関東決戦【裏】進む者たち
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月27日〜09月01日
リプレイ公開日:2009年08月31日
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●オープニング
関東、江戸――。
鎌倉を落した源徳家康の軍勢が間近に迫っていた。
江戸が戦場になることを察し、江戸から逃げ出す人が後を絶たない。町奉行所の方でも伊達や武田と協力して、江戸市民を避難させるのに忙しい。
大山津見神が壊した江戸城も半年が過ぎ、かなり復旧したがまた壊されるのか。頼りの伊達政宗と新田義貞は無事に房総から帰還するだろうか‥‥不安の種は尽きない。
「江戸城に忍びが入りこんだと聞きましたが‥‥」
藤豊家の武将アラン・ハリファックス(ea4295)が、留守政景を訪問する。政宗から江戸城を預かる留守は、関白の名代であるアランに慇懃に挨拶した。
「左様、源徳や北条の手の者はよほど江戸城が恋しいのでしょう、毎日のように来ますな」
伊達や武田も、ただでは返さない。忍び同士の熾烈な暗闘が、日夜繰り広げられているようである。
「攻められるばかりでは駄目だ。こちらから攻めなければ!」
江戸城の話を聞いて即断したアランは、返礼とばかりに少数での源徳陣営強襲を計画した。密かに冒険者ぎるどに依頼を出し、いざ実行という段になった所で。
アランは秀吉から源徳家康との最後の和平交渉を命じられる。
「‥‥むむむ」
これはアランにとっても予想外で、しかし間の悪いことにギルドから依頼を受理したとの知らせが届いた。
「家康が交渉に応じたならば、強襲は中止だ。交渉が決裂した時は‥‥源徳軍、江戸に入るまでに手傷なりと負わせてくれる」
無事に主命を果たした時は、依頼は無駄になるが戦が無くなるならば、それはそれで良い。交渉決裂、或いは交渉が長引く事も考えられない訳ではない。
流動的だが、延期すれば時を失う恐れもあった。
「家康が交渉に応じず、江戸が戦により源徳の手に渡れば、京都には永遠に増援は来ない‥‥一歩も引く訳にはいかん!」
源徳軍は言うに及ばず、戦火に煽られた関東情勢はどこもかしこも危うい。
四公の一人に数えられる上杉謙信は尾張に滞在し、お市と虎長に分裂した平織家も様々な動きを見せている。次に何が起きるか、誰にも分からない。
様子を見る者が多いが、だからこそ先んじた時の効果は大きい。無論、足を踏み外す恐れもあった。この選択が、後になって分かれ目と思い出す事になるかもしれない。
●リプレイ本文
「‥‥左近衛将監殿、関白殿下にお伝えあれ。この家康、残念ながら今は殿下の意にお応えすることは出来かねますと」
「それがお答えですか、源徳殿」
「‥‥‥‥」
家康はじっと関白秀吉の勅使である左近衛将監アラン・ハリファックス(ea4295)を見つめる。予想はしていた。アランは吐息して立ち上がる。
和平交渉は決裂である。
――かくして源徳軍は多摩川を越え、いよいよ江戸市中へ襲いかかろうと態勢を整えつつあった。
江戸はパニックに陥っていた。
民は右往左往して、噂が飛び交い、市街地は恐慌状態に陥っていた。
「皆さん落ち着いてください。軍隊はそこまで迫っていますが。まだ時間はあります。冷静に避難して下さい」
交渉決裂となった今、チサト・ミョウオウイン(eb3601)に出来ることは出来るだけ民を逃がすこと。チサトは江戸市中を奔走して、小さな体で声を張り上げて民を誘導した。
「やるしかないでしょう、状況は選べませんが‥‥」
ベアータ・レジーネス(eb1422)は言って、仲間達の前でバーニングマップで地図を燃やす。多摩川を越えた源徳軍の周辺の地勢を書き込んだ地図は次々と燃え上がって、幾つかの道筋を示す。ベアータが指定したのは「新撰組」「源徳軍の兵糧」「源徳軍の名声高い武将」である。
アランは道筋を見つめながら、自ら率いる藤豊兵五百の将兵に言った。
「我々の目的は新撰組の撃滅だ。源徳陣中に立つ『誠』の旗を目印とせよ。奴らは手強い。五人一組で打ちかかれ」
「新撰組‥‥京都の民からの印象も最悪、戦いにも和平にも、今後、確実に邪魔になってくるだろう。この点は源徳側の志士や陰陽師達も同様だ。神皇様の敵に与した者達。せめて、同じ志士の俺の手で‥‥」
天城烈閃(ea0629)は言って思案顔で地図に目を落とす。
「都の民を見捨てて去った罪の代価、きっちりとあがなってもらいましょうか」
言ったのはゼルス・ウィンディ(ea1661)。先ごろ京都で新撰組関連の依頼に顔を出し、源徳のもとに走るのはよせと忠告した。
「親方様には三つ者をお借りしておいた。源徳軍が混乱している間に兵糧や攻城兵器を焼き払っておく算段だが」
武田家参謀のカイザード・フォーリア(ea3693)が言うと、アランは頷いた。
「こちらは少数、源徳軍に少なからず打撃を与えるに手段は選ばん」
「竜胆零(eb0953)推参」
女忍者が腕組して瞳に静かな光を湛えている。
「多少なりと敵軍の兵糧を焼いてくれよう。兵糧の一部が焼ければ、奴らの撤退の一助にもなろう」
「交渉は決裂でありますか。ならば当初の予定通りですな」
御多々良岩鉄斎(eb4598)は豪腕をぶんぶんと振るった。やる気満々だ。
「和平なんてヌルイ事言ってると死ぬわよ。蘇生に使う魔力も手間も無限じゃないんだからね」
シフールの僧侶レベッカ・カリン(eb9927)は言って、改めて厳しい口調。強襲作戦という趣旨に賛同して参加したので、当初は仲間達の和平への煮え切らない動きに不満であった。
「ここまで攻めてきて今さら和平って、家康って人はそんな甘いタイプじゃないでしょ」
占領された鎌倉を見て、とレベッカは厳しい表情。
「結局どちらかが潰れるまで戦うしかないのよ。それが乱世ってもんでしょう」
「ふむ‥‥交渉が潰れるのは予想のうちではあったが‥‥」
アランは唸った。
「結局カリンの言う通りだったな。殿下に吉報を持ち帰ることが出来なかったのは残念だが」
そうして冒険者たちは多摩川を越えて野営を張る源徳軍に接近する。
夜になって行動を開始する。藤豊兵五百を率いるアラン、飛行ペットに乗ったゼルス、烈閃、ベアータたち、そして地上から接近するカイザードに岩鉄斎、カリン、雫たち‥‥その目標は、意外にも新撰組への攻撃であった。
源徳軍の警戒は厳重であった。アランたちの攻撃を全く予期していたように、矢がびゅんびゅんと飛んできた。実際には源徳の陰陽師たちがフォーノリッジで襲撃を予想していたのである。源徳軍も最悪の事態に対する備えは取っていた。アランたちの進撃ルートには、確かに新撰組の隊旗も立っていたが、源徳の兵士たちも展開していた。
「ぬう‥‥止まれ」
アランは部隊の足を止める。
「反応が早い。予想されていたか?」
敵に陰陽師がいるなら、こちらにも陰陽師がいる。最悪の事態は予測済みである。アランは無理をせずに軍を止めた。
「アラン殿! 今しばらく待って下さい! 敵陣に穴を開けて見せます!」
ドラゴンで上空を旋回してゼルスが叫ぶ。
源徳軍の防御と言っても、新撰組はそもそも少数の一部隊。守りも手薄い。
ゼルスは敵陣に超越ストームにトルネードを叩き込んだ。吹き荒れる暴風が源徳軍をなぎ払う。
源徳軍に動揺の声が広がる。同時に軍の一角が木っ端のように吹っ飛び、陣は粉々に吹っ飛んだ。
「誠の隊旗‥‥見つけたぞ、新撰組」
烈閃はロック鳥で源徳軍の上空を飛びながら、超絶的な威力にまで強化された弓を叩き込んでいく。混乱する源徳軍。ゼルスの超越魔法はまさに激烈な破壊力で源徳軍を混乱に叩き落した。
クイックシューティングで素早く矢を打ち込んでいく烈閃。雑兵は一撃で打ち抜かれて倒れていく。
烈閃は混乱する源徳兵、新撰組隊士を空から撃ち殺していく。
ベアータもドラゴンに乗りながら上空を飛ぶ。ブレスセンサーで敵陣の動きを探りながらヴェントリラキュイで仲間をナビゲートする。
「敵の動きに目立った変化無し。アランさん、ゼルスさんの魔法で敵陣は混乱しています」
さらに雫が偵察から戻ってくる。
「ゼルスの魔法は大したものだ。敵陣は大混乱だ」
「よし‥‥」
アラン、カイザード、岩鉄斎らは前進する。
「行けアラン殿、援護するぞ」
カイザードは岩鉄斎とともに前に出ると、超越オーラアルファーを叩き込む。
「鉄弓隊、攻撃開始」
アランの号令で、自ら用意した藤豊兵の鉄弓隊が源徳軍の戦列に攻撃を開始する。
源徳軍からだんだら模様の羽織をまとった新撰組隊士が姿を見せる。
新撰組もピンからキリまでいるが、熟練の隊士は凄腕の剣客だ。
アランは兵士たち、侍達に改めて注意を喚起する。
「五人一組で新撰組を潰せ! 奴らは手強いぞ!」
アランやカイザードも侍数名を率いて新撰組隊士に向かう。
「集中集中‥‥」
烈閃は呟きながら確実に超絶的破壊力の矢を叩き込んでいく。ばたばたと倒れていく源徳兵や新撰組隊士たち。
雫は混乱する源徳陣中に入り込むと、人遁の術で足軽に変身し、敵の兵糧に火を放っていく。
とは言え、アランたちの奇襲攻撃は新撰組が標的なので、源徳本隊の方へ足を向けることは出来ない。警戒レベルがこことは比べ物にならないからだ。
「為せることを為すか‥‥多くは望めんな」
雫は淡々と言って火を放っていくが。
「そこまでだ隠密」
新撰組の一人がいつの間にか雫の背後に立っていた。
凄絶な剣気に雫はとっさに身を翻した。が、遅れた。雫は腕を切り飛ばされた。
「く‥‥何だと‥‥!」
雫は腕を拾い上げる。
雫の前に立っていたのは、新撰組副局長、土方歳三であった。新撰組最強クラスの剣客である。
土方は一歩前に踏み出したが――。
「こんな怪物相手に出来るか」
雫は透明化の指輪で姿を消すと、さっさと逃げ出した。
「近藤さんが心配だ‥‥まさか本当に俺たちを狙ってくるとは‥‥」
土方は混乱する戦場を見やり、上空のゼルスの姿を見出す。
「あいつは‥‥この間の‥‥」
ストームを叩きつけているゼルスの姿を見て、土方は過日のゼルスの言葉を思い出していた。
新撰組局長、近藤勇はこの奇襲攻撃が新撰組の撃滅を目的にしたものだとは知る術もなかったが、次々と倒れていく部下たちを前に増援を頼んでいた。
ゼルスのヘブンリィライトニングと烈閃の弓矢は恐るべき威力で、次々と新撰組隊士を撃ち殺していく。
そこへ殺到するアランたち。
ベアータは上空からヴェントリラキュイで官制を行いながら、かがり火の炊かれた源徳陣中を見渡していた。
「見つけたぞ。あいつは‥‥新撰組局長、近藤勇」
アランは乱戦の中で近藤の姿を発見する。アランはゼルスに手を振って合図を送る。
「‥‥あそこですか、新撰組局長」
ゼルスは近藤の姿を発見して、急降下する。
「お久しぶりですね、皆さん。都で宣言した通り、その偽りの正義の下に掲げられた隊旗、破壊させていただきに参りました」
「貴様は‥‥この間の!」
近藤は怒りに顔を真っ赤に染めた。
ゼルスは問答無用でヘブンリィライトニングを落した。
が、近藤は無傷だ。
ゼルスはライトニングを連発したが、近藤は軽くよろめく程度。
「ふむ‥‥レジストマジック‥‥ですか」
「近藤さん!」
そこで土方が姿を見せる。
「無事でしたか。魔法使い、貴様生かしては返さんぞ」
飛び掛ってくる土方をアランが跳ね返す。ゼルスは上空に退避すると、土方をヘブンリィライトニングで撃ったが、こちらもレジストされた。
そこでベアータから源徳勢の増援が来たと知らせが来る。
「‥‥みなさん、敵の増援がようやく来ます。そろそろ潮時でしょう」
「ここまでか‥‥引き上げるぞ! 撤収だ!」
アランは部下達に告げると、ベアータも地上の仲間達に撤退を促していく。
殿に着いた烈閃は追撃してくる敵を葬り去った。カイザードと岩鉄斎は残りのオーラアルファーを叩きつける。
「終わったの? こっちも結構やられたけど‥‥何とか兵士は無事ね」
カリンは引き上げてくる仲間達を見やり、今は雫の腕を結合していた。
「新撰組には打撃を与えた。ここまでが限界だろう。混乱を招いているうちに逃げるぞ」
重要人物のガードはさすがに固かったが。多くは望むまい。持ち寄ったポーションで兵士たちの怪我を回復させると、冒険者たちと藤豊兵は撤収する。
この奇襲攻撃により、源徳軍の新撰組部隊は多少なりと打撃を受けたのであった。