小夜行、幽鬼の行列

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月22日〜01月27日

リプレイ公開日:2008年01月28日

●オープニング

 古都京都。歴史あるこの王都は魑魅魍魎や怪異の噂に事欠かないという不名誉な一面を持っている。
 噂で済んでいるうちは良いが、なるほど比叡山には酒呑童子が居て、実際に都では日常的に鬼や妖怪が関わる事件が起きていた。


 京の都、深夜――。
 博打のあぶく銭で飲みすぎた佐吉。いい気分で夜の街を歩いていた。
 繁華街を抜けて、自宅への道を辿る。人影もない。夜空の月明かりだけが佐吉の影を照らし出していた。
 と、その時である。佐吉の前方から何か接近するものがあった。
「何だありゃ?」
 佐吉は瞬いた。目をごしごしこする。やはり今夜は飲みすぎだ‥‥鬼の行列が見える。
 鬼の軍勢が都まで攻めてきたのはつい半年ほど前の話だったが、それにしても真夜中に都の真ん中に鬼行列とは面妖である。
 夢かまことか佐吉は判断をつきかねた。
 そうこうする間にも鬼の行列は近付いてくる。それでも佐吉は、ただ突っ立っていた。

 しかし、大小合わせて二、三十はゆうに越えようかという鬼の列がだんだん大きくなり、顎の髭まで見える距離になると、風でも吹いたように不意に酔いが醒めた。
 百鬼夜行。おとぎ話で聞いたことがある、どこかの偉い貴族様が都の中で鬼の大行列に遭遇したと。これはもしやそれでは無いか。昔話ではまじないを唱えると鬼の行列は逃げ出していったという。とはいえ佐吉がそんなまじないを覚えているはずもない。しかもそれはあくまで物語のこと。実際の鬼を前にすれば、到底まじないなど利くとは思えない。
 佐吉は己の死を覚り、体は棒のように固まっていた。どうすれば‥‥動け、この足よ、動け!
 しかし動かない。夢と同じで、こういう時に手足は自由が効かないものだ。
 先頭の赤鬼の腕が触れようかと言うところで、獣のような悲鳴をあげて佐吉は駆けだした。
「鬼だー! 鬼が出たぞー! 鬼が出たー!」
 佐吉の叫び声に反応して両脇の民家から住人が顔を出した。哀れな住人は血相を変えて走る佐吉と、その後ろの鬼の行列に目を剥いたり、気を失って倒れる者もいた。
 次第に騒ぎは大きくなる。鬼の行列を見た人々は皆、仰天して逃げ出した。

 百鬼夜行ならぬ小夜行と言われた。
 百に足りず、三十あまりであったらしい。
 それでも惨事である。夜の闇にまぎれて都の右京側に侵入した鬼達は、逃げ遅れた人々に次々と襲いかかった。その場は駆け付けた見廻組と新撰組らが鬼達を迎え討ち、半刻ほどで鬼達は全て退治されたが、騒ぎが収まったのは朝になってからだ。
 しかし、また夜になって再び鬼が現れたという連絡が入った。
 その正体は‥‥。
「鬼に憑依した怨霊です」
 ギルドの手代は冒険者たちに説明する。
「鬼の行列は右京の外れの廃墟を制圧して、その場に留まっているようです。放っておけばまた被害が出るやも知れません。その前に怨霊どもを退治して下さい」
 京の治安維持に関しては冒険者ギルドも無関係ではない。京都のギルドは陰陽寮の出先機関のような成り立ちであったから、役所仕事が回ってくる事も多いが、ことに新撰組や京都見廻組などと連携を取る事は少なくなかった。
 怨霊がついた鬼ならば冒険者の方が都合が良いだろうとこの依頼が回ってきたようだ。
 ギルドの手代は集まった冒険者達を前にして、今回の仕事の詳細を語り始めた。

●今回の参加者

 ea6254 メイ・ラーン(35歳・♂・ナイト・人間・イスパニア王国)
 eb3668 テラー・アスモレス(37歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5087 ライクル(27歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

メネス・エクルース(ea7088

●リプレイ本文

●一日目
 冒険者ギルドに集まった冒険者たち。噂の怪異を退治するべく、間もなく出立の時を迎えていた。
「レイスがオーガに取り憑いて暴れるとは厄介な話だね」
 とメイ・ラーン(ea6254)。
「いくら死んだからといって、オーガなんかに憑依したがる気持ちは理解できないが‥‥まあ遠慮なく倒せるだけマシという事かな。生きた人間だと、レイスごと攻撃するというわけにはいかないからね。敵の数は多いけど、女性の目がある以上、無様な姿は決して見せられないな」
 パーティの紅一点琉瑞香(ec3981)は肩をすくめれば、
「基本的に怨霊は生者を感知次第、本能のまま寄って来る傾向がありますので、囲まれないようご用心下さいね」
 とメイに注意を促す。
「京都の平穏の為に尽力するでござる!」
 テラー・アスモレス(eb3668)は湯飲みを卓上に叩きつければ、ふと一呼吸置く。
「しかし、レイスが取り憑いたとは‥‥鬼たちはよほど人間を憎んでいたのでござろうかな‥‥憐れな」
 小夜行に駆り立てられた怨霊たちに一抹の憐憫を覚えるテラー。
「何故こんな事が起きたのか、いずれ調べる必要があるだろうがな」
 ライクル(eb5087)はそう言って湯飲みを置いた。
「ともあれその件は後でいい。それよりも京の人達が怨霊に憑かれた鬼達の犠牲になるのを防がねばなるまい」
 ライクルの言葉に頷く一同。続けてライクルは言った。
「こちらはわずか4人だ。あちらは十体はいるという。この戦力差を埋めるには仲間内での連携を大切にしなければなるまい。さらに戦う場所も選ぶべきだ。一度に全ての敵と戦おうとすれば、少なくとも多くの戦力が必要になる。あまり広くない道などへ誘い込むことで、相手が一度に戦える数を制限すれば、数の不利を緩和することが出来る。また、一度に倒し切ろうとせず、ある程度の体を休める間を作ることだ。無理をすれば技も鈍る。長期戦では自分に出来る最高の動きを保つ工夫が必要だ」
 この言葉に異議なしと頷く冒険者たち。それでは、と立ち上がる彼ら。迎え撃つのはどのような相手か。

 右京区の廃墟に到着した一行。冷たい風が廃墟の瓦礫に吹き込んで、不気味な音を立てていた。
「繰り返しになりますが、怨霊は生者を感知次第寄って来る傾向があります。囲まれないようご用心下さい。また怨霊に触れられるとダメージを受けます。みなさん敵に触れられないように気をつけて下さい」
 琉はみなに警戒を呼びかける。
「まずは敵情視察と参ろうか」
 テラーは愛騎のグリフォン暁に騎乗すると、上空に舞い上がった。
 廃墟は一区画に及び、倒壊した家屋が折り重なっており、幾つもの通路が迷路のように走っていた。その間を、怨霊があちらこちらと動き回っていた。鬼の死体に憑依して、のろのろと動いている。

 上空のテラーからの指示で安全な場所に移動する冒険者たち。ここは長丁場、数では勝る相手にじっくり腰をすえて相対することにする。安全地帯に入ったところで琉が魔除けの風鐸を設置する。こうしておけば万が一アンデッドに数で押されたとしても脱出できる。
 と、テラーが上空から怨霊の接近を伝える。
 琉がデティクトアンデットで怨霊の接近を知らせる。
「一体が近くまで来ています、小さな鬼ですね」
 そうするうちに、小鬼が一体現れた。正確には小鬼の亡骸に憑依した怨霊である。ゆっくりした動きで近付いてくる。
 魔法の弓に矢をつがえると、ライクルは怨霊目がけて矢を放った。矢の一撃を受けてよろめく怨霊。さらに接近してくるところを撃つライクル。
 メイは魔槍宝蔵院を構えて怨霊に立ち向かう。怨霊の動きを封じながら確実に打撃を与えていく。
「ゆくでござる! 暁! すり抜けざまにあそこの奴にもう一撃おみまいするでござるよ!」
 テラーもチャージングで怨霊に打撃を与える。
 最初の一体はあえなく倒れた。
 その日のうちに、冒険者たちはもう一体の小鬼と、犬鬼の亡骸に憑依した怨霊を倒す。

●二日目
 一日目と同じくテラーが上空から偵察する。初日はうまく小鬼と犬鬼の亡骸に憑依した怨霊を倒すことが出来た。
 魔除けの風鐸を設置して、怨霊を待ち受ける冒険者たち。
 怨霊が寄って来たところで、デティクトアンデットを使う琉。
「一体が接近中。昨日のよりは大きいですね」
 現れたのは豚鬼の亡骸に憑依した怨霊。
 矢を連発するライクル。メイと空中のテラーのコンビネーションで怨霊に止めを刺す。
「もう一体が接近しています。同じく大きめの相手です」
 琉の言葉に誤りはなかった。現れたのは茶鬼の亡骸に憑依した怨霊。
 残り少ない矢を放つライクル。メイとテラーは動きの鈍い相手に連打を加え、確実に怨霊を葬り去る。
 さらに、その日のうちに数体を倒した冒険者たち。

●三日目
 これまでと同じくテラーが上空から偵察する。残っているのは大きめの怨霊だ。
 安全地帯を確保してから戦闘に臨む冒険者たち。
 琉が同じようにデティクトアンデットを使って怨霊の接近を伝える。
「一体が接近しています。かなり大きい相手です」
 その言葉は確かだった。姿を現したのは山鬼の亡骸に憑依した怨霊である。
 琉は最後の矢を放つ。矢は突き刺さったが、余り効いていないようだ。ライクルは弓を置くと、日本刀「姫切」アンデッドスレイヤーを抜き放つ。
「これは、お前達のような者たちを滅するために鍛えられた武器。あの世への道標、迷わず冥府へと旅立つが良い」
 ライクルはメイ、テラーらとともに怨霊に立ち向かう。
 咆哮する怨霊。その動きを跳ね返しながらメイは確実にダメージを与えていく。テラーは主にチャージングの一撃でダメージを重ねていく。
 ポイントアタックEXを試みるライクル。しかし、山鬼の分厚い肉体は一撃では切り落せない。ともあれ俊敏な動きで怨霊の攻撃はかわしながら小刻みにダメージを加えていく。アンデッドスレイヤーのおかげで一撃の威力は増している。
 そして、ついに怨霊山鬼を倒した冒険者たち。
 そこで琉が告げる。
「また近付いてくるものがあります。これまた大きな相手です」
 そうして、再び山鬼の亡骸に憑依した怨霊が現れた。
 今度は琉も参戦する。コアギュレイトで怨霊の動きを封じ込める手段に出るつもりであった。
 格闘戦を行う仲間たちの間隙を縫って、コアギュレイトが成功し、怨霊の動きを封じる。止めをさす冒険者たち。
 これで終りだろうか。テラーは上空から偵察する。まだ数体残っていた。
 ともあれここまで順調に進んでいる。無理をすることはない。余力を残して冒険者たちは引き上げる。

●四日目
 冒険者たちは残りの怨霊を確実に各個撃破する。
 それを倒したところで、琉は念のためデティクトアンデットを使って回る。撃ちもらしがないか確認する。
 それから琉は、怨霊がまた化けて出てこないよう、鬼の亡骸を寺まで運んでもらうように仲間に頼むことにする。
 適当なところから荷車を借りて、鬼の亡骸を寺まで運ぶ冒険者たち。
 その日は主に寺と廃墟の往復で終わった。

●五日目
 寺で供養が行われることになった。
 鬼の亡骸は全て燃やし、丁寧に埋葬してもらう。
「二度と現世に迷い出ぬようにな、せめて来世では安らかになれん事を‥‥」
 テラーは二度と怨霊が化けて出ないことを祈った。
 琉は僧侶として、簡単ながら鬼の亡骸を弔うのだった。
 最後に埋葬した墓所を清めるテラー。簡単な墓標を立てて祈るのだった。