天沼矛を求めて、2
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月22日〜07月27日
リプレイ公開日:2009年08月05日
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●オープニング
丹後西方、旧峰山領、伯耆谷川の丘陵地帯にある古墳群、王者の谷と呼ばれる場所に、地獄への門が開いていた。
門の先に広がる地獄世界は奇妙な空間で、そこにはジャパン系の悪魔たちが徘徊する謎の階層であった。件の黙示録の戦いとは全く関係がなさそうで、何ゆえ悪魔たちがそこに住み着いているのかも謎である。
天沼矛――神話の時代、ジャパンを形作ったと言われる伝説の神器。
丹後の大国主と、京都の陰陽寮が争奪戦を繰り広げることになった天沼矛。それは丹後に開いた地獄の入り口の先にあるという。
天沼矛――それは世界を変える力を持っているという。ジャパンの覇権を求める大国主は、その伝説の神器の捜索に血道を上げていたのである。
期せずして京都と大国主の間で天沼矛を求める争いが始まり、先の冒険者たちの調査を受けて、陰陽寮も件の地獄世界の探索を続けていた。
その階層には最初に、閻魔王(少なくとも悪魔たちはそう呼んでいる)が統治する悪魔街が広がっており、周辺には針の岩山や大海原、賽の河原に深い森、見た目は美しい人喰い花畑などがあった。
陰陽寮はその後も調査を進め、ここが一つの地獄の階層を形成しているのではないかという推論に辿り着いた。
そしてこの階層のどこかに、天沼矛が封印されているのではないかと‥‥。
――陰陽寮の重鎮賀茂光栄は、陰陽師や忍びが集めてきた情報を精査していた。
「地獄の悪魔街を中心に広がる階層か‥‥」
賀茂光栄の元には、着々と情報が入ってきていた。
天沼矛はどうやらこの階層のどこかに封印されている様子だが、封印は幾つかあって、それらを破壊しなければ天沼矛は手に入らないということである。
悪魔相手に情報収集を続けてきたのである。達人級の陰陽師や忍び、僧侶が動員されていた。
「世界を手に入れる力‥‥天沼矛を大国主に渡すわけにはいかん」
そこへ陰陽師がやってくる。
「光栄様、第一の封印のありかが分かりました」
「ようやくか。で、どこだ」
「悪魔街の西方、針の岩山に要石があるという情報が入りました。大国主より早く封印を解く好機です。要石を破壊すれば、封印が破れるそうです」
「よし。手柄だ。何としても大国主に先を越されるわけにはいかん」
「ただ問題がありまして‥‥」
「何だ?」
「針の岩山には、死人が徘徊しており、中でも巨人の死人が行く手を遮っており、侵入者と見れば襲い掛かってくると思われます。またどうやら瘴気の濃度が上がっているようです。それに、大国主の動きが気がかりです」
「むう‥‥死人か」
光栄は唸ったが、決断は揺るがなかった。
「何れにしても、冒険者ギルドに使いを出せ。封印を解除するための人員を集めるのだ」
「はい」
そうして、冒険者ギルドに、再び地獄への侵入依頼が舞い込む。
‥‥ギルドの奥に集められた冒険者たちは、陰陽師から説明を受けていた。
「世界を変えうる力とは、何とも物騒な話です。天沼矛‥‥急に話しが現実味を帯びてきたようで、我々も正直一抹の恐れを感じているところです」
陰陽師は吐息する。
「光栄様からの依頼です。皆さんには再び丹後に向かってもらいます。前回と同じ場所から地獄へ入り込み、悪魔街の西方にある針の岩山に置かれている、要石の破壊に向かって下さい。岩山には死人たちが徘徊していますので、御注意下さい。それと大国主勢の動きにも警戒を。要石は岩山の頂上にある祠に安置されております。六尺程度の丸い石であることが分かっています。魔法の反応はありませんので、物理的な力で破壊できるでしょう」
陰陽師はそう言って、冒険者たちを送り出したのであった。
●リプレイ本文
さて、謎の地獄階層の中で――。
冒険者たちが見つめる中、ベアータ・レジーネス(eb1422)はバーニングマップで地獄の地図を燃やした。今回は陰陽寮でこの階層の情報を入手している。
「針の山の要石」
「長髄彦」
「天沼矛」
を指定して地図を燃やす。
要石と長髄彦についてはくっきりと道筋が残ったが――。
天沼矛についてはまたしも道筋は幾重にも分かれ、その場所を特定できない。
「伝説の神器ねえ‥‥面白そうな話ではあるが、地獄にあって悪魔が使わないってのが不思議だな。ルシファーとの戦いも最後だってのにな」
オラース・カノーヴァ(ea3486)は魔法の結果を見て、しかめっ面を浮かべる。
「地獄めぐりは針の山ときたか。さしずめ次は血の池だな」
風雲寺雷音丸(eb0921)は言って巨体を揺らす。地獄巡りに強敵と戦えるなら本望である。
「閻魔大王の言葉が気がかりですが‥‥」
明王院未楡(eb2404)は思案顔で道筋を見つめる。
「先の依頼の言動を素直に受け取れば‥‥内心では封印の管理者の役目から解放される事を望み、封印が解かれることを待ち望んでいたものの、立場上素直に所在や封印の解き方を伝える事が出来ないだけ‥‥」
未楡は続ける。
「もっとも深読みすれば‥‥人にしか解けない封印の為、情報操作により利用しようとしている‥‥とも読み取れますが」
「ジャパンでは悪魔も仏として崇められていると聞くが、信用できんな」
ラザフォード・サークレット(eb0655)は腕組しながら顎をつまんだ。
「私たちは上級デビルと戦ってきたばかりだ。連中はジ・アースにも攻撃を仕掛けてきたくらいだし。閻魔大王とやらが上位のデビルであることは疑いないわけだしな」
「尤もではあります。閻魔王の策略に乗せられないように、注意はしておきませんと」
ベアータは道筋に目を落としながら呟いた。
「これってドロボウしてこいっていってるんだよね〜?? ふ〜ん、そ〜なんだ〜。でもでも、面白そうだからぼくがんばるねっ」
カルル・ゲラー(eb3530)は天使の笑顔をきらきらさせながら無邪気に言った。
「さて、行くか。例の針山とやらは死人で溢れ返っているそうだが‥‥それよりも大国主とやらか、ライバル達の動きも気がかりだが」
カノーヴァは立ち上がると、みなも腰を持ち上げる。
かくして、針の岩山に到達した冒険者たちの前に、次々とぼろぼろの肉体の死人巨人が襲いかかってくるが――。
「はあ!」
「でやあ!」
「ホーリーライト!」
「ライトニングサンダーボルト!」
「受けよ我が重力の魔術! ローリンググラビティ!」
冒険者たちの剣と魔法の前に瞬く間に露と消えていく死人巨人。
さらに襲い来る死人の群れを未楡が、カノーヴァが、雷音丸が、カルルが討ち取っていく。
「今さら死人巨人と聞いても驚かんぞ。魔王の拳に比べればな」
ラザフォードは淡々と仲間の戦いを見守った。
琉瑞香(ec3981)と烏哭蓮(ec0312)は亡者の残骸を見やりながら針山を見上げた。
針山は淀んだ空気に包まれている。
「ふむ、情報どおり瘴気の濃度が上がっているのですね〜」
「となると、山の中は死人の巣窟でしょうか?」
「その可能性はありますね〜皆さんお強いですが、体力は無限ではないでしょう。ここは山頂まで一つ飛んでいく方が手っ取り早いかも知れません」
そこで予期せぬことが起きた。山の右手から亡霊の大群が飛来して来たのである。
「貴様らは‥‥都の手の者か」
亡霊の中から、半分崩れた顔の若武者の幽霊が進み出てきた。
「そっちこそ、大国主の手下か」
「私は長髄彦。貴様らの魂胆は分かっているぞ。針山の要石を破壊しようというのだろうが、そうはさせん。封印は我らが頂くぞ。横からしゃしゃり出てきて神器を奪おうとは、ここで息の根を止めてやるわ」
背後からも、別の人間たちが数十人姿を見せる。みな武装しており、中に一人、古代人の服装をした男がいた。
「ここで人間に出会うとは‥‥京都の隠密か術士であろう」
「あなた方は、国津神の‥‥」
未楡は用心しながら武器を構える。
「あ、あなたは‥‥青木一重殿」
藤豊家臣のベアータが古代人の正体を見破った。転生の秘術で大国主に寝返った藤豊武将、青木一重。
「ほう、ベアータ・レジーネスか。奇遇だな、いや、そうでもないか。だが京都は冒険者ギルドに依頼したのだな。言っておくが、俺はもはや青木ではない。大国主様の忠臣コゴシ王子よ」
青木、いや、コゴシはそう言うと、長髄彦とともに冒険者たちを取り囲む。
「面白い。地獄の大魔王さえ倒してきた俺たちだ。今さらこの程度の数で逃げると思うなよ」
雷音丸は牙を剥いた。
「いかん、いかんのう」
そこへ忽然と姿を見せたのが、先の依頼で冒険者と遭遇した閻魔大王であった。相変わらず、帽子を被った子供の姿をしている。
「閻魔大王‥‥」
未楡の言葉に、初見の者は驚く。これが閻魔大王だって?
「どいつもこいつも刀を振り回しおって、困ったもんじゃのう」
「閻魔大王か、ようやく見つけたぞ! 封印を解け! 神器の場所を教えてもらうぞ!」
長髄彦は飛び掛ったが、閻魔大王は結界を張った。
そうして、空から羅刹の一群が出現して亡霊たちと交戦に入る。
「ちっ、悪魔どもが‥‥まあいい、ここは放っておけ!」
コゴシは後退すると針山目指して走り出した。
「させるかよ」
「潰しあってくれるのは好都合だ、こっちは先回りするぞ」
カノーヴァと雷音丸はそれぞれ飛び立った。混戦を抜けて山頂目がけて飛ぶ。
「一つ聞きたい、皇帝が冒険者へ、直々に手を下そうとしている訳だが‥‥貴方は、手伝いに行かなくとも良いのかね?」
ラザフォードの問いに閻魔王は、
「強気じゃのう。行っても良いが、わしの代わりに亡者の面倒を見てくれるかの?」
「ふん、そうか‥‥」
ラザフォードは閻魔王を油断無く見つめると、グリフォンに乗って飛び去った。
「失礼ですが閻魔様――」
上空で羅刹と亡霊が戦う中、ベアータは問いかける。
「天沼矛の封印はあとどのくらいあるのでしょうか?」
「封印のう‥‥まあ片手で数えるくらいはあるのう」
閻魔はそう言って指を折って、あれとこれとあれも‥‥とうなって数えた。
「閻魔様、私も天沼矛について伺いたく存じます」
未楡も閻魔に問いかける。
「今知りうる情報だけでは、外見も秘めた力も判らず、神器の危険性も十分把握できません。出来ましたら‥‥天沼矛の形状や力について教えて頂けませんか?」
「ん? そうじゃのう‥‥天沼矛の姿は、有象無象。一振りで、ジャパンを沈めることも可能な代物じゃ。とても世に放てるものではない」
「それほどの力‥‥ですが、それでは分かりません」
「分かるように話しては、封印を守る意味が無い」
するとカルルが進み出た。天真爛漫な瞳で閻魔を見つめるカルル。
「にゃっす、閻魔様、ぼくはカルルと言います」
「にゃっす」
「あの〜天沼矛についてですけど〜、ど〜いった経緯で地獄に封印されているんでしょう? 持ち物としてはイザナミ・イザナギさんのモノだしっ。でもでも、国づくりをした大切なものを手放してるのもヘンな話だよね。もしかしたら、男女ふたりでないとつかえないのかな〜」
「ふむ。では簡単に説明するが、大昔、この国を天変地異が襲った。それは国を壊すほど強大であったゆえ、我らは天沼矛、国づくりの力を借りたのじゃ。そして二度と国が壊れぬよう、ここに封印を施した。‥‥従ってこの封印を解くことは出来ぬのじゃよ」
天沼矛の封印を解けば、再び天変地異が起きて国が滅ぶと閻魔は言う。
「でたらめだ! そう言って封印を解かせぬ気であろう!」
長髄彦はそう言って牙を剥く。
「あの〜大国主さんのことで、スサノオさんに倒されたという話だけど実際のところはどうなんですか?」
閻魔は肩をすくめる。
「大国主を倒したのは天津神と、それに従う勇者たちと聞いたが違うのか?」
そこで哭蓮が話題を変える。
「輪廻転生は珍しい現象ではない。ですが天意ならざる手段で前世の記憶を呼び戻る事は可能でしょうか?」
「その事です」
ベアータと未楡も大国主の秘術について尋ねる。
閻魔王は顎に手をあてた。
「ふーむ、魂は転生時に浄化される。記憶などは全て洗い流されるはずじゃが、稀に欠片が残り、記憶が蘇る事はあるが‥‥それを人為的に引き起こすとなると、何らかの手段で記憶を保管して移植したのか‥‥わしらには無い発想じゃのう」
「解除する方法を知りませんか?」
閻魔は思案顔で応える。
「記憶を呼び戻した方法が分かれば一番じゃな。原因を排除すれば元に戻るかも、しれん。それでも元に戻らぬ時は、別の手段で記憶を上書きするしかあるまい」
「上書きとは」
「記憶を操る秘術で、前世の記憶を消去してしまうのじゃ」
閻魔は洗脳術を使えそうな悪魔や天使、月精霊に心当たりがあるという。
「他に方法は無いのか?」
「あるぞ。地道に説得しろ。相手は操り人形では無いのじゃろう?」
蘇った国津神の記憶が、どれほど強固な意志であろうと、何年何十年も説得すれば転向しないとは限らない。
その頃‥‥。
山頂の祠に辿り着いたカノーヴァ、雷音丸、ラザフォードたちは要石を破壊していた。バーストアタックと魔法で要石は粉々になった。
すると、地震が発生して稲光が空を割った。金属的な破砕音がして、周りの空間が砕けると、針山はみるみると陽炎のように消滅していく。
「何だ! 巻き込まれるぞ! 逃げろ!」
脱出する冒険者たち。
‥‥こうして、とにかくも地獄での旅路を終えた冒険者たちは、一旦陰陽寮へことの次第を報告する。
哭蓮は復興の途上にある東寺を訪れ、文観を訪ねる。
「地獄は悪魔街に行って参りました」
哭蓮は文観にお辞儀する。
「『天沼矛』の秘めたる力、それを狙うは大国主だけではないでしょう。かの第六天魔王がどう出るか‥‥」
「悪魔の申すことゆえ、鵜呑みには出来ませんが‥‥閻魔の戯言でなければ、興味深い話ですな」
微笑を浮かべた文観に、
「そこで、高野山へ紹介状をしたためて頂きたいのです。天沼矛をどう管理すべきか相談したいのでねぇ〜」
「良いでしょう」
文観にも思うところがあった様である。文観から紹介状を受け取った哭蓮は、高野山に向かうのだった。