地獄の沙汰も何とやら
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月09日〜01月14日
リプレイ公開日:2008年01月14日
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●オープニング
お正月も終わり、人々の間にいつもの生活が戻ってきた。
京の都にもいつもの時間が戻ってきた。そんな都の一角で‥‥。
一軒の門扉を荒々しく叩く男たちがいた。
「よう! 権太! 約束どおり娘を渡してもらおうか! ここを開けろ!」
男たちは権太の返事を待つまでもなく、扉を蹴り破って家に上がり込んだ。
悲鳴を上げたのは権太とその妻のさちである。
「権太! 約束だ、娘は貰っていくぜ」
男たちは権太とさちの娘を探し始めた。
家の奥で、年の頃二十歳前後の娘が怯えた眼差しで男たちを見つめていた。権太とさちの娘、竜である。男たちは荒々しい手つきで竜の腕をつかむと、強引に引っ張り上げた。
「助けて!」
竜は悲鳴を上げて助けを求める。
権太は必死になって男たちにすがりついた。
「頼む、あと一週間、もう一週間だけ待ってくれ! 金は何とか工面する!」
「そう言ってる間に年が明けちまったな、権太」
「頼む、もう一週間待ってくれれば、本当に金は工面するから!」
「権太、もう手遅れなんだよ」
「そこを何とか頼む!」
男たちはしかめっ面を浮かべながら権太を見つめていたが、やがて竜の腕を放した。
「仕方ねえ、もう一回だけ待ってやろう。地獄の沙汰も何とやらだ。一週間後にまた来るぜ」
そう言って男たちは引き上げて行った。
‥‥と、そこまでの経緯をギルドの手代に話していたさち。
「親族一同を回っても誰も助けてくれなくて、竜がどんなひどい目に合うかと思うと、もう胸が張り裂けそうで‥‥」
聞けば権太は100G近い金を二宮銀之助という金貸しから借りていると言う。それも全て賭博のかたである。
「あの人がそんな大金を借りてるなんて知りもしなかったんです。知っていたら止めたでしょう。馬鹿な真似はやめて下さいって‥‥」
さちは最後の頼みの綱と頼って、冒険者ギルドにやってきたのである。
ギルドの手代は筆を置きながら吐息した。悲惨な話もあったものである。借金のかたに娘をとられようとは。手代の青年は胸の内に呟きながら口を開く。
「ここギルドはどんな依頼でもお受けしますよ。たとえ成功報酬が怪しいものであっても、依頼はお受けします」
青年の言葉に一縷の望みを託すさち。報酬と聞いてさちは涙ぐんだ。
「すいません、こんなことお願いできるのは、ここしかないと思って‥‥」
そうして、さちが出した依頼は冒険者ギルドに張り出された。
‥‥その頃、権太は別の金貸しからさらに金を借りて、最後の大博打を打っていた。そして、権太は負けた。抱えきれない借金を作った権太は、そのまま姿をくらました。
●リプレイ本文
権太の身柄確保とその借金の清算に動き出した冒険者たち。
まずは宿奈芳純(eb5475)が金貸しの二宮銀之助のもとへと向かう。宿奈はライル・フォレスト(ea9027)から交渉予備金として300両を預かっていた。
京の都はいつもと変わらぬ喧騒に包まれていた。宿奈は銀之助が居を構える左京区の一角へと向かう。
銀之助が居を構えていたのは貴族の邸宅の間にあるこじんまりとした一軒家である。宿奈は扉を叩いた。しばらくすると、がらりと扉が開いて、一人の女が姿を現した。
「いらっしゃいませ」
「私は宿奈芳純と申します。さち殿から依頼を受けた関係で、こちらの二宮様を訪ねてまいりました。二宮様はおいでですか」
女は意表を突かれた様子である。宿奈の名前は聞き及んだことがあるのだろう。
「二宮様は」
宿奈の問いかけに頷くと、女は引っ込んだ。そして戻ってきた女は宿奈を二宮のもとへ案内した。宿奈は事前に宝手拭を使っておく。
二宮銀之助は年の頃三十代、中肉中背、一見したところではどこにでもいそうな、評判通りには見えない人物であった。
二宮は宿奈の姿を見ると立ち上がり、席を勧めてきた。
「さちが依頼を出したと聞きましたが、その用件でしょうか」
「左様です。一人の人間が百両に利子を含めた金子を用意するのは容易ではないと推察致します。貸し倒れや、お竜さんを売る事で変な噂が二宮様の周囲からお上に達しない為にも、ここは一つ善処の程をお願い申し上げます」
宿奈はそう言って、肩代わりの証明として利子を含めた200両を提供してみせる。
意表を突かれた様子の二宮。一息ついて口を開く。
「私とて悪魔ではありません。そちらが肩代わりなさるというのであれば結構。善処致しましょう」
ひとまずは権太の借金の肩代わりとお竜の解放を受け入れる二宮。交渉の末に、宿奈は二宮から権太の証文を暫定的に手に入れる。
所変わって冒険者ギルド。竜とさちを保護した冒険者たちが集まっていた。
「借金のかたに娘を充てるとは、後で大説教ですね」
そう言って苦笑するのは島津影虎(ea3210)。
「親が子を借金のかたにしちゃうなんて悲しいですよね‥‥。それにしても、こんなになるまで博打にのめり込むなんて、権太さんに何かあったのかな? 仕事が上手く行かないストレスとか‥‥今後の事もあるし、その辺りもはっきりさせておいた方が良いのかな〜?」
酒井貴次(eb3367)の言葉に頷く島津。
「ともかく、権太殿を探し出さなくてはなりませんが、恐らく、遠出は出来ないと思いますし、金子の工面を行う最後の手段として『新たに金を借りて博打で増やす』事を考えるかも知れませんから、金貸しや賭場等に痕跡があるかも知れませんね。或いは、現状に絶望していれば、人気の無い河や池周辺も考慮に入れておかねばなりませんか‥‥」
卓上に宿奈が洛中洛外図を広げる。酒井と宿奈はダウジングペンデュラムを地図の上にたらす。振り子は左京区の外れを指して止まった。
該当する町外れに向かうライル、島津、酒井。
サンワード、グリーンワードを使って酒井が権太の場所を絞り込んでいく。川や橋、廃屋周辺などを歩き回ることになる三人。偽名やヒゲ等の外見の変化も考慮しつつ、権太らしい人や最近見慣れない者がいないか等を周囲に聞き込むライル。そうして、三人は一軒のさびれた酒場に辿りついた。酒場の中をのぞいてみると、一人の男がいた。
三人は酒場の中に入ると、男に呼びかけた。男は探していた権太だった。
「‥‥というわけで、俺たちがさちさんの依頼を受けて竜さんを保護している。借金返済の目途もつき娘さんも無事、何も心配はいらないから、俺たちと一緒に帰ってくれないか」
ライルが説得するも最初は渋っていた権太。しかし最後には説得されて三人と一緒に帰ることになる。
「あんた!」
「お父さん!」
さちと竜は帰ってきた権太に駆け寄った。
「やれやれですね」
島津は元に戻った家族を見つめて安堵の息を漏らす。
「権太さんには今後はもうこんな事はしないで欲しいな。理由はどうあれ、お竜さんだって不憫だし、権太さんも絶対後悔するからっ」
酒井もそう言いながらひとまずは権太を家族のもとに返すことが出来てほっとする。
「さてと、まだ終わりじゃないんだよな」
ライルは再会を喜ぶ権太らのもとへと歩み寄る。権太から銀之助以外の借金先を聞き出すライル。
ギルドを出発したのはライルと宿奈。権太が二宮以外からも借金している金貸しのもとを一軒ずつ回っていく。
金貸し相手に借金は全額自分が肩代わりするので証文を返してくれるよう交渉するライル。相手が渋ったら、後々何かと差し支えないよう、穏便に済ませた方がお互いに得であると説得するつもりだった。しかし金貸したちは一様に穏やかだった。いずれの金貸しも、借金さえ戻れば文句はないとのことである。
「権太さんの性格、行動から鑑みてこのままでは貸し倒れになる可能性が高いので肩代わりさせて頂けませんか?」
宿奈もライルとともに金貸したちに提案を持ちかける。提案はすんなり受け入れられたが、金貸したちはみな驚いたようである。
「全くもって奇跡ですなあ」
金貸しの一人はそう言って笑った。
「あの権太に救いの神が現れるとはねえ。いやはや、全くもって奇跡です。いずれにしても、我々にしてみれば貸した金は帰ってくるということですし、何の問題もありませんよ」
金貸したちはそう言って権太の証文をライルと宿奈に手渡すのだった。
ライルは証文の内容を念のために確認。
そうして回った結果、権太の借金は総額150両だったと判明。それをライルと宿奈が75両ずつ肩代わりすることにする。二人は金貸したちのもとを訪れ、150両を清算する。
こうしてひとまずは依頼を解決に導いた冒険者たち。
冒険者ギルドでは緊急家族会議が開かれていた。権太、さち、竜、そして依頼を受けた冒険者たちが集まっていた。
島津は権太に大説教を説く。
「正直、家族を犠牲にして博打に現を抜かし、挙句自分だけ逃げ出す等とは言語道断。しかし、それでも尚、その身を心配する家族が居るのですから、自らを猛省し、家族の為にも共に慎ましく暮らしていく義務が権太殿にはおありですね。今回は救いの手が差し伸べられましたが、努々『運がいい』とは思わぬように。次は救いの無い結末になるでしょうし、そうなれば我々も貴方の事を許さないでしょう」
いったん息をつく島津。
「借金取りの催促が無くなった事を前向きに捉え、自らの態度を改めて博打の誘惑を絶ち、今後は腰を据えて借金返済と家族の絆を深める為に精進して頂きたいと思いますね。明るい未来に向かって生きようと努力するなら、我々も助力は惜しみませんよ。全ては、権太殿次第です」
島津はそう言って説教を終えた。権太はすっかり打ちのめされた様子である。
「それじゃあ、こいつに血判を貰おうか、権太さん」
ライルは半紙を用意し、肩代わりした借金の返済証文を作成していた。それを読み上げ、全員に内容の確認と証人になってもらう。
「返済は分割払いとし、月に一度月末に支払う。返済は権太の毎月の仕事の出来高のうちの2割を充当。宿奈とライルは、その2割をそれぞれ半額ずつ受け取る。支払いが滞った場合は然るべき場所に届け出る」
そうして、権太と宿奈から名前に血判をもらう。
権太、さち、竜にはライルと宿奈に尽くしても尽くせぬ借りが出来た。
「権太さん、この金だけど、何年かかってもいいから返す気はあるかい」
ライルの問いに権太は何とか答えを見出そうと言葉をつむいだ。
「正直言って、返せるかどうか分かりません。何年かかるか分かりません。ですが、いつの日か完全にお返しできるように、その日まで頑張りたいと思います」
権太の言葉を聞いて肩をすくめるライル。
「頑張って下さい」
とライルは言った。
権太が頭を下げれば、さちと竜もただただ頭を下げるばかり。
「さちさん、ちょっと」
ライルはさちを呼び寄せると、
「借金の返済だけど、それは改心した権太さんに免じてちゃらにするから。金は受け取り次第竜さんの将来の支度金として渡すよ。内緒で貯めて」
と耳打ちするのだった。
「そんな‥‥ありがとうございます」
「その代わり、権太さんのこと、宜しく頼むぜ」
「はい、本当に、ありがとうございます」
そこで権太が呼びかける。
「おい、さち、帰るぞ」
「はい」
さちは権太のもとへ歩み寄る。そうして、権太らは帰っていった。
「一件落着ですな」
宿奈の言葉に頷く冒険者たち。
「どうしてこうなったのか、これからどうしたいのか、これからどうしたら良いのか、みんなで話し合ってみたら良いかも。家族みんな慎ましくても幸せに暮らして貰えたらなあ」
酒井の言葉を聞きながら冒険者たちは権太らの背中を見送るのだった。