闇の深まり、天神天下る
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月16日〜02月21日
リプレイ公開日:2008年02月20日
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●オープニング
ジャパンの古びた寺社を訪ね歩いていると、時折嘘か真か分からないような言い伝えに遭遇することがある。この言い伝えもその一つ。曰く――
千年前、それは神話として語られる時代のこと。
ジャパン、かつて倭国と呼ばれたこの地には、神と人が同居していた。
その頃の倭国は平和と繁栄を謳歌していた。それは長らく続き、永劫に続くかとさえ思われた。
しかし、それを望まぬ者が現れた。俗に言う魔王である。魔王と神々の間で始まった戦いが本格化すると、それは瞬く間に倭国全土に広がっていった。
その戦火は神々と人を巻き込んでいったという。戦いの結果、神々が勝利し、魔王の軍勢はいずこかへ姿を消した。神々の庇護を受けていた人間は勝者の側に立ち、魔王の脅威が去ったこの国を神々から委ねられたのである。
現在ではその戦いには数々の謎が残っている。魔王と戦ったという神々はどこへ姿を消したのか。そして魔王は本当に滅びたのかなど‥‥。
さて、上述したような与太話は普段なら古い倉庫にほこりをかぶって眠るおとぎ話の類だ。ともあれ、最近になって神々に関する話が持ち上がっているのも事実である。ここ最近になって神々の復活という事件が起こっているのだ。その最たるものは、伊勢において天照大神が降臨したという噂だろう。
改めて話は現在に戻るが、ここ冒険者ギルドに奇怪な話が飛び込んできていた。
京都近郊の山中で大きな火事が起こっていると言うのである。この冬の最中に。しかもその火事を起こしているのは、炎を自在に操る人だという。
目撃者の話では、その人物は炎の中に鎮座し、その身に炎をまとい、あたかも妖怪かさもなくば精霊のごとくであったと言う。若い青年の姿をしており、その手から炎を作り出しては周囲に炎を撒き散らしていたという。
そしてある日、恐れ知らずの冒険者がこの炎の人物に会うために山の中へ踏み込んだ。
相変わらず山の中は炎に包まれていた。冒険者は炎の中を進んでいった。そして、炎の中心で、冒険者はその人物と面会した。噂どおり、その人物は若い青年の姿をしていた。
冒険者は刀に手をかけて青年に近付いていく。周囲には灼熱の炎が渦巻いている。雪山の一角はすっかり紅蓮の炎で包まれていた。青年はどっかりと大地に腰を下ろしていた。火の精霊の類かと思ったが、普通の人のようである。しかしその体躯はジャイアント並み。服飾などはどうかというと、一昔前の武士が着ていたような着物を着ている。少し長めの髪を肩の辺りまで伸ばしている。この時冒険者は無謀とも思える行動に出た。この青年を噂の妖怪かこれを討ってみせようと、冒険者は「やあ!」と切りかかったのである。しかし――
青年はさっと振り返ると、腰に帯びていた刀の鞘を持ち上げて冒険者の刀を受け止めた。
「お前はもののふか」
青年は言った。その瞬間青年が手にした刀剣から炎が吹き出した。青年の眉目は秀麗、整った顔立ちの若武者を思わせる。冒険者は仰天して身動きが取れなかった。青年はにやりと笑った。
「我が名は天火明命。天津神である。伊勢の猿田彦神の召集に応え、現世に参上した。もののふを探している、と言えば聞こえは良いが、今は久方ぶりに帰り来たこの地の様子を見ているところだ」
天火明命はそう言うと、冒険者の刀を押し返した。吹っ飛ぶ冒険者。
冒険者はよろめきながら立ち上がると、天火明命を見返した。刀剣だけでなく、天火明命の体からも炎が吹き出し始める。周囲は瞬く間に灼熱地獄と化す。冒険者は悲鳴を上げて逃げ出した。あとには、天火明命の笑い声が響いていた。
●リプレイ本文
まずはギルドで保存食を受け取る一行。ギルドの手配ミスの関係で今回食糧はギルド持ちである。
さて、今回噂の神のもとへ出向くことになった一同。天津神の調査に乗り出す者、物見気分の者、一介のへぼ浪人を自称する者など、様々な面子が集まった今回の依頼、果たしてその結果は――
神との遭遇、冒険者たちは事前準備に抜かりなく。
「天津神様の召集ですか、それでは他の天津神様も、これより姿を現すのでしょうか」
とミラ・ダイモス(eb2064)。
「お猿の神様もやってくれるわね」
そう言うのはシェリル・オレアリス(eb4803)。伊勢神宮の巫女として少しは役に立とうかと思い立った次第。シフール便で伊勢神宮に「天火明命」が復活されたことを報告しておく。
ミラとシェリルはそれぞれ別の道を行く。京都で調査をしていく者と、現地で聞き込みを行う者に別れる。
京都洛中洛外の神社を訪ねる物部義護(ea1966)だが、結局行き着く手がかりは陰陽寮。古事記や日本書紀、出雲・河内・和泉・大和などの各国の風土記である。
そう言えば、と案内役の陰陽師が口を開く。
「天火明命は物部氏の氏神ではありませんか」
「当家の家紋は梶の葉。梶の葉は諏訪の御神紋、故に当家の氏神は諏訪神なれば、その物部氏とは別流なのであろう」
と思い切り渋い顔で返す物部。
陰陽寮で記紀を当たった物部。当然記紀には天火明命の記述があるがそれ以上のことは分からない。それにしても‥‥。
「もののふ」とは 世間一般的な武士のことなのか、参考までにギルドに尋ねたところ、先日神と対面した冒険者は侍であったと言う。
神木祥風(eb1630)は天火明命を祀る京都の寺社を訪ねてみる。寺社の神主は記紀に纏わることで神木に知っていることを聞かせた。天火明命に纏わる詩歌、和歌等についても聞いてみる。真偽のほどは定かではないが、それらしき歌があるにはあった。
同行していたミラも出来るだけの情報を集めるつもりであった。光臨の際に神が何を望んでいるのか知る為に文献を調査し、出来る限りの予測を立てられる様に準備はしておく心積もりである。
六条素華(eb4756)も陰陽寮、京都の寺社を巡り、神に関する情報を集めておく。予備知識無しで天津神に失礼があってはならない。六条自身、火魔法を使う身。最上の敬意にて接するが道理と考えていた。
そうして、やれることはやって京都を出立する冒険者たち。
さて、先に現地周辺に赴いた冒険者たちもそれぞれに調査を行っていた。
「天津神ねえ。神様なんだろうけど迷惑って言えば迷惑かな。山火事の張本人だし。けどまあ、それを気にしないって言う所が神様っぽいかね」
笑いながら周辺の村に向かう鷲尾天斗(ea2445)。地元の情報を集めてみるが、直接地元とは関係なさそうである。
「しかし、もののふを探しているとはな。一体どういう基準の人物を探しているのやら。それとも特定の人物なのだろうか‥‥」
とりあえず神への手土産に発泡酒と新巻鮭を持参している鷲尾。
「口に合えばいいんだがねえ」
そう呟きながら噂の山を見つめるのだった。
シェリルも地元を当たってみる。天火明命と対抗した魔物について‥‥そのような話はなかった。古き天津神、今では一般の人々には馴染みが薄いようだ。
シグマリル(eb5073)も現地での情報収集に当たっている。天火明命に関する伝承はなかった。山火事の被害についても聞いてみる。そちらの方は限定的で、大規模な火事ではないようである。
カンタータ・ドレッドノート(ea9455)の伝承知識の片隅には天火明命について記紀の一遍が。この天津神、太陽の光や熱を神格化した神とのこと。穂赤熟(ホアカリ)と書かれたり、農業の神であったりするそうである。
肝心の山へと向かう前に奈良漬「黒錦」、新巻鮭、天護酒等を使って供物に成り得る食事を準備しておくカンタータ。
彼らが情報収集する間に備前響耶(eb3824)と設楽兵兵衛(ec1064)は周辺の村から供え物とそれらを運ぶ荷車を調達していた。実りの神ということで酒や米を提供してもらう。
備前はその間にも可燃物の少ない霊山的な岩山等がないかも調べておく。
そうして、準備を整えた冒険者たちはいよいよ山へ入る。
不思議と噂に聞くより炎は無い。荷車を押しつつ山を登っていく冒険者たち。
と、彼らの視線の先に、煌々と燃える何かが見えてきた。それは大地に腰を下ろす一体の巨人。あれは‥‥。
誰かが口にした。「焔法天狗」と。すると炎の巨人は立ち上がり、冒険者たちの方へやってくる。そして、
「天津神が待っている。案内しよう」
焔法天狗はそう言うと、冒険者を先導するように歩き出したのである。
一行は焔法天狗の後を荷車を押しながら何とか付いていった。
どれくらい進んだであろうか。山の奥深くまでやって来たところで、視界が開けた。
木々に囲まれた森の中、噂の若武者が立っていた。確かに天津神か、その青年は轟々と燃え盛る炎を身にまとっていた。
接近する前に、天津神から見えない位置で、自分とミラと設楽にファイヤーウォーキング専門を付与しておくシェリル。
「我が名は天火明命、お前たちはもののふか」
天火明命の言葉にその身にまとう烈火がうなりを上げる。
果たして、天津神の言葉に何とする。このままでは物事も進まないので冒険者たちは準備していた通り行動に出た。
「山城国豪族京都見廻組並、物部・靖七郎・義護、謹みて天火明命にお訊ね申し上げる。何故に『もののふ』を求められるや、『もののふ』を探し当てて何を成されるお心積もりや」
「当ててみよ」
それは無いだろうと思うのだが、天火明命は続ける。
「そちらの者はどう思うか、お主、名は何と申す」
「京都守護、新撰組一番隊組長代理の鷲尾天斗。真の武士を目指す者だ。当ててみよ、と言われてもなあ、それはともかく、ここに居ると山中が丸裸になってしまうんで、出来れば炎を何とかしてもらえないでしょうかね」
まあまあとその場を収めつつ神木が進み出る。まずは恭しく礼をする神木。名を告げて御前に控える非礼を詫び、どぶろくを捧げる。
そこで他の者たちも持ってきた供え物を捧げる。それらは焔法天狗が受け取った。
それから天火明命にちなんだ歌を捧げる神木。
「懐かしき言葉を聞いた」
と天火明命。
「天津神よ、此度は下界に如何なる用で参られたのですか」
神木の問いに、天津神は再び問い返す、当ててみよ、と。
「天津神よ、何故この地に光臨されたのですか。探されている『もののふ』とは、どの様な者を差すのですか」
そう問うたのミラ。されば「お主はどう思うか」と問い返す天火明命。
「もののふの定義はいろいろとある。広義的にも狭義的にもそれぞれ意味はある。貴殿が求めるもののふ、自分がそれか? と問われれば、自分はその答えを持たず。何故ならば‥‥それを決めるのは自分ではなく、貴殿と考えるが故に。自分は備前響耶。京都見廻組末席として治安平定の為に、蔓延る闇を払拭する為に、救いを求める誰が為に、未熟なれど尽力する一人の人間也」
まだ微動だにしない天津神。
「天火明命様が御降臨なされた理由は猿田彦神様の宣言によるもの。さればその真意はどこにあるのでしょうか」
六条が問う。
「私がもののふか、と言いますとそうであるとも言えますし、違うとも言えるかもしれません。私は志士であり、生業とするのは棋士、軍師、そして巫女です。直接、刀を手に戦う事はほとんどないでしょう。故に天火明命様の仰るもののふとは違うかもしれません。しかし、この世の闇を払拭する為に、尽力させて頂いています」
それでもまだ動かない天津神。
「貴方さまがこの地に降り立ったということは、貴方さまが倒すべき魔の者もまたこの地に戻ってくるということでしょうか? もののふかは判りませんが手強きつわものを集めて彼の敵を討つという覚悟はございますので、ひとまず火を鎮めてはいただけないでしょうか」
シェリルの言葉にただ聞き入る天火明命。
その正面から近付くシグマリル。そして行うは拍手。
「今も神の社で人が詣でる際に拍手を打つのは、武器を持っていないこと、ひいては敵意がない事を示す為と聞く。もののふ、それは心に刃を携える者だと俺は思っている。俺の心に刃があるかは、貴方が判断してもらえばよいこと。弓を得手とする俺の言葉では、信を得るには薄いかもしれないがな」
そして願わくば、とシグマリルは続ける。
「火事となれば多くの生ある者が命を落とす。神の御身の炎でも周りに影響がない所があれば、そこに鎮座を移してもらいたい。あるいは炎を押さえてもらいたい」
すると天火明命は最後の一人、設楽に目を向ける。
「もののふ、少なくとも私は違いますねえ。降って湧いた自由奔放な日々を好き勝手に過ごしているただの浪人者ですから。欠片も立派でなければ勇ましくもない。事勿れと思いつつ、好奇心は抑えられず今、こうしている半端者でありますから」
すると、天火明命は興味深げな瞳で一同を見渡すと、ようやく答えとおぼしき言葉をつむいだ。
「私の今の関心ごとは、お前たちの動きにある。なぜならば、お前たちはもはや神々をも脅かしつつあるからだ。魔の者たちはすでに入り込んでいるが、今は彼奴らよりもお前たちの動きに興味がある」
天火明命はそう言うと、「では、さらばだ!」ときびすを返して立ち去っていく。それに続いて引き上げる焔法天狗。
呆気に取られる冒険者たち。結局もののふとは何なのか言わずに行ってしまったが‥‥。
後日、シェリルが放ったシフール便に回答が来た。
――伊勢は手一杯で動きが取れない。引き続きそちらで天津神の調査に当たられたし。