丹後の死人使い、黄曜
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月04日〜08月09日
リプレイ公開日:2009年08月13日
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●オープニング
丹後南部、大江山の山岳地帯から京都方面へ抜ける国境近辺において、丹後軍は京都からの支援物資を受け取っていた。
表だっての動きは黄泉人に悟られるため、丹後軍は密かに宮津から大江山へ移動していた。
物資を受け取って、侍たちの背嚢はたっぷりと食糧で満たされていく。
出来ることなら温かい味噌汁でも振る舞ってやりたいところだが、丹後軍二千人の腹を満たすだけの炊き出しは敵に悟られるかもしれなかった。厳しい戦いが続くが、侍、足軽たちは鋼のような精神力でこの状況に耐えていた。
「ここの兵士たちは、よく戦っているな‥‥」
「ええ‥‥」
金剛童子の鬼“天樹”とその妻である源細ガラシャは、土と汗にまみれながらも戦い続ける戦士たちの様子を見つめていた。
「いつの日か、昔のように民草が安心して暮らせる日が来ると良いのですが‥‥」
兵士たちの無事を祈るガラシャの肩に、天樹は大きな手を乗せた。二人には祈ることしか出来ないが‥‥。
そこへ、松尾寺の住職である陽燕和尚がやってきて、軍団の指揮官である藤豊武将の片桐、糟屋、また丹後の鉄州斎、中川、京極らに、不死軍出現するの報を持ってやってくる。
「不死軍とは‥‥御坊、敵はこちらへ向かっているのですか」
「いえ。恐らく偶然でしょう、大江山の北部から、こちらの方へ南下しているようですが、敵の規模は死人が数百程度ですので。尤も、こちらを探しているかも知れませんが」
それを聞いて、武将達は直ちに攻撃準備を進めていく。
「敵は少数、俺に手勢を貸して頂きたい。すぐに行って片付けてこよう」
彼らの前にやって来たのは京極高広。そこで陽燕和尚が高広らに注意を喚起する。
「申し送れましたが、亡者達を率いているのは、どうやら丹後の死人使い七人衆の一人――黄曜であるようです。私は黄曜を見たことがありますので分かります」
「それは好都合。連中には良いように民を蹂躙されてきました。黄泉軍の手足を切り取るまたとない好機。熟練の者を中心に兵を集めましょう」
「お気をつけて、敵も戦闘を予測しているのでしょう。丹後の民が鎖に繋がれて、鎧をまとった骸骨剣士や不死巨人兵に引きずられています。人質付きなのです」
「ならば、なおのこと捨て置けませぬ‥‥!」
高広は準備を進めていくと、京都にも依頼を出す。何かと不確定要素の多い丹後の死人使いだが、これまで二人を討ち取っている。果たして、黄曜を撃破すること出来るだろうか‥‥。
丹後軍の反撃が始まる。
●リプレイ本文
「あそこか‥‥」
京極高広(ez1175)は茂みの中から、死人の群れを見つめていた。
上空には複数名の冒険者たちが展開し、奇襲の態勢に入っていた。
ベアータ・レジーネス(eb1422)がヴェントリラキュイで状況を知らせてくる。
「和尚様が言われた通り、亡者の数は数百、その真ん中に民人が捕らわれています。民人の数はニ、三十名」
それからベアータは地上まで下りてくると、救出作戦の要であるリーマ・アベツ(ec4801)らにバーニングマップで人質の位置を指定して地図を燃やす。
燃え残った灰は克明に人質の位置を示して浮かび上がる。人質の周りは亡者の群れということになる。
上空をペガサスで旋回していた琉瑞香(ec3981)はデティクトアンデッドで者の群れを確認していた。
「間違いありませんね」
リーマはバイブレーションセンサーでも確認を行うと、頷いて見せる。
「では行きましょうか。勝負は一瞬に掛けましょう。亡者の群れを石化し、人質を救出、然る後に残敵を掃討、黄曜を倒すということで」
「アタイも一気に仕掛けます」
京極家家臣の忍び、木下茜(eb5817)は言って地図に目を落とす。
高広は刀を握り締めると、冒険者たちの策が成功することを祈った。
「行きます」
リーマは空飛ぶ絨毯に木下を乗せると、浮かび上がった。
「では高広様、人質確保と同時に突入して下さい」
「うむ、頼んだぞ」
リーマは上空から亡者の群れに突撃すると、ストーン超越級を完成させる。
見る間に亡者の群れの間に石化が始まっていく。
「人に仇名すアンデッドども! カオスハンター破魔刃の刃を受けよ!」
オラース・カノーヴァ(ea3486)はグリフォンで突撃すると、ソードボンバーで亡者の群れを薙ぎ払った。
「はっはっは‥‥逃げ場は無いぞアンデット等よ‥‥!」
ラザフォード・サークレット(eb0655)はグリフォンで急降下すると、ローリンググラビティを叩きつける。
木下はリーマの絨毯から飛び降りると、人質達のもとへ駆け寄る。
「大丈夫ですか、助けに来ました」
何事が起こったのか混乱している民を落ち着かせ、木下は民を繋いでいる鎖の鍵を道具でこじ開けた。
「丹後軍の依頼を受けて助けに来ました。黄曜は倒してここから逃げましょう」
と、木下は殺気を感じて振り返った。
「ふぉふぉふぉ、そう簡単にいくかのう」
見ると、ローブをまとった小柄な老人が立っていた。
「わしは黄曜じゃ、そう簡単に人質は渡さんぞ」
「黙れ」
木下はさっと稲妻の矢を放った――。
矢は黄曜を貫き、すると、黄曜は一撃でぼろぼろに崩れ落ちた。
「‥‥‥‥」
木下は眉をひそめて崩れ落ちた黄曜の残骸を見つめたが、とにかくも人質の鎖をこじ開けていく。
バラスプリントで瞬間移動したマグナス・ダイモス(ec0128)はバーストアタックで民を繋ぐ鎖を破壊していくが――。
「ふぉふぉふぉふぉ‥‥」
死んだはずの黄曜が別方向から姿を見せる。
「ふぉふぉふぉふぉ‥‥」
また別方向からも。
「何ですかこの魔物は?」
マグナスはフライで飛び掛ると、次々と黄曜を葬り去っていく。黄曜は一撃で崩れ落ちていくが‥‥。
「無駄なことじゃ。わしの肉体は不滅じゃよ。幾ら切られた所で痛くも痒くもないわ」
「一体どういうことですか‥‥」
合図を受けて降り立ってきたベアータが、木下やマグナスから状況を聞いて眉をひそめる。
ホーリーライトを落して人質救出を支援していた瑞香は、地面から次々と沸いてくるぼろぼろの死人の群れに眉をひそめる。
「新手ですか‥‥黄曜の術ですか?」
カノーヴァやラザフォードらが人質周辺の死人たちを撃破していくが‥‥。
「とにかくも人質の確保には成功しつつあります。高広様、突入をお願いします。黄曜はどうも身代わりの術か何かを使っているようですが。不審な点はありますが‥‥今を逃すと、新手の亡者に飲み込まれてしまうかも」
ベアータはヴェントリラキュイで待機していた高広ら侍たちと明王院浄炎(eb2373)に告げる。
「よし、行くぞ。浄炎殿、一気に勝負をつけよう」
「身代わりの術とは‥‥では本体はどこかに隠れているということか?」
浄炎は厳しい顔つきでガラントスピアを構える。
「突撃だ! 亡者どもを一体残らず葬り去ってやるぞ!」
高広の号令に、侍たちは「おお!」と声を上げて抜刀する。
突撃していく侍たちと浄炎。
カノーヴァとマグナス、ラザフォードらが退路を切り開き、外からは浄炎と高広らが亡者の列を割って討ち取っていく。
リーマの超越ストーンが再び炸裂し、死人の群れは次々と石に変わっていく。
「さ、こっちです!」
木下は民を先導しながら混乱する戦場を抜けていく。
瑞香が先頭に立って、ホーリーライトで接近してくる亡者を退ける。
「行け行け! 急げ! 黄曜とやらがどこから出てくるか分からんぞ!」
カノーヴァは民をせっついて殿に付いた。
「ふぉふぉふぉふぉ‥‥むざむざ逃がすと思うか」
複数の黄曜が立ちはだかり、手をかざせば、地中から亡者が飛び上がってくる。
木下は矢を立て続けに放って黄曜の身代わりを打ち倒していく。
「身代わりで死人を召喚するとは‥‥本体はどこに?」
ベアータは自身の知識から黄曜の実体を探り出そうとしたが、うまい方法が思いつかなかった。ムーンアローでもあればあるいは‥‥というところだが、仮に本体が複数ある場合はそれでも見分けることは難しいだろう。
「ふぉふぉふぉふぉ‥‥」
黄曜の身代わりはしばしば姿を見せては死人を召喚して倒されていく。
「ちっ、厄介な野郎だ。身代わりの術だと? 気に食わんがそうも言ってられん」
カノーヴァは剣を薙ぎ払ってソードボンバーを叩きつけると、迫り来る死人を吹き飛ばす。
「浄炎殿! 高広様!」
木下は何とか死人の群れを脱し、民を連れて外の味方と合流する。
「茜、民は無事か」
「はい! カノーヴァさん、これで全員ですね?」
「ああ、確認している。逃げ遅れはない」
「ご苦労だった」
高広は冒険者たちの労を労った。それから高広は、部下を数名民の護衛に付けると、死人狩りに乗り出す。
「黄曜は?」
「それが‥‥」
ベアータが顔を曇らせる。黄曜は身代わりの術でそこかしこから出没し、傍若無人に亡者を召喚してくる。
「本体はどこかにいるはずだな」
高広は思案顔で戦場を見渡す。
「ならば、いっそここにいる全ての亡者を倒し、残っているのが黄曜ではないか」
「それは考えた。単純明快だが。そう簡単にいくとは思えんが」
カノーヴァは肩をすくめる。
「だが有効であろう。奴も手駒を全て失えば、自ら出てくるしかあるまい」
「ふーむ」
「とにかく始めよう。リーマ殿の魔法で亡者の多数が石に変わり果てている様子。残敵を討伐するのはそう難しいことではないだろう‥‥」
‥‥かくして冒険者と侍たちは、次々と亡者の群れを撃退していく。黄曜の身代わりも何度となく姿を見せるが、これも撃破されていく。身代わりにはほとんど耐久がないらしい。
そうして、冒険者たちは全ての亡者達を退治する。
剣の露を払って、マグナスは戦場の跡を見渡す。
「これで‥‥雑魚の死人は全て倒したわけですが、さて」
と、森のそこかしこから、再び黄曜の集団が姿を見せる。
「ふぉふぉふぉふぉ‥‥これで勝ったつもりかの。だが、この通りわしは不死身よ。わしの術を打ち破る術はない。わしの真の姿は誰にも捕らえ切れんぞ。わしの姿を見た者は誰もおらん。お前達は、ここで死ぬのだ」
冒険者たちは周囲の黄曜に油断なく武器を構える。
「ふん‥‥死人憑きなど我々に通用せんぞ死人使い。地獄の悪魔王の息吹に比べれば貴様などそよ風も同然よ」
ラザフォードは言っていつでも詠唱できるように腕を構える。
「ふぉふぉふぉふぉ‥‥朽ち果てた肉体を操る我が秘術、見せてやろう。傀儡(くぐつ)の舞を見るが良い」
黄曜たちは手を差し出すと、何かを操るかのように腕を動かし始める。
「ぬっ、これは‥‥みなさん、気をつけて死人たちの亡骸が動き出しています」
瑞香の声にみな周囲を見渡す。
と、ばらばらになった死人の肉体が、骸骨が浮かび上がって、次々と合体していく。
「何だと? こんなことが‥‥」
カノーヴァは眉をひそめて不気味な傀儡の術を見つめる。
「ふぉふぉふぉふぉ‥‥傀儡の舞いじゃ‥‥」
合体した肉片は、体長十メートル近い巨大な亡者に姿を変えると、黄曜に操られて動き出した。
「ふぉふぉふぉふぉ‥‥我が術の前に敵無しじゃ」
冒険者たちは吐息して武器を構える。
「ふん‥‥今さらこんなことでは驚かんぞ死人使い。そんな出来損ないで俺たちを倒せるとでも?」
浄炎は巨体を揺らして前に踏み出すと、ガラントスピアをずしっと構えた。
「ならばお前から傀儡の餌食にしてくれるわ」
巨人の拳が浄炎に叩きつけられるが、浄炎は槍で薙ぎ払った。
カノーヴァが巨人の腕を一撃で切り落し、マグナスが飛び上がって次々と巨人を切り裂く。
魔法使い達も術を叩きつけるが、巨人は痛みを感じていない様子で襲い掛かってくる。
「身代わりを倒せば」
木下は矢を連射して黄曜の身代わりを次々と打ち抜いた。あっという間にぼろぼろに崩れ落ちる黄曜。
すると、巨人は動きを止め、操り糸が切れたように大地に倒れ伏した。
「ふぉふぉふぉ‥‥」
冒険者たちの背後から黄曜の笑声が鳴り響く。
「やるのう、だがこの丹後で、無限の黄泉軍相手に勝ち目はないぞ‥‥覚えておくがいい」
木下はこれも身代わりであろう――黄曜を打ち抜いた。崩れ落ちる黄曜。
「敵が離れていきます」
瑞香はデティクトアンデッドの反応を確かめながら言った。恐らく黄曜が逃げていくのであろう。
「こちらは民が救えれば良い。撤収するぞ」
高広は冒険者たちに告げると、一同その場から引き上げる。
これが、死人使い黄曜との戦いの顛末である。