幸運の持ち主は‥‥、人喰鬼来襲
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月17日〜02月22日
リプレイ公開日:2008年02月22日
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●オープニング
いまだ木枯らし止まず。吹き荒れる冷たい風。舞い散る木の葉。ぴゅうぴゅうと風が鳴る。死者の歌声のように‥‥。
十体近い人喰鬼が山を下りてきた。鬼達は風鳴りの中を歩いていく。その目は血に飢えた獣さながらであった。鬼の血が騒いでいるのだ。人喰鬼の一団はたけり狂う暴風となってその村に襲いかかろうとしていた。
「今年の冬はあっという間にやって来て、あっという間に吹き荒れて、あっという間に‥‥いやいや、なかなか収まらないな、本当に、今年の冬は」
村の青年は積もり積もった雪を眺めていた。この地方にしては珍しいくらいに積もった雪。外では子供たちが駆け回り、雪合戦を繰り広げていた。
「そういえば‥‥」
もう一人の青年が口を開いた。
「また最近になって近くの村が襲われたとか。人喰鬼の仕業らしい」
「人喰鬼か‥‥」
「ああ、ちょっとした数の鬼が徒党を組んで村を襲っとるらしい。ここも気を付けにゃならんぞ」
「ここは大丈夫だ。ここいらで今まで鬼に人が襲われた話なんて聞いた試しがない」
が、二人は顔を見合わせるとぶるっと身を震わせた。思わず寒気がしたのだ。
と、雪の玉が飛んできて、青年の顔面を直撃した。
「うわっ、こんの〜がきども! 気をつけろ! どこ狙ってやがる!」
ごめんなさーい! とやんちゃな声と笑い声が弾けた。
その時である。遠くの方から身の毛もよだつような咆哮が轟いてきた。
人喰鬼はすぐそこまで来ていたのである。正面から雪崩を打ったように村を急襲する鬼達。次々と村人を捕らえては一箇所に集めて放り込んでいく。
青年と子供たちは一軒の家屋の中に隠れていた。しかしこのままでは見つかるのも時間の問題だ。
「いいかお前たち、俺が囮になって鬼の注意を引く。その間に村を出ろ。京の冒険者ギルドに行って、助けを呼ぶんだ。いいな」
どんどん! ばりばり! 家屋の壁が破壊される音が鳴り響く。人喰鬼が来たに違いない。
「行け! 走れ!」
子供たちにそう言うと、青年は鬼の注意を引こうと音がした方に出て行った。
人喰鬼と相対する青年。気を失いそうになったが必死に正気を保ち、「こっちだ!」と走り出す。人喰鬼は瞬く間に追いついて青年を捉えると、彼を引きずっていく。
子供たちは隙を見て飛び出した。無我夢中で走る子供たち。しかし村から脱出しようかと言う時である、
いつの間にか子供たちを追っていた人喰鬼の一団が彼らの前に回りこんだ。人喰鬼はにたりと笑った。この鬼の何という素早さ。しかし――
「散れ! 散るんだ! ばらばらに走れ!」
中に一人機転の利く少年がいた。彼の掛け声とともに、子供たちは方々に走り出した。さしもの人喰鬼も全ての子供たちを捕まえることは出来なかった。
――村の最奥。
捕らわれた村人たちが身を震わせながら人喰鬼を見上げていた。
『全滅とはいかなかったか!』
人喰鬼の一体がオーガ語で叫びながら村人たちを見回す。
『逃げた者たちは一目散に都の方角へ』
『ならば援軍が来るのも時間の問題だな! さっさと村人たちを片付けてずらかろう!』
人喰鬼たちは口もとに笑みを浮かべると、村人たちをぎろりと睨みつけた。
――冒険者ギルド。
脱出に成功したのは数人の村人たちであった。その中にはあの機転を利かした少年の姿もあった。彼もまた幸運の持ち主だったのだ。
息を切らす村人たち。その様子を見てギルドの手代は緊迫した面持ちで筆を取る。
「十体近い鬼が現れたのです。最近私たちの周辺で噂になっていた人喰鬼に違いありません」
「ギルドの方にも噂は聞こえておりました」
手代は状況を聞きだすと、依頼書をまとめていく。
「捕らわれたのは恐らくここにいる我々以外、ほとんどの村人たちです。今でも信じられません‥‥私たちの村が、あっという間にあの鬼達に踏み潰されてしまった‥‥」
ギルドの手代は吐息する。鬼達の動きは相変わらず活発なようだ。またしても村が襲われた。忘れた頃にもやってくるらしい。
そうして、手代は依頼書を張り出した。
――京都近郊の村が人喰鬼に急襲された。急ぎ村に向かい、鬼の手から村人たちを救出すべし。
●リプレイ本文
出立前、冒険者たちは逃げ延びた村人たちから話を聞いていた。
その様子を眺める朱蘭華(ea8806)とフローライト・フィール(eb3991)。
「また現れたのね‥‥何体いるのやら‥‥けれど、鬼が現れたと聞くと人喰い鬼ばかりね。まあいいわ。今はなるたけ急いで村まで行くが先決ね」
「いや本当に、此処は鬼が多い土地だねえ。ま、仕事だからね。鬼は嫌いだからきっちり片付けないと」
幸運‥‥鬼の襲撃に合わなかった村々の人たちが上で、逃げ出せた人が次。生き残れた人がその次。後はもう‥‥一人でも多くの人を救うために急がねば。はやる気持ちを抑える草薙北斗(ea5414)。生き残った人たちに村周辺の地理を聞いておく。村を見渡せる樹や岩場といったような場所。また村人を集めておけそうな場所に心当たりがないか聞いておく。
イリアス・ラミュウズ(eb4890)は逃げてきた村人に地図を描いてもらう。迅速な移動が求められるこの依頼、その程度の準備は必要だろう。村人本人に道案内を頼むのは危険すぎる。
村人たちから話を聞き終えると、冒険者たちは時間を惜しんで出発する。
時間との勝負。月詠葵(ea0020)は愛馬の雲居に乗って急ぎ行く。朱は韋駄天の草履で村に向かう。草薙も韋駄天の草履を使って急ぐ。神田雄司(ea6476)は愛馬の茶々蔵に乗って駆けつける。フローライトはセブリングブーツを履いて移動。イリアスは愛騎の戦闘馬に跨り現地に向かう。
それでも体力は温存しておく必要がある。休息は十分に、村への途上で幾度か野営を張る。
村の近郊に到着した冒険者たち。村の方角を見つめるイリアス。村の上空には不吉な灰色の雲が立ち込めている。むう、とうなるイリアス。
「逃げ延びた村人が居る以上、鬼も我々が救援に来る事が分かっているのだろう。そこまで知恵が回るとも思えんが、忍者の草薙には予め村の周囲を偵察してもらった方が良いだろうな。原始的な罠に引っ掛かるのもつまらん」
そう言って草薙の方を見やるイリアス。
「鬼達は村人をどのように処遇しているのだろうな? 奴らにとって人間は新鮮な食料に過ぎん。おそらく家屋の一つに閉じ込めるなどしてまとめて管理しているのではないだろうか。その方が見張る人手も手間も省ける。事前に村人達の閉じ込められている家屋が分かれば、そこを押さえれば依頼の目的の半分は達成できた事になる。ここはその家屋の位置も草薙に偵察してきてもらいたいところだ」
「任せておいてよ。――じゃあ、ちょっと様子を見てくるよ」
村に向かう草薙。
村人から得た情報を頼りに村の周辺を回る草薙。鬼と村の様子を遠目から窺う。村に接近するにつれ、人喰鬼の姿も垣間見えた。人喰い鬼がいつ人を食べつくしてしまうか心配なので確認はてきぱきと行う。
人喰鬼を避けつつ進入する草薙。木陰から村の音に耳を傾ける。村の中は静まり返っている。人喰鬼の気配がそこかしこから漂ってくる。警戒はそれほど厳重ではない。草薙は単身最奥まで忍び込む。村人から聞いた話を思い浮かべながら、心当たりの場所へと向かう。それらしい家屋に目星をつける草薙。中からは村人であろうすすり泣きの声が聞こえてくる。
そこまで確認して、草薙は仲間たちのもとへ帰還する。
草薙の情報を吟味する冒険者たち。村の地図を地面に描きながら月詠は口を開く。
「今回はあまり人数も居ないので、正面から突撃するのです。鬼の方も、此方の人数が少ないと見たら村人を襲うより先に此方に攻めかかって来るでしょうし、それも狙ってなのです。ある程度鬼の数を減らすまでは前衛同士で連携を取り合って攻撃できれば良いでしょう。なるべく乱戦に持ち込んで、同士討ちを狙いつつ鬼が大技を出せないようにしちゃいたいですね。鬼が減ってきて個々に戦っても大丈夫そうになったら、鬼を逃がさないように各個撃破にしますのです」
その言葉を聞きながら村の地図を見やる草薙。
「僕は鬼退治班が突入したのを確認したら村人の方へ向かうよ。出来るだけ村人を逃がす方向で動いてみる」
イリアスは腕組みしながら言葉をつむぐ。
「此方は人数が少ない。全員で一気に村に乗り込み、村人達の救出に当たろう。後は異変を察知して姿を見せる鬼達を片っ端から切り捨てていけばいい」
方針は決まった。今回はあえて正面から突撃、人喰鬼と当たるのみ。さて、その結果は――。
村に侵入した冒険者たち。月詠、神田、朱、フローライト、イリアスらは隊形を組んで前進する。先頭には戦闘馬に跨る勇ましいイリアスの姿が。
「これはひどいですねえ、間に合ったのでしょうか」
と神田。村の家屋は破壊されていた。
迷うことなく突き進む冒険者たち。と、その眼前に、人喰鬼たちが姿を見せる。その数約十体。咆哮を上げて一斉に冒険者たちに襲い掛かってくる。
掛け声とともに手綱をさばいて突進するイリアス、すれ違いざまに切りつけながら人喰鬼の列を突破する。
意表を突かれた人喰鬼たち、冒険者はこれを好機と攻撃を開始する。
「‥‥さて、的も出て来た事だし、始めようかな」
フローライトは鉄弓を引き絞る。射程ぎりぎりのところから狙撃。初撃は鬼の頭を狙って一撃必殺を狙うが、さすがに矢の一本で人喰鬼は沈まない。一矢、二矢、三矢と矢を放つ。
そうする間にも激突する前衛の冒険者たち。
回避重視でカウンターを狙う月詠。コンバットオプションを組み合わせたカウンター攻撃で人喰鬼の首を狙う。さすがに一撃必殺とはいかないが、確実にダメージを与える月詠。
神田はみなと連携を取りつつ人喰鬼たちの攻撃を跳ね返していく。
「幻視突撃速攻!」
朱は予めオーラエリベイションとオーラパワーで戦闘能力を上昇させている。ハーフエルフの朱、激情に狩られて狂化しないように感情をコントロールする。士気を高めつつも漲らせるのはやり遂げる意志。回避にはオフシフトも使用。オーラパワーを乗せた左拳の掌底突き、爆虎掌で反撃。
「流石に五人相手に逃げるほど臆病者の人喰鬼はいないみたいだな」
淡々と狙撃を続けるフローライト。「千の矢」などとも呼ばれているフローライトだが、このような攻撃も出来るのだった。
戦場を駆け巡るイリアス、隙を見ては人喰鬼の列を突破し、スマッシュEXまでも鮮やかに決めてみせる。騎乗したままでも全く戦闘能力が落ちないイリアス。巧みな手綱さばきと、見事な剣術で人喰鬼の戦列を撹乱している。
この状況で戦況はほぼ五分と五分。
時折放たれるフローライトの鋭い一矢と月詠のカウンター攻撃、朱の爆虎掌が決まりだすと、徐々にではあるが人喰鬼たちの足並みも乱れ始める。
そうして、深手を負った一体の鬼が戦線を離脱すると、突如として人喰鬼たちの士気に乱れが生じる。何やら互いに叫び合うと、人喰鬼たちは潮が引くように逃げ出した。
「ちょっと! 待つのです!」
月詠の声など無視して逃げる鬼達。それを追いかける冒険者たち。
村の最奥、一人回りこんでいた草薙は、村人を見張っていた鬼たちを引き付けていた。疾走の術で飛躍的に移動力を向上させている草薙、微塵隠れ+高速詠唱で人喰鬼の攻撃をかわしつつ、鬼の顔面に蹴りを入れながら自らは囮となって村人を守る。突入班が来るまでは、自身が囮となって鬼を引き付けておく心積もりであった。
と、そこへ次々と人喰鬼たちがなだれ込んできたから仰天だ。
遅れてやってくる冒険者たち。彼らと合流する草薙。
「一体何が?」
「鬼達が逃げ出したのです、またしても」
月詠の言葉にしかめっ面を浮かべる草薙。草薙は鬼達に押しのけられた形だ。
人喰鬼たちは数に物を言わせて草薙を押しのけ、村人たちを盾に取ったつもりか、何やら冒険者たちに向かってわめいている。
棍棒で村人たちを脅かしながら、冒険者たちに向かっては棍棒を振り回し、身振りで地面を差し示す鬼達。武器を下ろせと言うのか。
そこで神田が刀剣を構えて前に進み出る。
「人質の方には申し訳ないが、ここは鬼退治を優先させてもらいましょう。ここでこやつらを逃がしてはまた第二第三の被害が出るやも知れません」
神田の言葉は通じないが、人喰鬼たちは何やらわめきながら村人たちを棍棒で差し示す。これが目に入らぬか、と言いたげである。
「むう、神田よ、お主の言葉ももっともだが、弱気を助け悪しきを挫くのが騎士道の精神。恐らく我が主君も彼らを見捨てよとは言うまい。ここはひとまず時間を稼いで――」
イリアスが神田に提案しようとした時、
人喰鬼の眉間に矢が突き刺さった。何を思ったかフローライトが攻撃したのである。
どうっと倒れる人喰鬼。予想外のフローライトの一撃に、人喰鬼たちは呆気に取られたようにその亡骸を見つめている。次に鬼達が顔を上げた時、冒険者たちはすでにその眼前に迫っていた。この隙を逃す手はない。一か八か。あとは修羅場。それでも互いに譲らぬ戦いであったが、押し合いへし合いの末に、最後には人喰鬼たちは撤退したのであった。
「狩ったど〜」
神田は鬼の亡骸を前に勝利を宣言した。
戦闘終結後‥‥。
村人たちを励ます月詠と草薙の姿があった。
その様子を眺めていた朱、フローライトに向かって肩をすくめて見せる。
「危ない橋を渡ったわね。鬼の意表を突いたとは言え、間一髪と言うところよ」
「いやあ、運が良かったね。村人たちもみな無事なようだし。俺の合図にみんなよく反応したね」
あの一発は合図だったのだ。一瞬の隙を突いて今回は何とか勝利を手繰り寄せた冒険者たち、鬼達の撤退を確認して都への帰路へと着くのであった。