丹後の戦い、民人救出へ
|
■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月15日〜09月20日
リプレイ公開日:2009年09月23日
|
●オープニング
丹後、宮津城――。
黄泉の大将軍八十禍津日神は、不死の軍勢を宮津城周辺に展開して、情勢を伺っていた。
「おのれい丹後軍‥‥! どこまでもしぶとい奴らよ! 大国主と言い都の武士達と言い、イザナミ様に勝てるつもりか!? どこまで抵抗するつもりだ!」
八十禍津日神は荒れていた。先ごろの丹後軍との戦いで、まんまと人質を取り戻されて出し抜かれた。
丹後黄泉軍の副将であるネクロマンサー導師はびくびくしながら丹後軍の行方が掴めるのを待っていたが‥‥。
禍津日神は怒り狂って手近な死人憑きを叩き潰していた。
「禍津日神様‥‥恐れ多いことながら、丹後軍を捉えるには、こちらから仕掛ける以外に道はないかと存じます。我らは大軍、休むことなく敵を追い、人間どもを疲労の極みに追い込むが上策でございます」
「それが出来ておればとっくに丹後軍は地上から消滅しておるわ。それよりも、新たな人質を捕らえて奴らの心を砕き、我等への抵抗など無意味だと悟らせるのだ」
「ですが‥‥噂に拠れば、京都の神皇がイザナミ様への反転攻勢を企てていると、人界ではもっぱらの話です」
「こしゃくな小僧が、あのような子供に何が出来るものか。大禍津日神は何をしておる。さっさと神皇の首を取れと言っておけ。さあ、人質はどこにいるのだ? まさか丹後から人間が消えうせたわけではあるまい‥‥」
‥‥丹後山中にて、徘徊する怪骨や死人憑きを侍達が討ち取っていく。侍達は亡者達を滅多切りにして粉砕すると、額の汗を拭った。彼らの顔や鎧は長い戦いで泥にまみれている。連夜の戦い、いつ襲ってくるとも知れぬ黄泉軍の不死兵。だが過酷な戦いに、彼らは耐えていた。瞳は静かに、希望の光を失ってはいない。
「‥‥よし、やったぞ」
侍たちは亡者達を片付けて、黒僧侶の生命感知の魔法で隠れている民を探し出す。秀吉が丹後軍へ派遣した忍びが彼らを先導する。
山の穴倉に、一家は隠れていた。やってきた丹後軍を見てかすかに悲鳴を上げる。
「待て。京都からの救援だ。助けに来たぞ」
「助けですって?」
「待たせたな、さあ、もう大丈夫だ。周辺の黄泉人は片付けた。逃げるぞ」
民は丹後軍に保護されると、それから京都へと送り届けられた。
――冒険者ギルドに依頼が舞い込んだのはそんな状況下でのこと。
「丹後で民の救出作戦が進んでおります」
ギルドの職員は、丹後の状況を知らせる。秀吉が忍びの増援を送ったことで民の救出は急ピッチで進んでいるという。余り知られていないことではあるが。
どうやら八十禍津日神は苛立ちを募らせているという。
安祥神皇がイザナミへの戦いに向けて準備を進める中、それは丹後軍の将兵を勇気付けた。
「皆さんには、黄泉人の妨害を取り除いて、丹後の民の救出に向かってもらいます」
そう言ってギルド員は丹後軍と合流するように伝える。軍から示されているのは、山の廃村に取り残されているという一家を救い出すことである。
ギルド員は、依頼書を差し出しながら、さらに詳しい情報を冒険者たちに説明するのだった。
●リプレイ本文
「‥‥亡者どもは大よそ村の周辺に点在している。村の一家が発見されるのは時間の問題であろうから、一刻も早く奴らを片付けてしまう必要があるな」
藤豊の忍びは、そう言って冒険者と足軽たちを先導していた。
「民人救出が順調に進んでいるというが、黄泉人の戦力もいまだ健在であり、奴らを倒さぬ限りは、つまるところ丹後に平和は永遠に来ないわけだが‥‥」
明王院浄炎(eb2373)は忍びの後を着いていきながら、草木をなぎ払った。
「聞くところによると、神皇様がイザナミ討伐に向けた親征を開始されるそうな。だが、それだけの大掛かりな戦い、今の京都にそれだけの戦力が?」
浄炎の問いに、忍びは唸った。足軽たちも耳をそばだてて聞いている。神皇親征の話しは丹後にも流れてきていた。イザナミを打倒し、西国の闇を払う。神皇の決断は民を驚かせている。
「陛下のご決意は固いそうだな、何が陛下を変えられたのかは分からないが‥‥」
「親征の折には、俺も黄泉人との決着をつける戦いに臨むつもりだ。幾万の民人を食らって亡き者してきた亡者達を、同胞殺しをさせられている無念を晴らしてやらねばな」
「貴殿は優しい男だな」
忍びがからかうように言うと、浄炎はいたって真面目に言葉を紡いだ。
「あと‥‥村まではどのくらいだ」
「もうすぐだ。気をつけろ」
浄炎は背後を振り返った。丹後軍の足軽たちが着いてきている。みな過酷な状況で黄泉軍と戦ってきて、顔や鎧は泥にまみれている。
「浄炎さん、あんたとも長い付き合いだが、俺たちも最後まで戦い抜くよ。丹後の民を救い出すまで、俺たちは全力を尽くすよ」
浄炎は足軽たちの言葉に胸打たれた。
「そうだな‥‥俺も諦めない。いつの日か、きっと黄泉人を倒すことが出来ると信じている」
僧侶の賀茂慈海(ec6567)は、最後尾にあって、民の無事を祈っていた。
「何とか私たちが間に合えば良いのですが‥‥」
「お坊様、きっとみんな無事でさあ。早くお坊様をお届けして、民を安心させてやりたいところです」
「丹後の黄泉軍は絶大な戦力であると聞き及んでいます。あの大軍相手に、本当に皆さんよく戦っておられる」
「いえ、天津神様や物の怪たち、氏神様に金剛童子様、ガラシャ様‥‥丹後軍には心強い味方もいますし、武将たちも諦めてはおりません。みな、必死で戦い続けているんです。俺たちも死にかけましたが、都の関白殿下も俺たちを支え続けてくれます。神皇様の民を守るために、俺たちは決して諦めません。黄泉人には絶対負けません」
「‥‥そうですね。御仏もきっと私たちをお救い下さるでしょう。希望を捨てるわけには参りません。救いを求めている民人がいる限りは」
慈海は言って、森の中を進んでいく。
「よし‥‥あそこだ」
先頭に立つ忍びは、木々の間から見える死人憑きと怪骨の一団を見やる。
「見えるか。村を取り囲む亡者どもだ」
「うむ‥‥見たところ死人憑きと怪骨兵士の集団だが‥‥死食鬼が混じってるやも知れぬし、怪骨の中にも腕の立つ剣士がいないとも限らん。油断は禁物だが」
浄炎はガラントスピアを握りな直すと、瞳に鋭い光が宿る。
「では‥‥わしは上空から先行し、民を確保しておくかの」
老シフールのガラフ・グゥー(ec4061)は、浮かび上がると、仲間達に村の中で合流しようと声をかけて飛び立った。
「民人はガラフ老が確保してくれるだろう。俺たちは一気に敵を叩き潰すまで。そして、慈海殿を民人のもとへ送り届けよう」
浄炎と慈海は顔を見合わせると、頷き合った。
「慈海殿、俺が何としても道を切り開き、そなたを送り届ける」
「お願いします」
慈海はお辞儀してから、仲間達にレジストデビルを付与して回る。
「皆さんに御仏の守りがありますように。少しでも助けとなれば」
慈海のレジストに兵士たちは勇気百倍。
「これで敵の攻撃はかなり軽減されるはずです」
「よし、行くぞお‥‥亡者どもを一気に片付けてやる」
浄炎は血気にはやる足軽たちを抑えながら、十分に注意するように伝える。いつ強敵が援軍に現れるとも限らないからと。
「まあそれでも時間との戦いだろうが。とにかく、ここから先はお前達の奮戦に掛かっている。後は任せるぞ。俺は周辺の警戒に当たる」
忍びはそう言うと、浄炎の分厚い背中を軽く叩いた。
「うむ‥‥では、取り掛かるとしようか」
‥‥ガラフはブレスセンサーを使いながら家屋の間を飛び回り、村人たちの位置を掴んでいた。
村人達は納屋の中に隠れていて、恐怖に震えていた。
ガラフは格子の間から中に入り込んだ。
「みなの衆、生きておったか」
村人達は驚いたようにガラフを見やる。
「あ、あなたは‥‥シフールさん」
「ふむ。京都の冒険者ギルドに籍を置くシフールのガラフじゃ。安心せよ皆の衆。丹後軍が村の外まで助けに来ておる。亡者達を倒してくれるじゃろう」
「た、助けが? 本当ですか」
一家は顔を見合わせ、その顔に一瞬安堵がよぎる。
「さあ、安心しなさい。今しばらくの辛抱じゃ。間もなく味方がやってくる」
ガラフは丹後で続いている民人救出の戦いについて話して聞かせながら、柏餅を取り出して一家に手渡した。
「これでも食べて、少し待ちなさい。ろくに食べておらんじゃろう」
民人は柏餅を受け取りながら、涙を流して餅を頬張った。
ガラフは納屋の入り口に回ると、ライトニングとラップを仕掛けて回る。そこかしこに二重の罠を張り巡らせ、万が一に備える。
「噂では死人使いが民を探していると言うからの‥‥時間稼ぎになれば幸いじゃが」
ガラフはそう言って、民を見やり、仲間達の到着を待った。
外では足軽たちが亡者の列に襲い掛かっていた。
死人たちは兵士たちを見るなり襲い掛かってきた。
「ぬう‥‥」
浄炎は右に左に槍を振るって、亡者達をなぎ倒していく。無双のごとき槍捌きで、凄まじい一撃を亡者に打ち込んでいく。
「せめて同胞殺しの怨念から解放されることを‥‥」
兵士たちも慈海のレジストで亡者の攻撃を跳ね返しながら、敵を打ち砕いていく。
「行け慈海殿、ここは俺が食い止める」
「かたじけない」
浄炎は迫り来る亡者の列を粉砕し、数名の足軽をつけて、先に送り出す。
グ‥‥アアアアアア‥‥!
死人憑きが慈海に襲い掛かってくるが、足軽たちが連続攻撃を加え、慈海はコアギュレイトで亡者の動きを止めた。
「大丈夫かお坊様!」
「私は大丈夫です。皆さんこそお怪我はありませんか?」
「ああ、お坊様の魔法で亡者の攻撃は効かないみたいだな。ありがたい」
慈海はデティクトアンデッドで周辺の警戒に当たりながら、進んでいく。
やがて、先行するガラフの姿を見出した慈海は、安堵の息を漏らして、デティクトの反応を確かめながら納屋に接近する。
「慈海殿、戦の様子はどうじゃ」
「はい‥‥浄炎殿ら、みなさん奮迅され、恐らく敵を全滅させることには成功するでしょう」
「そうか‥‥厄介な相手がいないのは何よりじゃな」
「この中に民が?」
「うむ。みな疲れておるが、何とか死人たちの手を逃れておったのじゃ。間に合って何よりじゃの」
慈海はガラフの案内で、納屋の中に入る。民人たちは驚いた様子で、慈海たちを見つめる。
「安心して下さい。丹後軍の者です。皆さんを助けに来ました。もう大丈夫ですからね」
「ああ‥‥ありがたい」
民は抱き合って喜んだ。
足軽たちは外の警備に当たる間に、慈海は調理道具を取り出して、クリエイトハンドを使って即席の料理を作り出していく。
「さ‥‥これを」
温かい食べ物を手渡す慈海。
「あ、ありがとうございます」
「皆さん無事で何よりでした。これも御仏の思し召しです」
「お坊様‥‥もう駄目かと思っておりました。亡者達が村に入ってきた時には、もう駄目かと‥‥」
慈海は震える村人の手を取って、にこやかな笑みを浮かべる。
「御安心なさい。ここを発って、すぐに、京都で保護してもらえますからね」
「はい‥‥今は命あることを喜び、皆さんに感謝します」
そうして‥‥。
亡者達を全滅させた浄炎は、村を巡回していたが、敵は残っていなかった。
「どれ程の者が、己が意思に沿わぬ同朋殺しをさせられているのやら。そして、それをさせざるを得ぬ程の苦しみと心の闇を持たざるを得なかった者達を哀れに思う」
浄炎はそう言って、ささやかながら鎮魂の祈りを捧げる。
それから、足軽たちを伴って、ガラフと慈海のもとへ合流する。
「慈海殿、ガラフ殿――」
納屋の中で喜ぶ民たちを見て、浄炎はかすかに笑みを浮かべる。
「どうやら間に合ったようだな」
「浄炎さん、終わりましたか」
「うむ‥‥後はここを脱するのみ。民人衆は歩けそうか」
「大丈夫です」
「よし‥‥では行こう。長居は無用だ。ここを脱するまでは、油断は出来ぬ」
かくして、村を脱した一行は、丹後軍のもとへ合流する。
「冒険者たち、間に合ったか」
京極高広が一行を出迎える。
「京極殿。無事にみなを救い出したが、黄泉軍の動きはあれからどうなのだ」
浄炎は高広に問いかける。
「うむ‥‥相変わらずだ。本格的な攻勢は無いが、地味に亡者達を丹後の山中に解き放っては、民人を襲わせているようだがな。そうだ、ついでに、民の護送も頼めるか。供の侍を着けるゆえ、民は関白様の保護下へ」
「うむ。心得た。京極殿も、そしてみなの健闘を祈っている」
丹後を出発した浄炎、ガラフ、慈海たち、救い出した民を連れて京都へ向かうのであった。