太古からの目覚め・3

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:09月07日〜09月12日

リプレイ公開日:2009年09月16日

●オープニング

 丹後、大国主の針の岩城に、数多の人間たちが集まっていた。古代人の服装をした彼らはみな国津神の名前を持つ者たちである。大国主の転生の秘術によって前世の記憶を取り戻し、国津神として復活したのである。どの顔にも歓喜が見える。前世にて七生報国を誓い、現世で再び大国主の下に集えた事を喜んでいるのだ。
 だが彼らを迎えた大国主の顔が冴えない。
 転生の術は完全ではなかった。いや前世の記憶を呼び覚ます事には成功したが、今生の記憶は消えない。二つの記憶は国津神を苛んだ。比類なき忠誠心から、来世でも大国主と共に戦う事を選んだ彼らだが、前世の記憶を夢のように感じ、半信半疑で丹後へ来た者も少なくなかった。
「‥‥そこで、お前に頼みがあるのだ、天探女」
 大国主は傍らに立つ上等な着物を着た美しい女性に語りかける。天探女――どうやら神の名前のようであるが、大国主と近しいのか。
「あなたが亡霊たちの王とは‥‥さっさと京都を落してこの乱世を終わらせなさい。関白や神皇と語り合ったとて分かり合えるはずも無し、イザナミの方がまだ話が通じるでしょうに」
「力で攻め滅ぼせばいずれ禍根を残す。聖人君子を気取るつもりは無いが、余は力を持っていたにも関わらずアマテラスたちに敗れた。今生にて同じ徹を踏むわけにはいかんのだ」
「ふーん、倭国の大王に人の心が残っていたとはねえ‥‥」
「天探女、お前には辛い頼みをすることになる」
「え?」
「国津神たちの、今生の記憶を消してもらいたい」
 丹後に来た後も、二つの記憶に苦しむ国津神の姿に大国主は心を痛めていた。国津神は何れも非常な決意で来世を差し出した者だが、人の懊悩を超越してはいない。苦しむ国津神の一人が大国主に現世の記憶を消して欲しいと頼んだ。
「消せない事は無いけれど、どんな悪影響が出るか分からないのよ。敵に使うならまだしも‥‥国津神は私の友」
「分かっている。これは最後の手段だ」
 前世と現世の記憶に折り合いを付けている国津神も少なくない。目下、大国主は国津神達とどうするか協議中である。
「考えておいてくれ。差し当たり、一人確実に記憶を消してもらいたい者がいる。京都に捕まっているヤズタノカヅチだ。陰陽寮に過去の秘密を喋っておるそうな。すぐに手を打ってくれ」
「なるほどね‥‥ヤズタノカヅチが。それは引き受けましょう。でも、私は国津神たちの記憶を操作するのには反対ですからね」
 そう言うと、天探女は腕を一振りして閃光とともに消えた。

 丹後の物の怪の総大将、白狐は、畿内のとある山中深くにあって、京極高広(ez1175)とともに美しい虹を映し出す滝の前にいた。
「一体どこまで行くつもりだ白狐よ」
 見ると、白狐は大岩の前でひざまずいていた。
 大岩の上には、何と、ひときわ大きな白毛の九尾の狐が鎮座していた。
 高広は呆然とその姿を見つめていた。
「天狐様――」
 白狐が白毛の九尾に呼びかけると、天狐はテレパシーで応える。
「どうしましたか。私のもとへ来るとは‥‥あなたには為すべきことがあるはず」
「それは‥‥こちらの若者から」
 高広は慌ててお辞儀する。
「天狐様、大国主の件でございます。あの者が使う転生の秘術を御存知ですか」
「古い話ですね‥‥国津神復活の件は聞き及んでいますが?」
 高広は汗を拭いながら続ける。
「天狐様におかれては、転生の秘術を打ち破る術を御存知と聞き及びました」
「なるほど」
「大国主の術を破ることは可能でしょうか」
 天狐は穏やかな瞳で高広を見つめる。
「私は大国主ほど術に長けているわけではありませんが、道具の助けがあれば、破る術を心得ています」
「おお、その道具とは‥‥?」
「何でも良いという訳ではありません。術の力を高める数珠のような物を使います。但し、一度使った術具は使い物にならなくなりますよ」

 京都――。
 陰陽寮の重鎮賀茂光栄は、比叡山を訪ねていた。陰陽寮に捕らえている静香の件である。僧侶達は、光栄の話を聞いて、関心を掻き立てられたようである。
「転生の秘術とは‥‥私たちも聞いたこともありませんが、さて、御仏の祈りの力で何とかなるものですかな」
 ともあれ高僧たちは光栄の願いを聞き入れる。
「ひとまず、その静香という娘を連れてきなさい。大国主の転生の秘術が破れるかどうか、調べてみましょう。延暦寺は、悪魔の術に捕らわれた犠牲者を見捨てはしません」
「高僧におかれては、何か妙案がおありですかな」
「正直分かりません。御仏におすがりしてみましょう‥‥」
 高僧は穏やかな笑みを浮かべる。
 賀茂光栄は唸った。これも神頼みか。果たして延暦寺に解決策はあるのだろうか‥‥。
 丹後――。
 陽燕和尚は、某所にて悪魔鳩摩羅天を訪問する。悪魔は驚いた風もなく和尚を出迎える。
「安底羅大将か――わざわざのお越しとは何用だ」
「国津神復活の件は知っていよう。お前は国津神たちの魂の分離を行うことが出来ると聞いている。転生の秘術を打ち破ると。だから取引に来た」
「馬鹿か貴様は。悪魔が天使と取引するものか。と、まあ一応聞いてやろう」
 すると、陽燕和尚の背後から、源細ガラシャ(ez1176)が姿を見せる。
「私の魂と引き換えに、転生の秘術を打ち破って頂けると聞きました」
「ほう‥‥仏御前が魂を‥‥」
 鳩摩羅天は不敵な笑みを浮かべる。
「それは構わんが、国津神一人を救うに付き、お前の魂の十六分の一を頂くぞ。つまりお前が救うことが出来るのは、十六人の国津神だ」
 陽燕和尚はガラシャを見つめる。
「ガラシャ殿、悪魔は契約を履行するかも知れませんが、こやつが欲しいのはあなたの魂なのです。不条理な契約を行うことはありませんぞ」
「‥‥‥‥」
「ふん、どうするか。そっちで決めろ。契約は守る」
 鳩摩羅天は余裕の笑み。
 ガラシャは‥‥。

 冒険者ギルド――。
 賀茂光栄は、冒険者たちを集めると、大国主の転生の秘術に関連したことで、方々で動きがあることを知らせる。
 一つは大国主のもとに現れた月の大精霊・天探女、何でも強力な妖術の持ち主で他人の記憶を操ることが出来る‥‥という話である。
 そして二つ目が狐神の上位妖怪、九尾の狐・天狐との接触。この神獣天狐は特別なマジックアイテムさえあれば転生の秘術を破って見せると言った。
 さらに三つ目が延暦寺。ジャパン有数の高僧が集まる総本山である。彼らには確信は無いものの、転生の秘術に関心を寄せた。何か手掛かりがつかめるかも知れない。
 さらにさらに四つ目が丹後の悪魔鳩摩羅天との取引。この悪魔は魂と引き換えに大国主が秘術に用いた国津神の魂の欠片を分離できるという‥‥。
 動き出した天探女、九尾の狐・神獣天狐、延暦寺、鳩摩羅天――彼らに対するアプローチで転生の秘術を打ち破る術があるかも知れないと光栄は説いた。
 そして静香――ヤズタノカヅチの今後をどうするか。地道な説得を続けるのか、それとも秘術には秘術で対抗し、彼女の前世の記憶消去を依頼するか。
 差し当たり、光栄は手元にいる国津神、ヤズタノカヅチ――静香の処遇をどうするか、冒険者たちに任せることにしたのであった。

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb3601 チサト・ミョウオウイン(21歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5817 木下 茜(24歳・♀・忍者・河童・ジャパン)
 ec0569 ガルシア・マグナス(59歳・♂・テンプルナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

サントス・ティラナ(eb0764)/ ミラ・ダイモス(eb2064)/ 琉 瑞香(ec3981)/ 賀茂 慈海(ec6567

●リプレイ本文

 京都御所――。
 ベアータ・レジーネス(eb1422)と木下茜(eb5817)は親征の準備で忙しい藤豊秀吉を訪ねる。秀吉は軍議の合間を縫って会った。
「陛下の御親征とあらば、この秀吉命をかけねばならんでな」
 頭を下げるベアータと木下に秀吉は軽く手を振った。
「京極殿には何かと苦労をかけておるな。して何用じゃ」
「大国主の件でござます」
 ベアータは九尾の天狐の力を借りて、大国主の転生の秘術を破れそうだと告げる。
「青木一重を取り戻せるなら、狐の力を借りるにやぶさかではないが。しかし九尾とは‥‥」
 江戸で暗躍した白面金毛九尾の狐は関東に壊滅的なダメージを与えた。天狐は稲荷神の使いで妖ではないそうだが‥‥。
「殿下、今後の国津神対策に、アラン様などが比叡山の助力を得ようと動かれるつもりです。天狐様の儀式に、寺社仏閣の関係者を同行させること、お許し願いたく」
 ベアータに続いて、木下も奏上する。
「大国主側が、デビルと組んでいる以上、天狐様の存在と、対抗する術がばれれば対抗手段を行われる可能性が高く、大国主の術で、前世の記憶を持った方は、自らが壊される程の恐怖を持ち、捕らえられたら自決したり、悪鬼を自らに憑依させ、魂を捧げる等で、大国主への忠義を行うかも知れません」
 木下は熱心に説いた。
「捕縛の際には、厳重に注意して慎重に事を進める手筈と、術の補助と、自決や悪鬼の干渉を防ぐ為の術士の用意が急務だと思えます」
「そこで僧侶達との協力が必要か‥‥」
 秀吉は暫し考えて頷いた。
「再三言っておるように、妖怪の協力を得よとは言えん。だがお前達の言葉を信じればこそ、此度は天狐の力を借りるのに止めはせん。ただし、僧侶たちが邪法と断じておるものをわしが支持することは出来んの」
「‥‥‥‥」
 ベアータも木下も平伏する。
「とは言え、狐が青木を取り戻してくれるなら大いに結構。わしは見ぬ振りをしておこう」
 秀吉はそう言うと、立ち上がった。

 比叡山――。
 アラン・ハリファックス(ea4295)に白翼寺涼哉(ea9502)、チサト・ミョウオウイン(eb3601)とメグレズ・ファウンテン(eb5451)、そしてベアータや木下は僧侶達を訪ねる。
「賀茂光栄殿から話しは伺っておりますが‥‥妖怪の力を借りるのですか」
 高僧達は冒険者たちの話を聞いて首を傾げる。
「御仏は必ずしも妖怪に対して寛容ではありませんぞ。記憶操作などは彼らが操る邪法。秘術と聞けば陰陽寮は相変わらず熱心ですな」
 アランは慌てて捕捉する。
「これは悪魔の術に関する手掛かりを探るためのもの。どうか御坊には国津神を救うためと思って頂きたい」
 白翼寺も進み出る。
「今は国難に立ち向かう時――そんな中、大国主の元に民を集まれば、黄泉との戦の妨げとなります。魂を奪われた者への救済、医師として協力しましょう」
 白翼寺はサントスに比叡山周辺の鬼が僧侶と手を結んでいないかを探らせたが、酒呑童子も現在すっかり息を潜めていて、鬼は沈黙していた。
 そしてチサトも口を開いて僧侶達の説得を試みる。
「是非ともみなさんの協力が必要です‥‥。まず一つには、分離された国津神の魂の保管が懸念されます‥‥。そして二つには、火急な対処を必要とする者以外については、基本的に皆様始め僧侶に委ねていきたいと考えます。全ての国津神を解呪するだけ、強力な補助具の数を揃える事は非現実的ですから‥‥可能な限り地道な手段で方策を探るべきです」
 メグレズは秘術の儀式のために千両を比叡山に寄進して、写経「法華経」を見せて提案する。
「皆さんのお考えはよく分かります。しかし丹後の狐神、白狐と言えば現に民のために黄泉人の盾となり戦い続けております。私も神聖騎士。御仏はそのような者であっても邪悪だと言うのでしょうか」
 そしてベアータや木下は秀吉からの暗黙の了解を伝える。
 すると高僧達は囁き合って相談し、改めて冒険者たちの方を向く。
「天台宗が表立って邪法に加担するわけには参りません。この話しはお受け出来ません。国津神を連れてくれば話しは別ですが」
 その後ベアータとメグレズが京都の寺社仏閣に声を掛けて回り、幾人かの僧侶を集めることには成功する。
 他の冒険者たちは静香を連れて天狐のもとへ向かう。

 天狐への道中にはチサトと月詠葵(ea0020)が静香の話し相手になった。静香も突然のことでどこへ連れて行かれるのか不思議がっていた。陰陽師が付いて一応チャームを掛けていたが大国主のことを忘れるわけは無い。
 葵は異国での冒険談、華国の生活の話しであったり、仕事の見回りで良く行く嶋原の遊女のお洒落の仕方など、静香の気持ちを紛らわせるように話しかけていた。
「国津神さんの魂は、静香ちゃんの体に間借りしてただけ‥‥です。もうすぐご両親の元に帰れるようになりますから」
 チサトはそう言って、静香に微笑みかける。
「私‥‥これからどうして生きていけばいいのか‥‥」
 ベアータは慈海からの伝言を伝える。
「慈海さんからの伝言です。あなたの人生はあなたのものです、と慈海さんが」
「私の人生は‥‥私のもの‥‥」
 だが今の静香にはそんな言葉も空しいようであった。

 ‥‥夜。月明かりが煌々と照らし出していた。
「嫌な月夜だ」
 護衛役のガルシア・マグナス(ec0569)は言って、空を見上げる。敵は月の大精霊、天探女。月明かりは敵の味方になる。
 葵の美しい少年の顔が厳しいものに変わっている。
「確かに、嫌な夜なのですね」
「それにしても悪魔の力を借りた記憶操作か、あの娘も不憫だな」
「静香お姉ちゃん、可愛そうなのです。でも、狐の神様が直してくれるそうですから‥‥」
 そこで葵とガルシアは顔を見合わせると、仲間達を起こした。
「敵か?」
「気をつけろ。嫌な気配がする」
 そこで、木陰から人々が飛び出してきた。月明かりに浮かび上がった人々は古代人の服を着ていた。
「お前は!」
 アランは叫んだ。
「青木一重!」
「アラン・ハリファックス、奇遇だな」
 青木は現在コゴシという名の国津神であった。
「何でお前がここに」
「ヤズタノカヅチの動きは見張っていたわ」
 そう言って、地面の影から天探女が姿を見せる。さらには大国主の亡霊兵士が出現する。
「意外に警戒が厳重で手こずりそうだな、天探女」
「長髄彦、ご苦労様。さて、あなた方、おとなしくヤズタノカヅチを渡してもらえるかしら」
 冒険者たちは抜刀すると、敵の攻撃に備える。
「やる気満々てわけね」
 天探女は腕を一振りするとスリープを唱えたが、レジストやエリベイションで無効化される。
「下がって下さい女神様」
 青木が前に出てくると、長髄彦が亡霊たちを率いて襲い掛かってくる。
「護衛に構うな! ヤズタノカヅチを殺せ!」
 長髄彦は配下の亡霊に合図を下して攻撃を開始する。
「妙刃、破軍!」
 メグレズの凄絶なソードボンバーが亡霊たちを粉々に吹き飛ばす。
 葵が、ガルシアが、冒険者たちは静香を庇い、次々と大国主の兵と亡霊たちを蹴散らした。
「ベアータ! 頼む!」
 乱戦に紛れて青木を沈めたアランはベアータのアイスコフィンを要請した。氷付けにされる青木。
「ちっ、もっと兵を連れてくるべきだったか」
 長髄彦は手勢が打ち倒されると退散する。天探女も兵士たちを引き連れてムーンシャドウで脱出する。

 ‥‥それから天狐の山へ辿り着いた冒険者たちは、白狐の出迎えを受ける。
「ようこそ。丹後の白狐より話しは伺っております」
 天狐は大岩の上で鎮座していた。冒険者がやってくるのを待ち構えていたようである。
「あなたが天狐か。転生の秘術を打ち破ることが出来ると聞いた」
 天狐はテレパシーで応えた。
「人界は荒れているようですね。大国主に付け入られるのも無理は無いことです。とは言え今は、イザナミや大国主を、誰かが止めねばなりません」
 人々は、天狐が人界の禍について話すのを不思議がった。
「さて‥‥数珠は持ってきましたか?」
 冒険者たちは静香を前に出し、コアギュレイトで捕縛した青木を運び込んだ。みなそれぞれに持ち寄った数珠となる魔法補助の道具を天狐に差し出した。
「私をどうするつもり? 秘術を破るって?」
 祈り紐を持った静香は、冒険者たちを顧みる。
 パニックを起こす前に、白翼寺はコアギュレイトで静香を捕縛した。
「前世の記憶を消すのは、この二人ですか」
「お願いします」
 すると、天狐は複数人の白狐を呼び寄せ、儀式を開始した。
 着物を着た白狐たちは若木を持って、静香と青木を取り囲み、「あ〜、せいや〜! せいや〜!」と歌い始めた。白狐たちは歌いながら静香と青木の周りを、若木を振って歩き始める。そして天狐の体が鈍い光を放ち、若木も光り始めた。
 みな天狐の神通力を固唾を飲んで見守った。そして、ぴかっと光が爆発し、オーディンの杖とスキールミルの杖は、本当に数珠に姿を変えた。
 みなが目を開けると、静香と青木は気を失っていた。
「この数珠に、二人の前世の記憶を封じました。数珠は私が保管します。再び記憶を解放する時に、この数珠が必要となります」
「記憶? 魂を取り除いたのではないのですか?」
「私の術は悪魔の術とは異なります」
 かくして儀式は終わった。

 ‥‥京都。
 静香は両親のもとへ送り届けられた。本当に前世の記憶だけが完全に消失し、陰陽寮で過ごした日々は疑問を残したものの、静香は元気に家族のもとへ帰った。
「一体何があったの? 夢を見ていたみたい」
「静香!」
 両親は静香を抱きしめた。

「殿下、青木一重、戻りましてございます」
「おお、青木か!」
 秀吉は青木の手を取って喜色を表した。
「‥‥どうやら大国主に操られていたようですな。殿下、丹後の大国主軍は強大。敵に回せば厄介ですぞ」
「待て、陛下がイザナミへの親征を決められた。お前にも働いてもらうぞ‥‥」
 こうして、静香と青木一重は前世の記憶から解放されたのである。