれで魔法への抵抗を持っているとは‥‥さてどうするかな」
「アランさん、考えるべきことは多いようです。大国主の件も気になりますが‥‥。ひとまず黄泉人の攻撃に対しなくては」
ヴェニーの言葉にアランは頷いた。
「そうだな。真水、態勢を立て直すぞ」
「ああ。全く厄介な敵が増えていくばかりだな。導師への対策もまだだってのになあ」
「なんちゅうか‥‥あいつらにも秘密はあるんだろうがなあ。恐らく時間制限付きの強さではあると思うが。攻撃が通じないわけはないからな。俺たちは地獄の大魔王さえ倒してきたんだぞ?」
バークは憮然として八十禍津日神が消えた方角を見やった。
宿奈を中心とする陰陽師たちが、テレスコープ+エックスレイビジョン+インフラビジョンの視界で黄泉軍の動きを看破していく。
「敵、西方から多数。正面攻撃ですな」
「ゲリラ戦の優位を捨てることはない。後退しつつ敵の攻撃を拡散させる。混戦に持ち込んで、目標は黄泉人、黄泉将軍に切り替えるぞ」
「ふん、冒険はこれからだ」
ハイアットは言ってリトルフライで飛びながら後退する。
丹後軍は速やかに動き出す。
その後黄泉の大軍を撃退しつつ、丹後軍は宮津の山々に溶け消えて行くのだった。