【倭国大乱】大物主神の亡霊軍隊

■イベントシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 13 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月23日〜09月23日

リプレイ公開日:2009年09月30日

●オープニング

 丹後――。
 この地で戦いを続ける丹後・藤豊連合軍は、昼夜を問わず襲い来る黄泉軍の哨戒部隊と激闘を繰り広げていた。
 この日も、前線指揮官の藤豊武将、糟屋武則が侍たちを率いて戦いに臨んでいたが、小型がしゃ髑髏と死人憑きの一団と遭遇する。
 がしゃ髑髏は黄泉軍の重量級戦力で、並みの侍では太刀打ちできないパワーを持っていた。
「力では奴には勝てんが‥‥手数で押し切るぞ! 集中攻撃を浴びせろ!」
「はっ、行くぞ!」
 侍たちはがしゃ髑髏に連打を浴びせるも――。
 ぶうん! とがしゃ髑髏の鉄球が侍たちを打ち据える。
 と、その時だ、上空から丹後松尾寺の住職陽燕和尚が姿を見せた。和尚は空を飛んで出現する。
「浄化の光よ!」
 和尚はがしゃ髑髏の周りを飛び交い、浄化の魔法を打ち込んでいく。
 やがてがしゃ髑髏は弱っていくと、侍たちの猛烈な攻勢を受けて沈んだ。
「和尚様‥‥あなた様は神通力を使われるのですか」
 糟屋の問いに、和尚は神々しい微笑を浮かべる。と、陽燕和尚の姿が変貌していき、白亜のローブをまとった一人の天使へと姿を変える。
「魔軍と戦う者たちよ、よくぞ艱難辛苦を耐え忍んできました。しかし、間もなく光が蘇えろうとしております。私は薬師如来にお仕えする十二神将の一人安底羅大将。お聞きなさい魔軍と戦う者たちよ、イザナミと魔王を倒すべく、この国の存亡を賭けた最後の戦いが始まろうとしています」
 糟屋たちは呆気に取られて安底羅大将の言葉を聞く。

 正体を現した安底羅大将は、丹後軍と合流して、間もなく反撃の時が訪れると説いた。ただはっきりしたことは言わず、イザナミ軍に対して大反転攻勢が行われるだろうと説いた。
「和尚は天使であったかよ。さて‥‥背後に誰がいるのやら」
 天火明命はそう言って、不敵な笑みを浮かべるが。
「天津神よ、もはやお前達の時代ではない。お前達に今生の魔軍の反乱を沈める力はない」
「そうか。ところでな天使よ、たった今、古き客人が来ていてな」
 天火明命はそう言って、傍らの人影を見やる。
「むっ」
 安底羅大将は柳眉をひそめる。人影は古代の戦士の装束を纏い、全身が半ば透けていた。その姿は大国主の死霊兵。
「彼は、大物主の使者だ。生きていた時に、会っているのでは無いかな」
 一年と半年前、大和三輪山に降臨した大物主。
 冒険者達が知ったその正体は亡霊であり、大物主は死霊の軍隊を引き連れていずこかへ去っていた。天火明命は、その大物主が三輪山へ戻ってきたことを天使に教える。
「時は満ちたぞ、天使よ。少しばかり早い気も遅い気もするが、お前達が現れたことが何よりの証しだ!」
 まるで託宣を告げる事代主のように、云い放つ天火明命。
 大国主と大物主、古代戦士の亡霊を連れた二人の王が揃うことは、何を意味するのだろう。
「まさか、亡霊の手を借りる気では無いでしょうね?」
 天使である安底羅は、生命に反する不死者の存在を許さない。死霊は早く成仏させるべきだ。
「どうかな」
 大物主と彼の亡霊軍隊は、この一年半、各地を巡っていたらしい。三輪山に舞い戻り、昔のよしみで天火明命に挨拶を寄こしたようだが、その目的は不明。大人しく再び眠りにつくのか、大国主のように新たな国造りを始めるのか、それともイザナミのように侵攻して来るのか‥‥。

「大物主を味方に?」
 天火明命の言葉に、丹後の首脳陣は耳を疑う。
 大物主と大国主は時に同一視される。そうでなくとも、現れた二神は共に古代戦士の亡霊軍隊を率いており、大国主の同類と考える向きが強い。
「いや、大物主は確かに国津神だが、我ら寄りの存在だ。亡霊ではあるが、多少なりと理性を残している様子。出来れば味方につけたい」
「うーむ、そこまで云われるか」
 天津神の言葉に、まだ半信半疑ながら、イザナミの猛威と大国主の亡霊軍隊に手を焼く丹後軍としては藁にも縋りたい気持ちもあった。
「どちらにせよ、大物主が現れたからには、対策は立てねばなりませぬ。‥‥黄泉人や大国主に対抗出来るなら、一か八か大物主神の助力を仰いで見ましょう」
 丹後軍の将帥たちも覚悟を決める。
「決まりだな」
 天火明命はそう言うと、出立の準備を整える。
 丹後軍の幹部からは京極高広(ez1175)と旧宮津藩主の立花鉄州斎、藤豊武将の糟屋武則が三輪山に向かう。
 そして同行するのは天津神の天火明命。
 そしてまた、京都の冒険者ギルドにも、大物主神の説得依頼が張り出されたのである。

●今回の参加者

アラン・ハリファックス(ea4295)/ 白翼寺 涼哉(ea9502)/ ベアータ・レジーネス(eb1422)/ 明王院 浄炎(eb2373)/ 明王院 未楡(eb2404)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601)/ 宿奈 芳純(eb5475)/ ボルカノ・アドミラル(eb9091)/ 烏 哭蓮(ec0312

●リプレイ本文

 京都、長崎藩邸――。
 藤豊家臣のウィザード、ベアータ・レジーネス(eb1422)は神皇親征の準備を整える関白秀吉のもとを訪れる。目下秀吉は諸侯に親征への参加を呼びかけていたが、大大名たちは自身の政戦両略に忙しい。唯一京都に兵を送っているのは関東の伊達政宗ぐらいである。平織、源徳、武田、そして上洛を思案中の上杉も、突然の安祥神皇からの呼びかけには応じず、ことは京都だけで進められていた。
 ベアータは武将達に手荒い歓迎を受ける。
「ベアータ! 今一度戦じゃあ! 神皇様の御親征をお助けせねばならん! 諸侯は関東で戦に明け暮れておるが‥‥陛下が御親征を決断されたからには、イザナミ討伐に一致結束して立ち向かう時であろう。源徳の大狸よ、この期に及んで何を考えているのやら‥‥」
 猛将福島正則はベアータの背中をばしばし叩きながら藩邸の中へ招く。
「おお、ベアータ! このイザナミ戦、ジャパンの命運をかけた一戦となろうぞ。平織も源徳も頼りにならん。参ったのう。じゃが陛下の御心は本物。我ら藤豊家臣、一丸となって陛下を支えねばならんぞ」
 次いで福島に劣らぬ猛将加藤清正がベアータの前にやってきて、険しい顔でベアータを見据える。
「皆さんお忙しいようですね。私も親征の折には必ず駆けつけましょう」
「頼むぞベアータ! この戦、負ければ後はないぞ」
「それにしても、陛下のご変心には驚きましたね。臥せっておられると伺っておりましたのに‥‥」
「もはや、あの方はかつての陛下ではない。心強いことではないか」
 そこへ続いて、若き文官、石田治部少三成が姿を見せる。
「ベアータ・レジーネス。殿下がお待ちだ。丹後の件で話があるそうだな」
「丹後か‥‥かの地では糟屋や片桐が頑張っているが、もはや民人が暮らせる土地ではなくなってしまったな」
 福島と加藤は三成の言葉を聞いて顔を見合わせる。
「では福島殿、加藤殿、失礼します。殿下にお願いがございますので」
「うむ。では戦場で会おうぞ。黄泉人どもに目にもの見せてくれるぞ!」
 福島と加藤は豪快な笑声を発して軍議に戻っていく。
「士気は高いようですね」
 ベアータの問いに三成は頷いてかすかに笑う。
「陛下の御親征を支えるとあって、藤豊家中の者たちは意気上がっている。と言っても、現実は厳しいものだ。黄泉の軍勢は回復しているだろうし、平織も源徳も今は自身の家のこと、戦のこと優先で、陛下の声に反応せず。兵力は全く足りない」
「そうですね‥‥」
 ベアータは思案顔で呟く。神皇親征‥‥大宰府を救うだけでも大事だろう。果たして間に合うのだろうか。
「殿下、ベアータ・レジーネスをお連れしました。ベアータ、入れ」
「はい。失礼します」
 秀吉は相変わらず扇を弄んでいたが、目は笑っていなかった。三成は部屋の片隅に腰を下ろす。
「ベアータ、いよいよじゃな。だが家臣に言うのも何じゃが、正直勝利の目算が立たん。あの魔軍相手に、兵を死地に送るだけではないかとな。陛下の御心にお応えするには、兵がとにかく足らん。伊達が僅かばかりの兵をよこしただけじゃ」
「ご心労、お察しします」
「ほっ、全くわしの代わりが勤まる者はおらんしのう。陛下をお守り出来るのはわしだけよ」
 秀吉はそう言ってから深々と吐息する。
「さて‥‥また丹後の件で話があるそうじゃが?」
「あ、はい。左様にございます」
 ベアータは、三輪山に出現した大物主神の死者の軍隊を天津神の提案で丹後軍が味方につけようとしている件を話して聞かせる。
「既に丹後では稲荷神様等その地に生きる妖怪達と協力し、イザナミ軍らと戦っている実績がございます。つきましては大物主神とその軍勢も味方に取り込む事も、先の九尾の天狐様の時のように『見ないふりをする』もしくは『丹後の事は丹後の者達に任せる』といった『ご許可』を賜れますよう、お願い申し上げます」
 すると――。
「構わんよ」
 秀吉はあっさりと言った。
「は‥‥左様にございますか。私はてっきり反対されるものと」
「神皇さまの御親征に死者の軍勢を引き入れるわけにはいかんが、天津神がやってみる価値があるというならやってみよ。こう言っては何じゃが、死者を以って死者を制するというのは興味深い。大国主の件もあるが、実際そんなことが可能かどうかわしも関心がある。太古の亡霊か、陰陽寮が関心を寄せそうな話ではあるの」
「は‥‥殿下の許可を得まして、心置きなく大物主神の説得に向かうことが出来ます」
「うむ。まあ冒険者はその道を本職にする者。妖相手にうまく立ち回ってくれることを期待しておるよ。ただでさえイザナミに手を焼いておるのに、これ以上亡霊を増やしたくはないからの」
「ベアータ、気をつけてな。後で結果は知らせろ」
 ベアータは秀吉と三成の前を辞すると、フライングブルームで三輪山に向かった。

 奈良大和、三輪山――。
 大物主神の亡霊が降臨したのは一昨年のことである。思えばその間、平織虎長が復活して比叡山を攻撃したり、神々の復活が後を絶たず、そして関東では戦の火の手が上がり、また西国はイザナミによって壊滅させられた。そして全世界的には地獄の悪魔王ルシファーとの決戦も行われている。ジャパンも当時とは比べるべくも無い混沌とした状況である。情勢は悪化していると見るべきか。
 冒険者の一行は山に入ると、早速大物主神を探して山道を歩く。
 亡霊軍隊はすぐに冒険者たちの目の前に現れた。数百騎の亡霊武者が歓声を上げて駆け抜けていく。
 ――掛かれみなの者! 全軍突撃!
 ――おおおおおおおお!
「随分と賑やかだな。大物主はどこにいるのだろうか」
 天火明命は言って、冒険者たちを見やる。
「お待ち下さい。彼らに尋ねてみましょう」
 宿奈芳純(eb5475)が進み出ると、降霊の鈴を鳴らして亡霊たちを引きつける。
 程なくして、古代人の服を着た亡霊兵士たちが森の中から姿を見せる。
「何だか呼ばれている気がするが‥‥これは一体何だ?」
 やって来た亡霊は冒険者たちを見て、それから天火明命を見て、ざわりとどよめく。
「天津神が‥‥天津神が来おったぞ?」
「何だ火精霊よ、大王様の使いは届いたであろう。挨拶か?」
 亡霊たちが騒ぎ出すのを前に、天火明命は手を上げて制する。
「いかにも、我は天津神の天火明命。大物主の挨拶はしかと受け取った。お前達も随分長い旅に出ていたようだな。国中を回っていたか」
「いかにも。陛下は人界が相変わらず戦乱に満ちていることを嘆いておられる」
 天火明命は頷いて、大物主神に話があってやって来たのだと伝える。
「陛下に用向きか。ところで何だ後ろの人間どもは。お前の崇拝者か」
「まあそんなところだ」
 亡霊武者は「カカ」と笑うと、「暫し待て」と言って一体が飛んでいく。
 やがて、騒々しい鬨の声が鳴り響いていてきたかと思うと、亡霊の大軍を引き連れた大物主神が姿を見せる。
 大物主神は若い青年の姿をした亡霊で、甲冑を身にまとっている。
「久方ぶりだな天津神よ。それに、見知った顔が幾人かいるようだ。ごきげんよう、余は倭国王、大物主だ」
 天火明命は挨拶を交わすと、世間話でもするかのように昨今の情勢について大物主と意見を交換する。
「世は乱れておるな。東では大大名が戦に明け暮れ、民は苦しんでおる。そして西ではイザナミが復活し、人界に災いを振りまいておる。もはや悪魔の時代では無いことは承知しているが、それにしても、世が乱れに乱れているのはあの当時を思い出す。余は卑弥呼の調停を受け入れ、倭国大乱を収めたが、今の世でそれを為しうるのは京都の神皇しかおらぬようだな」
 大物主は思案顔で言葉を紡いだ。
 そこで白翼寺涼哉(ea9502)が進み出る。
「お久しゅうございます大物主神様、京都の医師白翼寺にございます。一昨年を覚えておられるでしょうか? 私はこの地に降臨されたあなた様のもとをお訪ねしました」
「白翼寺‥‥おお、覚えおるぞ。京都の医師と申しておったな。懐かしいものよ。あれから随分時が流れた」
 白翼寺は笑みを浮かべて大物主にお辞儀する。
 また宿奈が進み出てお辞儀する。
「大物主神様におかれてはお変わりなく。お懐かしゅうございます。私も白翼寺様同様、以前お会いした陰陽師の宿奈芳純でございます」
「おお、そなたか、覚えておるぞ。しかし‥‥またしても余のもとを訪問するとは一体‥‥?」
 そこで天火明命が口を開く。
「実は大物主よ。お前に頼みがあって来た」
「頼み?」
「うむ。黄泉人の件だ。イザナミは残念だがもはや暴走し、知っての通り、黄泉軍は西国を落とした。再び京都に迫ろうかという勢いだ。そこでという訳ではないが、お前の手を借りたい」
「‥‥‥‥」
 大物主は天火明命の言わんとするところを察したようである。じっと天火明命と冒険者たちを見据える。
 丹後軍の幹部達は、ここへ来て冷や汗を流していた。これほどの亡霊に囲まれて、無事に帰れるのか実際不安であった。
「ふむ、お前達の目的は分かった。余に戦えというのだな? 黄泉人を倒し、京都軍に力を貸せということか」
 烏哭蓮(ec0312)は進み出ると少彦名神の杖を構えながら口を開く。
「大物主神よ、現世に再び降臨し、あなた様にも国作りの志があるのでは? もしよろしければその辺りからお聞かせ願えませんか」
 周囲は亡霊に取り囲まれ、冒険者たちと大物主の会話を兵士たちは聞き入っているようだった。あるいはそう見えるだけか‥‥。大物主は思案顔で答える。
「余に大国主のような野望は無い。詳しくは知らぬがかの者も倭国王であるそうだが、実際肉体を失った我々に何が出来ようか? 亡国の再興など現世の人々の反感を買うだけであろう。国作りなど‥‥肉体の無い我らにとって何の意味があろう。むしろ安らかな眠りが欲しい。我らは現世に生きるは苦しみでしか無い」
 すると、周りの兵士たちからすすり泣く声が響いてくる。
「うっうっ‥‥陛下‥‥おいたわしいことじゃ‥‥」
「真に。現世に生きるは苦しみよのお」
 チサト・ミョウオウイン(eb3601)はそんな亡霊たちに小さな胸を痛めるが、大物主に問いかける。
「大国主からの『黄泉を友とし‥‥』の助言、天火明命様の勧めである事‥‥これらに想いを馳せた際に思い浮かんだのは、人は再び森羅万象と手と手を取り合って歩めるのか、との問いでした」
 そこでチサトは、丹後から同行してきた白狐の手を取る。
「稲荷神様‥‥」
「狐か‥‥」
 大物主は首を傾げる。
「この国には、蘇えった神々と付き合う者たちもいるようだな。丹後や駿河、他にも各地で妖の影を見たが」
「この稲荷神様は、今では黄泉人と戦い、人のために命まで投げ出して下さいました」
 白狐は様子を見ながらチサトの言葉を聞いていた。倭国大乱において、大物主は妖怪たちとも戦ったというから、天火明命の提案でなかったら同行はしなかっただろう。
「イザナミ達の様に怨嗟の獄に囚われた哀れな魂に救済と安寧をもたらしたいのです。祖先があり、今を生きる者がいる事‥‥祖霊を敬い、安寧を願うが故に、彷徨い狂気と怨嗟に縛られた不死者を弔いたいのです。もしやご存知であるかも知れませんが、丹後において私たちは氏神様達を初め、森羅万象と再び向き合い、共存していきたいのです。大物主神様とも共に歩む道筋は、無いものでしょうか」
「ふーむ、少なくとも現世において共闘を呼びかけてきたのはお前たちが初めてだ。悪魔ではなく、な。余の軍隊は強大ゆえに、余の参戦は黄泉人との戦いに一石を投じることになるが、神皇に味方するとなれば、余にも考え物だ」
 すると白翼寺が改めて口を開いた。
「この国に災いをもたらすのは、悪魔だけとは限らない‥‥と言うのが自分の見解です。真の敵は混沌――穢れを招く心にございます。ジャパンのあるべき姿――もののふの誇りを守り、民を救いたいのでございます。人と妖と魔――共に歩み寄る道を模索できればと思っております」
 宿奈も説得攻勢を掛ける。
「以前大物主神様は『嵐は近い』と仰っておられました。その嵐が民に害をなすものであれば私共は民を守る為、種族を越え共に協力し、立ち向かう所存にございます。どうか、陛下にもお力をお貸し下さい」
 続いてボルカノ・アドミラル(eb9091)も問いかける。
「大物主様が、今この地に戻られたのは苦難に耐え、力を高めた者達との共闘の為でしょうか。もしくはこの地に何かの力が満ち始めたからでしょうか」
 ボルカノは礼を尽くして膝をつく。
「陛下、月の道を閉ざしていた壁が消え、多くの力が混在する地となった今を、大物主様はどのように感じておられるのでしょうか」
 大物主は思案顔で答える。
「第六天魔王が復活し、数多の神々が蘇えった。かつてこの地を支配する悪魔勢力に対抗するために多くの神々が人とともに戦った。余は時の倭国王として、魔王とも近しい存在であったが、余りに多くの血が流れた。それゆえに戦を止めたのだ。状況はあの時とは異なるが、現世の人も神魔に良い様に操られておるな。各地を回ってみて、それを実感した」
 そうしてベアータが最後に訴えかける。
「都の関白殿下は、みなさんのことは私たち丹後軍に委ねると申されております。丹後における黄泉人との戦いに、お力をお貸し下さい」
 すると天火明命が再び大物主に語りかける。
「どうだ大物主よ、ここは一つ、相撲によってことを決するのは」
「相撲だと?」
「そうだ。我とお前の立会いのもと、相撲による御前試合を行う。もしこの者たちが勝ったのなら、お前達は我らとともに戦う」
 明王院浄炎(eb2373)は相槌を打って提案する。
「大物主神よ、配下の兵士たちは血気盛んなれど、裏表のないまさに武人と言った気風の性格とお見受けする。それゆえに、力無き相手との共闘は納得できぬ者もいるだろう。だが、共に轡を並べ戦うを望む上で矛交え血を流すは本意に非ず。二柱の神前において互いの力量を競うは、神事でもある相撲が最適であろうと思われるが」
「相撲で事を決するには大事だな」
 即答された。
「が、と言って正直余にも余り良い考えは浮かばぬ。良かろう。この申し出は、相撲による御前試合に掛けるとしよう」
 大物主がそう言うと、亡霊兵士たちの間に歓声が広がっていく。
「相撲だ! 御前試合にて陛下のご決断を仰ぐこととなった! 者ども! 御前試合の支度をせい!」

 ‥‥ほどなくして、山中の広場にて、亡霊たちが取り囲む中、冒険者たちと大物主の兵士たちの相撲による神前試合が執り行われる。
 褌一枚の姿で登場した明王院浄炎、ボルカノ、京極高広(ez1175)は逞しい肉体で腕をぶるんと振るうと、深呼吸する。
「何ともはや、相撲を取る事になるとはなあ」
 京極は冒険者も冗談がきついと思っていた。亡霊とは丹後で戦っている。触れるだけでこちらはダメージを受けるのだ。それに現代では一騎打ちなど廃れてしまって久しい。
 相撲は神事。明王院未楡(eb2404)は巫女装束をまとって杯を戦士たちに差し出す。未楡は至って真面目であった。武装を解き、禊まで出来ないまでも手水で身を清め、巫女装束を纏う。神事に向う武士達に、手水と清めの御酒を満たした盃を渡す。亡霊たちからどよめくような歓声が上がる。
「神前に奉ずる勝負に挑む両者に‥‥清めの杯を」
 白翼寺は観戦しながら不敵な笑みを浮かべる。
「神事と言えば裸だ。裸祭りと言えば褌だろう? 裸には瘴気を浄化する力がある」
「え?」
 と哭蓮は眉をひそめる。瘴気を浄化‥‥無論冗談か。
「神事に相応しい姿? 恥を晒すの間違いじゃないですか? 神事と称して脱ぐと言う、極東の文化が理解出来ませんねぇ〜。私には褌をはく習慣がないのですよ」
「俺の褌、はきたい奴には貸してやろう」
「結構です」
 哭蓮はぴしゃりと白翼寺の提案を断った。
 かくして相撲が始まる。
 亡霊たちからも巨漢の兵士が姿を見せる。彼らは幽霊なので鎧を脱ぐことは不可能だが。
 最初に浄炎が進み出る。
「カカカ、人間よ、痛い目を見る前に退散した方が見のためだぞ。自慢の小手投げを食らわしてやるわ!」
「ほう‥‥小手投げ? やって見せてもらおう」
 天火明命が亡霊と浄炎に声を掛ける。
「両者位置につけ」
 浄炎と巨漢の亡霊は向き合う。
「始め!」
 その瞬間亡霊は空中を滑るように襲い掛かってきた。
「カカカ! わしが捕らえきれるか!」
 浄炎は亡霊を捕まえようとしたがすり抜けた。直後に力が抜ける。幽霊の接触ダメージ。
「ぬうっ‥‥!」
 そこで浄炎はオーラパワーを拳に付与すると、再度亡霊兵士を捕まえに掛かる。
「カカカカ! わしの勝ちじゃあ!」
「ぬう‥‥はあ!」
 浄炎はオーラを身にまとった拳で亡霊を捕まえると、牛角拳の要領で力強く踏込み、突きを押し手に置換え、亡霊を投げ飛ばした。
「カカ!?」
 亡霊はひっくり返ったが、浄炎はまたしてもダメージを受ける。
「勝負ありだな」
 天火明命はそう言うと、大物主を見やる。
 大物主は手を差し出して宣告する。
「冒険者の勝ち!」
 白翼寺が浄炎に駆け寄る。
「大丈夫か。幽霊に触れると生気を奪われる」
「何とかな‥‥まあ、勝敗など些細なことだが」
 リカバーでダメージを回復させる白翼寺。
「この相撲も命がけだな。しくじったか?」
「どうであろう‥‥大物主は引き受けたのだし」
 そうこうするうちに次の試合が始まる。
 ボルカノはオーラなどが使えないので、亡霊に触れることが出来ず、一方的にダメージを受けて動けなくなった。
 三番手の京極は浄炎と同じくオーラを使って亡霊を投げ飛ばした。
 こうして、相撲は二勝一敗で冒険者の勝ちとなった。
 敗れはしたが、亡霊たちは歓声を上げて腕を突き出している。

「‥‥どうであろうか大物主神よ。我らの武勇を認めて頂けたのならば、杯を酌み交わし親睦を図りたく思うのだが如何であろう」
 浄炎の申し出を、大物主は受けた。もっとも相手は幽霊。
 未楡は天火明命の話を参考に、古代の親睦の席に供される食事を作って、両者の親睦の席にそれらを並べた。
 騒々しい亡霊たちに取り囲まれ、冒険者たちは大物主神と少しでも親睦を図る。距離を縮めようと図る。
 太古の倭国王と語らう冒険者たち。だが相手は死霊とは言え王。大物主はジャパンの行く末を案じ、冒険者たちに今生の詳しい話を聞きたがった。
 冒険者たちは大物主が知り得ぬ情勢をつぶさに取り上げて話して聞かせる。
 話が本命の丹後の情勢に及ぶと、大物主はこれまでの黄泉軍との戦いや大国主の国作りについて熱心に聞いた。特に大国主配下の国津神の中に、大物主の部下と親子関係にある者がいて驚いていた。時代は大物主の方が古いらしい。
 そうして日も暮れていく‥‥。
「心は決まったか大物主よ。我らに付くか、中立を貫くのか。まさか我等と戦うなどとは言わんだろうな。この倭国大乱を、イザナミと大国主に勝たせるわけにはいかん」
 天火明命の問いに、冒険者たちは大物主を見やる。
「余の心は決まった。お前達の思いは十分に承知した。だが今すぐに結論を出すのは難しい問題だ。少し時間を貰おうか。近く答えを出しに丹後へ出向こう」
 大物主は心は決まったが、時間をくれと言った。それが何を意味するのか、冒険者たちにも分からない。
 かくして、三輪山を後にする冒険者と丹後の一行。
「果たしてうまく言ったのだろうか?」
 京極の問いかけに、冒険者たちは唸った。だが天火明命は確信している様子だった。
「あ奴は必ず来る。むしろ遅すぎたくらいだ。始まるのだ、ジャパンの命運をかけた戦いがな」
 冒険者たちは顔を見合わせ、肩をすくめる。
 幾多の死線を越えてきた彼らの胸に去来するのは――。

 京都――。
 東寺跡を訪れた哭蓮は文観と会う。
「大国主の記憶操作は月精霊の仕業である模様。邪法を打ち破る術は邪法を言えましょうか」
「秘術と呼ばれるものは秘されるくらいですから、世間的に言えばどれも邪法です。並の人間が扱える代物ではありませんよ」
 文観は言って哭蓮に続きを促した。
「過日、大物主なる国津神にお会いしました。私の見立てでは、古い記憶を持つ太古の霊のようですが、そこいらの鬼よりよほど理性がありますな。大勢の亡霊兵士たちを従えており、霊たちはみな苦しみから解放されたいと願っているよですが、どうやら倭国への未練から今生に蘇えった様子。人に仇名す存在では無いようですが‥‥」
「丹後軍は死者の軍隊を用いるつもりですか‥‥丹後軍には僧侶たちもいたはず。まあ関白殿が見ない振りをしている以上、侍達が説得するのでしょうが。死者を以って死者を制すとは‥‥どんな結果になるのでしょうな」
 文観の思案顔を見て、哭蓮は東寺を後にする。