森の中でかくれんぼ

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:01月16日〜01月21日

リプレイ公開日:2007年01月21日

●オープニング

 森の中でかくれんぼする子供たち。
 もーいーかーい‥‥まーだだよ‥‥もーいーかーい‥‥もーいーよ‥‥。
 森林に響き渡る子供たちの声。
 ‥‥幸太郎は木の影に隠れていた。
 と、その前を大きな蝶が通り過ぎていく。よく見ると、蝶は人で、その背に羽が生えているのだった。
 幸太郎は呆然として蝶を眺めていた。蝶の方も幸太郎に気付いたらしく、慌てて飛び去って行った。
「幸太郎見っけ!」
 子供の一人が幸太郎のもとへ走ってやって来た。
 幸太郎はまだ呆然としていた。
「妖精だ‥‥」
「え? 何だって?」
「妖精を見たんだよ、今飛んで行った」
「お前何言ってんだよ。妖精なんて見えるわけないだろ」
「本当だってば」
 やがて他の子供たちが集まってくる。
「幸太郎がさあ、妖精を見たんだって」
 えー、嘘だー、妖精なんて見えるわけないじゃん。
 と、その時だった。森の中にもやが立ち込めたかと思うと、一人の子供が姿を現した。その子供の表情には、どこか超然としたものがあった‥‥。
 子供たちは不思議そうに、その子供を見つめている。
 と、その子供が不意に腕を持ち上げて、一方向を指差した。
 子供たちは目をこすってその方向を見た。
 複数の影がうごめいている。子供たちはそろそろと木陰から様子を探った。
「おい‥‥あれ、鬼だぞ、どうしよう」
 子供たちは慌てて引き返す。
 と、またしても、例の子供が指を差す。何と、その方向にある茂みが割れて森の奥へと通じる道と化した。
 呆然とする子供たち。ようやく口を開く。
「お前、逃げ道知ってんの?」
 その問いには答えず、不思議な子供は森の奥に向かって歩き出す。
 子供たちは顔を見合わせると、一か八か、不思議な子供の後を付いて森の奥へと逃げ込むのだった。

 ‥‥冒険者ギルド。
「子供たちが帰ってこないんですよ」
 村からやってきた男はギルドの受付の青年に向かって事情を話す。
「森の中へ遊びに行ったまま戻らないんですね?」
「はい。森の中を確認したところ、小さな鬼たちが十匹ほどいて、火を焚いているのが見つかりました。子供たちはきっと森の奥まで逃げ込んだのだと思います」
「分かりました。子供たちの救出ですね。早速依頼を出しておきましょう」
「お願いします。あ、一つ気になることが」
「何でしょう?」
「森には以前から不思議な存在がいるようなのです。しばしば不思議なもやが立ち込める時がありまして。不思議な何かがいると、村の猟師などは申しております。もしかすると、精霊の類でも住んでいるのではないかと言う噂でして」
「森の精霊ですか‥‥分かりました、未確認情報として書き留めておきましょう」
 受付の青年は、森の精霊が出没する可能性あり、と書き添えた。

●今回の参加者

 ea7743 ジーン・アウラ(24歳・♀・レンジャー・人間・エジプト)
 eb5484 千住院 亜朱(29歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb7840 葛木 五十六(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb8219 瀞 蓮(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb8856 桜乃屋 周(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb8991 セシル・カロニコフ(30歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 eb9659 伊勢 誠一(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb9708 十六夜 りく(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

カイ・ローン(ea3054)/ 崔 煉華(ea3994)/ ヨーコ・バン(ea7705)/ アル・アジット(ea8750)/ 若宮 天鐘(eb2156

●リプレイ本文

●依頼開始
「ふむ、此度は随分と華やかですな」
 集まったメンバーを見渡して伊勢誠一(eb9659)が口を開く。
「華やかじゃのう。華に囲まれて伊勢殿は幸せ者じゃな」
 瀞蓮(eb8219)がそう言うと、伊勢はごほごほと咳払いする。
「いや、女性の方が子供あたりが良いでしょう」
「それはそうじゃが‥‥遊びに出た先に小鬼がいようとは、不運よな。まあ逃げることが出来たようなのは幸い。せっかくの幸いを水の泡とせんよう早く助け出さねばなるまい。しかし、小鬼程度とはいえ子供の足でよく逃げられたものじゃ‥‥噂の精霊とやらの仕業‥‥いや、お陰かのう?」
「小さな鬼の集団もいるみたいだし、早く見つけてあげないと。子供たちにもしもの事があったら‥‥」
 十六夜りく(eb9708)の言葉に頷く千住院亜朱(eb5484)。
「すでに数日も森の中なんて、無事だと良いのだけど‥‥」
「小さな鬼の集団もいることだし、早めの救出を心掛けよう」
 桜乃屋周(eb8856)がそう言うと、十六夜が思い出したように呟く。
「森の精霊が出没するっていうのにも興味があるのよね。せっかくだもの。精霊にも会ってみたいわ」
 精霊か‥‥。内心で呟く伊勢。害にならねば干渉せず、救助の邪魔となれば一戦も止む無し、交渉が出来ることを期待する。
「書き添えられた不可思議な存在は推測通り木霊では無いでしょうか」
 セシル・カロニコフ(eb8991)は考えるような仕草で口を開く。
「森を傷つけぬ限りは無害な存在。この目で見るまで確かなことは言えませんが‥‥」

 村人たちから話を聞く冒険者たち。
「――大丈夫、任せるだよ。んで子供って何人いるんだ? 年は? うへー、おいらと変わらないくらいなんだな。うん、気合が入ってきただよ」
 子供が遊ぶ場所はいつもどの辺りなのか、そして小さな鬼を見たと言う場所を聞いておくジーン・アウラ(ea7743)。情報は多い方が良いと冒険者学校で聞いたような気がする。

 森の大方な地形や水場など、解る範囲の情報を村人に確認するセシル。そして、子供達が森で遊ぶ事はよくあるのか尋ねてみる。もしそうなら木霊にとって子供達は良き遊び相手、思わぬ形で小鬼達から護ってくれているかも知れない。よくよく話を聞いてみると、子供たちはしばしば森で遊んでおり、木霊を見ていたようだ。

 そして、葛木五十六(eb7840)はサポートが調べてくれた情報を思い浮かべながら森の方に目を向ける。
 今回森には未確認の存在がいる。油断は禁物だ‥‥。

●二手に分かれ
 村を出発する冒険者たち。二手に分かれて森の捜索を行う。
 一班は葛木、セシル、十六夜、千住院。二班は伊勢、瀞、桜乃屋、ジーン。

 さて、一班。
 十六夜の忠犬「らい」が子供の匂いを辿って森の中を進む。その後を辿りながら周囲を警戒する冒険者たち。
「あ、これを見て」
 セシルが足を止めて地面の痕跡を確かめる。足跡‥‥小鬼だろうか。
 さらに森を進む一班。
 と、茂みの前でらいが立ち往生する。
 葛木は茂みの向こうに目を凝らす。何かを発見した葛木。茂みの中へ分け入り、地面に落ちていたそれを拾い上げる。
 ‥‥かんざし。
 この向こうに子供たちは消えたのか?
 と、不意に周囲に青白いもやが立ち込めてくる。気配を察知する冒険者たち。
「セシル殿、これは‥‥」
 葛木が警戒しながらセシルの方に目を向ける。
「安心して下さい。これは木霊です」
「木霊? これが‥‥」
 青白いもやが視界を遮っていく。
 千住院も警戒しながら周囲に目を向ける。
 と、もやの向こうから人影が現れる。子供だった。子供は冒険者たちを見て駆け寄ってきた。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
 葛木は子供を受け止める。
「村のお子さんですか?」
 葛木が問うと、子供はかろうじて頷いた。
 ほっと吐息する冒険者たち。
 冒険者たちは子供から状況を聞く。森の奥に他の子供たちもいるらしい。
 そうこうする間にもやは晴れていて、木霊はいなくなっていた。
 冒険者たちは狼煙を上げる。

 二班の動向。しばし時をさかのぼる。
「幸太郎ー、幸太郎ー」
 瀞は子供の名を呼びながら森の中を進んでいた。
 伊勢、桜乃屋、ジーンも周囲に目を向けながら進む。
「ふうむ‥‥中々見つからんものじゃのう」
「探せる範囲は探しているのですがね。一体どこまで行ったのでしょうか?」
 伊勢は足を止め、周囲を見渡す。
「ちょっとちょっと」
 ジーンが伊勢の肩を叩く。伊勢は振り向いた。
「どうしました?」
「あれ‥‥」
 ジーンが目線でその方向を促す。
 木陰から一匹の小鬼が冒険者たちの様子をうかがっている。
 伊勢は腕組みする。
「さて‥‥どうしたものか。確か村人の話では、小鬼は十数匹はいたはず。ひとまず泳がせて見ますか」
「じゃ、おいらがちょっと不意打ちしてみる」
 ジーンはその場から立ち去ると、忍び歩きで易々と小鬼の背後へ移動する。
 そして、ジーンが小鬼の死角から縄ひょうを放った。その一撃を受けて悲鳴を上げる小鬼。
 怯んだところを一気に間合いを詰める伊勢。
「見敵必殺‥‥仕留めさせて貰いますよ」
 抜刀術で小鬼に切りつける伊勢。小鬼は悲鳴を上げる。
「さて、棲み家迄の道案内‥‥頼みますよ」
 伊勢は威嚇するように刀を振るう。小鬼は逃げ出した。
 それを追う冒険者たち。
 小鬼は棲家に駆け込んだ。木立が立ち並ぶ森の中の空き地である。十数体の茶鬼が固まっている。
「関門捉賊‥‥逃がす訳にはいきませんのでね‥‥」
 伊勢は刀の柄に手をかける。
 そこで、一班から狼煙が上がったのであった。

 合流する冒険者たち。
 双方が得た情報を交換する。
 一班からの情報を得て驚く二班。
「まあ、子供たちが無事で何よりじゃ。結果として木霊が子供たちを助けたようじゃのう」
 瀞は腕組みしながら「ふーむ」と唸る。
「とは言え、木霊の意思はまだ不明。不気味な存在ではありますがねえ‥‥」
 伊勢は顎を撫でながら言葉を紡ぐ。
「まあ、後は小鬼が問題よね。取り逃がすと大変な事になるかも知れないから速攻で叩き潰しましょう」
 と千住院。
「そうですね。鬼を逃がすわけには参りません。全力でかたを付けましょう。手加減などしている場合ではありませんからね」
 葛木の言葉に頷く冒険者たち。
 
●殲滅
 子鬼たちの棲家を急襲する冒険者たち。日も傾いており、森の中は闇に包まれようとしている。
 ジーンを除いたメンバーは正面から攻撃に回る。
 ジーンは木立の間を忍び歩きながら子鬼たちの死角に回る。残りのメンバーは木立の間に身を隠し、奇襲に備える。

 縄ひょうをくるくる頭上で回して加速させるジーン。木陰から音もなく小鬼の不意を付き、縄ひょうを放つ。刃が小鬼に命中する。悲鳴を上げる小鬼。他の子鬼たちは一斉にジーンの方を振り向く。
 そこへ奇襲攻撃を仕掛ける冒険者たち。一気になだれ込む。
 ホーリーやコアギュレイトの魔法で支援する千住院。
 セシルはコンフュージョンで小鬼の同士討ちを誘う。
 十六夜は春花の術で小鬼を眠らせる。
 残った子鬼たちを葛木、瀞、桜乃屋、伊勢が瞬く間に叩き伏せていく。
 戦闘はあっという間の出来事だった。不意を突かれた子鬼たちは全滅した。

●リュートの調べ
 子鬼たちを片付けた冒険者たち。子供の案内で森の奥へと向かう。
「おーい、助けに来たぞー」
 瀞が周囲に向かって呼びかけると、青白いもやが周囲に現れる。
「これか‥‥」
 瀞は「むう」と唸りながらもやを見つめる。
「おーい、みんなはどこだー」
 伊勢も周囲に向かって呼びかける。
 と、十六夜がもやに向かって話しかける。
「あの、何と呼べば良いのか‥‥とにかく、子供たちの帰りを待っている家族がいるの。子供たちはどこなの? 連れて帰っても良いかしら?」
 すると、もやの奥から人影が一つ、二つと現れる。
 最初に救出された子供が彼らに駆け寄る。冒険者が助けに来たことを知り、一安心する子供たち。
 やがてもやは去り、木霊の気配は無くなった。
 ペットの孵化したトカゲ?を取り出す伊勢。
「すごいでしょうこのトカゲ。まだ私にも何なのか分からないのですよ」
 かわいいー、とトカゲに群がる子供たち。
 と、一人の子供が声を上げる。
「そう言えば‥‥幸太郎の奴が崖の下に落ちたんだ」
「崖?」
 ジーンが問い返す。
 子供に案内されて行った場所は地面が落ち窪んだところ。下の方に子供が一人いる。幸太郎だ。
「おーい、大丈夫かー」
 ジーンは縄ひょうを切り株に括りつけると、それで体を支えながら下に降りていく。
 と、再びあのもやが現れる。枝の一本がするすると伸びていく。ジーンの傍らを通り過ぎて幸太郎を持ち上げる枝。
 幸太郎は目を丸くして枝にしがみついている。
「怖くなかった?」
 ジーンは幸太郎に言ってから、周囲の木霊に微笑みかける。
「君が助けてくれたんだね、ありがとう」

「子供達の護人となってくれた御礼に、僭越ながらリュートにて一曲奏じさせて下さいませ。私も森の民と呼ばれる種族、彼等は敬うべき存在です」
 セシルはリュートを取り出すと、美しい調べを奏でるのだった。
 すると、再び例の青白いもやが現れて、木の周りを漂い始めた。月明かりに反射してきらめく木霊の姿。木霊はリュートの調べに聞き入っていたのかも知れない。
 演奏が終わると、木霊は森の奥へと姿を消した。
 冒険者たちは「ほう‥‥」と去り行く木霊を見送った。
 そして――。
 伊勢は子供たちを見渡すと、口を開く。
「大丈夫ですか? さあ帰りましょう。帰れば暖かい食事も待っていますよ」
 そうして、一行は森から脱出するのであった。

●帰還
 村に戻る頃にはすっかり夜だった。
 お礼を言う子供たち。
「無事で良かった。でも、あまり親御さんに心配をかけてはいけませんよ」
 そう言う葛木。子供たちに釘を刺すのは忘れなかった。