【敵中突破】人喰鬼を撃退せよ
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月14日〜12月19日
リプレイ公開日:2007年12月19日
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●オープニング
木枯らしが吹き荒れていた。舞い散る木の葉。ぴゅうぴゅうと風が鳴る。死者の歌声のように‥‥。
十体近い人喰鬼が山を下りてきた。鬼達は風鳴りの中を歩いていく。その目は血に飢えた獣さながらであった。鬼の血が騒いでいるのだ。人喰鬼の一団はたけり狂う暴風となってその村に襲いかかろうとしていた。
その村では、人々が平穏な日々を送っていた。村人たちはこれまで一度も鬼というものを見たことがなかった。しかし、そんな村人たちでも、人喰鬼の瞳に宿る邪悪な光はありありと見て取ることが出来た。
村に到達した人喰鬼は猛獣さながらに暴れ狂い、人々に襲い掛かる。
村人たちは悲鳴を上げて逃げまどう。そんな村人たちを一人の老人がまとめていた。
「みなの者! 一刻を争うぞ! 生きていればこそじゃ! 今は一刻も早くここから逃げるのじゃ!」
老人は村で一人の僧侶で、名を太平と言った。
「さあ! 急ぐぞ! 鬼達が破壊に明け暮れている間に、京の都まで走るのじゃ! 後ろを振り返るな!」
太平は村人たちの背後を守りながら叫んだ。
村人たちは逃げ出した。しかし人喰鬼の動きも早かった。鬼の一団は村人たちの姿を確認すると、半包囲隊形でその後を追った。村人たちの中には子供もいる。鬼の足はそれよりもはるかに速い。そして、村人たちは森の中で鬼達に追いつかれることになる。
「駄目です太平様! あの恐ろしい鬼達はすぐそこまで来ています! とても逃げ切れません!」
「お前たちは子供たちを連れて逃げよ。鬼の足はわしが止める」
「太平様、お一人で?」
「行け。お主らは都に行き、ことの次第を冒険者ギルドに伝えるのだ」
「太平様‥‥」
「行け! 振り返る時間はないぞ! さあ、急ぐのだ!」
そうして、村人たちは足早に京の都に向かったのである。
それを見届けた太平。深々と息を吐き出すと、道のど真ん中に立ち、正面を向いた。
やがて、人喰鬼の一団が森のあちこちから姿を現し、太平を包囲した。
『老人か、村人たちを逃がすために時間を稼ぐ気だな』
人喰鬼の一人がオーガ語で言った。無論太平にその言葉が通じるはずもない。
太平は敢然と人喰鬼の一団に向かって手を突き出した。やがて、太平の体が光を放つ。
「鬼ども! この道を通りたくばわしの屍を越えていけ! この命尽きるまで、お前たちを止めてやるわ!」
太平の言葉が理解できるはずもなかったが、鬼達は笑ってみせる。
『みなの衆、この老人は我々と一戦交えるつもりらしいぞ』
『面白い。どこにそんな力があるのか見せてもらおうではないか』
鬼達は笑った。
太平は合掌して魔法を詠唱した。
「ホーリー!」
それが太平最後の魔法だった。
京都、冒険者ギルド。
辿りついた村人たちは疲れきった表情でギルドにいた。
ギルドの受付の青年は村人から話を聞いていた。
「二本角の巨大な鬼、濃い褐色の肌をした、鬼ですね。それは人喰鬼ですね」
「太平様が私たちを逃がして下さいました。あの方がいらっしゃらなければ、今頃私たちは‥‥」
「偉大なお方だったのですね、そのお坊様は」
「命を賭して私たちを逃がして下さいました‥‥お願いです、どうかあの鬼達を退治して下さい」
青年は頷くと、依頼書を張り出した。
――緊急、村を襲った人喰鬼を撃退せよ。
●リプレイ本文
いよいよ出立前、新撰組出張所内の一室に、村人たちと冒険者たちの姿があった。この場所は新撰組隊士の明王院未楡(eb2404)が新撰組の隊長の許可を得て開放したものだ。
事前にサポートから仏像を受け取っておいたチップ・エイオータ(ea0061)。村人に必ず鬼を倒すと約束し、村までの道筋、森と村周辺、内部の地理を聞き取る。
「医師の白翼寺だ」
白翼寺涼哉(ea9502)も村人たちの話に耳を傾けていた。
「太平殿が‥‥。その後どうなったかはわからんのね?」
「あのお方は私たちを逃がすために‥‥犠牲になったのです」
「鬼共の方は全て片付ける。鬼の首は‥‥どうするかね?」
村人たちは鬼の首と聞いただけで恐れをなしてしまったようだ。
ベアータ・レジーネス(eb1422)は村人たちに村の見取り図をスクロールに書いてもらっていた。それを偵察と囮役の仲間に渡しておく。
六条素華(eb4756)は村人から村への道筋をあらかじめ聞いておく。
クロウ・ブラックフェザー(ea2562)、草薙北斗(ea5414)、太丹(eb0334)、香山宗光(eb1599)、備前響耶(eb3824)、らもそれぞれ出立の準備を整え、冒険者たちは京の都を発った。
六条は村人から伝え聞いた話をもとに村までの地図を作成。バーニングマップで地図を燃やして最短距離を割り出す。六条は愛馬の火髪で移動。その他、冒険者たちはそれぞれ魔法のシューズや草履、絨毯などで移動する。
冒険者たちは村の近くまで辿りついたところでいったん足を止める。
そこで一通りの作戦を立てておく。囮部隊が鬼を引き付け、奇襲ポイントで鬼を殲滅する。
「鬼が囮に全て引っ掛からなかったとしても、それは戦力の分断を意味します。こちらが倒しやすくなると考えれば悪くありません。早急にこれを殲滅し、残りへと向かいましょう」
六条が作戦まとめた。その言葉に一同頷くと、行動を開始する。
手頃な木に登り、テレスコープのスクロールを使って村内部の様子を伺うクロウ。鬼達の居場所を確認する。村の入り口に見張りはいない。それから村の周辺で鬼を迎え撃つのに適した場所を探すクロウ。岩陰や木陰等、身を隠し易い地形を探し、更に見つかり難い様に穴を掘る等しておく。
村に潜入したチップ。影から影へと移動しつつ敵情を探る。
「いたいた」
チップは人喰い鬼の姿を発見してさっと身を隠す。他の方向からの音にも注意する。それからさらに索敵を続けるチップ。さらにもう一体の人喰鬼を発見する。そして頃合を計って、チップは指笛で敵の数を知らせる。チップは指笛を二度吹いた。
と、その時だ、背後に気配を察知したチップはさっと振り返った。今まさに人喰鬼がチップの頭部に棍棒を振り下ろそうとしているところだった。チップは追儺豆を人喰鬼にぶつけると、素早く逃げ出した。
「危ない危ない‥‥」
チップは再び動き出す。
クロウは匂いでばれないように風下から鬼達に近付いていく。鬼達の姿を確認しつつ、さらに村の内部へ潜入するクロウ。家屋は破壊され、人の気配がなくなった家々が立ち並ぶばかりだ。クロウは二体の人喰鬼を確認した。
と、村の奥の方で草薙と出くわしたクロウ。
「そっちの様子はどうだい」
「二体の鬼を確認したぜ。そっちは」
「僕の方は一体だけだよ。話では十体近い鬼がいたそうだから、まだいるかも知れないね」
クロウと草薙はさらに奥へと進む。そこでまたしても三体の人喰鬼を発見する二人。二体の人喰鬼が周囲を警戒しており、その後ろに一体の人喰鬼が鎮座している。
「あの座っている奴、あいつはちょっと他のと違うな」
「鬼の長ってところか?」
そこへチップも合流を果たし、偵察組の三人はいったん引き上げることにする。
夜。冒険者たちは偵察部隊が持ち帰った情報を吟味していた。
話を聞きながら、明王院は仲間たちに暖かい飲み物や焚火で石を焼いて布で包んだ「懐石」を渡していた。少しでも寒さによる不利が生じることのないようにという配慮だ。
「予想はしていたが。やはり鬼の長がいるのか。十匹の人喰鬼を纏める長だ。手強いぞ」
備前は飲み物で体を温めながら言った。
果たして作戦通りにうまくいくのか。いよいよ冒険者たちの戦いが始まる。
夜明けとともに行動を開始する冒険者たち。
囮役のチップとクロウ、草薙が村の中へと身を投じる。残りの冒険者たちは村の入り口に身を潜めて待ち受ける。
「おい!」
人喰鬼に声をかけるチップ。人喰鬼はチップの姿を見ると咆哮を上げた。
襲い来る人喰鬼。逃げるチップ。その背後から続々と人喰鬼たちが現れる。チップは走った。
クロウも人喰鬼を引き付けていた。適当な鬼に攻撃を仕掛け、人喰鬼達がやって来たところで逃げを打つ。
草薙も同様。続々とやってくる人喰鬼を従えて逃げる草薙。疾走の術で距離を保ちながら周囲への警戒を怠ることなく村の入り口まで逃げる。草薙の背後には鬼の長もいた。
「来るぞ」
備前は太刀を鞘から抜き放った。
太丹はオーラエリベイション、オーラパワーの順番で魔法をかけて備える。
香山は日本刀にオーラパワーを付与。
明王院は六条からフレイムエリベイションをかけてもらう。
その六条は武器を持って戦う者全員にバーニングソードをかけ、自分自身にはエリベイションをかけておく。
白翼寺は後方に下がった。
ベアータは奇襲ポイントにライトニングトラップをかけておく。
やがて、囮組が人喰鬼を全員連れてやってくる。
ライトニングトラップに足を踏み入れた人喰鬼がぎゃっとわめいて立ちすくむ。
そこへ奇襲をかける冒険者たち。
先頭の一匹に備前が切りかかる。一撃の通常攻撃、二撃目のスマッシュが人喰鬼の体に叩き込まれる。太丹、香山、明王院も一気に襲い掛かる。不意を突かれて先頭の人喰鬼は沈んだ。
鬼の長は罠に気付いたようである。他の鬼達に戦闘隊形を取るように命じる。長の一声で、鬼達は前衛と後衛に分かれた。後衛の人喰鬼は長を守るように防御隊形を取っている。
「何だかよく分からないけどボスは守りに入ってるよ」
チップはそう言いながらシューティングPA+クイックシューティングで、人喰鬼の目や眉間、胸、首筋等を狙って矢を放つ。
少し離れた間合いから仲間の支援を行うクロウ。戦場を動き回り、鞭の攻撃で鬼の注意をそらし、仲間の援護に回る。さらに手裏剣を人喰鬼に投げつけ、その攻撃を阻害する。
草薙は微塵隠れの術で回避しながら人喰鬼との間合いを取る。目標は鬼の全滅だ。
後方に下がっている白翼寺。
「戦況は五分五分か」
愛犬の子龍に護衛をさせながら鬼の長の様子をうかがう。
ベアータはサイレンスで人喰鬼達の五感を奪いつつ、高速詠唱アイスコフィンで相手の数を減らしていた。
六条はアグラベイションで味方を援護しながら戦況を見つめていた。何とか他の鬼を倒して長を孤立させることが出来れば‥‥。
最前線の備前、香山、太丹、明王院と人喰鬼との間では激闘が続く。
太丹は鬼神大王で受けをしながら左手のホーリーナックルで人喰鬼をぶん殴る。
フェイントアタックで惑わしながら鬼の足元を狙う香山。だが人喰鬼は香山の攻撃をほとんど跳ね返す。
明王院はシュライクで打撃を与える。人喰鬼の攻撃にはバックアタックを使って回避で対応する。
一進一退の攻防が続く。白翼寺はリカバーでの回復に忙しい。消費MPはソルフの実で補充する白翼寺。
傷ついた鬼達は後方に下がり、代わりに後衛の鬼が前線に出てくるが、その数を徐々に減らしていく。
と、戦況を見つめていた鬼の長は突然逃げ出した。他の鬼もそれを見て逃げ始める。
チップは回り込んで鬼達の足を矢で狙うが鬼は逃げる。
太丹は鬼神大王を置いて走り出すと、鬼の背中を牛角拳でぶっ飛ばした。
「ぶっ飛べっす!」
いずれにしても、鬼達は逃げていく。
冒険者たちは鬼を追う。
「鬼達の他に誰かがいる」
ベアータが走りながら仲間たちに告げる。ブレスセンサーで鬼以外の呼吸を探知したのだ。
「村人がまだいるのではないか」
逃げる鬼を追う冒険者たち。村の奥で彼らは鬼の長に追いついた。他の鬼は逃げてしまっていた。
止めをさそうと近付く冒険者たちに向かって、鬼の長が不敵な笑みを浮かべる。と、鬼の長は物陰から村人たちを伴って現れた。生き残りがいたのだ。鬼の長は村人たちに向かって棍棒を突きつけると、何やらわめきながら地面を指す。
「武器を下ろせということか」
備前の言葉に舌打ちする白翼寺。
「人質を取られたんじゃ仕方ない。よしみんな、武器を下ろせ」
武器を下ろす冒険者たち。
鬼の長は村人の一人を引きずりながら一歩ずつ後退していく。さしもの冒険者たちも手が出せない。そして十分な距離を稼ぐと、鬼の長は村人を放して逃げていった。
戦闘終結後――。
見つかった太平の遺体探しを手伝い、仏像を供えて弔うチップ。
村を戦場にしちったか‥‥。白翼寺は塩を撒いて村の中を浄化していた。冒険者たちの対応が早かったため、村人に犠牲はなかった。
「葬儀屋の仕事は本職ではないんだが‥‥」
鬼の亡骸をしかるべき手段で片付ける白翼寺。鬼の亡骸を燃やし、鬼の得物を太平老人の墓に捧げる。
「村の守護者としての生き様は敬服に値する。願えれば、彼の魂に安息を‥‥」
太平の墓に手を合わせる備前と六条。それに倣う他の冒険者たち。
そうして、冒険者たちは京への帰路に着いた。
都に帰還した後、仲間の武器を無償で修理する香山。
「いつの日か‥‥あの鬼を倒さねばなりませんな」
香山はそう言いながら刀を鍛え直すのであった。
――冒険者ギルド。
「京の治安維持に関わる仕事は京都見廻組の給与範囲内。自分の報酬は無用だ。村の再建等に補填してくれ」
備前はギルドの手代にそう申し伝えるのだった。