終章。そして丹後の冬に
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月25日〜12月30日
リプレイ公開日:2009年12月30日
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●オープニング
西国情勢は急速に動き始めていた。黄泉軍と人類の存亡をかけた戦い。どちらが勝つにせよ、ここ数年続いた黄泉人との戦いは一朝では終わるまい。戦いは何をもたらすのか。
ここ丹後でも、一年以上にわたって戦闘が続いた。丹後軍は最終的には八十禍津日神が率いる黄泉軍を撃破し、この地域における戦闘は終結している。また先だって大国主が討伐され、丹後は完全に解放された。
丹後の街道を、源細がらしゃ(ez1176)は歩いていた。その傍らには、夫の金剛童子「天樹」がいた。戦闘が終結したことを受けて、民が少しずつ帰ってきていた。各地では復興が始まっていた。
「ようやく、丹後に安寧の時が訪れましたね‥‥長い戦いでした」
「ガラシャ、よく頑張ったな。折れ砕けそうになる心を、よく耐えた」
「いえ‥‥この地を開放して下さった、皆さんの労苦を思えば‥‥」
天樹の言葉に微笑むガラシャ。ついと編み笠を上げれば、すれ違う民と笑顔を交わす。
「冬が来ます。季節の移ろいは変わりなく‥‥丹後の民にとっては厳しい冬となるでしょうね」
ガラシャは吐息して、天樹の腕を取って歩き出した。
「――そーれ!」
男たちが材木を持ち上げ、家の修復を行っていく。京極高広(ez1175)は家臣を率いて、民とともに半壊した舞鶴城下の復興に当たっていた。
「冬将軍が来る前に、何とか住まいだけでも立て直さねばならんな」
高広は建築士の地図に目を落としながら、舞鶴の復興計画に夢を膨らませていた。
京極家は、このたび京都の藤豊家から、丹後での戦功により、大江山の領土に加えて舞鶴を与えられた。かつて舞鶴藩の領主であった相川宏尚とその一族は、減封の末に京極家の家臣とされた。
と、高広は天を見上げる。はらはらと雪が落ちてくる。
「天下の戦はまだ残っているが‥‥我らは丹後を預かる者として、この地の復興に力を尽くそう」
黄泉人との決戦が近いことから、藤豊武将の片桐且元と糟谷武則は兵を率いて京都に帰還し、丹後を去った。残された京極家は、今は復興に尽力するのみであった。
宮津城でも復興が始まっていた。藩主の立花鉄州斎は、いつものように城下町を見て回ると、天橋立を渡って籠神社に向かった。
籠神社には、天津神の火精霊である三柱、天火明命、天御影命、天鈿女命がいた。
「復興は順調か」
天火明命の言葉に鉄州斎はお辞儀する。
「はい。おかげさまで。御三方におかれましては、長らくともに戦って頂いたこと、感謝しております」
「礼など無用だ。これは我々の戦いでもあったのだ。お前たちをここまで巻き込むことになるとは思わなかったが」
とてつもない黄泉軍の出現は、丹後軍を幾度となく苦しめた。天津神は人とともに戦い、そして静かに表舞台から身を引いていた。
鉄州斎は天津神にお辞儀すると、町へ戻る。その足元を、狐たちが駆け抜けていった。化け狐たちだ。丹後では化け狐も稲荷神の使い、お稲荷さんとして祀られていた。御供えの油揚げを狐たちは嬉しそうにかっさらっていく。
「鉄州斎殿――」
声をかけたのは、着物を着た白毛の妖狐、上位妖怪の白狐であった。
「戦が終わってみれば、何もかもが束の間の夢のようですな」
「全くですな。人と妖がともに戦い‥‥」
鉄州斎の背後から、銀毛の大きな狼が姿を見せる。
「少なくない血を、我らも流した。よくぞ戦ったものだ。あの黄泉の大軍がなければ、なかったことではあるが」
鉄州斎は狼の毛を撫でてやると、吐息した。
「妖怪たちから受けた恩を、我々は忘れません」
「人は簡単に忘れる。じきに妖を見れば退治と騒ぎ出すのでは?」
「丹後では、人と妖がともに戦った、そのことは私たちの記憶に刻まれています」
鉄州斎は白狐と銀狼に真面目な口調で言った。
峰山藩においては、大太法師ら氏神たちが森へ帰る。そしてまた、西の黄泉人の備えに、大物主の亡霊軍隊が残った。
藩主の中川克明が復興途上の城下町に帰ってきた民を見て回る。民は本当に丹後が平和になったことを信じられない様子だったが、戻ることが出来たことを喜んだ。
「春香はどうしているだろか‥‥」
克明の脳裏に、京都に人質に差し出した娘のことがよぎる。克明は吐息すると、城を出て西方へ向かった。
国境付近には大物主の亡霊軍隊が警戒に当たっていた。
「大物主様――」
克明は亡霊の王に話しかけた。大物主は振り返ると頷く。
「峰山藩主か。安心しろ。西に動きは無い。恐らく丹後へは攻撃してこないだろう。この地域での戦闘は終わっている。戦いがあるとしても、京都方面になるのではないか。黄泉軍が大軍だとしても、複数の戦場で戦闘を行うのは狂気の沙汰だな。八十禍津日神が死に、丹後方面軍が壊滅した以上、ここでの戦闘はまずないと見てよかろう」
「我らにお味方下さり、誠にありがたい。心強いことです。大国主が倒れた今、脅威となるのは西の黄泉人だけではあります。現在九州にて、大軍が激突しているとのことです」
「そうであったか。ならばなおのこと、この地に兵を割く余裕もなかろう。‥‥大国主のことは、何も言うまいが」
克明と大物主は、無人の地平に、西方に目を向ける。
丹後の戦いは決着し、冬将軍が到来しようとしていた――。
●リプレイ本文
●アラン・ハリファックス(ea4295)
アランは京都にて、春香姫の現況を聞く。
姫は長崎か関門海峡で指揮を取っており、最前線にいるのは確実だと言う。
アランは思案顔で頷くと、どぶろくを買い込んで丹後へ向かった。
――峰山藩。
中川克明と面会したアランは、長かった丹後戦線について振り返りつつ、春香姫の現況について伝える。
「春香姫を容易に故郷へ戻れぬようにしてしまった。お許し頂きたい」
「いえ」
克明は頭を下げた。
「関白殿下の助力なくして勝つことは出来ませんでした。これも運命だったのでしょう」
「すまぬ、克明殿。本来であれば姫もここに居た、いや居るべきだったのだ」
そしてアランは峰山を発った。
道中に、咲きかけの花を見つけたアランは、それを摘んでおくと、懐にしまい込んだ。
舞鶴藩を訪れたアラン。京極高広と会う。
「よくぞ参られたアラン殿! 懐かしゅうございますな!」
「京極家の領地取得に、お祝い申し上げます」
高広は快活に笑ってアランにお辞儀する。
それからアランは城下の復興作業を手伝う。夕方になり、作業も一段落したところで、皆にどぶろくをふるまった。
「京極家の幸あらんことを」
そして‥‥。
「さらばだ、丹後よ。関東を鎮めたら、また来るとしよう。次も、友として」
アランは京都へ向かって歩き出した。
京都に帰った後、最前線の春香姫に書状を送る。丹後や峰山の現状、故郷に帰れるよう努力するので必ず生きて帰るようにと。摘み取った花を同封して送る。
そして秀吉に会い、黄泉戦終了の後には人質である春香姫を、一時的にしろ峰山に里帰りさせてはどうかと意見を述べた。
秀吉は縁談の話があると言って、戦いが終わったなら姫の一時帰郷も良いかも知れんと答えた。
●白翼寺涼哉(ea9502)
「この時期体調を崩す者が少なくない。救護所をこさえて診察しよう」
白翼寺は丹後各地を回って救護所にて診察を行った。
「戦の疲れが出る頃か。風邪には気ィつけんとな」
炊き出しの際には、体を温めるモノ、食材を優先的に使用することを助言する。湯船にはヨモギ、柑橘の皮等を浮かべることなどを助言した。
各地で祈り紐の儀式を執り行う。丹後復興とジャパン平定を願い祈紐を結ぶ。
各地の神社で祈り紐を集める。儀式の際は、風雅や怜音に協力させた。
籠神社に立ち寄った白翼寺。天津神や稲荷神達に協力を乞い、初詣に祈紐を提案する。
「正月と言えば初詣だろ? 参拝時に祈紐を結ぶってのはどうかね?」
「良い案です。祈り紐には浄化の力がありました」
「有象無象の思いの力か‥‥」
白狐は賛同し、天火明命は思案顔で頷いた。
「さて‥‥春香姫は九州に参戦‥‥となると里帰りは難しいか。薫風隊に関しては、俺も一枚噛んでるしな」
白翼寺はうなった。
思案の末に、祈紐を集め春香姫に贈るよう、峰山藩主の中川や藤豊武将達に提案することにする。
「故郷の応援があれば、春香姫も心強いはずだ」
丹後の民達に祈紐を結んでもらう。集めた祈紐を明王院浄炎(eb2373)に預けた。
●風雲寺雷音丸(eb0921)
「思えば、丹後との付き合いがこれほど長くなるとは、思ってもいなかったな」
その足は籠神社へと向かった。
雷音丸は、自費で500両を出し、それで買えるだけの種籾を集め、それを籠神社へ送った。
「この戦乱で着の身着のままで逃げだした農民も多いだろう。となると、戦が終わっても、来年撒く種もないという者も多かろう。この場で種籾を配布しても良いのだが、そうすると、種まきの季節が来る前に食べてしまう者もかなり出てくるだろう。この種籾は未来を繋ぐ希望の種。その場しのぎの為に食べてしまってはいけない。そのため、種まきの季節が来るまで神社で預かっていてほしい。そして種籾が必要になった時に人々に配って頂きたい」
神主は「なるほど‥‥」と頷き、種籾を確かに預かる。
それから雷音丸は、天火明命、天鈿女命、天御影命と会う。
「三神と共に戦うことが出来たのは、火の志士としてこの上ない喜び。一生の誉れとして、この心に刻み置きます」
雷音丸はお辞儀すると、タイタンブレードを奉納した。
「まだ火の魔法ひとつ使えぬ半端者ですが、ぜひとも火の神々の剣技をご教授願いたいと思います」
「雷音丸よ、教えることなどない。神皇の剣として戦ってきたお前の心、見事であった。お前は十分に炎の心を持つ火の志士であったぞ」
天火明命は言って笑った。雷音丸は本気か冗談か、最後までその心を図りかねた。
●ベアータ・レジーネス(eb1422)
「丹後の民、妖怪、氏神、神々がよい関係を保ち今後も暮らせる様尽力しましょう」
ベアータは丹後各地をウイングドラゴンで飛び回り、各藩主達や仲間達と協議し、必要な物資を可能な限りスクロールに記録し、急いでウイングドラゴンを駆り京都に戻る。
それから治部少輔石田三成と会う。
「丹後もようやく黄泉軍、大国主神軍等の脅威を撃退し、今は復興の真っ最中です。つきましては年を越えるまで丹後の民達が寒さや飢えで苦しむ事のない様、必要と思われる物資の支援をお願い致したく存じます」
と、自分が丹後各地を回って把握した、復興に必要と思われる物資の一覧を示したスクロールを提出する。
三成はスクロールに書きこまれた物資の数々に目を通し、それからベアータをちらりと見やる。
「良いだろう、物資の支援の準備は整えよう」
三成の言葉に、ベアータの顔がぱっと明るくなった。
伏して礼を言うベアータ。それから丹後に向けた物資輸送に必要な諸手続きを開始することになる。
そんなベアータを、三成は言葉をかけた。
「ベアータ、殿下がお呼びだ。長崎藩邸に来い」
秀吉はいつものように扇を弄びながら待っていた。
「色々と、話を聞いていての。お主にも、官位の一つでもくれてやろうかと思っての」
「官位でございますか」
ベアータは驚いたが、伏してこの話を受ける。
「そうじゃのう、では、治部大丞辺りでどうじゃ」
「ありがたき幸せにございます。このベアータ、日の本のために、民のために全霊を尽くします」
「しっかり励むのじゃぞ」
それからベアータは丹後の仕事に戻った。
●明王院浄炎
支援物資を満載してやってきた浄炎。過剰な積み荷は、未楡が土侍らを連れてくるのを待って、手分けして運んだ。黄金仏像は善意の寄贈品。ゆえに一つは売却し救援資金に、もう一つは丹後の民に委ねようと届けた。
小さな木は、共に闘った全てのモノ達への感謝と、今後もこの地を見守って欲しいとの願いを籠めて。一本は、金剛童子山に、もう一本は針の岩城付近に植樹。
大国主に対しても、民を案ずる想いは同じであったと、この樹を墓標に鎮魂の祈りを捧げた‥‥。
そして浄炎は大物主神のもとを訪れた。
「大物主よ、安らかな眠りを願う貴殿らに、最大の敬意と感謝を表したい。苦痛に苛まれながら、我らとともに戦ってくれたことに、言葉もない」
大物主は吐息する仕草を見せた。
「‥‥苦痛は消えぬ。悲しき運命よな」
「旅立ちの時には呼んで欲しい。ささやかな力にしかなれぬとしても、眠りに着く手助けに必ずや伺おう」
浄炎はこの亡霊王と約定を交わすと、神酒を捧げた。
それから、現世の苦しみを和らげる一助にならんとの祈りを籠めた祈紐を周囲の木々に結んで回った。
それから天樹たちのもとを訪れる
「丹後の民の信頼篤く、分け隔てなく働き、又、この地の隅々まで知り尽くした土侍達の協力がある貴公らならばこそ、救済の手を必要とする人々の元に‥‥治世者らの手が届かぬ人々の元にも必要な物資を届けてくれるのではないかとな」
金剛童子は、静かな瞳で浄炎を見下ろした。
「すまぬが力を貸してはくれぬか?」
「浄炎、約束しよう。丹後の民は守って見せると。ガラシャが愛したモノを、俺も守りたい‥‥」
浄炎は天樹と握手を交わした。
各地を歩いた浄炎。全てのモノに平等な鎮魂の祈りを籠めて、祈紐を紡ぎ、注連縄の如く木々に結わいて歩く。
「十分な供養を成す事が出来ず、済まぬ。せめて血と怨嗟の呪縛から解かれ、安らかな眠りに付ける事を祈ろう」
それが、浄炎が丹後に残した言葉であった。
●チサト・ミョウオウイン(eb3601)
「よおチサト! こいつが支援物資か、きっちり民のもとへ運んでやっからな!」
土侍たちは、チサトから積み荷の物資を受け取った。
それからチサトは豆彦神社を訪れた。積年の思いがこみ上げてきて、チサトの感情を揺さぶった。
自身も深く関わった相手だけに、空と想いは同じ。亡者となって尚怨嗟の縛鎖に囚われ、苦しみの果てに消えて行った浄人王‥‥夢の為に道を誤ったシャナ‥‥二人に縁のある丹後の豆彦神社に、空から預かった遺品と共に「祈りの結晶」を奉納し、彼らの魂の救済を願う。
そして大物主のもとを訪れた。
「大物主様‥‥本当にありがとうございます。丹後の民のためにこれだけのことをして下さったことに、感謝いたします‥‥」
「このような姿となってしまった今、我らに出来ることは少ない。が、為せることを為そうと思ってな」
「現世の苦しみを和らげる一助になれば‥‥」
チサトは精一杯の祈りと想いを、「祈りの結晶」に籠めて、贈った。
「どうか再び眠りに着くその時まで、人々の祈りが皆様の苦しみを和らげますように‥‥」
宮津にて、妖怪たちと見えたチサトは獣たちに礼を言う。
最後に天樹たちとともに丹後を周る。
母や姉が、物資の調達に奔走している事‥‥。
月道を越えて多くの人々がそれに応えて、支えてくれている事‥‥。
人々の善意が大きな流れになって人々の元に届けられようとしている事‥‥。
それら希望を伝え、物資と共に希望を広める。
チサトがもたらした小さな希望は、ほんの少しだけ、丹後の人々の心にぬくもりを与えた。
そして季節はやってくる‥‥丹後に厳しい冬が訪れようとしていた。