逃げ出した象を送り届けよう
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月18日〜12月23日
リプレイ公開日:2007年12月22日
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●オープニング
年の瀬も迫った江戸。一年間の興行を終えて帰国の途につこうとしている一団があった。大陸の華国からやって来たサーカスの一団である。今年一年、四季を通してジャパン全土を回り、各地で華国の大道芸を披露してきた。各地で拍手喝采を受けたサーカス団のメンバーは、今年一年の成功を祝って杯を交わしていた。
そんな折‥‥。
動物の檻が置いてある暗闇の中で凄まじい音が鳴り響いた。獣の鳴き声とものすごい破壊音が轟き、団員たちは何事かと駆けつけた。
「大変だ‥‥」
団員の目の前には、破壊された檻と滅茶苦茶になった天幕が横たわっていた。
「大変だー! 象が逃げたぞー!」
江戸の町。大通りを爆走する象がいた。サーカス団から逃げ出した象である。普段はおとなしいはずの象が突然何かに取り付かれたように暴れ出したのである。象は逃げまどう人々など全く無視してずんずん街中を駆け抜けていく。人々は興味半分、恐怖半分で駆け抜けていく象をよけながらその巨体を見送っていた。
そして、象はとある武家屋敷の壁に何度も体当たりを繰り返し、ついにはその壁を突き破り、屋敷の庭の中に入ってしまった。
屋敷の主の侍一家は恐怖の眼で飛び込んできた異国の動物を見つめていた。
――冒険者ギルド。
「というわけで、逃げ出した象を何とか元の檻に返して欲しいのです」
サーカス団の団員は受付の青年にことの成り行きを話していた。
ギルドの青年も噂の象の依頼と聞いて心なしか嬉しそうである。
「私も一度見てみたかったなあ、サーカス。何だかんだで行く機会がなくて。もう帰っちゃうんですか? 来年は?」
「あの、今は依頼の話を‥‥」
「ああそうでした。象ですね。すごいですね。屋敷の壁をぶち抜いて中に入ってしまうとは」
「何せ象ですから。あの体で暴れるとすごいパワー発揮するんですよ」
「そのようですね。で、冒険者たちには何をして欲しいんでしょうか」
「象を何とか屋敷から誘い出して欲しいのです」
「それだけですか? 誘い出すだけ?」
「いや、そこから、我々の船が待つ築地港までの誘導をお願いしたいのです」
「二、三キロはありますね。結構な距離ですよ」
「いったん外に出てしまえば、誘導はうちの動物使いが主に担当しますから、そこからは周辺の警護などをお願いしたいのです」
「あの巨体です。また暴れ出しても困りますしねえ。おとなしく船まで帰ってくれるといいですね」
「念のために申し上げておきますが‥‥」
「象は傷つけることなく返して欲しい、でしょう? 依頼の解決条件に書き加えておきましょう」
「お願いします」
そう言ってサーカス団のメンバーはぺこりと頭を下げるのだった。
●リプレイ本文
行動開始前。
「サーカスというのは母国でも各地を周っているんだろうし‥‥水でも合わなかったか、もしくは逆に何か気に入った、欲しいものでも‥‥? まあ象の意思は会話できる方々に任せて、できるだけフォローはしてやりたいところか」
と菊川旭(ea9032)。
「象の見物のついでに船まで連れてけばいいのよね?」
「それは逆だろう」
「えっ!? 逆? 気にしない気にしない。何とかなるわよ」
菊川の言葉に軽い乗りで応じる御陰桜(eb4757)。
「暴れ象さんにテレパシーで話し掛けて、なだめて武家屋敷から連れ出して、築地まで護衛しちゃいます」
とルンルン・フレール(eb5885)。
「このままだと、街の人にとっても象さんにとっても不幸なことになるもの。私のルンルン忍法で、みんな幸せにしたいから!」
「象というと話に聞いた事があるのだけれど、珍しい生き物を見てみようと思ってね」
そう言ったのはカイ・ローン(ea3054)。
「そうそう。さぁかすって気にはなってたんだけど行けなかったし、象っておっきいのも見てみたいわね」
御陰は指先を唇に当てて思案を巡らせる。
「俺は象を見るのは初めてじゃないんだがな」
そう言ったのは異国インドゥーラから帰還してきた鷹見仁(ea0204)。彼は異国での冒険を経てパラディンとなっていた。今も修行中の身である。
「以前、依頼で警護のようなことをしたこともあるし、つい先日までインドゥーラにいたので野生の象も何度か見た。それで俺が知っているのは、象は本来、家族想いで優しい生き物であると言うこと。その象が暴れたと言うからには何かしらの原因があるのだろう。華仙のサーカスとは言え、象は十中八九インドゥーラから連れてきたものだろう。そして独特な技能を要する調教師『象使い』もインドゥーラの者である可能性が高い。逆に言えば、専門の象使いが居なかったらそのことで象にストレスを与えていた可能性もある」
と、ピエロのマスクを被った人物が口を開いた。ドクター・ウェストと名乗る人物である。本名をトマス・ウェスト(ea8714)と言った。
「我輩が象を診察してみよう。どこまで出来るか分からないがね〜」
現在源徳家から手配を受けているドクター・ウェスト。顔を隠すためにマスクをつけていた。
まずは依頼人に象が逃げ出した時の状況を詳しく尋ねるカイ。現場検証も行ってみるが、とにかく現場は荒れ果てていた。
「象が逃げた原因が分からないと誘導中にまた逃げ出すかもしれないんだがなあ。困った」
依頼人から象の名前を聞いておく菊川。象の名前はリッキー。意外と西洋風である。
「呼びかけるにもそこからだよな。象に対しても呼びかけは『リッキー殿』と」
鷹見はサーカス団専属の象使いから話を聞いてみる。象使いはインドゥーラの人間だった。鷹見はヒンズー語で彼に話しかけてみる。象が暴れ出した理由に心当たりがないか尋ねてみる。象使いはと言うと、
「恐らく長らく異国の地で活動してきたことがストレスになっているのかも知れませんね」
と答えるのみであった。象使いにも暴れ出した原因は分からないようである。
ドクター・ウェストも調教師などから食事の量、糞などの健康状態などを聞きだす。基準が判らないため、普段どおりなのか、生息地ではどうだったかなど、色々聞き出す。象の健康状態に問題はなかったとのことである。
サーカスの団員から話を聞いて見る御陰。暴れ出す前に何か変わった事がなかったか、些細な事でも構わないので色んな人に話を聞いて回る。しかし、象は突然暴れ出したとのことで、彼らにも全く見当がつかないのであった。それはさて置き、象に近づく時のためにサーカスの衣装を借りられないかと御陰は交渉を持ちかけた。
「見慣れてる格好の方が警戒されないかも知れないし、ね? いいでしょ」
駄目でも人遁の術で変わり身は出来るのだが。ともあれ衣装は借りることが出来た。
「どう? 似合うかしら?」
そんな御陰を横目にルンルンもサーカスの団員から手短に聞き込みを行う。暴れ出す前に何があったのか、変わった事がなかったか。それらを聞いてから、ルンルンは象の好物を分けて貰った。
さて、野次馬の人ごみを掻き分けて、象が待つ武家屋敷に乗り込んだ冒険者たち。名だたる冒険者が依頼を受けたとあって、人々はやんやの喝采を送っていた。
象を診察するドクター・ウェスト。
「けひゃひゃっ、うお! ‥‥お、大きいね〜、本で見るのと実際本物を見るのとではやはり違うものだね〜」
初めは驚いていたが、一応医者らしく診察してみる。しかしはっきりしたことは分からない。
そこでルンルン。疾走の術を使って武家屋敷までやってきた。今はおとなしくしている象。たーっと駆け寄ってテレパシーの巻物を使って話し掛けてみる。
「象さん象さん、どうして暴れているの?」
すると、象の答えが帰ってきた。
「悪気はなかったんです。すこし運動がてらに走ってみただけなんですけど」
その言葉を聞いて安堵するルンルン。
「突然暴れるからみんなが心配しています。恐がっていますよ」
「そうですか‥‥それは申し訳ないことをしましたね」
「もう暴れたりしない?」
「私は暴れているつもりはないんですけどねえ‥‥」
などと象と会話しながら美味しい食べ物で相手の気分をなだめるルンルン。
「ほら、もう怖くない怖くない、美味しいものも沢山あるから落ち着いて‥‥」
怪我や体調不良の場合もあると思うので、そのことも聞いてみる。
「それは大丈夫、私はいたって健康ですよ」
ルンルンが得た情報をもとに念のために診察するドクター・ウェスト。
「我が輩の診察では特に異状は見当たらない。ルンルン君の耳によると、運動がてらに走ったそうだが、まあ、それを信用するしかないかね〜」
御影は象の様子を眺めて感嘆の吐息を漏らしていた。
「うわぁ、おっき〜い、なが〜い、すご〜い」
ともあれ相手は動物である。いつまた心変わりするやも知れない。ひとまずは象の心を落ち着けてみる御陰。人遁の術で象の着ぐるみの格好に変身してみる。
「象と一緒に遊べないかしらねぇ? ウチにも動物がいっぱい(計14)いるから分かるけど、愛情を持って接してあげれば懐いてくれるものなのよね」
「象さんはリラックスしてくれたみたいですよ」
ルンルンが象の言葉をみなに伝える。
そうして、象との交流も成功したところで、いよいよその誘導が開始された。
‥‥その前に。屋敷の主へ事情の説明、謝罪、相談をしておく菊川。早急に象を連れ出す為にと屋敷の主に相談に乗ってもらう。破壊した家屋の補償関係は予め依頼人に聞いておく。その辺りの話し合いはまた後日となった。丁寧に屋敷の主に謝罪はしつつ、依頼人に不利のないようフォローはしておく菊川。
武家屋敷から象が現れると、野次馬たちから歓声が上がる。もはやお祭り騒ぎになっている。
「どいたどいた! 危ないよ!」
周囲の警戒に当たる鷹見。象を驚かせるようなことがあってはならないし、象が又暴走した場合などは、最悪、自分の体を張ってでも周りの者に被害が及ぶのを防がなくてはならない。万が一に備える。
次に予定の移動経路上に家屋等があるのなら誘導前に説明して回り、落ち着いて行動してもらうようにするカイ。
「いかに最近の江戸は珍しいペットを見かけるとはいえ、一度逃げ出している以上警戒心を持っている人いるだろうしな」
方々に足を運び、町の人々に象が通ることを告げておく。
近隣への注意 野次馬の整理も合わせつつ、刺激を与えないようにと注意を呼びかける菊川。近所の人々には移動経路に適した道を聞き込んでおく。
「象の注意を惹きそうな、果樹のある家の前などは通らない方がいいだろう。ストレスが原因で暴れたようなら水場へ寄ってやってもいいのかもしれない。まあ、今回は気まぐれに暴走しただけのようだが。一応池や浅い川が近くにあるかも近隣の方々に聞いておこう」
実際の誘導中はフライングブルームで上空から監視し、誘導の邪魔になりそうなものの発見に尽力するカイ。それにしても野次馬が一向に減らないなあ‥‥。そうぼやきながら上空を旋回する。
誘導には急かすのも無理強いも禁物。会話は出来ないが、落ち着いて穏やかに根気良く話しかけてみる菊川。言葉が通じなくともまっすぐ向き合えば動物とでも意思は通じる合える。周囲の警戒として、移動経路を先行して様子を見るように動く菊川。野次馬への対応も丁寧に行う。ここで揉めても象に不安を与えかねない。象との意思疎通はルンルンのテレパシーを通して行う。象はひとまず落ち着いているようだ。
その他のメンバーも周囲の警戒などに当たる。
ドクター・ウェストや御陰、ルンルンはいざという時のためにコアギュレイトや春花の術を準備している。
カイも万が一でのコアギュレイトやホーリーフィールド、緊急時の笛(象が驚かないか事前に確認済み)などを準備していた。
「たった一人でも考えなしがいれば被害がどうなるか分からないから気を抜かず監視しよう」
そうして――。
やがて築地港が見えてきた。象も冒険者たちとのコミュニケーションでおとなしくここまでやって来た。
そして、象は港に停泊していた船に無事乗り込んだ。
「やれやれ、無事に終わったー」
慣れない仕事を終えてほっと一息つく冒険者たち。
ともあれ象は気持ちよく帰ってくれたようである。またいつの日か会うことがあるかもしれない。
依頼人と握手を交わし、冒険者たちは帰路に着くのであった。