丹後の死人使い緑曜、遭遇戦
|
■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 40 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月02日〜10月07日
リプレイ公開日:2009年10月12日
|
●オープニング
丹後山中にて――。
不死人の集団と丹後軍の将兵たちが戦いを続けていた。
「放てえ!」
侍たちの号令とともに、足軽たちが矢を放つ。
矢が雨あられと降り注ぎ、死人憑きの群れがばたばたと倒れていく。
「よし、一気に片付けるぞ! 突撃!」
侍たちは抜刀し、足軽たちも刀に持ち替えて死人の群れに攻撃を開始する。
――と、そこへ突如として現れた巨漢の女戦士。身の丈はジャイアントの倍以上、鎧兜に盾と刀で武装した女戦士は、新手の亡者を引き連れて姿を見せる。
女戦士の赤い瞳がぎらりと光り、疾風のように兵士たちに襲い掛かる。
「はっはっ! 噂じゃ丹後軍は大国主とも張り合っているそうじゃねえか! ご苦労なことだなあ! 言っておくがお前達に勝ち目は無いぜ! お前達に出来るのは、散発的な抵抗くらいだろう? 無限の黄泉軍に勝ち目があると思うか?」
白磁の肌をした女戦士は、赤い瞳が不気味に光る。この妖は猛然と侍たちに襲い掛かり、長大な太刀で丹後軍の兵士たちを吹き飛ばす。
「な、何だ貴様は‥‥黄泉軍の将軍か!」
複数の侍相手に牙を剥く女戦士は、高らかに哄笑する。
「あたしは丹後の死人使い緑曜。まあ、今じゃあ黄泉軍の一軍を預かる大将には違いないがねえ」
「丹後の死人使いだと?」
侍たちは後退して、武器を構える。丹後の死人使い七人衆と言えば、不死者を操る黄泉軍の指揮官だ。これまで七人のうち、数名が冒険者たちに討ち取られていた。
「だが全く気にいらねえ。京都の神皇は何を考えてやがる。あたし達に‥‥あのイザナミに勝てると思うのか? 人間も国を割って戦をしている最中だというのに。イザナミに勝てる通りはねえわなあ! はっはっ!」
「‥‥よく舌の動く妖よ。者ども! ここでこやつを討ち取り、民の無念を晴らしてやろう! 掛かれ!」
侍たちは攻撃を開始したが、緑曜の頑丈な装備は、侍たちの刃を跳ね返す。
「ぬう‥‥ならば‥‥」
侍がオーラショットを放ち、僧兵がホーリーを、陰陽師が魔法で攻撃する。緑曜はかすかに怯んだ様子で後退すると、相変わらず笑みを浮かべて増援を呼び出す。
次々と出現する亡者の群れ。中にはがしゃ髑髏が混じっている。
「てめえらはここでお陀仏だ! 行きがけのついでに全滅させてやるぜ!」
「冥府に還るのは貴様の方だ! 出てきたことを後悔するがいい!」
侍たちは丹軍の本隊に使者を飛ばすと、死人使い「緑曜」の出現を伝える。
再び、丹後の死人使い七人衆との戦いが幕を開ける。
大規模戦の始まりであった。
●リプレイ本文
ベアータ・レジーネス(eb1422)は出立前に長崎藩邸を訪ねた。関白秀吉はいよいよ親征の準備に追われていて会うことが出来ず、出迎えたのは秀吉の腹心である治部少輔石田三成である。
「殿下は陛下と親征の折衝に向かわれている。話しは俺が聞こう」
三成は言って、ベアータを部屋に通した。
「先頃の三輪山の一件です」
「あの一件か。噂では、すでに数多の亡霊たちが北へ向かって飛び立っていったと‥‥」
「そうですか。大物主神が丹後へ‥‥向かわれたのでしょうか?」
「分からんが、お前達が説得に成功したと思いたいものだな」
「手ごたえはありました。かの亡霊軍隊を味方につけることが出来れば‥‥丹後の黄泉軍を食い止めることが出来る‥‥かも知れません」
「頼むぞ。今こちらから丹後を支援する余裕は無い。片桐や糟屋に、お前たちが頼りだ」
「では、私はこれより丹後に向かいます。かの地ではまたしても戦いが勃発しております」
三成は「そうか」と頷いた。
「俺は親征を推し進めるのに京都を離れることが出来ん、任せたぞ」
ベアータは頷くと、ウイングドラゴンに乗り、丹後へ飛んだ。
リーマ・アベツ(ec4801)がフォーノリッジのスクロールで未来予測した結果――。
「藤豊軍」については秀吉がイザナミに食われていた。「緑曜」については、丹後軍の兵士たちを切り殺す緑曜の姿が見える。「黄泉軍」については、丹後軍の亡骸を踏み潰す八十禍津日神と導師の姿が見えた。
「これが最悪の結果ですか‥‥」
リーマの未来予知はある程度予想されたものである。冒険者たちは驚きはしなかったが、この戦、負けるわけにはいかない。
戦場に駆けつけた冒険者たちは丹後軍と合流すると、早速最前線に向かって駆け出した。
「あそこか‥‥」
ラザフォード・サークレット(eb0655)は暴風のように暴れている巨漢の女戦士を発見する。死人使い緑曜、自ら剣を振るう重戦士のネクロマンサーだ。
「行きましょう。侍の皆さんは出来るだけ三人一組で行動して下さい。大物は私たちで仕留めます」
ファング・ダイモス(ea7482)は言って戦場に飛び込んでいく。世界最強クラスの冒険者は超絶的な破壊力にまで高められた青龍偃月刀を右に左に振るって突進していく。
ドズバアアアアア! ドズバアアアアア! と真っ二つに切り裂かれる亡者達。
「あいつ‥‥半端じゃないな」
ラザフォードはファングの想像を絶する戦闘能力を見やりながら、レビテーションで浮き上がると、超越サイコキネシスで周囲の岩を持ち上げて投げ飛ばす。
「志を尊び、魔を薙ぎ払う‥‥」
浮き上がったラザフォードは舞うような仕草で腕を素早く動かせば、岩が亡者の群れを打ち倒す。
「舞い‥‥重力演舞‥‥」
巨岩がラザフォードのサイコキネシスで叩きつけられる。
「この戦‥‥負けるわけにはいかんのだ。これからの戦いのためにも」
明王院浄炎(eb2373)はガラントスピアと盾を構えて進み出ると、亡者の列に突進する。
「兵士たちには後退しながら撤退の準備を。こんなところで無理に失血をすることは無い」
浄炎は侍たちに告げると、最前線に立つ。
「ぬう‥‥はあ!」
ドゴオオオオ! とガラントスピアが死人憑き粉砕する。
「緑曜は私のほうで食い止めます。皆様はその間に残りの不死者達の退治をお願いします!」
ソペリエ・メハイエ(ec5570)はグリフォン騎乗で舞い上がると、上空からチャージングで突進する。
「ラプタス!」
チャージングとスマッシュの合成技を緑曜に叩きつける。
ドズバアアアア! とソペリエの剣が緑曜の分厚い鎧を貫通する。
「ぐお!」
緑曜の赤い瞳がソペリエを見据える。
「このわしにこれほどの打撃を‥‥! ぬうううああああああ!」
緑曜は万力を込めて長刀をソペリエに叩き込む。鞍上のソペリエは吹き飛ばされた。
起き上がるソペリエ、緑曜と対峙する。
「来い! 亡者達よ! 人間どもを押し潰せ!」
緑曜は後退しながら続々と亡者の列を呼び出した。
「これを待っていましたよ」
超越魔法の使い手ロッド・エルメロイ(eb9943)は素早く印を結んでファイヤーボムを叩き込む。黄泉軍の戦列後方で大爆発が起こって、亡者達が木っ端のように飛ぶ。
「ぬお! おのれ!」
緑曜は憎々しげに見つめるが、関東の戦でも凄絶な破壊力を見せた超越魔法は一人で一軍に匹敵する。
「受けよ黄泉人、爆炎がお前達を焼き尽くしてくれよう」
ロッドはファイヤーボムを連打する。火球が炸裂し、次々と亡者達を打ち砕いていく。
「ぬおおおお‥‥!」
爆炎に巻き込まれる緑曜は吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。
ペガサス騎乗で戦場をデティクトアンデッドで飛び回っていた白の僧兵琉瑞香(ec3981)、ドラゴンで旋回するベアータに敵の動きを伝える。
「ベアータさん、敵はおおよそ半里に渡って展開している様子です。続々とこちらに向かって前進を続けてきますが」
「それは好機ですね。今こそ、リーマさんのお力で敵を一掃する時」
乱戦に突入しつつある地上をブレスセンサーで探査したベアータは、地上に下りていく。リーマと合流する。
「リーマさん、敵が前進してきます。リーマさんの魔法を使う好機がやってきました」
「そうですか‥‥」
リーマは超越バイブレーションセンサーで探知できた震動をスクロールにマッピングしていく。それをベアータがより分け、ブレスセンサーで探知できた味方の位置と照らし合わせる。
「行きます」
リーマは魔法の絨毯で舞い上がると、亡者の戦列の中央に進み、地上に降下すると超越ストーンを解き放った。
「咲き狂え、石の花園」
地上で見る間に石化していく不死軍。
異変を察知した緑曜は動揺し、慌てて後退しようと図る。
「石化の術‥‥これほどの術師が‥‥」
「どこへ行くのですか。あなたの相手はこっちです!」
ソペリエは緑曜の背後から切りかかった。
「トゥシェ!」
デッドorライブとカウンタースマッシュの合成技が緑曜を襲う。
ザシュウウウウウ! と緑曜の肉体を貫くソペリエの剣。
「戦士としての技術に重きを置いているのならば、あんたと私は非常に相性が良い。如何だね? 大人しく倒されてくれるのであれば、安らかに逝かせてやるが‥‥」
ラザフォードが進み出て、サイコキネシスで岩を持ち上げる。浄炎が、ファングが緑曜に迫る。
「お主を倒し、撤退の足がかりとさせてもらうぞ」
「ぬう‥‥」
緑曜は焦ったようにじりじりと後退する。
「がしゃ髑髏!」
緑曜は禍々しい響きで髑髏の巨人戦士を呼びつけると、冒険者たちに叩きつけるが――。
「逃がしはしません!」
ドズバアアア! ドズバアアア! とファングのソニックブームががしゃ髑髏を一撃で真っ二つに切り裂く。
「な‥‥! 馬鹿な!」
「チェックメイトだ死人使いよ」
ラザフォードは岩を投げつけ、緑曜は岩を受け止めたがよろめいて倒れ伏す。
ソペリエと浄炎、ファングが滑るように進み出ると、緑曜に連打を浴びせかける。その長刀が弾き飛ばされ、最後にはファングの青龍偃月刀で緑曜は真っ二つに切り裂かれる。
「馬鹿‥‥な‥‥」
どさりと倒れる緑曜、超絶的な冒険者の一撃の前に骸と化す。
「よし、この辺りが頃合でしょう。殿は私たちが。敵を押し返して撤退しましょう」
「うむ。遭遇戦で失血を被るわけにもいかん」
ファングは侍たちに緑曜を倒したことを伝えると、円陣を組んで撤収の準備に取り掛かるように伝える。
浄炎は七なる誓いの短剣に祈りを込めると、殿を務める。
「敵の首魁は倒しましたが‥‥まだ宮津には大物が残っていますからね。ここで消耗するわけにはいきません」
ソペリエも殿に付く。
「緑曜は倒しましたか。では、残敵は煙にまいて撤退するとしましょう」
ロッドは次々と超越スモークフィールドを展開する。
かくして、丹後軍は亡者の抵抗を退け、さしたる被害もなく撤退を完了させる。
‥‥戦闘終結後。
「ご苦労だったな」
京極高広が侍達の手当てを行う瑞香に声をかける。瑞香は丹後軍の僧侶達とともに事後の回復に当たっていた。
「いえ、この地で戦う皆さんの労苦を思えば、こんなものは苦労のうちには入りません。黄泉人を‥‥いつの日か倒すことが出来ればよいのですが」
「そうだな‥‥この地も既に黄泉との戦で荒廃してしまったが。いつの日かまた丹後に民を呼び、ともにこの地の再興に務めたいものだ」
高広は遠い目で空を見上げた。と、その時である。陣中にこつ然と豪奢な神官服を着た男が姿を見せ、声を発した。
「奴は‥‥大国主が?」
天津神の天火明命が顔を上げる。
「丹後軍よ、余は丹後の大国主だ。どうやら、余とお前達の戦いがあるかも知れんな。未来予知にしばしばお前達が姿を見せては、余に戦いを挑んでくる。余に戦を仕掛けて、勝てる道理はないぞ。亡霊の軍隊を味方につけるとは、考えたものだが」
突然の大国主の出現に、将兵達はざわめく。大国主との戦いとは‥‥丹後軍は宣戦布告かと訝った。
「大国主よ、それは宣戦布告か」
「宣戦布告? 未来予知によればお前達が仕掛けてきた戦、余を打倒するつもりならば受けて立つぞ」
天火明命の問いに、大国主は悠然と答える。
「これは‥‥幻影だ」
京極が大国主に触れると、そのまま手がすり抜けた。
「余は朝廷との共存を望んでいたが、そうもいかぬようだな。余と余の軍は強大なれば、民の安全は約束しよう」
大国主の幻影は、それだけ言うと消滅した‥‥。
――京都。
ロッドは長崎藩邸を訪ねると、藤豊武将片桐と糟屋の推薦状を携えて、関白秀吉と会う。
「仕官の申し出か‥‥ふむ」
平伏するロッドに秀吉は思案顔を向ける。沈思の末に秀吉はぽんっと書状で膝を叩いた。
「よかろう。丹後での功績は確かなもの。そなたを藤豊家の末席に加える。これからも励めよ」
「ははっ! ありがたき幸せにございます」
かくして、ロッドは藤豊家臣に名を連ねる。