丹後の盗賊その十一、宮津の苦難
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月16日〜07月21日
リプレイ公開日:2009年07月23日
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●オープニング
丹後、宮津城下町――。
かつて様々なドラマを生んだ宮津の町も、混迷を極める丹後の情勢に飲み込まれていた。
稲荷神の社は破壊され、復興の途上にあった町は見捨てられ、町は廃墟と化していた。
丹後・藤豊連合軍は黄泉人に対して山岳地帯に潜んでのゲリラ戦術を取っていたため、宮津城の守りに付くと言う訳にはいかなかったのだ。黄泉人との戦いを継続するためには、すでに宮津の町は放棄するしか選択はなかったのである。
そんな状況を見透かしたかのように、宮津城へ新たな住人が住み着き始めていた。黄泉人ではない、が、丹後の民にとっては災厄だ。
すなわち、丹後の盗賊「白虎団」が南下して宮津城下町に入り込んでいたのである。悪魔の助力を得て、更に黄泉人とも結託して京都に敵対する白虎団は、大国主と丹後軍、黄泉人の三つ巴の状況を利用して、好き放題にのさばっていた。
それだけでは飽き足らず、白虎団は逃げ遅れた民を捕らえると、城下町のあちこちに幽閉し、強制労働に付かせて町を支配していた。
「ひゃは! ようやく俺たちの天下が巡ってきたぜ!」
「丹後軍は手も足も出ねえ! 俺たちには大天魔、鳩摩羅天様がついてるぜ! 恐いものはねえ!」
「鳩摩羅天様は言っておられた。神皇の兵隊どもは何れ魔王様の逆鱗に触れて滅びるだろうってな!」
「黄泉人には適当に京都と潰しあってくれると有難いねえ。今は一応同盟してるが、下っ端の亡者はただの怪物だからな!」
「まあとにかく、当分の間は安泰だ。この状況を動かせる奴は今の丹後にはいねえぜ」
盗賊たちは笑声を上げて祝杯を上げていた‥‥。
宮津山中、丹後軍の野営地――。
黄泉人に襲われて彷徨っていた若者が丹後軍の保護を受けてやって来た。
侍達は若者のひどい有様を見て、すぐに僧侶を呼び、食べ物と水を与えた。
若者は泣いていた。
「‥‥助けて下さい‥‥宮津が‥‥宮津城が大変なことになってるんです‥‥」
「どういうことか」
侍達は宮津の状況を聞いて驚いた。
「何と、盗賊たちが‥‥」
「あの外道どもが‥‥」
若者は町の一角に捕らわれている民を救い出してくれるように、涙ながらに頼んだ。
「お願いです‥‥このままじゃ、みんなそのうちくたばっちまいます」
すると、一人の若い侍が進み出た。京極家の嫡男、京極高広だ。
「俺が行こう」
「高広殿‥‥」
「京都へ文を飛ばせ。宮津に捕らわれている民の救出作戦だ。至急丹後に来て欲しいとな」
かくして、冒険者ギルドに、丹後からの依頼が舞い込むことになるのであった。
●リプレイ本文
宮津城下町、深夜――。
忍びの磯城弥魁厳(eb5249)、木下茜(eb5817)、シフールのガラフ・グゥー(ec4061)は先行して町に入り込んでいた。町にはところどころで火が焚かれて盗賊たちの姿もあったが、冒険者たちは月明かりを頼りに進む。
魁厳は地図に目を落とす。
「ふうむ‥‥あの若者の言うことには、恐らくこの辺りのはずじゃな」
ガラフはブレスセンサーで探知を試みる。
「近くには十人以上の反応があるのう」
「少し見てきます」
「では少し後で落ち合おう」
木下は月影の袈裟のムーンシャドウで潜り込むと、さらに内部に侵入する。
魁厳とガラフはともに移動して、周辺の探索に足を向ける。
と、悲鳴のような声がして、魁厳とガラフははっと顔を上げた。
「今のは?」
二人は疾風のように移動した。
近くの盗賊をやり過ごし、件の建物に移動する。
格子から魁厳とガラフは中を覗きこんだ。
見ると、ミイラのような怪物が村人達を捕らえて、生気を吸い取っている。
生気を吸い取られた民人はみるまに血の色を失って倒れていく。
「あれは‥‥黄泉人か‥‥!」
魁厳とガラフは目を見張った。
「くはは‥‥実に良い心地であるぞ盗賊たちよ。民は何かと役に立つ。いざとなれば京都軍への盾にも使えるし、人間の生気は我々黄泉の糧となる」
けらけらと笑って村人達から生気を吸い取っていく黄泉人。それを残酷な笑みで見つめる盗賊たち。
「なんと言うことじゃ、たった一人の黄泉人が‥‥次々と民を亡き者に‥‥」
「‥‥許せん‥‥」
木下は首尾よく捕らわれている村人たちの元へと辿り着いていた。外の見張りはスタンアタックで眠らせてロープで縛り上げ、適当な路地に放り込んだ。
「皆さん無事ですか」
壁の松明を取り外して、木下は村人たちの様子を眺めた。みなやつれて、泥まみれの顔をしている。
「あんたは一体‥‥」
「丹後軍に協力する京都の冒険者です。丹後軍から皆さんを救い出すように、それに今、町の外には皆さんを連れ出す段取りを整えているところです。味方が来ています。すぐにここからお助けしますので」
「だが‥‥」
民の男が部屋の中を見渡す。部屋の中には十名程度が捕らわれている。
「これだけの人数を連れ出して逃げおおせることが出来るのか? 一体どこへ行こうというんだ」
「差し当たり、宮津山中に待機している丹後軍の元へ。そこから京都へ皆さんを護送します。諦めないで下さい。必ず助けに来ますから」
それから魁厳と木下、ガラフは外に到着している仲間達と合流する。
「情報は確かでした、町は盗賊の手に‥‥。高広様、丹後の民は、この地を再び芽吹かせる宝にして、苗。盗賊共の好きにさせて良い訳が有りません。わが身命に置いて、必ず救出致します」
そう言う木下は京極家の家臣である。
「頼むぞ、黄泉と戦い勝利するのも我々の命題だが、このような非道を見過ごすことはできん」
高広は言って魁厳とガラフに目をやる。
「大変なことが‥‥」
二人は、近くで黄泉人が次々と民を犠牲に、生贄を食らっていることを知らせる。
「黄泉人だと‥‥」
高広の瞳が怒りに燃え上がる。
「恐らく黄泉軍の下っ端であろうが‥‥」
「許せねえ‥‥悪魔に魂を売った盗賊に狂った黄泉人か‥‥あたしがぶった切ってやる!」
雷真水(eb9215)は今にも一人で突撃しそうなので仲間達から止められる。
「とにかく、忍びのお二方やガラフさんのおかげで道のりは辿れるわけです。あとは迅速に行動するのみでしょう」
賀茂慈海(ec6567)はいきり立つ真水を押さえながら穏やかな口調で言った。
「御坊の言われる通りだ、民を食らっている黄泉人も何とかしたいが‥‥そちらへは俺と木下、ガラフ老に案内を頼めるか」
「了解した」
「高広様が仰せとあらば」
「うむ‥‥では、民の救出は残りの五名に任せたぞ。では行くか、せいてはことを仕損じるというが、夜明けまでには民を救い出さねば。時間がない」
冒険者たちは忍びの案内で城下町に入り込んでいく。
「こっちじゃ」
魁厳は仲間達を先導しながら、闇の中を的確に歩んでいく。
山王牙(ea1774)は手近な松明を手に取ると、足元を照らし出した。
厳しい顔で闇の中を見つめる元馬祖(ec4154)。真水は刀の柄に手を置き、その最後尾から慈海が進んでくる。
「よし‥‥あそこじゃ」
魁厳は物影に身を潜めて、件の建物に目配せする。
見ると、数人の盗賊が集まって、建物の入り口を塞いでいる。
「何を話しているのか‥‥」
魁厳は蝙蝠の術で聴覚を増幅させると、盗賊たちの会話を聞き取った。
「‥‥おい、何があった」
「分からん、突然後ろから襲われて、気付いたら縄でがんじがらめにされていたんだ」
「おい! 村人の様子はどうだ!」
しばらくして別の盗賊が出てくる。
「連中を締め上げてみたんだが、何でも丹後軍から救援が来るとか来ないとか言ってるぜ」
「何おう。奴らは今頃は黄泉軍と激戦の最中で、こっちに目が向くはずはないんだぞ」
‥‥そこまで聞いて、魁厳は仲間達に盗賊たちの会話を伝える。
「是非も無し。目の前にいる奴らをさっさと片付けてしまいましょう」
山王は長刀野太刀を抜いて、瞳が冷たく光る。
「あたしも賛成だな。やることをやって民を救い出そうぜ」
「では参りましょうか」
元はすたすたと歩いていくと、正面から盗賊たちに近付いていく。
わめいていた盗賊たちは近付いてくる元に目をやると、小首を傾げる。
「何だてめえ、見ない顔だな」
「動くな」
元はフォースリングで盗賊に命じると、盗賊の動きが固まる。
さらに魁厳が微塵隠れの術で飛び込んできて、スタッキングPAで盗賊たちに奇襲を仕掛ける。
山王と真水も突撃。一気阿世に盗賊たちを仕留めていく。
慈海は後方支援に回り、デティクトアンデッドで探っていたが、反応は無かった。
「何だこいつらは! 滅茶苦茶強いぞ!」
瞬く間に討ち取られる盗賊たちは狼狽して逃げ出すが、山王も真水も容赦なかった。
「冥土の土産に教えてやる、お前達を討ち取ったのは京都の冒険者だ」
真水は苦痛にうめいて命乞いするに止めを刺す。
「現世の罪を救ってやるから来世ではまともになんなよ!」
「しまった、一人逃がしたか」
逃げ出す盗賊が笛を吹いて仲間を呼び寄せる。夜の闇に、甲高い笛の音が鳴り響く。
魁厳は微塵隠れで追いつくと、スタンアタックで眠らせる。
「早く救出を」
元は魔法の絨毯を広げると、村人達を乗せて離脱していく。
山王、魁厳、真水、慈海はそれを見送りつつ、周囲の気配を探っていた。
「ここじゃ‥‥」
ガラフは黄泉人がいた家屋に高広と木下を案内する。
中の様子を探ると、相変わらず黄泉人が民の生気を吸い取っていた。黄泉人はすでに人間に変身しているが。
「ふはは‥‥全くこの上ない喜びぞ! 生気を吸い取り放題だ!」
横に立つ盗賊二名は、相変わらず笑みを浮かべている。
「行くぞ」
高広は木下とともに入り口の方へ回りこんでいくと、盗賊と黄泉人の背後から奇襲を掛ける。
ガラフはサイレンスで盗賊や黄泉人の聴覚を封じる。
音を遮断された盗賊と黄泉人は奇襲攻撃に気付かず、二名の盗賊は瞬く間に討ち取られた。
黄泉人は口をぱくぱくさせていたが、全く状況を飲み込んでいない様子だ。
高広はオーラパワーを付与して黄泉人に切り掛かり、木下は側背に回りこんで至近距離から破魔矢を打ち込んだ。
ばたりと倒れる黄泉人。
生き残っていた民はすっかり縮み上がっているが、高広と木下は彼らを連れて仲間達の元へ向かう。
「どうやら‥‥ただでは逃がしてくれないようですね」
山王は野太刀を構えると、新手の盗賊たちに目を向ける。
「皆さん! 何とか時間を稼いで下さい! もうすぐ全員の村人を運び終わりますから!」
絨毯で民を逃がす元は叫んで飛んでいく。
そこへ高広、木下、ガラフが合流する。
「どうだ、首尾は」
「今やってるところさ。馬祖が魔法の絨毯で民を逃がしてる。あと少しなんだけど‥‥そっちは?」
真水の問いに、高広と木下、ガラフはひとまず黄泉人を倒したことを告げる。
「侵入者だぞ! 民を逃がすな!」
そうする間にも盗賊たちはわめきながら突撃してくる――。
「幸い人質はいないみたいだな‥‥なら思い切りやらせてもらうぜ!」
真水は二刀を構えると突撃する。
山王は仁王立ちして、デッドorライブで攻撃を跳ね返し、スマッシュ+ソードボンバーで盗賊たちを吹っ飛ばした。
「聞け盗賊共、貴様等の悪行はいずれ朽ちる、抗う意思が、何時か貴様等を灰燼とせん。その時までに悔い改めるなら良いが、悪鬼・黄泉よりの帰り人に組し、人道を外れるなら、親族共々焼き払われると心得よ」
「何を! たった八人で!」
盗賊たちは襲い掛かってくるが、冒険者たちは巧みに攻撃をかわしつつ賊に痛撃を与えていく。
「丹後の民を苦しめてきた報いを此処で受けなさい」
木下は攻撃を捌きながら矢を打ち込む。
「ぐあ‥‥!」
「黄泉の将の一人も縫いとめる我が弓に射抜かれたい者は前へ出よ」
ガラフはライトニングサンダーボルトで賊の足を止める。
――そうしてやがて、元が全ての村人達を脱出させる。
「ここまでじゃな、みなの衆、先に行かせて貰うぞ‥‥」
魁厳は微塵隠れで脱出。
「よし、撤収だ!」
冒険者たちも撤退。盗賊たちの追撃を振り切って、町から脱出する。
‥‥避難を完了したところで、慈海はクリエイトハンドで食糧を作り出すと、村人たちに味噌汁を振る舞った。
「高広様、彼らのこと、宜しくお願いします」
民の様子を見やりながら、慈海は高広に頭を下げた。
「ああ‥‥だが、宮津もこの有様では‥‥放置しておくことは出来んな。どうにか盗賊どもを封じ込める手はないものかな」
高広は思案顔で吐息する。
程なくして、一行は宮津山中に野営している丹後軍の元へ、民を連れて行くことになるのだった。