【源徳大遠征】神皇軍増強の奏上
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月27日〜11月01日
リプレイ公開日:2009年11月12日
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●オープニング
京都――。
ベアータ・レジーネス(eb1422)は神皇親征の準備に追われる関白秀吉を訪ねる。秀吉は長崎藩邸にて軍議を重ねていた。実際親征の準備は諸々の事情で思うように進まず、秀吉も頭を悩ませていた。何と言っても肝心の兵力が足りない。ベアータが秀吉に話を持ちかけたのはそんなある日のことである。
「関白殿下。もはや神皇軍への援軍は待っている段階ではございません。こちらから兵のあるところへ催促に向かう許可を賜りたく存じます」
「催促とは、どこへ向かうつもりじゃ」
秀吉は興味深げに問う。傍らの石田三成も思案顔でベアータを見つめる。
「はい‥‥」
ベアータは進言する。藤豊忍軍を用いて五条派を表明していた北陸、若狭及び平織家の内紛に巻き込まれた上杉軍の情勢を探りつつ、神皇軍への協力要請を北陸、若狭の大名達と改めて上杉軍に行い交渉するべきだと。
「成る程のう‥‥」
秀吉は扇を弄んだ。北陸、若狭の大名たちと言えば現在静観を決め込んでいるらしく動きは無い。若狭の武田元明、越前の浅倉義景、能登の畠山義隆、越中の畠山尚順らと言った勢力である。上洛途中の上杉謙信は尾張で立ち往生している。
ベアータはまた、立ち往生している上杉軍を、伊勢と平織家の領土を迂回する形で北陸、若狭等を通り上洛させる為、その件についても北陸、若狭の大名達に認めさせる交渉も同時に行うことも進言する。
「‥‥浅倉始め、北陸、若狭の連中は五条派を表明しておったが、今では天下の趨勢とは疎遠じゃな」
「殿下、この国難において、諸国が一致結束する時。安祥神皇が五条の宮を救うために大宰府へ派兵を行うとなれば、五条派の彼らも味方に付けることが出来ましょう」
「待て、その話、陛下にご相談しよう」
秀吉はベアータを連れて京都御所へ向かう。
安祥神皇は内裏で秀吉とベアータを出迎える。
「関白よ、大儀である。苦労をかけるな。で、余に火急の話とは何だ」
「はい‥‥こちらの我が家臣、ベアータ・レジーネスの提案にございます」
「聞こう」
ベアータは安祥神皇に長崎藩邸でした話を聞かせる。
神皇は思案顔でベアータの話を聞いていた。
「そうか‥‥若狭と北陸の者たちをな。このまま冬になれば兵は動けなくなる。急ぐべきだろうな。謙信にも急いでもらわねば困る」
安祥神皇は頷くと、若狭と北陸の大名、及び上杉謙信にも改めて神皇親征に参加する旨の勅使を遣わせると言った。
「頼んだぞ関白にベアータよ。諸大名を説得するのは骨の折れる作業だが、誰かが行かねばならぬ。謙信にも余の言葉、しかと伝えよ」
「ははーっ!」
かくして、ベアータは神皇の勅使として若狭と北陸、上杉謙信のもとへ出発することになった。
●リプレイ本文
冒険者たちは京都御所に集まっていた。話し合いの結果を藤豊秀吉に報告するためである。冒険者たちはみな貴族の服を着せられた。
治部少輔石田三成は今回の策を持ちかけてきたベアータ・レジーネス(eb1422)を見やりながら、先導する。
ほどなくして、一室に通された冒険者たち。そこに関白秀吉がいた。
「陛下の勅使たちを連れて参りました」
秀吉は相変わらず扇を弄んでいたが、目は笑っていなかった。
最初に武田家のカイザード・フォーリア(ea3693)が一礼して武田信玄からの書状を見せる。秀吉は目を通しながらカイザードの言葉を聞く。
「南信濃城代や平織武将連との取り決めにより、南信濃の武田兵二千を京都へ派兵する事で、三河騒乱を反故の旨を決定済でございます。武田は、陛下の勅に従い、神皇親征に参加いたします」
秀吉は吐息する。正直この一月は長すぎた。
「遠江国人とは多少面識がございます。関白殿下から、御親征に参陣すれば、遠征中の三河源徳とは別に朝敵扱いせず等の書を得られれば、些少でも兵を得れぬかと考えます」
「よかろう。やってみよ」
秀吉はその場で書状を書き記してカイザードに渡す。
「北陸諸侯への説得材料ですが」
「うむ」
カイザードは四つの提案をした。
一つは戦時特赦。戦争中断令と組み合わせる。もしイザナミ戦に出陣した際に、他勢力が攻撃してきた場合、藤豊家や他家の軍も報復や復興を手伝う。
二つ目は人災以外、すなわち期間中の魔物や天災による被害も藤豊家――朝廷の補償を得られるとすると言ったもの。
三つ目は陣立ての兵糧援助である。遠征に掛る費用の一部を保障すると言ったもの。
そして四つ目が五条の宮に関すること。北陸諸侯がかつて五条派であったことを鑑みてのこと。神剣の返還と言う条件と、九州で黄泉人戦へ協力している事を鑑みて、五条の宮の罪の緩和を唱える。
「盟主救出の名分と、朝廷及び秀吉公への戦費負担を多少増やす事で、北陸諸侯が協力しやすい状況を作っては如何かでしょうか。義と共に利も図るべきと愚考します」
「五条の宮については陛下のお考えも伺う必要があろうな」
すると、シフールのレベッカ・カリン(eb9927)がお辞儀して口を開く。
「北陸諸侯を口説くには戦後の五条帝の扱いが鍵ね。私としては五条帝に京都近郊の名刹で出家して頂き、いずれほとぼりが冷めたら高位の僧官に任命するのが最も角が立たない方法だと思うんだけど。いざとなれば還俗という手もあるしね」
神聖騎士のフィリッパ・オーギュスト(eb1004)は五条の宮について異なる意見を口にした。
「五条帝の扱いはレべッカさんのおっしゃる僧として権力放棄の方が、朝廷の論理としては正しいのでしょうが、このいまだ決着のついていない局面でそのまま通例で通すより、神器の返還やイザナミ戦での功績とか、新体制への移行協力などで差し引いたりして、謀反人での処罰はなく名誉隠退で上皇に退く形で責任を取った事にして、そのまま朝廷強化に携わっていただく方が双方の面子や今の実情には合い、説得しやすいと思われますが」
また伊達家のブレイズ・アドミラル(eb9090)は次のように言った。
「上皇として形式上の退位と、イザナミ戦での功績を認め、『北面の武者』として北陸諸侯を再編、『鎮西大将軍』として、朝廷の後見人として九州を纏められる事を提案いたします」
「あい分かった。陛下より出発前に回答を頂くとしよう。陛下にも思うところがおありじゃろうからな」
続いて意見を述べたのは藤豊家のアラン・ハリファックス(ea4295)。
「北陸四家につきましては、カイザード殿の具申案に賛成でございます。無論、財政上不可能な点については認めることは出来ませんが‥‥」
「戦費の一部を負担するのはやぶさかではない。北陸諸侯にはそう伝えよ」
「殿下のお言葉を頂ければ、ことを進めやすくなります。もう一点につきましては、こちらのレベッカ嬢を藤豊家に推挙するとともに、慈円上人の蘇生を具申いたします」
すると超越魔法の白僧レベッカが言った。
「慈円上人はあの酒呑童子と親しかった様子。酒呑童子がイザナミに味方している今となっては貴重な交渉窓口だわ。慈円上人を経由して酒呑童子と接触し、人間と不死人の争いにおいて鬼軍を再度中立の立場に引き戻すだけでも朝廷として大きな利益になるはず」
レベッカは自身の超越クローニングとリカバーで慈円上人を蘇生する事を提案する。これにはアランも大きく賛同した。
「慈円上人の蘇生を神皇様、関白殿下が行ったとなれば延暦寺へ大きな貸しを作る事が出来るし、甲斐武田氏から一層の協力も期待できるんじゃないかしら」
それからレベッカは自身の魔法能力を以って、藤豊家に仕官を願い出る。
「昨今は御所に侵入する盗賊もいる物騒な情勢。私のような者が配下に居れば殿下にも色々と便利なはずでしょう」
「慈円殿の件は分かった。準備を致そう。酒呑童子と繋がっておる懸念もあれば、都に弓引く恐れもある事じゃが、延暦寺には今なお和尚を慕う者も多い。危険はあるが」
仕官の件は待てと言った。
レベッカは肩をすくめると、若狭の件を持ち出した。
「若狭はお家騒動で揉めている様子。武田元明殿を若狭守護として改めて朝廷から任命し、若狭国支配の正当性を付与してあげる事を提案するわ」
秀吉はその件については書面にして冒険者たちに手渡す。
またアランが続いて意見を述べる。
「上洛途上の武田軍にも改めて上洛の勅を出し、その上洛に平織市は征夷大将軍として協力するよう要請すべきです」
「市殿も恐らく協力するにやぶさかではあるまい。派兵には家中のごたごたがあるじゃろうが‥‥これが企みだとすれば、第六天魔王とは実に巧妙な相手ではある気がするの」
「何れにしましても、京都救援のため、進軍中の武田軍も上杉軍同様平織の内紛から分離独立させ、上洛道中の武田軍の安全を確保するべきでしょう」
ベアータは仲間達の意見を聞いて、改めて秀吉と遠征費用の負担や北陸諸侯への戦時の特赦、イザナミ戦に参加途中に攻撃を受けた場合の藤豊家からの支援などを確認する。
「北陸諸侯をまとめることが出来れば重畳極まりないことじゃが‥‥」
秀吉はベアータの言葉に頷きながら扇を弄んだ。
伊勢、五節御神楽のミラ・ダイモス(eb2064)はフィリッパやカイザードの案を支持し、神皇の遠征を果たす思いで、深く頭を下げた。
「費用の補償では、イザナミに呼応する妖怪達によって各藩は少なからず疲弊していると考えます。遠征に協力する藩には、兵糧の援助や遠征帯同に関わる費用の一部の補償が必要でしょう」
‥‥秀吉は冒険者たちを連れて御所の中を移動すると、内裏で神皇と合間見える。正装姿の冒険者たちは深々と一礼する。
秀吉が冒険者たちからの提案を告げると、神皇は真摯な瞳で一同を見渡す。
「五条の罪は問わぬ。大宰府より救い出した後は、余は五条を皇家の一員として都に招くつもりだ。今となっては長州も滅亡寸前。余は五条と話し合ってみるつもりだ。その後どうするかは、五条次第であるが」
安祥は滅亡寸前の五条に手を差し出すことは理屈ではないと言った。
「今は生き残るのが先だ。北陸諸侯には五条の罪は問わぬと伝えよ」
「ははーっ」
謁見は短時間だった。
謁見が済んだ後、ベアータと伊達忍軍の磯城弥魁厳(eb5249)は石田三成と話し合いの席を持つ。
秀吉の許可が下りた。北陸軍が上洛する際に用立てられる兵糧や遠征費用を石田三成と相談する。必要な書状の作成や実際に費用と兵糧を用意する手続きを早速開始する。
魁厳は三成に諸侯や上杉軍の上洛に備えて、飛騨の説得が必要だと告げる。
「能登や越中の兵、上杉軍が北陸沿いに上洛する際、戦乱中の加賀を避ける必要がございます。つきましては飛騨の大名へ能登、越中兵及び上杉軍の領内通過を願い出る交渉に必要な書状を所望致したく存じます。また飛騨国との交渉が不発に終わった場合、能登より越前へは海路を使う必要がございます故、その場合の追加の準備費用や兵糧等の準備も併せてお願い致したく存じます」
「なるほど。確かに貴殿の言われるとおりだ。飛騨の姉小路へは通過を妨げぬように書状を渡しておこう」
「飛騨にはわしが参りまするゆえ」
「そうですか。頼みましたぞ」
三成は魁厳に姉小路氏への書面を託す。
そうして各地へ出発する冒険者たち。
飛騨の姉小路氏を尋ねる魁厳。姉小路頼綱は勅使の訪問に仰天して、通行許可を出す。
アランとミラは尾張へ向かった。カイザードもまた平織市に謁見すると、上杉武田軍上洛に協力するよう要請する。
「これは神皇陛下からの勅であります故、拒む理由もありますまい」
市は勅使のアランたちに平伏すると、協力を約束する。
その後上杉謙信と見える。
「若狭などから上洛の道を切り開くので此処に留まらず上洛されるよう願います。神皇陛下も謙信公の上洛を心待ちにされ、この勅を出されました。何卒‥‥」
謙信は平伏して出発の用意に取り掛かる。
その後武田軍にも上洛するよう連絡。武田軍二千は北陸方面を目指して上洛を開始する。
フィリッパはレベッカとともに若狭の武田元明を尋ねる。元明もまた勅使の訪問に仰天し、すぐさま神皇軍への派兵に向けて動き出す。
ベアータは越前の朝倉氏と能登の畠山を訪問、神皇軍への援軍を引き出すことに成功する。
尾張を出たミラは伊勢に向かう。斎宮の斎王と会う。誠意を込めて、志摩、紀伊等の隣接国に協力を要請する等で、何とか兵力を集める事を、斎王に願い出る。
だが斎王は良い顔をしなかった。伊勢は自国の問題で手一杯。協力は取り付けることが出来なかった。
ブレイズと魁厳は能登と越中に向かい、神皇軍への援助を引き出すことに成功する。
かくして、諸侯の軍は一路京都を目指して動き出す。